聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと家を追い出されたけど最強なので問題なし〜

農民ヤズ―

文字の大きさ
100 / 189
三章

協力できない理由

しおりを挟む
 
「で、本当に断ってよかったの? どうせ潰すんなら、協力した方が楽にことが運ぶと思うけど?」

 ルージェの言うように、ただ敵を潰すだけならば協力するのが良いと言えるだろう。
 だが、俺はそれに首を振って答えた。

「それはそうだろうな。だが、関わってなんになる。まず前提として、俺たちは永遠にこの街に留まり続けるわけではない」
「まあそうだね」
「そんな俺達が『揺蕩う月』に協力して『樹林の影』を討てば、次のこの街の裏の支配者は、最大勢力であった『樹林の影』を討った『揺蕩う月』になるだろう。だが、そこで俺達が抜けたらどうなる?」

 そこまで言えば状況が理解できたようで、ルージェは納得したように頷いた。

「ああ、なるほどね。今追い詰められている『月』が『影』を倒すにはどこからか戦力を引っ張ってこないといけない。で、その戦力であるボク達が加入したことによって『影』を倒せたとしても、その後にボク達が抜ければ元通りの戦力しかいなくなる。そうなれば、他の裏の組織達は元の戦力に戻った『月』を脅威とは見做さず弱いのにトップになった『月』を狙うことになる」
「そうだ。俺たちが奴らとは協力せずに勝手に動き、その結果『樹林の影』と繋がっている商人が消えたとしても『樹林の影』そのものが壊滅したとしても、『揺蕩う月』は関係ないことになる。何せ余所者が勝手に暴れただけであり、『揺蕩う月』が得をしたのは単なる偶然と言うことになるのだからな」

 もし俺たちがここで『揺蕩う月』に協力したとしよう。『揺蕩う月』がどこかから人を連れてきて敵対している『樹林の影』を潰し、その後ろにいた商人も潰した。そうなるとこの街の裏のトップ争いに『揺蕩う月』が加わることになるだろう。

 だが、俺達が旅人だということを忘れてはならない。もし『揺蕩う月』がトップ争いに戻ったとしても、俺たちが抜けてしまえばその争いで勝ち続ける……いや、生き残ることはできない。追加で補充した戦力がなくなれば、そこが狙い目だと考えるものは必ず出てくる。そして、今度は別のギルドに潰されておしまいだ。

 であれば、初めから協力関係になどならない方がいいのだ。協力関係ではなく、俺たちは他所から来た部外者であり、勝手に動いた結果、場が混乱する。『揺蕩う月』はその混乱に乗じてことをなした。
 と、そうするのが最もいい流れだ。

 ただし、その場合はこちらと綿密に計画をすり合わせることができないので、『揺蕩う月』にはそれなりの被害も出るだろうが。それでも最終的な損害度合いで言えば、〝偶然『樹林の影』が損害を受けたので漁夫の利を狙った〟方が損害は軽いものとなる。

 だが、それでも損害が出ることになるのは変わらない。
 おそらく、リリエルラはその被害を嫌ってここまで頼みに来たのではないだろうか?
 いずれ訪れるであろう苦境よりも、今動くことで助けられる命を助けるために。

 仲間は誰も見捨てない。それは素晴らしい考えだとは思う。そう言ったリリエルラ自身も好ましい人物だとも思う。

 だが、俺はその考えを支持しない。

「つまり、ボクたちが商人を襲うのも、その後に『影』を襲うのも、全部『月』を助けるためってわけだね」
「というよりも、無駄に巻き込まないためだ。それに、『樹林の影』を襲うかどうかは決まっていない。あくまでも邪魔になるようであればの話だ」

 今回の俺たちの目標は、あくまでもオンブロ商会の不正を暴き、処理するためだ。その最中、あるいはその事後に『樹林の影』から攻撃を受けるだろうから、俺たちはそれを迎撃するだけ。そして、迎撃しても敵が来るようならば、必要に応じて『樹林の影』と戦うだけだ。

「どっちでも良いけどね。なんにしても、やるんだよね?」
「ああ。相手は貴族ではない。だが、民を傷つけ、不幸をもたらす悪だ。であるならば、俺のやることは決まっている」

