聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと家を追い出されたけど最強なので問題なし〜

農民ヤズ―

文字の大きさ
92 / 189
三章

路地裏の情報屋

しおりを挟む
 ——◆◇◆◇——

「さて、あれから三日が経ったが、なにもないな」

 マリアが襲撃を受け、俺がそれを処理してから三日が経ったが、未だどこからも襲撃を受けたりはしていない。
 こちらとしては翌日には何かあってもおかしくないと思っていたのだが、どうやら敵はすぐに仕掛けるほど愚かではないようだ。

「そうそう厄介ごとなんて起こるもんでもないでしょ。気にしすぎなんだってば」
「裏に関わったんだから、気にしすぎてちょうどいいんじゃないかって思うけどね」
「ああ。俺も同意だ」

 スティアの楽観的な意見をルージェと俺は否定し、襲ってくる事を前提として話を続けた。

「襲うのであれば、夜。あるいは、一人で行動している最中だろうな」
「というかよ? そもそも、私も襲われるわけ? 私何にもしてないじゃん。なんかやらかしたのってアルフだけでしょ?」
「そう言って見過ごしてくれればいいがな。共に行動している時点で仲間と見做されるに決まっている」
「えー。じゃあ私が狙われるのってあんたのせいってことじゃん。今から別行動とれば許してくれたりしないかしらねー?」
「俺としては別行動してもいいのだがな。だがその場合、さっさとこれを外す方法を見つけ出せ」

 そういって首を示すが、そこには必ず命令を聞かせる事ができる隷属の首輪がついている。……いや、つけられている。

 俺としても裏に頼んで探しているが、そんな事ができる人物などそうそう見つかるものでもないため、いまだに首輪を外す事ができずにいる。
 こんなものがなければ初めから別行動をする事ができたのだがな、と非難の色を込めてスティアを見つめるが、スティアは部が悪いと判断したようで顔を逸らした。

「……さて! それじゃあ今後も気をつけるってことで、今日は解散しましょうか!」
「解散って……話聞いてた? 一人で行動するのが危ないんだよ」
「でも、危ないって言っても私達ならどうにかなるでしょ? すぐに殺されちゃうってこともないと思うんだけど……どう?」

 些か楽観がすぎるとは思うが、その考えを頭ごなしに否定する事はしない。何せ、そういった気持ちが俺にもあるのは事実だからだ。

「確かにな。建物の屋上から飛び降りても捻挫をしないどころか、すぐに動き出せるような超人であるならば、あらかじめ襲われる可能性を頭に入れておけば逃げ出すことくらいは可能か」
「まあ、街中だってのもあるしね。路地に入らなければ大丈夫かな。無理やり連れ込まれるってのも、平気だろうし」

 スティアもだが、ルージェも相当の実力がある。先日の襲撃者程度であれば余裕を持って制圧する事が可能だろうし、あれよりも強い者が襲って来たとしても最低でも逃げることは可能のはずだ。

「と言うわけで、私も適当に街中歩き回ってもオッケーね?」
「……ああ。だが、やはり警戒だけはしておけ。なにがあるか分からないのだからな。何かあれば、躊躇わずに魔創具を使え」
「わかってるわかってるって。大丈夫大丈夫。それじゃあ狩り狩りしてくるねー!」

 そう告げるなり、スティアは勢いよくドアを開けて部屋の外へと出ていき、勢いよくドアを閉めた。ドアが壊れないか心配だ。狩り狩りとはなんだ。あの阿呆め……。

 そこはかとなく不安ではあるが、明確にいつ襲ってくるという確信があるわけでもないのだから、仕方ない。

「商人の方はどうなっている?」
「あー、うん。そっちね。そっちはなかなか面倒な感じだよ。ボクの能力は潜入向けってわけでもないし……まあ、全く何もわからないってわけでもないけどね。あと数日もすれば、どこに悪事の証拠を隠しているのか、くらいはわかると思うよ。どこにあるかさえ分かれば、あとは全部ぶちのめして回収すればいいだけだから、まあなんとかなるでしょ」
「……それは最終手段としたいがな。何がどうなるかわからないのだ。できる限り密やかに終わらせるべきだ」

 相手は大商人と呼ばれるような存在であり、その繋がりがどこにどう伸びているのかはわからない。もし面倒な貴族に伸びていれば、そこから襲撃してきた俺たちの方こそ悪だとされる可能性がある。
 証拠さえ掴めればそのような無茶も通らないだろうが、もし万が一にでも証拠を手に入れる事ができなければ厄介だ。なので、できる限り騒ぎを起こさないように事を成す必要がある。

「わかってるよ。ただ、これ以上は調べられないと判断した場合、無駄に時間をかけるくらいならボクは動くよ」
「……せめて事を起こす前にはこちらにも一言かけろ」
「はーい」

