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三章
再会の命令
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——◆◇◆◇——
そして翌日。必要な準備を終えたリファナ達は、スティアを連れて使節団の本体へと合流するために出発することとなった。
少し急ぎの出立となったが、これは仕方ないことだ。何せ今のスティアは行方不明となったお姫様なのだ。それも、自国での出来事ではなく、他国に訪れている最中の出来事。長引けば長引くほど外交の問題へと発展していくことになる。
なので、見つかった以上はさっさと本隊へと合流する必要がある。むしろ今まで好きに動くことができていたことがおかしいのだ。
「それでは、アルフレッド殿。此度のことはしかと殿下にお伝えさせていただきます。後日またお会いすることもありましょうが、その際はどうぞよろしくお願いいたします」
スティアの護衛部隊であるリファナと言葉を交わし、出立の準備ができたことを見届けると、最後にスティアへと
「スティア。これまで世話に……は、なっていない気がするが、まあそれなりに役には立っていたぞ」
「役に立ってたって何よ。最後なんだし、もっとなんか気の利いたセリフとかないわけ? これで婚約者ともお別れになっちゃうのよ?」
婚約者、などと口にしたが、こいつだって俺のことをそういう目で見ていないだろう。
「何が婚約者だ。あくまでも婚約者候補でしかないだろうに。それも、すでに立ち消えた話だ」
俺の言ったことは間違いではないのだし、スティアもそれを否定することはできないはずだ。
だが、つまらなそうな顔をしたスティアを見ていたら、なんだか座りが悪いというか、落ち着かない気持ちになった。
……もっと気の利いたセリフを、とはいえないが、それでも最後なのは間違いないのだ。なら、こんな別れ方で本当にいいのか?
「……すまない。少しやり直させろ」
そう思ったら、自然と口が動いていた。
「んえ?」
「お前に世話にはなっていないのは変わりない。むしろ、こちらが迷惑をかけられた側で、正直なところ邪魔なやつだと何度も思ったことがある」
「……やり直すって、そんな不満を言いたかったわけ?」
俺の言葉に、唇を尖らせながら不満を口にしているスティアの言葉を無視し、話を続けていく。
「邪魔だと思ったことも、煩わしいと思ったこともあった。だが、それを含めてもお前と共にいた日々は楽しかったと言える」
「ほ、ほーん? そっかー。ほえー。……そっかぁー。ぬへへ」
最後の挨拶だというのに、その締まらない不気味な笑いはなんだ。
総小言を口にしそうになるが、まあ良いだろう。
「またそのうち会うこともあるだろう。その時を楽しみにしているぞ」
スティアが天武百景に出るのだとしたら、その時にはまた会うことになるだろう。そうでなくても、こいつはまた城を抜け出してでもやってくるような気がする。
「ふふ~ん。なに? そんなに私に会いたいの?」
スティアは俺の言葉を聞いて、先ほどとは一転して楽しげな表情を浮かべると、〝いつも〟のように揶揄うような笑みを浮かべながら問いかけてきた。
だが、こいつと離れた後に再び会いたいのかと言われたら……
「……ああ、そうだな。そういうことになるな」
「んにゃっ!? な、ななななんでいきなりそんなに素直になってんのお!?」
「最後の挨拶なのだ。気の利いたセリフでも、と言ったのはお前だろうに」
「そうだけどぉ、そうじゃないのよおぅ……。なんか、こんな恥ずかしい感じのアレになるとは思わないじゃない……」
スティアらしくもなく、もにょもにょと小さく呟いているが、そんな姿になぜか笑いが込み上げてくる。
しばらくおかしな様子のスティアを見ていたのだが、リファナに肩を叩かれたことでビクリと体を跳ねさせたスティアは、辺りをキョロキョロと見回しだした。
そして、俺のことを睨むように真っ直ぐ見つめ、叫んだ。
「私は必ず戻ってくるから! また来るから、どっか行ったらぶっ飛ばすかんね!」
「静かにしていろ。どうせ俺はここから離れることができないのだ」
