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二章
手紙の追加
しおりを挟む「……あー、それで、そのぉ、坊ちゃんは、あー……」
アッドは何か言いづらそうにしているが、その内容は予想がついた。
大方、俺が家を追い出されたことに関しての話だろう。それ以外に言いづらそうにする理由などないのだからな。
「ああ。気にするな。事実なのだから口にして構わない」
「そんじゃあ、まあ……追い出されたってマジなんですか? あの公爵はなに考えてんだって商会長が騒いでたんですが……」
「なに、俺が公爵に相応しくないことをしたと言うだけだ。今は……そうだな。自分探しの旅といったところだ。これまで忙しかったのもあるが、ちょうどいい機会だと思ってな。方々を巡ることにしたのだ」
「そうでしたか」
そう呟いたアッドだが、どうにも納得しきれない様子だな。まあ、理解はできるが。
「商会の方はどうだ? 俺がいなくなったことでもう公爵家の繋がりは使えなくなったが、大丈夫か?」
「あー、それなんすけど、大丈夫どころか、むしろ公爵家を攻撃してますね。ああっ、攻撃っつってもそんな堂々とした武力的なやつじゃねえです。ちょっと噂を流したり他の紹介と協力して裏に近い品を流しにくくしたり、まあその程度です」
攻撃だと? それが武力ではないにしても、公爵家と敵対するとは、今後の商売がやり辛くなるだろうに。何を考えているんだ?
いや、何を考えているのか、なんてことはわかりきっている。俺への義理だろう。
だが、義理堅いのは嬉しく思うが、それを求めているかと言ったら求めてなんていない。
「それは……また無茶をするな。そんなこと望んではいないと言うのに」
「これは商会長が……いや、俺達がやりてえからやってんです。……あ。後商会長が文句言ってっした。なんであの馬鹿は俺達を使わねえんだ、って」
まあ、こいつら商会の者達は元々はこういった事態のために用意した〝手〟だからな。それなのに今回みたいな状況で使わないというのはどういうことだと思うだろう。
最初は俺そのつもりだったのだが、『私』が折れてしまったのだ。もうそれ以上何かをする気にはなれなかった。
それに、ちょうどいいというのもある。そのうち何かをするにしても、今くらいは一人になって自由に動きたかったのだ。
商会としては、頼られなかったことで見捨てられた、裏切られたという気分になったかもしれないから、後で一言謝っておいた方がいいか。
いずれ直接会った時にも謝罪をするが、今なとりあえずアッドに伝言でもしておこう。
「ああ。まあ少し一人で行動したくてな。そのうち落ち着いたら頼るだろうから、その時は頼むと伝えておいてくれ」
「っす。わかりました。……それでなんすけど、そっちの二人はお知り合いなんで?」
「ああ、一応な。……いや、そうだな。アッド。お前このあとの予定はどうなっている?」
スティアの姿を見たことで、ふと思いついたことがあった。できることならお願いを聞いてもらえるとありがたいんだが……
「へ? あーっと、一応目的自体はもう果たしたんで、あとは王都に戻るだけになってますが……」
「そうか。ならちょうどいい。今から手紙を書くから、それを届けてくれないか?」
「手紙すか? いいですけど、商会長ですか?」
「ひとまずはな。まあその後に別の場所に届けてもらうことになるが」
「? へえ。まあ、わかりました」
俺がアッドに頼もうとしているのは、ネメアラの使節団への手紙だ。すでにこの街にあった傭兵ギルドの一つに頼んでいるが、絶対に届くとも、信用できるとも言い難い。もしかしたら、届けずにいたり、失敗したりするかもしれないのだ。
一応評判や料金を考えて依頼を出したが、俺はこの街に暮らしているわけでもないのでどこまで本当で信じ切れるのかわからない。
その点、アッドであれば俺の部下と言えるような存在なのだから、信用という意味ではなんら問題ない。
アッドに頼めば傭兵に頼んだ手紙と二通送ることになるが、大事な手紙は万が一に備えて複数のルートから送るものだし、そうおかしくはないだろう。
「待たせたな。それでは……その髪飾りはどうした?」
そうしてささっと書いた手紙をアッドに持たせて見送り、再びスティア達と合流したのだが、少女の髪には先ほどまでなかった髪飾りがついており、よく見ればスティアの髪にも同じようなものがつけられていた。
「どうしたって、普通に買ったんだけど?」
「そんな金があったのか?」
みたところそれなりに高価な品のように見えるが、こいつにそれを買えるだけの金を渡していただろうか?
「こういう市ってのはね、意外と安く売ってる掘り出しものってのがあるもんなのよ。それに、なんの魔法の効果もかかっていないものだと、ふっつーに売ってるわよ」
「そう、なのか?」
確かにスティア達のつけている髪飾りは、精巧ではあるがなんの魔法の効果もかかっていないものだ。そのため安かったのだと言われればそうなのかと思わなくもないが……貴族用の物はもっと高かった気がするのだがな。
……いや、魔法の効果が込められてないといっても、貴族用のものとここのような場所で扱うものとでは、値段が違って当然か。
何かしら不備があるものかもしれんし、なんだったら盗品である可能性もある。
「そーなの。っていうか、それよりも言うことあるでしょ?」
「? ……ああ。そうだったな。二人とも、似合っているぞ。まるで二人の為に誂えたかのようだ。今までも二人とも方向性は違うが美しいとは思っていたが、より輝いて見える」
一瞬なんのことかわからなかったが、女性が新たな装飾品を身につけて目の前にいるのであれば、それを褒めるのは当然のことだ。
スティアの性格と気安い態度のせい、それから少女を肩車している状態だということもあって忘れていたが、これは俺の不手際だな。
「でしょー? ねー?」
スティアは肩車したままの少女のことを見上げて語りかけ、少女は無表情のままではあったが、どこか楽しげな雰囲気を纏わせて頷いた。
「というわけで! もっとなんかないか探しに行くわよ!」
そうして、俺達は再び少女の親探しを始めるのだった。
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