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第一章 四度目の勇者の実力
レベル上げと合流
しおりを挟むエルフの国を出発した後、奈菜は改めて、リーアには初めてレベルを訊いた。
二人が答えたレベルは、奈菜が65でリーアが38だった。
奈菜の方は、俺もそうだったが勇者補正があるのか上がりやすいため、半月で23上がった。
リーアの方は、この世界の住人としては中間のレベルではあるが、魔王の所へ行くということは危険が伴うので、せめて70にはしておきたい。
それには、自分より高レベルの相手を倒すしかない。
この辺りのモンスターは、レベルが均一50なので奈菜には少し楽に感じる相手だが、リーアには苦戦を強いられる相手なので、レベルを上げるにはもってこいの相手だ。
「わ、私にできるでしょうか……」
「大丈夫だよ、リーアちゃん。危なくなったら祐人が助けてくれるから。ね? 祐人」
「そりゃもちろん」
俺の返事を聞いたリーアは安堵の表情ではなく、真っ赤になった顔を両手で隠しながら体をクネクネさせ始めた。
思ってた反応と違うんだけど……。
数秒くらいクネクネした後、パッと俺を見てこう言った。
「わかりました! 頑張って危ない目に遭います! いえ、遭ってみせます!」
「ちょっ、なんでそうなった……!?」
両手でガッツポーズ且つ目をキラキラさせながらとても危ない意気込みを言うリーアにすかさずツッコミを入れた。
すると、リーアはこう返してきた。
「えっ? だって、危ない目に遭えばお姫様抱っこしてくださるんですよね?」
「お、お姫様抱っこ……!」
「相変わらず鼓膜が機能してないな! 俺、そんなこと言った覚えないから! というか奈菜。お姫様抱っこと聞いて自分も危ない目に遭おうかなみたいな顔をしない! いいか、二人とも、安全第一だからな!」
断固抱っこしないことを告げると、二人ともとても不満そうにする。
俺は、そんな二人から目を逸らしてリルに話し掛けた。
「そう言えばリル」
「な、なに?」
「レベルは幾つだ?」
「えっと……20だよ。それがどうかしたの?」
「いや、この際だからリルもレベル上げしようかと思ってさ。この先何があるかわからないし」
「そうだね、そうするよ。今のところ雑事くらいでしか役に立ってないしね」
少し自虐気味にそう言ったリルを含めた3人のレベル上げを行うことになった。
しかし20か……クロードが治める国の中では平均的なレベルだ。
ちなみに、ドワーフの国は30,エルフの国は40,獣人の国は50が平均レベルだ。
それには、国の周りのモンスターのレベルが関係している。
クロードが治める国の周りのモンスターのレベルは均一20で、ドワーフの国の周りのモンスターのレベルは均一で30、エルフの国の周りのモンスターのレベルは均一40、獣人の国の周りのモンスターのレベルは均一50となっている。
つまり、産まれたときから国の周りのモンスターと対等に戦えるレベルになっているわけだ。
ただ、個人差があって、誤差2~3レベル低かったり高かったりする。
リーアが38なのは、それが原因だということだ。
さて、レベル上げだが、重点的にレベルを上げなければならないリーアとリルを前衛に、奈菜は後衛で支援のみという構成でいこう。
そう提案すると、奈菜とリーアは嫌がる素振りもなく頷いて答えてくれたが、リルが不満がありそうな微妙な顔をした。
何か不満が有るのかと訊くと、リルはこう答えた。
「僕、この中で一番レベルが低いのに、いきなりレベル50のモンスターと戦うなんて無理だよ? 死んじゃうよ……!」
「その為に後衛に奈菜を配置してるんじゃないか。リーアも一緒に前衛で戦うんだし、本当に危なくなったら俺が対処するから大丈夫だって。な?」
いつの間にかほぼ同年代になってしまったリルを優しく諭す俺。
