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三章
狩り=遊び
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——◆◇◆◇——
「それじゃあ、今日も元気に狩っていこー!」
そう言って小槌を持ちながら手を突き挙げたのは、いうまでもないがスティアだった。
「今日も、というか、今日が初だがな」
「しかも、今回は狩りっていうより実力の確認や連携の調整がメインになるんじゃなかった?」
「え~、でもでも、私達ならちょちょっとやれば余裕でしょ?」
スティアの言動に俺とルージェは普段通りに返したが、その言葉のせいでスティアは唇を尖らせて不満げな顔を見せた。
今日俺たちがいる場所は、魔境のそばの街——ではなく、魔境そのものだった。魔境と言っても、その外周。まだ樹林の中には入っていないような場所だが。
なぜこんな場所にいるのかと言ったら、当初から目的としていた魔物の肉だ。この魔境で魔物を狩り、その肉を調理して、あるいは売った金で料理を買って食べるためにこの場所へ来た。
なので、今日はこの場所で魔物を狩ることになっている。
あと、肉を手に入れる目的以外にも、スティアが暴れるための遊び場が必要だったこともこの魔境に挑む要因の一つだ。この場所に来るまでの道中もそうだったが、こいつはなかなかに血の気が多いというか、好戦的なのだ。
本人曰く、獣人としては普通だそうだが、もう少し大人しくしていてくれないものだろうか。
まあいい。こちらとしても実戦を積んでおくことは無駄にはならない。一年後にある天武百景に出るかどうかは未だはっきりとは決めていないが、出るにしても出ないにしても、今の『フォーク』という武器に慣れておく必要があるだろう。なので、実戦の機会があることはありがたいとは思う。
「狩りとはいえ、命懸けだよ。相手がどれだけ格下で、狩られる対象なんだとしても、反撃を受けることはある。それで怪我をするだけならいいけど、本当に当たりどころが悪ければ死ぬんだよ」
「それは知ってるけどぉ……む~。わかったわよ」
お気楽そうにしているスティアをルージェが咎めるが、それはなかなかに実感のこもった言葉だった。もしかしたら、過去に油断して殺されかけたのかもしれない。
ルージェはそれなりに強いと思うが、それでも油断をすればただの動物であっても殺されることはあるのだ。何せ、人は腹を貫かれただけで死ぬのだから。
獣の牙や爪、角なんてものは脅威でしかないし、それが急所にあたれば容易く死ぬ。それを理解しているからこそ、お遊びの雰囲気を出していた スティアに忠告したのだろう。
放っておいて死んだとしても自己責任だろうに、面倒見がいいことだ。あるいは、調子に乗って足を引っ張られることを嫌ったかだが、どちらだろうな?
ルージェが俺達についてくると言って、一応は同行することを許可したが、未だにその本心は見えない。何を考えて同行を申し出たのかも、その人間性も、全てが不明なままだ。
まあ、人間性に関しては性根の部分では悪ではないのだろうと思う。ただ家族を殺されたから。ただ悲しいから。だからその原因となった奴らを殺す。そうすることで心が晴れると思っているわけでも、仇が討てると考えたわけでもないだろう。
ただそうすることしか思いつかなかったのではないだろうか。
実際のところはどうなのかなんてさっぱりわからない。だから、同行している間にそのあたりのことを見極めることができればいいと思う。
もっとも、見極めたところでどうするのだ、と言われればどうするつもりもないが。何せ今では俺も立派な『貴族殺し』だ。
「でも、一匹はちゃんと狩って食べるんだからね!」
「わかっている」
訓練がメインの今回の狩りではあるが、狩りである以上肉が手に入ればそれを調理してもらい、食べるのも醍醐味ではあると思う。
というか、仮にも命を奪うのだ。それを商売とするのが間違っているとは言わないが、全く食べないと言うのもどうかと思う。この地で連続して狩りを続けるのであれば、せめて一度はその命を自分で食べるべきだろう。もっとも、食べるにしても俺たちでは魔物の肉を調理できないので持って帰ることになるが。
しかしこんなこと、今までのように屋敷で出される料理だけを食べているようであれば、考えなかったことだろうな。
