四度目の勇者召喚 ~何度召喚したら気が済むんだ!~

遠竹

文字の大きさ
10 / 24
第一章 四度目の勇者の実力

レベル上げと合流

しおりを挟む

 エルフの国を出発した後、奈菜は改めて、リーアには初めてレベルを訊いた。
 二人が答えたレベルは、奈菜が65でリーアが38だった。
 奈菜の方は、俺もそうだったが勇者補正があるのか上がりやすいため、半月で23上がった。
 リーアの方は、この世界の住人としては中間のレベルではあるが、魔王の所へ行くということは危険が伴うので、せめて70にはしておきたい。
 それには、自分より高レベルの相手を倒すしかない。
 この辺りのモンスターは、レベルが均一50なので奈菜には少し楽に感じる相手だが、リーアには苦戦を強いられる相手なので、レベルを上げるにはもってこいの相手だ。

「わ、私にできるでしょうか……」
「大丈夫だよ、リーアちゃん。危なくなったら祐人が助けてくれるから。ね? 祐人」
「そりゃもちろん」

 俺の返事を聞いたリーアは安堵の表情ではなく、真っ赤になった顔を両手で隠しながら体をクネクネさせ始めた。
 思ってた反応と違うんだけど……。
 数秒くらいクネクネした後、パッと俺を見てこう言った。

「わかりました! 頑張って危ない目に遭います! いえ、遭ってみせます!」
「ちょっ、なんでそうなった……!?」

 両手でガッツポーズ且つ目をキラキラさせながらとても危ない意気込みを言うリーアにすかさずツッコミを入れた。
 すると、リーアはこう返してきた。

「えっ? だって、危ない目に遭えばお姫様抱っこしてくださるんですよね?」
「お、お姫様抱っこ……!」
「相変わらず鼓膜が機能してないな! 俺、そんなこと言った覚えないから! というか奈菜。お姫様抱っこと聞いて自分も危ない目に遭おうかなみたいな顔をしない! いいか、二人とも、安全第一だからな!」

 断固抱っこしないことを告げると、二人ともとても不満そうにする。
 俺は、そんな二人から目を逸らしてリルに話し掛けた。

「そう言えばリル」
「な、なに?」
「レベルは幾つだ?」
「えっと……20だよ。それがどうかしたの?」
「いや、この際だからリルもレベル上げしようかと思ってさ。この先何があるかわからないし」
「そうだね、そうするよ。今のところ雑事くらいでしか役に立ってないしね」

 少し自虐気味にそう言ったリルを含めた3人のレベル上げを行うことになった。
 しかし20か……クロードが治める国の中では平均的なレベルだ。
 ちなみに、ドワーフの国は30,エルフの国は40,獣人の国は50が平均レベルだ。
 それには、国の周りのモンスターのレベルが関係している。
 クロードが治める国の周りのモンスターのレベルは均一20で、ドワーフの国の周りのモンスターのレベルは均一で30、エルフの国の周りのモンスターのレベルは均一40、獣人の国の周りのモンスターのレベルは均一50となっている。
 つまり、産まれたときから国の周りのモンスターと対等に戦えるレベルになっているわけだ。
 ただ、個人差があって、誤差2~3レベル低かったり高かったりする。
 リーアが38なのは、それが原因だということだ。
 さて、レベル上げだが、重点的にレベルを上げなければならないリーアとリルを前衛に、奈菜は後衛で支援のみという構成でいこう。
 そう提案すると、奈菜とリーアは嫌がる素振りもなく頷いて答えてくれたが、リルが不満がありそうな微妙な顔をした。
 何か不満が有るのかと訊くと、リルはこう答えた。

「僕、この中で一番レベルが低いのに、いきなりレベル50のモンスターと戦うなんて無理だよ? 死んじゃうよ……!」
「その為に後衛に奈菜を配置してるんじゃないか。リーアも一緒に前衛で戦うんだし、本当に危なくなったら俺が対処するから大丈夫だって。な?」