俺の言葉を聞いたリルは、渋々といった感じで頷いた。
3人の意見が揃ったので、早速モンスターと戦ってもらうことにした。
3人が最初に戦ったのは、バジリスクという蛇のモンスターだった。
バジリスクは、噛まれてから3分以内に解毒魔法で解毒しないと死んでしまうぐらいの猛毒を持ったモンスターだ。
奈菜の行動次第で状況が、最上から最低まで数えきれないほど変わる。
このバジリスクとの戦いで一番責任重大なのは奈菜だということだ。
まず、リーア,リルの順で魔法で攻撃を始めた。
「【炎槍】!」
「【風刃】!」
【炎槍】は、前に俺がボルケイノドラゴンに使ったやつだ。
【風刃】は、某三刀流の海賊剣士が飛ばす斬撃のようなもので、当たるとスパッと斬れる。
まぁ、今回はレベルの差があるからそんなにダメージは入らないけど、対等なレベル同士の戦いで使うと本当にスパッと斬れる。
切れ味だけで言えば、かまいたち並みにスパッと斬れる。
つまり、飛んでいく様は某三刀流の海賊剣士の斬撃、切れ味はかまいたち並みということだ。
二人の放った魔法は、バジリスクに向かって飛んでいき直撃した。
リーアの魔法の方は多少は効いたようだが、リルの魔法の方はレベル差のせいで効き目がなく無傷だった。
それを見たリーアがすかさず次の魔法を唱えるので、自分の魔法が効かなさすぎて戦意喪失しかけたリルも、涙目になりがなら文句を言った後、魔法を唱えた。
「【雷】!」
「ユウト兄ちゃんの鬼、鬼畜、外道、悪魔……!! こんなの無理だよ……! 【爆裂】……!!」
あ、これ、リルに嫌われたかも……。
ちなみに、【雷】は文字通り雷が落ちてくる魔法で、【爆裂】はオレンジ色に光った弾が飛んでいき、何かに接触すると高威力で爆発するという魔法だ。
ただ、レベル差のせいであまり効かなかったが、怒りを込めて放ったからなのかなんなのか【風刃】よりは効いたようで、少し焦げ跡が残っていた。
そんな光景を見ていると、グランとフーリエが話し掛けてきた。
「なぁ、ユウト。やはりここのモンスターをリルに宛がったのは間違いじゃないか?」
「そうだよ、30ものレベル差で戦うのは幾らなんでも差が有りすぎるよ!」
「じゃあ、引き返して適当なモンスターと戦わせるのか? 今更?」
「そ、それは……」
「で、でも……」
言い返そうとするが、言葉が出てこないのか言い返す気が無くなったのか、何も言わずに俯くグランとフーリエ。
確かに二人の言うことは一理ある。
一理あるけど、ここで引き返すと魔王の所に着くのにかかる時間が大幅に増える。
旅は道連れって言うし、皆で助け合えばリルのレベル上げはここでも可能だ。
ということをグランとフーリエに言うと、二人とも納得してくれた。
ただ、この二人が納得しても、リル本人が納得してくれないと意味がないんだけどな。
当のリルは、現在ガチの涙目になりながら戦っている。
それから、やっとのことでバジリスクを倒したリーアとリルは、自然にハイタッチするほどに大喜びだった。
その後リーアが俺のところまで来て、満面の笑みでこう言った。
「やりましたよ、ユウト様! 誉めてください! そしてお姫様抱っこをしてください!」
「どっちにしろするのかよ!?」
「ダメ、でしょうか?」
「あざとく聞いてきてもやらないからな?」
そう言いながら、俺の言葉を聞いてやってもらえないのかとシュンとしかけるリーアをお姫様抱っこしてやった。
急に自分の体が浮き上がったのを感じて「ひゃあ!?」と可愛い悲鳴を上げるリーア。
「頑張ったな。お疲れ様」
「はぅ……不意打ちは卑怯ですよ……!」
そう言って真っ赤になった顔を両手で隠しながら悶えるリーア。
そこへ、奈菜がやって来た。
「祐人、私も! 私も、お姫様抱っこ!」
「幼児か!? というか、奈菜は何もしてなかっただろ……?」
「いいでしょ? それとも何? リーアちゃんはお姫様抱っこして、私はやってくれないって言うの?」
