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三章
アルフ対聖剣4
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「確かに、現状に満足しているわけではない。父の決定に不満がないわけでもない。だがこの道を進む覚悟はできている」
すでに自身がどう生きていくのかは定まっている。
どこをどう進むのかは依然として決まってはいないが、この生き方だけは変わることはなく、変えるつもりもない。
そんな俺の意思を感じ取ったようで、エドワードは落胆の色を顔に浮かべた。
「話はここまでか」
「元より敵対関係なのだ。境遇が似ているからといって、馴れ合うことができると言うわけでもあるまい」
元々は貴族として生きており、ある日突然それまでの生活を失った。
その境遇だけは似ているだろう。だが、もとより敵として出会ったのだ。話し合いなどしたところでその事実が変わるわけではない。
「私は、この街の裏を支配し、その力を持って我が家に仇なした者どもに復讐をする。止めるつもりなら容赦はしない」
「俺はそのような大層な願いなどない。ただ、あれだけの想いを見せられたのだ。あの想いを無視して離れるなど、できるはずもない」
最後となるであろう対話を終えると、お互いに武器を構え、動き出した。
開始の合図はエドワードの霊剣が俺へと襲いかかってきたものだった。
だが、霊剣は全て封じていたはずだ。
そのことを確認するために視線を一瞬だけ周囲でフォークによって押さえ込まれている霊剣へと向けたが、確かに霊剣は押さえられたままだ。
であれば、あれはあえて使わずに残しておいたものということになる。
しかし、残しておいたと言ってもどうやらそれには数に限りがあるようで、こちらに向かってくる霊剣は一本だけだ。
この程度でどうにかなるとは思っていないだろうに、それでも本人が霊剣と共に攻めてこないのは、この霊剣には何か仕掛けがあるからか?
などと考えながら霊剣から視線を外さないままエドワードへと意識を向け直すと、飛んできた霊剣に気を取られている間にエドワードはそれまで持っていた聖剣とは違い、新たな剣をその手に持っていた。
左右それぞれの手に聖剣ともう一つの剣を持っているという事実が意味することは……
「それはっ——!」
「これが〝私の〟魔創具だ!」
つまり、突然現れた剣は、過去の英雄たちが残した『聖剣』ではなく、エドワード自身の作り上げた魔創具ということになる。
そして、その魔創具の効果を発動させたのだろう。それまで宙を舞っていたものとは違い、かなりの大きさの霊剣が頭上に現れた。それはさながらギロチンのようですらある。
これだけ刃の厚みがあるとフォークでは受け止めきれないか。
今出せる全ての布を生成し、それを操ることで落ちてくるギロチンの如き霊剣を受け止め、包み込む。
「ぬ、の……?」
エドワードは、突然現れた布に驚き、それに自身の魔創具による攻撃が防がれたことで、戦いの相手であるはずの俺から視線を上に向けて目を見開いた。
「これ〝も〟俺の魔創具だ」
エドワードはフォークだけが俺の魔創具だと思っていたようだが、俺には他に鎧となるはずだった魔創具——テーブルクロスが存在している。
そして、こちらもフォークと同じようにその性能だけは『聖剣』に負けない能力を宿している。
こう言ってはなんだが、たかが聖剣でもない魔創具の一撃程度であれば、防ぐことは容易いことだ。
テーブルクロスで包み込んだ霊剣は、そのまま放っておけば再び俺を狙って動き出すだろう。
故に、それを防ぐために破壊することにした。
宙を飛び交う霊剣を破壊するのは難しいが、ああして俺の魔創具に包まれている状態であれば、不可能ではない。
それに、あのギロチンのような霊剣自体は、周りを飛び交っていた聖剣のものよりも出力が弱いようだし、その性能自体が聖剣に劣るものなのだろう。
であれば、なおのこと破壊は容易いものとなる。
「は……最後がこのような終わりとはな。フォークに、布だと? まったく、予想外もいいところだ」
霊剣を包んだテーブルクロスの内側で、暴力的な魔力と爆発が発生したのを見れば、何が起きたのかどれほどの阿呆でも理解できるだろう。
エドワードは、自身の魔創具の一撃が防がれたどころか、完全に破壊されたのを見て、呆然と呟きながら両手にあった魔創具の剣を取り落とした。
「う……おおおおおおおっ!」
だがそれでももう片方の手に合った政権だけは落とすことはなく、叫びながら俺へと接近し、切り掛かってきた。
共に行動していた仲間はおらず、聖剣の能力も封じられ、自身の奥の手である魔創具まで通用しなかった。今のエドワードにあるのは、残った魔力で行っているほんの些細な身体強化と、貴族だった者としての誇りだけ。
このまま殺さずに無力化させることもできる。だが……
「レイソードの復讐は、ならなかったか……」
ドスッという衝撃に足を止めたエドワードは、胸に突き立った数本のフォークを見て完全に動きを止め、自身の手にある聖剣を見下ろしながら呟いた。
「……貴族など、碌なものではないな」
聖剣から視線を外し、今度は俺へと向けてきたエドワードだったが、そう言い終えるなり濁った音の咳をし、口から血を吐いた。
「だが、その碌でもないものを求め続けた私も……ふっ」
肺も気管も破壊され、喋るどころか呼吸をするだけでも痛みを伴うはずだ。
だがそれでもエドワードはそんな様子を見せることなく、言葉を紡ぐ。
しかし、それでも限界は近いだろう。足が震えており、何度か足元を確認するように足を踏み直している。
「ああ……家が、懐かしいな……」
そう言ったエドワードはそれ以上何も話すことはなく、数秒してから唐突に地面へと倒れ込んだ。
だが、最後まで手の中にある聖剣を手放すことはなかった。
すでに自身がどう生きていくのかは定まっている。
どこをどう進むのかは依然として決まってはいないが、この生き方だけは変わることはなく、変えるつもりもない。
そんな俺の意思を感じ取ったようで、エドワードは落胆の色を顔に浮かべた。
「話はここまでか」
「元より敵対関係なのだ。境遇が似ているからといって、馴れ合うことができると言うわけでもあるまい」
元々は貴族として生きており、ある日突然それまでの生活を失った。
その境遇だけは似ているだろう。だが、もとより敵として出会ったのだ。話し合いなどしたところでその事実が変わるわけではない。
「私は、この街の裏を支配し、その力を持って我が家に仇なした者どもに復讐をする。止めるつもりなら容赦はしない」
「俺はそのような大層な願いなどない。ただ、あれだけの想いを見せられたのだ。あの想いを無視して離れるなど、できるはずもない」
最後となるであろう対話を終えると、お互いに武器を構え、動き出した。
開始の合図はエドワードの霊剣が俺へと襲いかかってきたものだった。
だが、霊剣は全て封じていたはずだ。
そのことを確認するために視線を一瞬だけ周囲でフォークによって押さえ込まれている霊剣へと向けたが、確かに霊剣は押さえられたままだ。
であれば、あれはあえて使わずに残しておいたものということになる。
しかし、残しておいたと言ってもどうやらそれには数に限りがあるようで、こちらに向かってくる霊剣は一本だけだ。
この程度でどうにかなるとは思っていないだろうに、それでも本人が霊剣と共に攻めてこないのは、この霊剣には何か仕掛けがあるからか?