 そう返事をするなり、ルージェは部屋を出ていき、部屋の中には俺だけが残されることとなった。
 だが、俺としてもやることがあるので、一人で動ける時間というのは都合がいい。
 別にスティアやルージェがいても問題ではないのだが、騒がしいので一人の方が楽なのだ。

 そうして俺たちは別行動を取ることになったのだが、俺は宿を出てしばらく歩くと路地裏に入り、そこにいる物乞いの前に硬貨を落とした。

「へえ。こりゃあありがてえこった……ああ、あんたかい。なんだい、またなんか聞きたいことでもあんのか?」

 男の言葉からわかるように、俺はすでにこの男と何度も会っている。
 この男は見た目こそ浮浪者で、実際に浮浪者ではあるのだが、もう一つ、情報屋という顔も持っている。

 どうやら金はあるようなのだが、浮浪者としての生活が気に入っているようでこのような場所で暮らしているのだそうだ。理解はできないが、便利なので気にしないことにした。

 今回俺がこの男と接触したのは、首輪の解除方法を探すため。それから、この街の〝裏〟について知るためだ。
『樹林の影』とかいう集団がどんな組織なのかは尋問してわかっていたが、それはあくまでも主観的なものでしかない。客観的に見た場合にはまた違う何かが聞けるかもしれないと、情報を集めたのだ。

 今日は前回聞いてから二日経っているので、その後どう動いたのかを聞きにきたというわけだ。

「『影』がどう動くのか、わかったか?」
「いや。悪いが、分からねえな。何せまだなんの動きもねえもんだ。ただ、情報集め自体はもう終わってるだろうから、もうそろそろ動いてもおかしくねえもんだと思うんだが……どうなってんだかねえ」
「他の裏の連中はどうしている?」
「他ってーといくつかは動きが見えるもんだが、まあでかい動きを見せてんのは『揺蕩う月』の連中だなあ。あそこは『影』に追い詰められてたもんで、今動かねえとやべえと思ってんでしょう」

 影——『樹林の影』とやらの敵対組織としてもっとも大きいのは、『揺蕩う月』という組織だそうだ。
 元々はこの町でも一二を争うような組織だったようだが、二年ほど前に当時のトップが『樹林の影』との戦いに負けて殺されたことで、そこから凋落が始まったのだという。
 現在では他の中小組織の一つと言ったところだが、それでも過去に敵対していたことは変わらず、現在も『樹林の影』に攻撃され続けているのだとか。

 まあ、そうだろうな。過去の栄光といえど、トップであったという事実は変わらない。そんな組織を放置しておけば、いずれ復讐をされる可能性があるので放置しておく事はできない。

 それに、過去のトップだったもの達を完膚なきまでに潰せば、自分たちの力を他の組織に思い知らせる事ができるのだ。逃す手はないだろう。

 しかし、そんな『揺蕩う月』が動いているのか……であれば、俺が『樹林の影』と戦うことになれば手を出してくるか? あるいは……。

 まあいい。おおよその状況は把握できた。あと他に聞くべきことは……ああ、そうだな。これも聞いておくか。

「そうか。あとは……俺の情報はいつ売った?」

 俺がそう口にした瞬間、目の前の情報屋の男は目に見えて狼狽始めた。俺が『影』のメンバーを一人で処理した事を知っているこいつからすれば、俺に睨まれるのは命の危険を感じるのだろう。

「……へ、へへ。気づいてたんかい」

 男は震える声でなんとか言葉を紡ぐが、その視線は俺を見つつも周囲のことを観察している。いざとなったらどうにかして逃げ出すつもりなのだろう。
 しかし、そんな心配は無用だ。俺はこの男を殺すつもりなどないのだから。

「当たり前だ。気づかぬ方がどうかしている。お前達のような者全員が同じとは言わんが、お前は金さえ払えば顧客の情報であろうと売る類の人間であろう?」

 初めからそうなるだろうことは理解して、その上で利用しているのだ。ここは日本のように顧客の情報の取り扱いに関して、何か決まり事があるわけでもないのだからな。

 もっとも、情報を漏らすような輩は信用されないが、それと理解しているのであればなんの問題もない。

「へ……それで、どうされるってんで?」
「どうもせんよ。どうせ、俺の情報など表面的なものだけだ。どこの出身でどんなことができて、何を考えているのか。分からんだろう? であれば、情報など漏らされたところで問題ない。それよりも、今は俺自身が情報を手に入れることが重要だったのでな」
「……そうかい。ありがてえこった。なら、俺が何を喋ろうが恨みっこなしってこったな」

 俺の言葉を聞いてもまだこちらのことを探るような視線と、いつでも逃げ出せるような空気を纏っているが、ひとまず話を続けることにしたようだ。

「そうだな。だが、見逃してやる代わりに俺にも情報を寄越し続けろ」
「金は——」
「問題ない。しかとはらおう」
「へへ。でありゃあ、こっちも問題ねえってもんだ」

 今まででもっとも高い額を支払うことで、男は一瞬その額に目を見開いたものの、すぐに笑みを浮かべて金を拾い、話し始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...