 いつの間にかほぼ同年代になってしまったリルを優しく諭す俺。
 俺の言葉を聞いたリルは、渋々といった感じで頷いた。
 3人の意見が揃ったので、早速モンスターと戦ってもらうことにした。
 3人が最初に戦ったのは、バジリスクという蛇のモンスターだった。
 バジリスクは、噛まれてから3分以内に解毒魔法で解毒しないと死んでしまうぐらいの猛毒を持ったモンスターだ。
 奈菜の行動次第で状況が、最上から最低まで数えきれないほど変わる。
 このバジリスクとの戦いで一番責任重大なのは奈菜だということだ。
 まず、リーア,リルの順で魔法で攻撃を始めた。

「【炎槍フレアスピア】!」
「【風刃ウィンドブレイド】!」

 【炎槍フレアスピア】は、前に俺がボルケイノドラゴンに使ったやつだ。
 【風刃ウィンドブレイド】は、某三刀流の海賊剣士が飛ばす斬撃のようなもので、当たるとスパッと斬れる。
 まぁ、今回はレベルの差があるからそんなにダメージは入らないけど、対等なレベル同士の戦いで使うと本当にスパッと斬れる。
 切れ味だけで言えば、かまいたち並みにスパッと斬れる。
 つまり、飛んでいく様は某三刀流の海賊剣士の斬撃、切れ味はかまいたち並みということだ。
 二人の放った魔法は、バジリスクに向かって飛んでいき直撃した。
 リーアの魔法の方は多少は効いたようだが、リルの魔法の方はレベル差のせいで効き目がなく無傷だった。
 それを見たリーアがすかさず次の魔法を唱えるので、自分の魔法が効かなさすぎて戦意喪失しかけたリルも、涙目になりがなら文句を言った後、魔法を唱えた。

「【サンダー】!」
「ユウト兄ちゃんの鬼、鬼畜、外道、悪魔……!! こんなの無理だよ……! 【爆裂イクスプローディング】……!!」

 あ、これ、リルに嫌われたかも……。
 ちなみに、【サンダー】は文字通り雷が落ちてくる魔法で、【爆裂イクスプローディング】はオレンジ色に光った弾が飛んでいき、何かに接触すると高威力で爆発するという魔法だ。
 ただ、レベル差のせいであまり効かなかったが、怒りを込めて放ったからなのかなんなのか【風刃ウィンドブレイド】よりは効いたようで、少し焦げ跡が残っていた。
 そんな光景を見ていると、グランとフーリエが話し掛けてきた。

「なぁ、ユウト。やはりここのモンスターをリルに宛がったのは間違いじゃないか?」
「そうだよ、30ものレベル差で戦うのは幾らなんでも差が有りすぎるよ!」
「じゃあ、引き返して適当なモンスターと戦わせるのか? 今更?」
「そ、それは……」
「で、でも……」

 言い返そうとするが、言葉が出てこないのか言い返す気が無くなったのか、何も言わずに俯くグランとフーリエ。
 確かに二人の言うことは一理ある。
 一理あるけど、ここで引き返すと魔王の所に着くのにかかる時間が大幅に増える。
 旅は道連れって言うし、皆で助け合えばリルのレベル上げはここでも可能だ。
 ということをグランとフーリエに言うと、二人とも納得してくれた。
 ただ、この二人が納得しても、リル本人が納得してくれないと意味がないんだけどな。
 当のリルは、現在ガチの涙目になりながら戦っている。
 それから、やっとのことでバジリスクを倒したリーアとリルは、自然にハイタッチするほどに大喜びだった。
 その後リーアが俺のところまで来て、満面の笑みでこう言った。

「やりましたよ、ユウト様! 誉めてください! そしてお姫様抱っこをしてください!」
「どっちにしろするのかよ!?」
「ダメ、でしょうか?」
「あざとく聞いてきてもやらないからな?」

 そう言いながら、俺の言葉を聞いてやってもらえないのかとシュンとしかけるリーアをお姫様抱っこしてやった。
 急に自分の体が浮き上がったのを感じて「ひゃあ!?」と可愛い悲鳴を上げるリーア。

「頑張ったな。お疲れ様」
「はぅ……不意打ちは卑怯ですよ……!」

 そう言って真っ赤になった顔を両手で隠しながら悶えるリーア。
 そこへ、奈菜がやって来た。

「祐人、私も! 私も、お姫様抱っこ!」
「幼児か!? というか、奈菜は何もしてなかっただろ……?」
「いいでしょ? それとも何? リーアちゃんはお姫様抱っこして、私はやってくれないって言うの?」
「いいえ、喜んでさせていただきます!」

