聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと家を追い出されたけど最強なので問題なし〜

農民ヤズ―

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三章

リファナへの説明

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 ——◆◇◆◇——

「——なるほど。そういった事情でしたか。この度は私共の不手際のしわ寄せを押し付けるようになってしまい、誠に申し訳ありませんでした。そして、スティア様をお助けしてくださったことへ感謝をいたします」

 俺たちの泊まっている宿はそれなりに高級な部類なので、大人数であっても問題なく入ることができた。
 そんな宿の部屋の中で、俺は獣人の女性——スティアの護衛騎士部隊の隊長であるリファナに席を勧め、その対面に座り向かい合ってこれまでの状況について説明をした。

 ちなみに、スティアはもう逃げるつもりはないのか大人しく俺の隣に座っている。もっとも、その表情は不満に感じているのがありありとわかるものではあったが。
 というか、なぜお前はこちらに座っている。立場的に考えれば、お前の席は目の前の騎士の隣だろうに。

「皆様からの感謝、確かに受け取らせていただきました。つきましては、今後についてお話しをしたいのですが」

 俺としてはスティアを回収してもらい、本隊へと合流してもらいたいのだが、まあそれ自体は叶うだろう。彼女らはそのために来たのだし。
 問題はそれ以外のことだが……さてどうなることか。

「ネメアラとしては、すぐにでもスティア様を回収……いえ、保護し、本隊へと合流するつもりです。できることならば、その際に貴殿にも同道していただきたいのですが……」

 まあそうなるよな。俺が回収する側だとしても、自分の元に来るように求める。何せ王女を助けられたのだ。そのまま放っておけば家の名に傷がつくし、それが国ともなれば尚更だ。
 それに、万が一スティアに何かあった場合……例えば、俺とスティアが男女の仲になっていた場合を考えると、そのまま放ってはおけない。
 なので、スティアの無事を証明することができるまでは俺の身柄を確保しておきたいと考えるのは十分に理解できることだ。

 しかし、だからと言って俺がそれに頷くのかというと、頷くわけにはいかない。何せ、使節団の本隊にに合流するということは王都に行くということで、行けば無用な騒ぎが起こる可能性がある。
 父上に見つかりでもしたら、勝手に家の名を使って借金をしたことで咎められるだろうし、下手をすれば牢獄行きだ。
 それを避けるためには、そもそも王都になんて行かなければいい。

「申し訳ありませんが、私は事情がある身です。王都へ向かうことは辞退させていただければと」
「それは……そうでしょうな。では致し方ありません。しかしながら、私共から感謝を述べてそれで終いとしては、ネメアラの名に傷がつきます。ですので、後日改めて感謝の意を示したいと考えているのですが、こちらの街に連絡をつければお会いすることは可能でしょうか?」

 向こうも俺が拒否するのは想定内だったのだろう。まあこの辺りは俺の情報を事前に調べていただろうし、知っていてもおかしくない。
 そして、スティアを助けた経緯やその後についての詳細は分からずとも、現状で俺はネメアラの王女の恩人なのだ。
 そのため、いくら連れて行きたいからと言っても俺を無理に連れて行き不快にさせるようなことはしないはずだと考えていたのだが、どうやら間違ってはいなかったようだな。

「私としましては、偶然助けることができただけですので、こうして感謝の言葉をもらえただけでも十分です。強いていうのであれば、この宿もそうですが、これまでの行動にかかった費用を報酬としていただければと」

 これまでそれなりに高価な宿に泊まったり、かなりの量の食事をしたりしていたそれなりの金額になっている。その全額を払ってくれるというのであれば、報酬としては十分といえば十分な額だ。

「いえ、それはなりません! これまでにスティア様が浪費し費用はこちらで全てお支払いさせていただきますが、それは行って当然のことです。それを感謝などと言って済ませることなどとてもっ……! このまま何もせずに言葉だけで終わらせてしまうことなど、とてもできません。どうか私共に感謝を示す機会をいただけないでしょうか!」