「いいえ、喜んでさせていただきます!」
そう言って俺は、奈菜をお姫様抱っこした。
断れなかった……。いや、やらざるを得なかったと言った方が正しいか。
奈菜の後ろの般若の圧が物凄かった。
魔王よりヤバイ。あれは絶対、魔王以上の圧を放ってる。
満足気な奈菜とリーアを見てため息をついていると、リルがとても何か満ち足りた顔で俺のところに来た。
「ユウト兄ちゃんっ! どう!? バジリスク倒したよ! もう何も怖くない! レベルも今ので30まで上がったし、いける気がしてきたよ!」
やはり、美少年の笑顔は眩しい。
ビカーッと光って見える……。
「そ、それはいいけど、あまり調子に乗るのなよ?」
「わかってるって!」
なぜか物凄く上機嫌なリルを見て苦笑いしていると、走ってこちらに向かってくる人物が居た。
◆◇◆◇◆
走ってきたのは騎士団の騎士だった。
「よかった、ようやく追いつけました……!」
「何かあったのか?」
「いえ、他の勇者様達があちらの馬車でお待ちですので、ご同行ください」
兵士が走ってきた方向を指すので見てみると、確かに馬車が数台停まっているのが見えた。
ここまで早く追いついたということは、俺がこの世界に来たのが四度目ということを知ってそうだな。
クロードには口止めとかしなかったから、知っているとしたら鳴神先生辺りがクロードを問い詰めて知ったっていう感じだろう。
あの先生、生徒想いの真面目な先生だからな……。
「そうか、わかった」
兵士にそう返事をした後、皆で馬車の方へ向かった。
馬車の所に着くと、鳴神先生がクラスメイト達より先に俺のところまで来た。
「石崎くん!」
「はい……」
「自分が何したか、わかってる?」
「勝手に旅に出ました。倉橋さんを連れて」
「わかってるならいいんだ。でも、今度からそういうことは先生に相談してからするように」
「はい、すみませんでした」
この先生の凄いところは、怒ってるのにこっちを嫌な気分にさせないところだ。
手身近に、且つ要点をスパッと言って終わり。
その後は、笑って普通に話をしてくれるのだから、この先生の感情はどうなっているのだろうか。
先生のお叱りが終わると、クラスメイト達が次々に話し掛けてきた。
「なんだよお前、この世界に来たことあんなら早く言えよな」
「あ、あぁ、うん」
「そうそう、レベルも最大だって言うじゃん。そういうことは早く言ってくれないと」
「ご、ごめん」
「おい、あのエルフの子、お前のこれか?」
「うん、まぁ……」
最後の問いに流れで答えてしまったため、クラスメイト達がざわざわし始めた。
しまったと思ったがもう遅い。
というか、小指立てるとか表現が古すぎだろ。
まぁ、事実だけど。
クラスメイト達がざわついたところへ、リーアが俺に訊ねてきた。
「あの、これってなんですか?」
「あぁ……これは、恋人っていう意味だよ」
「じゃあ、私はこれですね!」
「まぁ、そうだけど……」
周りを見れば、満面の笑みで小指を立てるリーアを見てクラスメイト達が更にざわついている。
なんか、取り返しのつかないことに……。
突き刺さるような視線を感じてそちらを見ると、ムスッとして俺のことを見ている奈菜が居た。
すると、何を血迷ったのか今言ってはならないことを叫んだ。
「私だって祐人のこれだし!」
『はぁ!?』
驚きたいのは俺の方だ。
まさかこのタイミングで、しかも全員の前で言っちゃうとは思わなかった。
そのせいでクラスメイト達から質問攻めに遭った。
先生にも再度怒られる始末。
二度怒られた後でこの世界に残るとは言えないので、様子見でタイミングを見計らって言うことにする。
ともかく、ここから先は先生やクラスメイト達と共に魔王の所に行くことになった。
これはまた賑やかになりそうだ。
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