「じゃあ私はそのうち戻ってくるから、それまでちゃんとここにいなさい。約束よ!」
「それだとどこにも出かけられなくなるのだが? 天武百景にすら出られなくなると困るぞ」
「あ、それもそうね。えっと……あっ。じゃあ本拠地はここにしなさい! 〝命令〟だからね!」
命令なのか約束なのか、どっちなのだ。
だが、この命令はあまり嫌なものではない気がする。
「承知した。ご主人様」
そうしてスティアは騎士達と共に使節団の本隊と合流すべく、進み出した。
「——ってわけだけど、よかったの? あのままついていけば、この国の貴族としては復活できなかったかもしれないけど、ネメアラで王族の仲間入りできたんじゃない?」
スティア達のことを見送っていると、近くで同じように見送りに来ていたルージェがそう問いかけてきた。
確かに、貴族ではなくなった俺が再び貴族となるのに最速な道は、スティアの夫としてネメアラに向かうことだろう。その場合は貴族ではなく王族だが、適当な貴族位を与えられることもある。とにかく、貴族の仲間入りとなることはできるのだ。
だが……
「そうかもしれないが、情けないことに、まだ諦めきれていないのだ」
「この国で貴族になることを?」
「……というよりも、父に見直されることを、だろうか」
「父って、君を捨てた公爵本人だよね? 捨てられたのに、まだ未練とかあるんだ」
未練と言われれば、そうなのだろうな。見切りをつけたつもりではある。だが同時に、まだ心の奥ではもしかしたら、という思いもないわけではないのだ。
「貴族であることはこれまでの人生だったからな。父に認められるのは、そのための手段として最も相応しいものだ。もちろんそのことだけに執着して人生をかけるつもりはないが、機会があるのであれば、再び話をしたいと思うのはおかしなことでもあるまい」
「……ま、なんだかんだで家族なわけだしね。おかしくはないと思うよ」
貴族の手によって家族が殺されているルージェは、そう言いながら少しだけ遠い目をしていた。
「で、まあそれはそれとして、これからどうするのさ?」
その様子を見ていると、話を変えるように問いかけてきた。
しかし、どうするか、か……。ネメアラとの関係を考えた結果ここに留まると伝えてしまったし、スティアの〝命令〟によってこの場所を拠点として活動しなくてはならなくなったわけだが、どうしたものか……。
「ネメアラとの関係があるとはいえ、この街に留まると言ってしまったからな。まあこの街で活動することになるだろう。多少の遠出をすることはあるだろうがな」
「じゃあ、本当に『揺蕩う月』のボスとして活動していくの?」
「あまり気乗りはしないが……そうするのが最善であろうな」
この街を拠点として行動するのであればどうあっても『揺蕩う月』の関係から逃れることはできないだろう。
そうなると、ただ関係を持つだけではなく、俺がある程度まとめた上で関係を持った方が良いだろうな。
「それじゃあ、これからよろしくね。ボス」
などと、今後の『揺蕩う月』との関係について考えていると、ルージェがそんなことを言ってきた。
「……まさか、お前もか?」
「当然でしょ? 一人で動いてるには限界があるし、拠点となる場所は欲しいところなんだよね。それに、ここで一緒にいた方が、目的に近いと思うし」
「目的……貴族狩りか」
「っていうよりも、悪人退治かな? 裏ギルドなんて、情報の塊なんだから一人でやるよりも調べやすいでしょ。まあ、調べたあとは勝手に動くかもしれないけど」
確かに、情報という意味では、個人で動くよりも裏ギルドを使った方が効率はいいだろう。
そもそも貴族狩りなどしなければそのようなことは考えなくとも良いのだが、こいつにやめろと言ったところでやめるとは思えない。
「まあいい。だが、『揺蕩う月』を使うのであれば、その報告は必ず行え。結果として止めることになるとしてもだ」
「わかってるよ。それくらいの義理は通すつもりだよ」
「ならばいい」
最低限の報告さえしてもらえれば、こいつの貴族狩りに関しては問題ないだろう。民を虐げる悪しき貴族を処理するのは、俺の願いとしても合っているからな。
