ニュートンの林檎のアップルパイ

はなえ

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電車を降りると、駅前のスーパーの果物売り場へと足が向いた。
 果物の爆弾。
 梶井基次郎がレモンなら、わたしはりんごを使おう。
 真っ赤なりんごの爆弾を置くなら、どこがいいだろう。
 たとえば・・・・・・渋谷のスクランブル交差点のど真ん中。
 りんごの爆弾は時限爆弾だ。
 仕掛けた後、私は何食わぬ顔をして、ロクシタンカフェでお茶しながら高見の見物をする。
 運ばれてきた紅茶を一口、口に含んだ瞬間、りんごの爆弾が爆発する。
 パン、と破裂するりんご。
 すこし鼻をつく、すっぱくて甘い香り。
まき散らされる100パーセントジュース。
 りんご1個の爆弾だけど、あたりに飛び散るりんご果汁はゲリラ豪雨並みに周囲の人をベトベトに濡らす。
 運悪く被害にあった人達は、みんな身体中をぐしょぐしょに濡らし・・・・・・・笑っている・・・・・
 私は自分にがっかりする。
 爆弾なんて小道具を出しておいて、妄想の中ですら人を傷つけられない。
 りんご果汁まみれの爆発シーンは、炭酸飲料のCMそのものだ。
 スローモーションの手法とハーフモデルの屈託ない笑顔。
 どこかで見た映像。
 オリジナリティ、ゼロ。
 面白くもなんともない。
 大文豪の足元にも及ばない。
 けれど、同時に少し安心する。
 それでいい。面白みはなくても、仕事もお金もなくても、とりあえず健全だ。

 果物売り場でりんごを探したが、そこにあるのは、風邪をひいた時にお母さんが擦りおろしてくれたような、やさしげなりんごばかりだった。
 これは、爆弾にはならない。
 レモンチューハイと季節限定のポテトチップスを買う。
 家に帰り、なにげなくスマホを見ると、新着メールがあった。木下晴香。
 『ひさしぶりー。元気?実はこのたび、結婚することになりました。新しい苗字は田部です。結婚式は身内だけでやる予定だけど、二次会をやる予定だから、来てくれたら嬉しいなぁ。詳しいことが決まったら、また連絡するね。』
 久しぶりに表示された名前をみた瞬間から、なんとなく内容の予想はついてたけど。
 最後に会ったのは、また別の友人の結婚披露パーティーの席だった気がする。
 そういう繋がりの友人だ。梨佳と同じサークル仲間で、学生時代は一緒に旅行したこともあったけど、卒業以来、すこしずつ疎遠になってきている。
 まぁ、良かった。
 二次会だけなら気楽だ。気持ち的にも、フトコロ的にも。
 そう思いながら、「田部さんの奥さん」になる友人の顔を思い浮かべる。
 友人の苗字が変わるのはむず痒くて居心地が悪くて慣れない。
 キノシタでいいじゃん。
 田部って男がどんなヤツか知らないけど、
 キノシタは、学生時代から活発で優秀で、ほとんどの男子よりパワーに溢れてて、今は男勝りな会社員生活を送っているはずなのに、どこかの男の苗字を名乗るなんて。
 こんな平日の午後に連絡が来たってことは、もしかしたら仕事は辞めたのかもしれない。
 理不尽だとゆーか、面白くないとゆーか、メデタイとゆーか。

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