「狩りになんて行かなくても、街には肉が溢れてるんだからそっちを食べればいいと思うけどね」
「それじゃあつまんないでしょ。それに、ただ与えられただけのものを食べるなんて、なんか違うでしょ。自分で獲るからこそ、そのありがたみも美味しさも余すことなく味わえるってもんだ! ……って、どっかで聞いたような見たような?」
「根拠として使う情報が曖昧でいいのか?」
言っていることは素晴らしい言葉だと思うし、誰が言ったかでその言葉の意味が変わるわけではないのだが、それを口にしている本人が首を傾げていると途端に価値がなくなっていくように感じてしまう。
「まあどっちでもいいじゃない! どうせ街中にいてもやることないし、だったら遊びましょうよ!」
「遊びじゃなくて狩りだけどね」
「どっちも同じでしょ。ただ、命がかかってるかかかってないかの違いよ」
「その違いが全てだろうに」
獣人達にとっては、きっと命をかけることに対する忌避感が薄いのだろう。あるいは、命を落とすことを覚悟し、受け入れている。
だからこそ、多少なりとも命がかかっている状況であったとしても、普段通りに振る舞うことができるのではないだろうか。
軽い足取りで樹林の中へと進んでいくスティアの背を見つつそんなことを考えたていたが、すぐに頭を切り替えておいていかれまいと歩き出した。
「——バッチこーい!」
木々が生い茂る自然の中に、場違いとすら思えるほど明るい声が響く。
その声の主が誰かと言ったらスティアのなのだが、その声がかけられているのは俺でもアージェでもない。
スティアに声をかけられた相手——無駄に胴の長い猪のような魔物がスティアへと突っ込んでいく。
そのままの速度でぶつかれば、常人であれば即死。俺たちのように身体強化をしていても、場合によっては大怪我をするし、最悪は死ぬことになるだろう。
だが、そんな状況であってもスティアは逃げることはなく、むしろ自分から突っ込んでいきそうなほど楽しげな笑みを浮かべて魔物が自分の元へとやってくるのを待っている。
そして、ついに両者の距離がなくなり——
「ど——っかん!」
つい一瞬前まで手のひらに収まるサイズだった小槌が、突如として身の丈の数倍にまでデカくなり、猪の魔物を真横から叩きつけられた。
自身へと走ってくる相手に横から槌を叩きつけるのは相応の技量が必要なはずだgスティアはそれを苦とした様子もなくやってのけた。
当然攻撃を受けた魔物は耐え切ることなどできるはずもなく、そもそも抵抗することすらできずに吹き飛ばされ、近くにあった樹に叩きつけられ死亡した。
「イエーイ! 大物確保よ!」
倒した後も警戒を解くことなく魔物の様子を観察し、もう大丈夫たと判断したところで魔創具である大槌を消して喜びの声を上げた。
そこまでの様子を見て、ようやく俺はスティアの元へと辿り着いた。
そう。〝辿り着いた〟なのだ。今まで俺はスティアが戦う様子を近くで見ていたわけではなく、少し離れた場所から走りながら見ていたのだ。
なぜそんなことをしていたのか疑問に思うことだろう。この魔境では連携も兼ねての狩りだと言っていたのに、なぜスティアだけが一人で突出して魔物を狩っているかと、そう思うのは至極真っ当なことだ。
実際、俺もなぜこんなことになっているのか、と考えているのだしな。
「大物だと言うことは認めるがな、一人で出ていくのはやめろ」
つまりはそういうことだ。俺達が考えた結果ではなく、ある程度お互いの能力を確認し、いざ訓練を、と樹林の中を歩いていたのだが、突如スティアが魔物の気配がすると一人で飛び出したのだ。
突然のことで混乱した俺たちだが、すぐにスティアのことをを追いかけることとなり、今に至るというわけだ。
こいつの能力的にあの程度の魔物はなんら問題がないと分かったが、それでもいきなりの単独行動はやめろと言わずにはいられない。
「まあ、見てる分にはなんの問題もない気はするけどね。今の所無傷だしね」
全力で走れば俺よりも早く走ることができるくせに、俺よりも後からゆっくりとやってきたルージェはそう言ってスティアのことを擁護する。
確かに、能力面で言ったらここ魔境であるとはいえ、スティアのことを傷つけることができるものはそういないだろう。
「今の所はなんの問題もなかったとしても、今後も何もないとも限らないだろう。それに、命のやりとりをしているのだから油断するなと言ったのは誰だ?」