 そう言って俺は、奈菜をお姫様抱っこした。
 断れなかった……。いや、やらざるを得なかったと言った方が正しいか。
 奈菜の後ろの般若の圧が物凄かった。
 魔王よりヤバイ。あれは絶対、魔王以上の圧を放ってる。
 満足気な奈菜とリーアを見てため息をついていると、リルがとても何か満ち足りた顔で俺のところに来た。

「ユウト兄ちゃんっ! どう!? バジリスク倒したよ! もう何も怖くない! レベルも今ので30まで上がったし、いける気がしてきたよ!」

 やはり、美少年の笑顔は眩しい。
 ビカーッと光って見える……。

「そ、それはいいけど、あまり調子に乗るのなよ?」
「わかってるって!」

 なぜか物凄く上機嫌なリルを見て苦笑いしていると、走ってこちらに向かってくる人物が居た。


 ◆◇◆◇◆


 走ってきたのは騎士団の騎士だった。

「よかった、ようやく追いつけました……!」
「何かあったのか?」
「いえ、他の勇者様達があちらの馬車でお待ちですので、ご同行ください」

 兵士が走ってきた方向を指すので見てみると、確かに馬車が数台停まっているのが見えた。
 ここまで早く追いついたということは、俺がこの世界に来たのが四度目ということを知ってそうだな。
 クロードには口止めとかしなかったから、知っているとしたら鳴神先生辺りがクロードを問い詰めて知ったっていう感じだろう。
 あの先生、生徒想いの真面目な先生だからな……。

「そうか、わかった」

 兵士にそう返事をした後、皆で馬車の方へ向かった。
 馬車の所に着くと、鳴神先生がクラスメイト達より先に俺のところまで来た。

「石崎くん!」
「はい……」
「自分が何したか、わかってる?」
「勝手に旅に出ました。倉橋さんを連れて」
「わかってるならいいんだ。でも、今度からそういうことは先生に相談してからするように」
「はい、すみませんでした」

 この先生の凄いところは、怒ってるのにこっちを嫌な気分にさせないところだ。
 手身近に、且つ要点をスパッと言って終わり。
 その後は、笑って普通に話をしてくれるのだから、この先生の感情はどうなっているのだろうか。
 先生のお叱りが終わると、クラスメイト達が次々に話し掛けてきた。

「なんだよお前、この世界に来たことあんなら早く言えよな」
「あ、あぁ、うん」
「そうそう、レベルも最大だって言うじゃん。そういうことは早く言ってくれないと」
「ご、ごめん」
「おい、あのエルフの子、お前のこれか?」
「うん、まぁ……」

 最後の問いに流れで答えてしまったため、クラスメイト達がざわざわし始めた。
 しまったと思ったがもう遅い。
 というか、小指立てるとか表現が古すぎだろ。
 まぁ、事実だけど。
 クラスメイト達がざわついたところへ、リーアが俺に訊ねてきた。

「あの、これってなんですか?」
「あぁ……これは、恋人っていう意味だよ」
「じゃあ、私はこれですね!」
「まぁ、そうだけど……」

 周りを見れば、満面の笑みで小指を立てるリーアを見てクラスメイト達が更にざわついている。
 なんか、取り返しのつかないことに……。
 突き刺さるような視線を感じてそちらを見ると、ムスッとして俺のことを見ている奈菜が居た。
 すると、何を血迷ったのか今言ってはならないことを叫んだ。

「私だって祐人のこれだし!」
『はぁ!?』

 驚きたいのは俺の方だ。
 まさかこのタイミングで、しかも全員の前で言っちゃうとは思わなかった。
 そのせいでクラスメイト達から質問攻めに遭った。
 先生にも再度怒られる始末。
 二度怒られた後でこの世界に残るとは言えないので、様子見でタイミングを見計らって言うことにする。
 ともかく、ここから先は先生やクラスメイト達と共に魔王の所に行くことになった。
 これはまた賑やかになりそうだ。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...