聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと家を追い出されたけど最強なので問題なし〜

農民ヤズ―

文字の大きさ
29 / 189
一章

賊を相手に情報集め

しおりを挟む
 
「……だめだな。真剣になるとどうしてもトライデンだった時の振る舞いが出てしまう」

 だが、これはもう仕方のないことなのかもしれない。やめようと思ってやめられるものでもないだろう。無理に直そうとして変な癖がついたり実力が出せずに負けた、などということがあってはならないのだから、もうこれはこのままでもいいだろう。
 実害があるわけでもないのだ。精々が少しおかしなやつだと思われる程度だろうから問題ない。

 それはそれとして……

「さて、そこの賊。逃げられると思うな」
「ひいっ!」

 俺とムガルクの戦いの間、生き延びていた賊の一人がコソコソと地を這って逃げ出そうとしていたので、その進路の先にフォークを投げつけて牽制し、動きを止める。

「俺の問いに答えろ」

 動きの止まった賊のことを警戒しながら近づき、五メートル程離れたところで立ち止まった。この程度ならば何かあっても対応できるだろう。

「なん——」
「貴様からの質問は許していない。俺の問いに答えることだけを許可している。理解でき——」
「は、放せ! このっ! このやろう! 俺達を誰だと思ってやがる! 俺達の裏にはてめえじゃどうしようもねえ奴らがいるんだぞ!」
「それを聞くために貴様に問いかけたのだが、どうやら最低限のことは知っているようだな」

 賊の言葉を遮って言葉をかけたのだが、今度は逆にその言葉を遮られてしまった。
 だが、その喚き枯らして何かを知っているようだというのは間違いない。ちょうど知っているものが生き残ったようで何よりだ。

「それで、お前らは何者で、裏には誰がいると? 答え次第では、本当に手を引くことも考えよう」

 よくある言い回しではあるが、考えるだけだ。初めからこの者らを殺すことは決まっている。
 もっとも、本当に生かしておく価値があると判断すれば生かすこともやぶさかではないが、その場合でも兵に突きだすことになる。
 その場合は情報を聞き出すために拷問を受けることになるかもしれないし、用済みとなった後は奴隷として死ぬまで働かされることになるかもしれない。それを考えると、果たしてここで死ぬのとどちらがマシなのだろうな。

「ほ、本当か? 本当に、話せば見逃してくれんのか?」

 だが、そんな俺の考えとは裏腹に、賊の男は俺の言葉を信じたようで、いまだに地面に這いながら笑みを浮かべた。
 いや、気づいてはいるのかもしれない。ただそれに縋る以外に生き残る手段がないだけで。

「私としても、無駄に目をつけられるのは避けたいのでな。相応の者が裏にいるのだろう?」
「あ、ああ! ああそうだ! 俺達は元々そいつらに集められたんだ。仕事を任せたいから賊になって動けって。ああっ、頭は元々そいつらの手先だったみてえだ!」
「そうか。それで、〝そいつら〟とは何者だ?」
「く、詳しくは知らねえ。だが、どっかの貴族だってのは知ってる。今回だって、そいつらと一緒にその獣人の王女達を襲ったんだ」

 そいつらと一緒、という言葉が気になるが、それよりも確認しておかなければ奈良にことがある。

「……獣人の王女? ……聞き間違いではなかったのか。だが、まさかとは思うが……本当にアレが王女だと?」

 先ほどもそのような言葉は聞いたが、まさか本当にそうなのか? ……アレが? 冗談だろう?

「あ、ああ。そうだ。なんでも、国では厄介者扱いされてるんだとかなんかで、いなくなっても困らねえから生贄に出されたとか。ボスがその貴族達の兵達とそんなことを話してた気がする。偶然聞いただけだから詳しくは知らねえけど……」

 どうやら本当に王女のようだ。まだこの者らがそう言っているだけで証拠など何もないが、少なくともこの者らはそうと認識しているという事実だけで今のところは十分だ。

 しかしそれはそれとして、そいつらと一緒に襲った、か。確かに、ここの賊達だけで他国の王族を襲うのは無理がある。人数も実力も足りないものばかりだ。
 だが、他に協力してくれた者達がいるというのであれば話は別だ。どれだけの数を用意したのかはわからないが、他にもこいつらのような賊を用意したり、スラムや傭兵崩れの者を用意したのであれば数百程度ならば用意できることだろう。

 だが、それならば他の者達はどこへ行ったのだ、ということになる。ここにいるのはこの賊達だけのようだし、他に大勢がいた痕跡もない。
 もしかしたら近くに他の根城があるのかもしれないが、さて……。

「貴族達と一緒に襲った、といっていたが、それは本当か? その割にはここにいる人数は少ないようだが」
「途中で別れたんだ。俺達だけじゃ王女の誘拐なんてできるはずがねえから、その補強として戦力を送ってきたんだよ。でも、襲い終わったらすぐにどっかいっちまった。自分達の領に帰ったって聞いたが、詳しくは知らねえ……ああっ、でもなんか、後から回収するってんでそれまで生かしとけって」