魔境に入る前にルージェはそのようなことを言っていた。その言葉自体は嘘ではないのだろうが、おそらくスティアの能力を見て警戒しすぎるのも馬鹿らしいとでも思ったのだろう。それくらいスティアは強い。
だが、どれほど強かったとしても、油断し、好き勝手に動いて単独行動をするなどということは許すべきではない。
それを理解しているからか、ルージェは俺の言葉に反論することなく肩をすくめた。
「一人で戦うことをやめろとまでは言わないが、せめて俺達がすぐに補助できるように動け」
「え~? 心配してくれてるの~?」
「そうだ。だから一人で動くのはやめろ」
俺としても何もないとは思う。だが、それでも一人で行動させることに不安がないわけではないのだ。いくら強かろうと、こいつは王女。心配しないわけがない。
それに、たとえこいつが王女ではなかったとしても、女性一人で魔境の中を進ませることには拒否感がある。
男女平等だとか男尊女卑だとかいう阿呆がいるかもしれないが、戦闘に女性を関らせないのは当たり前の話だ。これは女性を見下したり馬鹿にしているのではなく、そもそもが肉体の作りとしてそうなっているのだから、そこで議論する奴は正真正銘の阿呆——いや、愚者である。
たとえそれが、戦闘のために生まれたような種族であってもだ。
故に一人で行動するのはやめてもらいたいのだが、それを言って果たしてこいつが聞くかどうか……わからんな。
「う、え……うあ……うー、わかったわよ」
……まさか、素直に頷くとは思わなかったな。まあこれはこれで世話がなくていいが。
だが、その反応はやめろ。自分からから買っておいて、なぜそこで恥ずかしがるのだ、阿呆め。
「それじゃあ、今日も元気に狩っていこー!」
そう言って小槌を持ちながら手を突き挙げたのは、いうまでもないがスティアだった。
「今日も、というか、今日が初だがな」
「しかも、今回は狩りっていうより実力の確認や連携の調整がメインになるんじゃなかった?」
「え~、でもでも、私達ならちょちょっとやれば余裕でしょ?」
スティアの言動に俺とルージェは普段通りに返したが、その言葉のせいでスティアは唇を尖らせて不満げな顔を見せた。
今日俺たちがいる場所は、魔境のそばの街——ではなく、魔境そのものだった。魔境と言っても、その外周。まだ樹林の中には入っていないような場所だが。
なぜこんな場所にいるのかと言ったら、当初から目的としていた魔物の肉だ。この魔境で魔物を狩り、その肉を調理して、あるいは売った金で料理を買って食べるためにこの場所へ来た。
なので、今日はこの場所で魔物を狩ることになっている。
あと、肉を手に入れる目的以外にも、スティアが暴れるための遊び場が必要だったこともこの魔境に挑む要因の一つだ。この場所に来るまでの道中もそうだったが、こいつはなかなかに血の気が多いというか、好戦的なのだ。
本人曰く、獣人としては普通だそうだが、もう少し大人しくしていてくれないものだろうか。
まあいい。こちらとしても実戦を積んでおくことは無駄にはならない。一年後にある天武百景に出るかどうかは未だはっきりとは決めていないが、出るにしても出ないにしても、今の『フォーク』という武器に慣れておく必要があるだろう。なので、実戦の機会があることはありがたいとは思う。
「狩りとはいえ、命懸けだよ。相手がどれだけ格下で、狩られる対象なんだとしても、反撃を受けることはある。それで怪我をするだけならいいけど、本当に当たりどころが悪ければ死ぬんだよ」
「それは知ってるけどぉ……む~。わかったわよ」
お気楽そうにしているスティアをルージェが咎めるが、それはなかなかに実感のこもった言葉だった。もしかしたら、過去に油断して殺されかけたのかもしれない。
ルージェはそれなりに強いと思うが、それでも油断をすればただの動物であっても殺されることはあるのだ。何せ、人は腹を貫かれただけで死ぬのだから。
獣の牙や爪、角なんてものは脅威でしかないし、それが急所にあたれば容易く死ぬ。それを理解しているからこそ、お遊びの雰囲気を出していた スティアに忠告したのだろう。
放っておいて死んだとしても自己責任だろうに、面倒見がいいことだ。あるいは、調子に乗って足を引っ張られることを嫌ったかだが、どちらだろうな?