「……初めは気ままな一人旅だと思っていたのだがな。随分としがらみが多いことだ」
当初は一人で世界を旅していようと考えていたが、今では裏ギルドなどという組織の長にまで任命されてしまったことだし、大分予定が崩れたものだ。
それでも、今の関係を嫌っているというわけではなく、捨てるつもりもない。
まあ、捨てたとしても関係の方が追いかけてきそうな気もするがな。
「さて、これからはどうしたものか」
今の所、今後の予定は天武百景に参加することは決まっているが、それ以外は決まっていない。
これからなにを成すかなど分かりはしないが、それまでは気ままに……『自由』に過ごすとしようか。
そして翌日。必要な準備を終えたリファナ達は、スティアを連れて使節団の本体へと合流するために出発することとなった。
少し急ぎの出立となったが、これは仕方ないことだ。何せ今のスティアは行方不明となったお姫様なのだ。それも、自国での出来事ではなく、他国に訪れている最中の出来事。長引けば長引くほど外交の問題へと発展していくことになる。
なので、見つかった以上はさっさと本隊へと合流する必要がある。むしろ今まで好きに動くことができていたことがおかしいのだ。
「それでは、アルフレッド殿。此度のことはしかと殿下にお伝えさせていただきます。後日またお会いすることもありましょうが、その際はどうぞよろしくお願いいたします」
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「スティア。これまで世話に……は、なっていない気がするが、まあそれなりに役には立っていたぞ」
「役に立ってたって何よ。最後なんだし、もっとなんか気の利いたセリフとかないわけ? これで婚約者ともお別れになっちゃうのよ?」
婚約者、などと口にしたが、こいつだって俺のことをそういう目で見ていないだろう。
「何が婚約者だ。あくまでも婚約者候補でしかないだろうに。それも、すでに立ち消えた話だ」
俺の言ったことは間違いではないのだし、スティアもそれを否定することはできないはずだ。
だが、つまらなそうな顔をしたスティアを見ていたら、なんだか座りが悪いというか、落ち着かない気持ちになった。
……もっと気の利いたセリフを、とはいえないが、それでも最後なのは間違いないのだ。なら、こんな別れ方で本当にいいのか?
「……すまない。少しやり直させろ」
そう思ったら、自然と口が動いていた。
「んえ?」
「お前に世話にはなっていないのは変わりない。むしろ、こちらが迷惑をかけられた側で、正直なところ邪魔なやつだと何度も思ったことがある」
「……やり直すって、そんな不満を言いたかったわけ?」
俺の言葉に、唇を尖らせながら不満を口にしているスティアの言葉を無視し、話を続けていく。
「邪魔だと思ったことも、煩わしいと思ったこともあった。だが、それを含めてもお前と共にいた日々は楽しかったと言える」
「ほ、ほーん? そっかー。ほえー。……そっかぁー。ぬへへ」
最後の挨拶だというのに、その締まらない不気味な笑いはなんだ。
総小言を口にしそうになるが、まあ良いだろう。
「またそのうち会うこともあるだろう。その時を楽しみにしているぞ」
スティアが天武百景に出るのだとしたら、その時にはまた会うことになるだろう。そうでなくても、こいつはまた城を抜け出してでもやってくるような気がする。
「ふふ~ん。なに? そんなに私に会いたいの?」
スティアは俺の言葉を聞いて、先ほどとは一転して楽しげな表情を浮かべると、〝いつも〟のように揶揄うような笑みを浮かべながら問いかけてきた。
だが、こいつと離れた後に再び会いたいのかと言われたら……
「……ああ、そうだな。そういうことになるな」
「んにゃっ!? な、ななななんでいきなりそんなに素直になってんのお!?」
「最後の挨拶なのだ。気の利いたセリフでも、と言ったのはお前だろうに」
「そうだけどぉ、そうじゃないのよおぅ……。なんか、こんな恥ずかしい感じのアレになるとは思わないじゃない……」
スティアらしくもなく、もにょもにょと小さく呟いているが、そんな姿になぜか笑いが込み上げてくる。
