四度目の勇者召喚 ~何度召喚したら気が済むんだ!~

遠竹

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第一章 四度目の勇者の実力

再会と喧嘩両成敗

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 奈菜を仲間に加えて魔王の所に向かうことになった俺達が最初に向かったのは、孤児院だった。
 ちなみに、食料やその他諸々は、クロードが用意してくれたものをリュックのようなバッグに入れて背負っている。
 マジックバッグと言って、見た目に反して中身は空間魔法で拡げられているため大容量になっている。
 孤児院に着いたので、この孤児院の馴染みの院長を呼んでみる。

「院長居ますか?」
「はい~。どちら様ですか~? あらあら、勇者様じゃないですか~お久しぶりです~」
「相変わらずおっとりですね。こっちが眠くなっちゃいますよ」
「え~? そうですか~? あ、リルくん~勇者様ですよ~」
「ユウト兄ちゃん!?」

 そう言って駆け寄ってきたのは、リルと言って最初の召喚の時に路地で痩せ細った状態で居た子だ。
 当時は2歳で非常に危険だったので、この孤児院に預けた。
 最初は全く懐いてくれなくて大変だったけど、徐々に懐いてくれて魔王を倒して帰るときには帰らないでとばかりに泣き付かれてそれはそれで大変だった。
 リルには、召喚される度に会いに来ている。

「リル、また大きくなった?」

 リルを見ると、前の時は俺の肩の高さに頭がきていたのが、俺の顎に目線が来るぐらいまで背が伸びている。
 しかも、小さい頃も整った顔だなと思っていたが、今見ると物凄いイケメンだ。
 というよりは、美少年と言った方がいいかもしれない。

「そりゃそうだよ、こないだから5年経ってるんだから。ユウト兄ちゃんの方は一年しか経ってないからあまり変わらないね」
「一年で変わったらそれはそれで怖いだろ?」
「ハハハ、確かに!」
「リルって今何歳だっけ?」
「17歳だよ」
「もう15年経か……ってことは、俺が18だから元の世界に戻ったら抜かされるじゃん」
「そうなの? でも、僕としては、年下になってもユウト兄ちゃんはユウト兄ちゃんだけどなぁ」

 嬉しいことを言ってくれるリルに、大人になったなと感慨深くなっていると、リルが質問してきた。

「ユウト兄ちゃん、そっちの初めて見る女の人は誰?」
「俺の幼馴染みの倉橋奈菜だ」
「倉橋奈菜です。よろしくね。リルくん」
「よろしくお願いします。ナナさん」
「えっと~、勇者様が居るということは~、魔王を退治しに行くんですよね~?」

 院長さんがそう訊いてきたので、頷いて答える。

「でしたら~、リルくんを~連れていってもらえませんか~?」
「なんでですか?」
「そろそろ孤児院で預かれる年齢を過ぎるんです~。雑事係りでもいいので~、連れていってもらえませんか~?」
「僕からもお願いします! 必ず役に立ちます!」

 頭を下げてお願いしてくるリルの肩に手を置き、こう言った。

「リルなら大歓迎だよ」

 俺がそう言うと、リルは顔を上げて俺を見てお礼を言うと嬉しそうに笑った。
 すると、奈菜が後ろから肩を掴んでこう言った。

「ねぇ、祐人? なんで私の時は難色を示してたのに、リルくんはあっさりOKなの? ねぇ?」

 今、後ろを向いてはならない。
 向けば恐らく奈菜の後ろに般若が見えるはずだ。
 こういう時は、目を合わせず奈菜の方を向かずに冷静になって言い訳を言う。これに限る。

「えっと、リルは男だけど、奈菜は女じゃん? やっぱり、戦闘経験がないのに危険な所に連れていくのは怖いんだよ……」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私の目を見て言ってくれないかな? こういう時いつもこっち向かないよね? それに、戦闘経験が無いのはリルくんも同じだよね?」

 うわ、墓穴を掘ってしまった!!
 言い逃れできない!
 俺が戦慄していると、フーリエが弁護してくれた。

「クラハシさん、ユウトは貴女のことが心配で連れていくことを渋ったんだよ。他の勇者達と一緒の方が生存率が高いし、自分の役割がしっかりとわかるから。でも、あたい達と一緒だと自分が居る意味について考え始めちゃうんだよ。だから、一緒に行きたくないとかそういうのじゃないと思うよ」

 若冠俺が言いたいことを逸脱してたけど、合ってるっちゃ合ってる。

「祐人がグランさんと戦ってるのを見ればわかるよ。でも、私は祐人の傍に居たいから」

 真剣な顔をして聞き間違いかと思うことを言った。
 いや、少し頬が赤い気がする。
 日本に居た時も似たようなことがあったけど、ここまでじゃなかったしこんな直球じゃなかった。
 精々ツンデレのような感じで、「べ、べつに、祐人が他の女の子に現を抜かすことがないように見てるだけだから! 一緒に居たいわけじゃないから! 勘違いしないでね!」と言ってくるぐらいだ。

「どうした? 熱でもある?」
「なっ!? ないに決まってるでしょ! 祐人の馬鹿!」

 俺が額に手を当てて熱がないか確認しながらそう言うと、奈菜はなぜか俺の手を払って顔を真っ赤にしながら怒鳴った。
 それから、院長さんと挨拶を交わして孤児院を後にした。
 その後、真っ直ぐ国を囲う壁の門に向かった。


 ◆◇◆◇◆


 王国を出ると、そこからはモンスターの巣窟だ。

「というわけで、奈菜の戦闘経験の向上を図ろうと思うんだけど、グラン,フーリエ、俺が説明不足だったら捕捉説明を頼む」
「ユウトの頼みならなんだって聞くよー!」
「私もだ」

