聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと家を追い出されたけど最強なので問題なし〜

農民ヤズ―

文字の大きさ
125 / 189
三章

再会の命令

しおりを挟む
 ——◆◇◆◇——

 そして翌日。必要な準備を終えたリファナ達は、スティアを連れて使節団の本体へと合流するために出発することとなった。

 少し急ぎの出立となったが、これは仕方ないことだ。何せ今のスティアは行方不明となったお姫様なのだ。それも、自国での出来事ではなく、他国に訪れている最中の出来事。長引けば長引くほど外交の問題へと発展していくことになる。
 なので、見つかった以上はさっさと本隊へと合流する必要がある。むしろ今まで好きに動くことができていたことがおかしいのだ。

「それでは、アルフレッド殿。此度のことはしかと殿下にお伝えさせていただきます。後日またお会いすることもありましょうが、その際はどうぞよろしくお願いいたします」

 スティアの護衛部隊であるリファナと言葉を交わし、出立の準備ができたことを見届けると、最後にスティアへと

「スティア。これまで世話に……は、なっていない気がするが、まあそれなりに役には立っていたぞ」
「役に立ってたって何よ。最後なんだし、もっとなんか気の利いたセリフとかないわけ? これで婚約者ともお別れになっちゃうのよ?」

 婚約者、などと口にしたが、こいつだって俺のことをそういう目で見ていないだろう。

「何が婚約者だ。あくまでも婚約者候補でしかないだろうに。それも、すでに立ち消えた話だ」

 俺の言ったことは間違いではないのだし、スティアもそれを否定することはできないはずだ。
 だが、つまらなそうな顔をしたスティアを見ていたら、なんだか座りが悪いというか、落ち着かない気持ちになった。

 ……もっと気の利いたセリフを、とはいえないが、それでも最後なのは間違いないのだ。なら、こんな別れ方で本当にいいのか?

「……すまない。少しやり直させろ」

 そう思ったら、自然と口が動いていた。

「んえ?」
「お前に世話にはなっていないのは変わりない。むしろ、こちらが迷惑をかけられた側で、正直なところ邪魔なやつだと何度も思ったことがある」
「……やり直すって、そんな不満を言いたかったわけ?」

 俺の言葉に、唇を尖らせながら不満を口にしているスティアの言葉を無視し、話を続けていく。

「邪魔だと思ったことも、煩わしいと思ったこともあった。だが、それを含めてもお前と共にいた日々は楽しかったと言える」
「ほ、ほーん? そっかー。ほえー。……そっかぁー。ぬへへ」

 最後の挨拶だというのに、その締まらない不気味な笑いはなんだ。
 総小言を口にしそうになるが、まあ良いだろう。

「またそのうち会うこともあるだろう。その時を楽しみにしているぞ」

 スティアが天武百景に出るのだとしたら、その時にはまた会うことになるだろう。そうでなくても、こいつはまた城を抜け出してでもやってくるような気がする。

「ふふ~ん。なに? そんなに私に会いたいの?」

 スティアは俺の言葉を聞いて、先ほどとは一転して楽しげな表情を浮かべると、〝いつも〟のように揶揄うような笑みを浮かべながら問いかけてきた。

 だが、こいつと離れた後に再び会いたいのかと言われたら……

「……ああ、そうだな。そういうことになるな」
「んにゃっ!? な、ななななんでいきなりそんなに素直になってんのお!?」
「最後の挨拶なのだ。気の利いたセリフでも、と言ったのはお前だろうに」
「そうだけどぉ、そうじゃないのよおぅ……。なんか、こんな恥ずかしい感じのアレになるとは思わないじゃない……」

 スティアらしくもなく、もにょもにょと小さく呟いているが、そんな姿になぜか笑いが込み上げてくる。

 しばらくおかしな様子のスティアを見ていたのだが、リファナに肩を叩かれたことでビクリと体を跳ねさせたスティアは、辺りをキョロキョロと見回しだした。
 そして、俺のことを睨むように真っ直ぐ見つめ、叫んだ。

「私は必ず戻ってくるから! また来るから、どっか行ったらぶっ飛ばすかんね!」
「静かにしていろ。どうせ俺はここから離れることができないのだ」
「じゃあ私はそのうち戻ってくるから、それまでちゃんとここにいなさい。約束よ!」
「それだとどこにも出かけられなくなるのだが? 天武百景にすら出られなくなると困るぞ」
「あ、それもそうね。えっと……あっ。じゃあ本拠地はここにしなさい! 〝命令〟だからね!」