などと考えながら霊剣から視線を外さないままエドワードへと意識を向け直すと、飛んできた霊剣に気を取られている間にエドワードはそれまで持っていた聖剣とは違い、新たな剣をその手に持っていた。
左右それぞれの手に聖剣ともう一つの剣を持っているという事実が意味することは……
「それはっ——!」
「これが〝私の〟魔創具だ!」
つまり、突然現れた剣は、過去の英雄たちが残した『聖剣』ではなく、エドワード自身の作り上げた魔創具ということになる。
そして、その魔創具の効果を発動させたのだろう。それまで宙を舞っていたものとは違い、かなりの大きさの霊剣が頭上に現れた。それはさながらギロチンのようですらある。
これだけ刃の厚みがあるとフォークでは受け止めきれないか。
今出せる全ての布を生成し、それを操ることで落ちてくるギロチンの如き霊剣を受け止め、包み込む。
「ぬ、の……?」
エドワードは、突然現れた布に驚き、それに自身の魔創具による攻撃が防がれたことで、戦いの相手であるはずの俺から視線を上に向けて目を見開いた。
「これ〝も〟俺の魔創具だ」
エドワードはフォークだけが俺の魔創具だと思っていたようだが、俺には他に鎧となるはずだった魔創具——テーブルクロスが存在している。
そして、こちらもフォークと同じようにその性能だけは『聖剣』に負けない能力を宿している。
こう言ってはなんだが、たかが聖剣でもない魔創具の一撃程度であれば、防ぐことは容易いことだ。
テーブルクロスで包み込んだ霊剣は、そのまま放っておけば再び俺を狙って動き出すだろう。
故に、それを防ぐために破壊することにした。
宙を飛び交う霊剣を破壊するのは難しいが、ああして俺の魔創具に包まれている状態であれば、不可能ではない。
それに、あのギロチンのような霊剣自体は、周りを飛び交っていた聖剣のものよりも出力が弱いようだし、その性能自体が聖剣に劣るものなのだろう。
であれば、なおのこと破壊は容易いものとなる。
「は……最後がこのような終わりとはな。フォークに、布だと? まったく、予想外もいいところだ」
霊剣を包んだテーブルクロスの内側で、暴力的な魔力と爆発が発生したのを見れば、何が起きたのかどれほどの阿呆でも理解できるだろう。
エドワードは、自身の魔創具の一撃が防がれたどころか、完全に破壊されたのを見て、呆然と呟きながら両手にあった魔創具の剣を取り落とした。
「う……おおおおおおおっ!」
だがそれでももう片方の手に合った政権だけは落とすことはなく、叫びながら俺へと接近し、切り掛かってきた。
共に行動していた仲間はおらず、聖剣の能力も封じられ、自身の奥の手である魔創具まで通用しなかった。今のエドワードにあるのは、残った魔力で行っているほんの些細な身体強化と、貴族だった者としての誇りだけ。
このまま殺さずに無力化させることもできる。だが……
「レイソードの復讐は、ならなかったか……」
ドスッという衝撃に足を止めたエドワードは、胸に突き立った数本のフォークを見て完全に動きを止め、自身の手にある聖剣を見下ろしながら呟いた。
「……貴族など、碌なものではないな」
聖剣から視線を外し、今度は俺へと向けてきたエドワードだったが、そう言い終えるなり濁った音の咳をし、口から血を吐いた。
「だが、その碌でもないものを求め続けた私も……ふっ」
肺も気管も破壊され、喋るどころか呼吸をするだけでも痛みを伴うはずだ。
だがそれでもエドワードはそんな様子を見せることなく、言葉を紡ぐ。
しかし、それでも限界は近いだろう。足が震えており、何度か足元を確認するように足を踏み直している。
「ああ……家が、懐かしいな……」
そう言ったエドワードはそれ以上何も話すことはなく、数秒してから唐突に地面へと倒れ込んだ。
だが、最後まで手の中にある聖剣を手放すことはなかった。
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