 二人が了承してくれたので、クロードから貰った魔法使いにとって無くてはならない物である杖を持った奈菜に説明を始める。

「え~ゴホン、魔法使いは後方からの攻撃はもちろん後方支援もできる、謂わば学費を出してくれて時には学校に抗議してくれる、親のような存在だ」
「あたいは後半の部分がわからなかったけど……クラハシさんは今のでわかった?」
「う、うん、わからなくはないかな?」
「で、戦い方だけど、魔法使いは決して前衛で戦う人の前に出ちゃいけない。後ろでタイミングを見計らって攻撃したり前衛の人が傷を負えばすぐ癒してあげる。みたいな感じだな」

 俺がそう言ってフーリエに視線を向けるとコクリと頷いたので、早速実戦に移ることにした。
 その前にフーリエが奈菜に魔法を教えた。
 そして、俺が前衛、奈菜が後衛で戦ってみることになった。

「だ、大丈夫かな? 一応魔法は教わったけど……」
「大丈夫、あたいができるんだから、勇者であるクラハシさんなら簡単にできるよ!」
「そうだな。フーリエは魔法使いとしては優秀だが、それ以外は何も取り柄がない。しかも、馬鹿だからな」
「それを言ったらグランだって同じことが言えるでしょ!? 剣術しかできないじゃん」
「……なんだと?」
「ホントのことじゃん……!」

 遂に睨み合いになり、火花が散ってるように見えた。
 それを見た俺は、ため息をつきながら二人のところへ歩み寄ってニコッとしながらこう言った。

「へぇ、喧嘩するんだ? 約束したよねぇ? 今度喧嘩したらアレだからって。したよね? ねぇ?」
「ま、待って、ユウト! それだけは、それだけは勘弁して!」
「そうだぞ、ユウト! それだけはやめてくれ!」
「いいや、約束は約束だ……。リル、アレの用意!」
「わかった!」

 俺が指示を飛ばすと、リルは返事をして荷物の中からとある食材達を取り出し、調理道具を用意した。
 グランとフーリエが顔を真っ青にしながらあわあわしているのを無視して調理を始める。

「えっと……これは、どういう状況なの? それに、祐人が言ってたアレって?」
「ナナさん、アレっていうのは、モニュラのパチス炒めのことです」
「えっ? 祐人は料理得意で物凄く美味しかったはずだから、ご褒美になるんじゃ?」
「得意なら逆にマズくすることも可能ですよね?」
「まぁ、確かに……」
「なのでこの場合、厳密に言えばモニュラのパチス炒め激マズバージョンということになります。聞いた話では旅路で野宿の時の炊事担当はいつもユウト兄ちゃんだったそうで、色々試したかったんでしょうね、偶々モニュラのパチス炒めにある食材を入れてみたらしいんですよ」
「どうなったの?」
「これがとてつもないマズさで、食べた瞬間に全員気絶したそうです」
「……えっ?」
「それでその食材というのが、ジャイアントボアというイノシシの肉なんですけど、ケモノだけあって風味が強くてそれが海のモンスターであるモニュラと相性が悪くて、ユウト兄ちゃんは『アレは、洗剤で言うところの混ぜるな危険だった……』と遠い目をしながら言ってました。ただ、これは使えると思ったユウト兄ちゃんは、この料理をあの二人の喧嘩の歯止めに使おうと考えた訳です」
「あ、そう、なんだ……」

 と、そんな会話を奈菜とリルがしていた。
 幻滅してそうな顔をしているが、そうしないとすぐ喧嘩するから仕方ないのだ。
 二人の会話の間、俺は調理を進めていき“モニュラのパチス炒め激マズバージョン”を完成させた。
 グランとフーリエだけでは可哀想なので、奈菜とリルには普通のモニュラのパチス炒めを用意してあげた。

「そう言えば、モニュラってなんなの?」
「海に生息していて、そちらの世界で言うところのイカのようなモンスターです。食感がモニュモニュしてるのでモニュラと言います」
「ふぅん。っていうか、モニュモニュって擬音初めて聞いた……」
「まぁ、食べてみればわかりますよ。さあ、どうぞ」

 なぜか積極的に奈菜に説明やエスコートをするリルに疑問を抱きながらも、二人に皿に盛ったモニュラのパチス炒めを渡す。
 一応捕捉として、パチスとはニラのような見た目の緑黄色野菜のことだ。
 まぁ、この世界に緑黄色野菜という概念は無いが。
 奈菜がモニュラのパチス炒めを一口分を口に運び、口に入れて噛んだ瞬間に目を丸くした。

「な、なにこれ!? 本当にモニュモニュしてる! あれだね、糸こんにゃくの束を食べてるみたいな感じだね」

 そう、奈菜の言う通り、糸こんにゃくの束を食べてるみたいな感じだ。
 もう少し弾力と粘りがある感じだが、大体合ってる。
 一方、グランとフーリエはというと、泣いて許しを乞い食べるのを嫌がったので、俺が無理やり押し込んで食べさせておいた。
 結果、二人とも現在絶賛昏倒中だ。
 これが俗に言う、喧嘩両成敗ってやつだな。
 そんなに食べたくないなら喧嘩しなければいいのに、なんで喧嘩するのか理解できない。
 というか、終始奈菜にくっついて話すリルがやっぱ気になる……。
 まさか、奈菜のことが好きとか?
 リルは顔も性格も良いから奈菜も付き合ってくれるだろう。
 リルに後でそれとなく訊いてみるか。

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