ルージェが俺達についてくると言って、一応は同行することを許可したが、未だにその本心は見えない。何を考えて同行を申し出たのかも、その人間性も、全てが不明なままだ。
まあ、人間性に関しては性根の部分では悪ではないのだろうと思う。ただ家族を殺されたから。ただ悲しいから。だからその原因となった奴らを殺す。そうすることで心が晴れると思っているわけでも、仇が討てると考えたわけでもないだろう。
ただそうすることしか思いつかなかったのではないだろうか。
実際のところはどうなのかなんてさっぱりわからない。だから、同行している間にそのあたりのことを見極めることができればいいと思う。
もっとも、見極めたところでどうするのだ、と言われればどうするつもりもないが。何せ今では俺も立派な『貴族殺し』だ。
「でも、一匹はちゃんと狩って食べるんだからね!」
「わかっている」
訓練がメインの今回の狩りではあるが、狩りである以上肉が手に入ればそれを調理してもらい、食べるのも醍醐味ではあると思う。
というか、仮にも命を奪うのだ。それを商売とするのが間違っているとは言わないが、全く食べないと言うのもどうかと思う。この地で連続して狩りを続けるのであれば、せめて一度はその命を自分で食べるべきだろう。もっとも、食べるにしても俺たちでは魔物の肉を調理できないので持って帰ることになるが。
しかしこんなこと、今までのように屋敷で出される料理だけを食べているようであれば、考えなかったことだろうな。
「狩りになんて行かなくても、街には肉が溢れてるんだからそっちを食べればいいと思うけどね」
「それじゃあつまんないでしょ。それに、ただ与えられただけのものを食べるなんて、なんか違うでしょ。自分で獲るからこそ、そのありがたみも美味しさも余すことなく味わえるってもんだ! ……って、どっかで聞いたような見たような?」
「根拠として使う情報が曖昧でいいのか?」
言っていることは素晴らしい言葉だと思うし、誰が言ったかでその言葉の意味が変わるわけではないのだが、それを口にしている本人が首を傾げていると途端に価値がなくなっていくように感じてしまう。
「まあどっちでもいいじゃない! どうせ街中にいてもやることないし、だったら遊びましょうよ!」
「遊びじゃなくて狩りだけどね」
「どっちも同じでしょ。ただ、命がかかってるかかかってないかの違いよ」
「その違いが全てだろうに」
獣人達にとっては、きっと命をかけることに対する忌避感が薄いのだろう。あるいは、命を落とすことを覚悟し、受け入れている。
だからこそ、多少なりとも命がかかっている状況であったとしても、普段通りに振る舞うことができるのではないだろうか。
軽い足取りで樹林の中へと進んでいくスティアの背を見つつそんなことを考えたていたが、すぐに頭を切り替えておいていかれまいと歩き出した。
「——バッチこーい!」
木々が生い茂る自然の中に、場違いとすら思えるほど明るい声が響く。
その声の主が誰かと言ったらスティアのなのだが、その声がかけられているのは俺でもアージェでもない。
スティアに声をかけられた相手——無駄に胴の長い猪のような魔物がスティアへと突っ込んでいく。
そのままの速度でぶつかれば、常人であれば即死。俺たちのように身体強化をしていても、場合によっては大怪我をするし、最悪は死ぬことになるだろう。
だが、そんな状況であってもスティアは逃げることはなく、むしろ自分から突っ込んでいきそうなほど楽しげな笑みを浮かべて魔物が自分の元へとやってくるのを待っている。
そして、ついに両者の距離がなくなり——
「ど——っかん!」
つい一瞬前まで手のひらに収まるサイズだった小槌が、突如として身の丈の数倍にまでデカくなり、猪の魔物を真横から叩きつけられた。