 どうか、どうか、と頭を下げて頼み込んでくる目の前の騎士達を見ていると、このままでは引いてはもらえるとは思えない。……仕方ないか。

「そこまでおっしゃるのでしたら……ええ。今後は基本的にこの街を拠点にするつもりでしたので、問題ありません」
「え? ——んむっ!?」

 スティアからしてみれば、俺はすぐに旅に出るかもしれなと言っていただけに、ここに留まるという全く違う言葉を聞いて驚いたのだろう。

 まあその疑問自体は真っ当なものではあるし、実際に俺だってそうするつもりでいた。
 しかし、ここで話した限りだが、この相手は引き下がらないということがわかってしまったのだ。このまま話したところで、相手は諦めないだろうし、無理に話を切れば相手の顔を潰すことになる。
 こちらは恩人という立場なのだから何かされるということもないだろうが、それでも相手からしてみればいい気分にはならないだろう。
 そのため、ここに留まることにしたのだ。王都には行かずとも、せめてすぐに連絡がつくような状況にしておけば少なくともここでは引き下がるはずだ。

 そう考えたわけだが、それを今スティアに話す必要もない。
 ちょっと黙ってろ、という意思を込めてスティアを横目で睨み、その足を踏む。

 突然の声に、部屋の中にいる他の者達は首を傾げているが、気にしない。相手の騎士達もスティアの奇行にはなれているのだろう。すぐに無視して話を続けた。

「でしたらまた後日、本国に戻ってからとなるかも知れませんが、再びお会いする機会をいただければと」
「承知いたしました。では、またお会いできる日をお待ちしてます」

 そう言葉を締め、リファナと俺はお互いに頭を下げたのだが……

「……ふう。よかったぁ……」

 頭を上げた後、リファナはよほど緊張していたのか、話が無事に終わったことに安堵の息を漏らした。

「隊長、隊長。まだ終わってないです」
「あ……。し、失礼いたしました」
「いえ、皆さんも状況が状況ですから。だいぶ無茶をされたのではないでしょうか? 疲労を感じるのも無理からぬことです」

 まあ、自分たちの失態でお姫様が行方不明になったのだからな。気の休まる時などなかっただろう。

 俺が手紙を送った後も、この者達が派遣されることが決まってから即座に出立しただろうし、おそらくここに来るまで強行軍できたことだろう。

 加えて、港街に滞在していたことは手紙で伝えたが、その後の出立が急だったためにどこに向かったのか、と言ったことは伝えることができていなかった。
 そのため、彼女らはある程度の調査と推測で俺たちを探すしかなかっただろうし、その間は本当にこの方角であっているのか、などと言った不安もあっただろう。スティアを見つけることができ、恩人である俺とも話をつけることができたことで、ようやく一息つける状態になったというわけだ。それを咎めるほど狭量ではないつもりだ。

「そう言っていただけると……。しかし、こう言っては失礼かも知れませんが、噂とは全く違いますね」
「噂、ですか……」
「はい。失礼ながら、アルフレッド・トライデン殿に関しては調べさせていただきました」
「それは当然でしょうね。スティア様を保護したとはいえど、その人物がどのような者かわからなければ対応を決めることはできませんから」

 保護したがその褒美をよこせと要求してくる可能性がある。最悪の場合、スティアというお姫様に対して乱暴をする可能性も考えられるため、保護した人物について調べるのは当たり前だろう。

 そして、その噂がどの程度のものなのかは分からないが、確かに、王都に広まっている噂……特に学園に広まっている噂の類を知っていたのであれば、今の俺の対応を受けて〝噂と違う〟という感想を持ってもおかしくはない。実際、そのような噂が流れた時とは明確に振る舞いを変えているのだから、受ける印象が違って当然だ。

「いえ、それもあるのですが、本来我々の……スティア様がこの国に来た目的は、婚姻相手を探すためでした。その相手として、トライデンの神童が第一候補となっていたのです」
「それはつまり……」
「はい。あなたです」
「「「え?」」」

 その言葉を聞いて俺は思わず眉を顰める。俺が驚いたのと同じように、今まで黙って話を聞いているだけだったルージェとマリアも揃って声を漏らした。

 そして、三人揃ってスティアへと顔を向けた。
 だがとうのスティア本人はなんともとぼけた表情をしながら頷いていた。

「あー、そういえばそうだったわねー。……え? っていうか、その話の相手ってこいつだったの? うっそぉ……」

 どうやらスティア自身も驚いているようで、俺のことを指差しながら目をぱちぱちと瞬かせている。

 こいつも聞いたことがある話のようなので、その辺りのことは嘘ではないのだろう。だが、なぜこいつは自分達が婚姻を打診しに行こうとした相手の名前を覚えていないのだ。
 大方、婚姻などする気がなく、途中で逃げ出そうとしていたから話を聞いていなかった、とかそう言った理由だろう。
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