 命令なのか約束なのか、どっちなのだ。
 だが、この命令はあまり嫌なものではない気がする。

「承知した。ご主人様」

 そうしてスティアは騎士達と共に使節団の本隊と合流すべく、進み出した。

「——ってわけだけど、よかったの? あのままついていけば、この国の貴族としては復活できなかったかもしれないけど、ネメアラで王族の仲間入りできたんじゃない?」

 スティア達のことを見送っていると、近くで同じように見送りに来ていたルージェがそう問いかけてきた。
 確かに、貴族ではなくなった俺が再び貴族となるのに最速な道は、スティアの夫としてネメアラに向かうことだろう。その場合は貴族ではなく王族だが、適当な貴族位を与えられることもある。とにかく、貴族の仲間入りとなることはできるのだ。
 だが……

「そうかもしれないが、情けないことに、まだ諦めきれていないのだ」
「この国で貴族になることを?」
「……というよりも、父に見直されることを、だろうか」
「父って、君を捨てた公爵本人だよね? 捨てられたのに、まだ未練とかあるんだ」

 未練と言われれば、そうなのだろうな。見切りをつけたつもりではある。だが同時に、まだ心の奥ではもしかしたら、という思いもないわけではないのだ。

「貴族であることはこれまでの人生だったからな。父に認められるのは、そのための手段として最も相応しいものだ。もちろんそのことだけに執着して人生をかけるつもりはないが、機会があるのであれば、再び話をしたいと思うのはおかしなことでもあるまい」
「……ま、なんだかんだで家族なわけだしね。おかしくはないと思うよ」

 貴族の手によって家族が殺されているルージェは、そう言いながら少しだけ遠い目をしていた。

「で、まあそれはそれとして、これからどうするのさ?」

 その様子を見ていると、話を変えるように問いかけてきた。

 しかし、どうするか、か……。ネメアラとの関係を考えた結果ここに留まると伝えてしまったし、スティアの〝命令〟によってこの場所を拠点として活動しなくてはならなくなったわけだが、どうしたものか……。

「ネメアラとの関係があるとはいえ、この街に留まると言ってしまったからな。まあこの街で活動することになるだろう。多少の遠出をすることはあるだろうがな」
「じゃあ、本当に『揺蕩う月』のボスとして活動していくの?」
「あまり気乗りはしないが……そうするのが最善であろうな」

 この街を拠点として行動するのであればどうあっても『揺蕩う月』の関係から逃れることはできないだろう。
 そうなると、ただ関係を持つだけではなく、俺がある程度まとめた上で関係を持った方が良いだろうな。

「それじゃあ、これからよろしくね。ボス」

 などと、今後の『揺蕩う月』との関係について考えていると、ルージェがそんなことを言ってきた。

「……まさか、お前もか?」
「当然でしょ? 一人で動いてるには限界があるし、拠点となる場所は欲しいところなんだよね。それに、ここで一緒にいた方が、目的に近いと思うし」
「目的……貴族狩りか」
「っていうよりも、悪人退治かな? 裏ギルドなんて、情報の塊なんだから一人でやるよりも調べやすいでしょ。まあ、調べたあとは勝手に動くかもしれないけど」

 確かに、情報という意味では、個人で動くよりも裏ギルドを使った方が効率はいいだろう。
 そもそも貴族狩りなどしなければそのようなことは考えなくとも良いのだが、こいつにやめろと言ったところでやめるとは思えない。

「まあいい。だが、『揺蕩う月』を使うのであれば、その報告は必ず行え。結果として止めることになるとしてもだ」
「わかってるよ。それくらいの義理は通すつもりだよ」
「ならばいい」

 最低限の報告さえしてもらえれば、こいつの貴族狩りに関しては問題ないだろう。民を虐げる悪しき貴族を処理するのは、俺の願いとしても合っているからな。

「……初めは気ままな一人旅だと思っていたのだがな。随分としがらみが多いことだ」

 当初は一人で世界を旅していようと考えていたが、今では裏ギルドなどという組織の長にまで任命されてしまったことだし、大分予定が崩れたものだ。
 それでも、今の関係を嫌っているというわけではなく、捨てるつもりもない。
 まあ、捨てたとしても関係の方が追いかけてきそうな気もするがな。

「さて、これからはどうしたものか」

 今の所、今後の予定は天武百景に参加することは決まっているが、それ以外は決まっていない。
 これからなにを成すかなど分かりはしないが、それまでは気ままに……『自由』に過ごすとしようか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...