自身へと走ってくる相手に横から槌を叩きつけるのは相応の技量が必要なはずだgスティアはそれを苦とした様子もなくやってのけた。
当然攻撃を受けた魔物は耐え切ることなどできるはずもなく、そもそも抵抗することすらできずに吹き飛ばされ、近くにあった樹に叩きつけられ死亡した。
「イエーイ! 大物確保よ!」
倒した後も警戒を解くことなく魔物の様子を観察し、もう大丈夫たと判断したところで魔創具である大槌を消して喜びの声を上げた。
そこまでの様子を見て、ようやく俺はスティアの元へと辿り着いた。
そう。〝辿り着いた〟なのだ。今まで俺はスティアが戦う様子を近くで見ていたわけではなく、少し離れた場所から走りながら見ていたのだ。
なぜそんなことをしていたのか疑問に思うことだろう。この魔境では連携も兼ねての狩りだと言っていたのに、なぜスティアだけが一人で突出して魔物を狩っているかと、そう思うのは至極真っ当なことだ。
実際、俺もなぜこんなことになっているのか、と考えているのだしな。
「大物だと言うことは認めるがな、一人で出ていくのはやめろ」
つまりはそういうことだ。俺達が考えた結果ではなく、ある程度お互いの能力を確認し、いざ訓練を、と樹林の中を歩いていたのだが、突如スティアが魔物の気配がすると一人で飛び出したのだ。
突然のことで混乱した俺たちだが、すぐにスティアのことをを追いかけることとなり、今に至るというわけだ。
こいつの能力的にあの程度の魔物はなんら問題がないと分かったが、それでもいきなりの単独行動はやめろと言わずにはいられない。
「まあ、見てる分にはなんの問題もない気はするけどね。今の所無傷だしね」
全力で走れば俺よりも早く走ることができるくせに、俺よりも後からゆっくりとやってきたルージェはそう言ってスティアのことを擁護する。
確かに、能力面で言ったらここ魔境であるとはいえ、スティアのことを傷つけることができるものはそういないだろう。
「今の所はなんの問題もなかったとしても、今後も何もないとも限らないだろう。それに、命のやりとりをしているのだから油断するなと言ったのは誰だ?」
魔境に入る前にルージェはそのようなことを言っていた。その言葉自体は嘘ではないのだろうが、おそらくスティアの能力を見て警戒しすぎるのも馬鹿らしいとでも思ったのだろう。それくらいスティアは強い。
だが、どれほど強かったとしても、油断し、好き勝手に動いて単独行動をするなどということは許すべきではない。
それを理解しているからか、ルージェは俺の言葉に反論することなく肩をすくめた。
「一人で戦うことをやめろとまでは言わないが、せめて俺達がすぐに補助できるように動け」
「え~? 心配してくれてるの~?」
「そうだ。だから一人で動くのはやめろ」
俺としても何もないとは思う。だが、それでも一人で行動させることに不安がないわけではないのだ。いくら強かろうと、こいつは王女。心配しないわけがない。
それに、たとえこいつが王女ではなかったとしても、女性一人で魔境の中を進ませることには拒否感がある。
男女平等だとか男尊女卑だとかいう阿呆がいるかもしれないが、戦闘に女性を関らせないのは当たり前の話だ。これは女性を見下したり馬鹿にしているのではなく、そもそもが肉体の作りとしてそうなっているのだから、そこで議論する奴は正真正銘の阿呆——いや、愚者である。
たとえそれが、戦闘のために生まれたような種族であってもだ。
故に一人で行動するのはやめてもらいたいのだが、それを言って果たしてこいつが聞くかどうか……わからんな。
「う、え……うあ……うー、わかったわよ」
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