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第一章 入学
入学試験 1
しおりを挟む僕ことアノルは、剣術の五大流派のひとつ、天双流の本家であるリンスター家の長男として生まれた。
しかし、僕に天双流の才はなく、天双流の人間にのみ遺伝子的に発現する〝天眼〟、肉眼では見えない事でも自在に見通せる眼が発現しなかった。
その為、最初は〝欠陥剣士〟と呼ばれ蔑まれた。
それでも今も僕が剣士であるのは、僕に別の才能があったから。
努力はもちろん欠かしてないけど、剣術自体の才はあった。
だから、親に見捨てられることはなかったし、ハイゲルン剣術学園への入学も認めてもらえた。
まぁ、親に見捨てられなかったのも、入学を認めてもらえたのも、他に理由があるんだけど……
「アノル兄様、まもなく学園に到着しますよ」
馬車に揺られ、窓の外をボーッと眺めていた僕に話し掛けてきたのは、向かいの席に座っている僕の妹であるリリア。
僕と違って、リリアは天双流の歴史の中で2番目に強いと言われている、いわゆる神童というやつだ。
一番はもちろん天双流の開祖、僕とリリアのご先祖様だ。
そんな才能溢れるリリアは、昔はアノル兄様なんて呼んだことは一度もないほど僕のことを毛嫌いしていた。
しかし、とある事件を境に、僕のことをアノル兄様と呼ぶようになり、今では……
「アノル兄様、緊張されてはいませんか? 大丈夫です。アノル兄様であれば、あの学園程度の試験などお茶の子さいさいで合格できます! 私が保証します!」
このように、僕に心酔してしまっている。
「リリア、ハイゲルン剣術学園は国が運営している最高峰の剣術学園なんだから、あの学園程度なんて言ってはダメだよ」
「も、申し訳ございません……!」
慌てて頭を下げるリリア。
僕は下げられたリリアの頭を撫でる。
相変わらず、リリアの金色の髪はサラサラだ。
リリアは、頭を撫でられたことに驚いて顔を少し上げる。
視線が合ったところで、リリアに微笑みかける。
「心配してくれたことは嬉しいよ。でも、緊張はしてないんだ。むしろ、楽しみでしかたないくらい気持ちが昂ってる」
「そうですか! それはなによりです!」
僕の言葉に一気に表情が明るくなるリリア。
それを見て苦笑した僕は、再び馬車の窓から外の景色を眺めるのだった。
◆
あれからそう時間はかからず、学園に到着した。
五大流派の中で最強を誇るリンスター家の紋章を付けた馬車の到着に驚いているのか、馬車の外が騒がしい。
たぶん、リリアのことが噂になっているんだろう。
リンスター家の神童に間近で会える機会なのだから。
対して、僕のことは気にもかけていないだろう。
リリアに兄がいることすら知らない人がほとんどだろうから、使用人とかに間違われそうだ。
そう思っていると、馬車の扉を御者のホーンさんが開けた。
「アノル様、リリア様、学園に到着いたしました」
「ありがとうございます。ホーンさん」
「ご苦労様です」
「そんなっ、わたくしめごときに、なんと勿体いお言葉! 身に余る光栄でございます!」
感謝しただけでここまで感激するのはこの人ぐらいじゃなかろうか。
そのくらい、ホーンさんの感激ぶりはすごい。
涙まで流してるし……。
馬車を降りれば、「お二人とも、おきをつけて! 御武運を!」と涙を流したまま送り出してくれた。
そして、案の定、僕とリリアを見た周りの反応は予想通りのものだった。
リリアに対しては、
「見て、リンスター家のリリア様よ!」
「本当! とても美しい出で立ちね!」
「その上強いだなんて、反則よね」
「さすがリンスター家のご令嬢だわ!」
「おい、あの子すっげぇ可愛いじゃねぇか!」
「バカ、やめとけ、リンスター家のご令嬢だぞ」
「そうそう。お前なんて一捻りだぞ」
称賛の声が多数。
リリアが褒められたりするのは嬉しいことだ。
そして、僕に対してはというと、
「ねぇ、あのリリア様の隣を歩いているのはどちら様?」
「さぁ? 使用人かなにかじゃない?」
「でも、帯剣しているということは、試験を受けるということでしょ? 使用人ではないんじゃない?」
「使用人じゃないのなら誰なの?」
「なんだあいつ、弱そうだな」
「そうだな。なんでリンスター家のご令嬢と一緒にいるのか、腑に落ちない」
「あいつを蹴落とすのは確定だな」
蔑み100%だった。
予想通り過ぎてなんの感情も湧いてこない。
ただ、リリアに僕に対するヒソヒソ話が聞こえてしまったことが致命的だ。
一瞬にして周囲に殺気を撒き散らすリリア。
「アノル兄様が私の使用人? 弱そう? 蹴落とす? ……冗談にしては全く笑えませんね。アノル兄様、ご安心ください。今、掃除をして参りますので」
そう言って腰に提げたレイピアに手をかけるリリア。
抜こうとしたところを、柄の先端を押さえることで止める。
「アノル兄様、なぜ止めるのですか! あの有象無象共がアノル兄様を罵ったのですよ!?」
「怒ってくれるのは嬉しいけど、あの反応は予想の範疇だったから、なんとも思ってないよ」
「さすがアノル兄様! その寛大な心、感服致しました!」
一瞬にして表情が明るくなり、さっきの殺気はどこへやら、神に祈るようなポーズで感激するリリア。
なんという手のひら返し……。
そういえば、リリアも感激ぶりが過剰だった。
まぁ、僕のことでしか感激しないんだけど……。
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