 襲うだけ襲って帰って行った、か。それが意味するところは、全ての罪を賊に押し付けるつもりというわけか。

 だが、後で回収に来るというのは何が目的なのだろうな? 今は動けない事情があるのか、あるいは、自分で助けて自作自演をする? それとも協力したやつともまた違う奴がやってくることになっているが、その者らがまだ来ていないとか?
 ……色々と考えられるが、わからんな。

「生贄……そしていなくなっても困らない、か。アレが本当に王女なのだとしたら、その獣人の国には裏切り者がいることになるか」

 それに加え、どこかの貴族がコレらと協力して襲ったとなれば……

「敵対しているのに手を取り合うとは……いや、だからこそか。敵対するために手を取り合った、か。なんとも愚かしい」

 この国の人間が獣人の王族を襲うとなれば、そのものは十中八九反獣人派の人間であろう。にもかかわらず、獣人と手を取り合って一つのことに取り組んでいるのだからおかしなものだ。

「お、おいっ……! も、もう十分だろ! 俺が貴族の遣い……いや、貴族の部下だってのはわかったはずだ! 俺が助けを求めたら大変なことになるぞ!」
「その貴族の名すら知らぬ者が、誰に、どこに助けを求めるというのだ。阿呆が」

 いつまで経っても俺が解放するそぶりを見せないからか、賊の男は焦れたようで貴族に助けを求めるぞ、などと叫んでる。
 だが助ける相手の名を知らず連絡手段も持たぬのにどう助けてもらうというのだ。
 仮に場所を知っていて黙っているのだとしても、このようなことをしでかした輩が、失敗した者を受け入れるはずがない。逃げ込むことができたところで、処理されておしまいだろう。

「そも、仮に名を知っていたとしても、助けを求めることができればの話であろう?」
「ま、まさかっ……てめえ——」
「もう良い。十分に話を聞くことができた。情報に関しては感謝しよう」

 その言葉を最後に、逃げようとする賊の首と胸にフォークを投げつけ、貫く。

 当然ながらその攻撃を避けることなどできず、賊の男はそのまま死んでいった。

 だが、正面から貫かれたことで傷口からは盛大に血が溢れだし、俺の体を汚した。

「む……しまったな。次からは敵をマントで包んでからにするか。それならば血が飛び散ることもあるまい」

 一応マントをつけていたので大半は防ぐことができたが、それでも顔や服の一部が血で染まっている。血を落とすことはできるが、いちいち洗わなくてはいけないのは面倒だ。
 なので、次からは敵の返り血を浴びるような状況になったとしても、あらかじめマントで敵のことを覆っておけば返り血で汚れることもない。魔創具を解除すれば、次に出した時には汚れは消えているものだからな。

 もっとも、今回はすでにボスとの戦いによって汚れていたし、今回のように勝負を申し込まれた末に殺すこととなったら相手をマントで覆って、などという無礼はできない。その場合は汚れることも致し方なしだろう。

 まあ、次からは気をつけよう。

「かぎーーー!」

 と、そう考えたところで後方から少女の声が聞こえてきた。声、というよりも叫びか。

「うん? 鍵? …………ああ、そうか。鍵のありかも聞かねばならなかったか」

 そういえばあの者がいたのだったな。それも、まだ枷をつけたままの状態である。先ほどの賊にはその鍵のありかを聞いておけばよかった。

「もういいわよ! 自分で頑張るから!」
「頑張るといっても、そこから動けないのであればどうしようもあるまいに」
「ふっふーん! いいこと? あなたはそこで見てらっしゃい!」

 獣人の王女らしき少女は、自身ありげに宣言すると、両手を胸の前に持っていき力を込め始めた。

「んむむむ~……んぎょっ!」

 唸り声をあげたかと思ったらいきなりおかしな掛け声を口にし、それと同時に両手を思い切り左右に開いて枷の鎖を引きちぎった。

 ……正気か、この女。金属の鎖を、魔法も魔創具もなしに引きちぎっただと?

 獣人は人間よりも身体能力に優れているとはいえ、所詮は『人』の範疇でしかない。
 その上、獣人の種によってその身体能力は変わる。鰐やカバや猿といった力の強い種であれば理解もできるが、この少女は見たところ猫科の獣人だ。鎖を引きちぎるほどの力なんてないはずなのだが……

「おほほほっ! どうかしら? これがわたくしの実力ですわよ!」

 鎖を引きちぎった光景に驚いているうちに足についていた鎖も引きちぎったようで、少女は立ち上がって左手を腰に手を当てながら右手を口元に持っていき笑っている。

 確かに、強化せずにすの能力で鎖を引きちぎることができた能力はすごい。いや、凄まじいと言えるだろう。
 だが、その格好と言葉はなんだ? 王女であるということを考えれば全く間違っているというわけでもないのだが、実際にこのような振る舞いをする者はいない。いや、全くいないわけではないのだが、それは相当頭に問題があるか、現実が見えていない愚か者だけだ。
 残念なことに、貴族の中にはこのような振る舞いをする者も少数ではあるがいる。

 しかし、この少女の振る舞いはそんな者達とは違い、どうにも……こう言ってはなんだが、アホな感じがしてならない。
 声の抑揚なのか小さな動作なのか。もしくは纏う雰囲気の問題なのか……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...