 この身は貴族ではなくなっても、民の幸福のためにあるのだと、そう決めたのだ。
 だからこそ、俺はここで民を虐げる者を見過ごすわけにはいかない。

「そ。ならまあ、三日くれない? 今日もらったやつで情報は十分だけど、確認とか準備とかする必要があるからさ」
「構わん。こちらも、もし追われるようなことになった場合に備えておきたいのでな。またなにも持たずに旅に出るなど、ごめんだ」

 この国唯一の港湾都市からこの街に来るまで色々とあった。俺たちに合流したルージェが旅道具を持っていたから多少はなんとかなったが、それでも全てを賄えたわけではない。当然だが一人で持てる量には限界があり、道中で不便なことも何度もあった。
 今回はあらかじめ町を出ていく可能性があるとわかっているのだから、前もって旅の準備をしておくべきだ。

 だが、そんな俺の言葉に反対をする者がいた。

「ちょっと待ってよ! 三日で出発するって、私のお肉は!?」

 そう叫んだのはスティアだった。まあ、俺が提案し、ルージェが賛成している以上残っているのはこいつだけなので当然ではあるのだが。
 どうやらこいつは、まだまだこの街から離れたくないようだ。

「もう十分過ぎるほど肉は食べたであろう」
「またまだ食べ足りないんだけど! まだここに来て一週間も経ってないのよ? 今日だって狩りをしてから新しいお店に行こうとしてたくらいなのよ!?」
「諦めろ。そもそも、まだこの街を出ていくと完全に決まったわけではない。状況次第ではこの街を出ていくこともあるというだけだ」

 俺たちは今回騒ぎを起こすわけだが、所詮は裏ギルドが相手であり、商人の方も不正の証拠を用意することができれば犯罪者だ。騒ぎを起こしたところで、指名手配されたり追い回されたりすることもないだろうとは思っている。

 だが、もし裏ギルドや商人と、この街を収めている者が繋がっていた場合、俺たちはお尋ね者となるかもしれない。
 なので、その時のことを考えて準備をしておくべきだ。

「でもそれで本当に街を出ていくこともあるわけでしょ? それに、マリアのことはどうするわけ?」

 マリアをどうするとは……それは彼女にかけられている追っ手のことか? だが、それはどうしようもあるまい。『樹林の影』に追われていると言った問題であれば今回解決することは可能だろうが、そうではないのだ。

「どうしようもあるまい。彼女への追っ手は倒した。だが、それだけだ。変わらず騎士王国で追われているという状況は変わっていないのだから、どうすることもできんだろ。ひとまずは処理したのだから、その間に逃げ仰るくらいはするであろうよ」

 そもそも、危険を承知でこの街に止まっているのは、マリア自身の判断によるものだ。
 その判断とて、民に悪さをする商人がいるからであって、俺たちが今回その商人を処理してしまいさえすれば自然とマリアがこの街に止まっている理由はなくなり、再び安全なところへと逃げていくのではないかと思う。

「そもそもだよ。助けるにしても、なにをどうやって助けるのさ。ずっと一緒にいて敵を倒し続けろって? それとも、騎士王国に突っ込んでいって、大元を処理すればいいの?」
「それは、違うけどぉ……」

 ルージェの問いかけに、流石にそれは違うということは理解できているようでスティアの言葉は尻すぼみになっていた。

「まあ、ここでこうやって話してるけどさ、まだ絶対に三日後に出ていくって決まったわけでもないからね? 商人を処理しても、追われない可能性は十分にあるよ。非合法のあれこれに関わってた証拠をばら撒くとか、裏ギルドとの繋がりをバラすとかすれば、領主としても裏全体を敵に回すことは避けたいはずだから、裏の抗争によって死んだ者にはそれほど深く関わってこないと思うんだよね。自身が裏と繋がっていたとしても、その繋がりはばれたくないだろうし、下手にボク達のことを追いかけることもないと思うんだよ。だから、その間に考え続けてれば良いんじゃないかな。どうするのが一番良いのか、ってね」
「だが、その〝敵に回したくない〟という考えも、希望的な考えでしかない。最悪を考えて備えるべきだろう」
「ま、それはその通りだね」

 そんな俺たちの考えに不満を持ちつつも一応の納得をしたスティアと共に、俺達は翌日から悪徳商人襲撃へと向けて準備をし始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...