しばらくおかしな様子のスティアを見ていたのだが、リファナに肩を叩かれたことでビクリと体を跳ねさせたスティアは、辺りをキョロキョロと見回しだした。
そして、俺のことを睨むように真っ直ぐ見つめ、叫んだ。
「私は必ず戻ってくるから! また来るから、どっか行ったらぶっ飛ばすかんね!」
「静かにしていろ。どうせ俺はここから離れることができないのだ」
「じゃあ私はそのうち戻ってくるから、それまでちゃんとここにいなさい。約束よ!」
「それだとどこにも出かけられなくなるのだが? 天武百景にすら出られなくなると困るぞ」
「あ、それもそうね。えっと……あっ。じゃあ本拠地はここにしなさい! 〝命令〟だからね!」
命令なのか約束なのか、どっちなのだ。
だが、この命令はあまり嫌なものではない気がする。
「承知した。ご主人様」
そうしてスティアは騎士達と共に使節団の本隊と合流すべく、進み出した。
「——ってわけだけど、よかったの? あのままついていけば、この国の貴族としては復活できなかったかもしれないけど、ネメアラで王族の仲間入りできたんじゃない?」
スティア達のことを見送っていると、近くで同じように見送りに来ていたルージェがそう問いかけてきた。
確かに、貴族ではなくなった俺が再び貴族となるのに最速な道は、スティアの夫としてネメアラに向かうことだろう。その場合は貴族ではなく王族だが、適当な貴族位を与えられることもある。とにかく、貴族の仲間入りとなることはできるのだ。
だが……
「そうかもしれないが、情けないことに、まだ諦めきれていないのだ」
「この国で貴族になることを?」
「……というよりも、父に見直されることを、だろうか」
「父って、君を捨てた公爵本人だよね? 捨てられたのに、まだ未練とかあるんだ」
未練と言われれば、そうなのだろうな。見切りをつけたつもりではある。だが同時に、まだ心の奥ではもしかしたら、という思いもないわけではないのだ。
「貴族であることはこれまでの人生だったからな。父に認められるのは、そのための手段として最も相応しいものだ。もちろんそのことだけに執着して人生をかけるつもりはないが、機会があるのであれば、再び話をしたいと思うのはおかしなことでもあるまい」
「……ま、なんだかんだで家族なわけだしね。おかしくはないと思うよ」
貴族の手によって家族が殺されているルージェは、そう言いながら少しだけ遠い目をしていた。
「で、まあそれはそれとして、これからどうするのさ?」
その様子を見ていると、話を変えるように問いかけてきた。
しかし、どうするか、か……。ネメアラとの関係を考えた結果ここに留まると伝えてしまったし、スティアの〝命令〟によってこの場所を拠点として活動しなくてはならなくなったわけだが、どうしたものか……。
「ネメアラとの関係があるとはいえ、この街に留まると言ってしまったからな。まあこの街で活動することになるだろう。多少の遠出をすることはあるだろうがな」
「じゃあ、本当に『揺蕩う月』のボスとして活動していくの?」
「あまり気乗りはしないが……そうするのが最善であろうな」
この街を拠点として行動するのであればどうあっても『揺蕩う月』の関係から逃れることはできないだろう。
そうなると、ただ関係を持つだけではなく、俺がある程度まとめた上で関係を持った方が良いだろうな。
「それじゃあ、これからよろしくね。ボス」
などと、今後の『揺蕩う月』との関係について考えていると、ルージェがそんなことを言ってきた。
「……まさか、お前もか?」
「当然でしょ? 一人で動いてるには限界があるし、拠点となる場所は欲しいところなんだよね。それに、ここで一緒にいた方が、目的に近いと思うし」
「目的……貴族狩りか」
「っていうよりも、悪人退治かな? 裏ギルドなんて、情報の塊なんだから一人でやるよりも調べやすいでしょ。まあ、調べたあとは勝手に動くかもしれないけど」
確かに、情報という意味では、個人で動くよりも裏ギルドを使った方が効率はいいだろう。
そもそも貴族狩りなどしなければそのようなことは考えなくとも良いのだが、こいつにやめろと言ったところでやめるとは思えない。
「まあいい。だが、『揺蕩う月』を使うのであれば、その報告は必ず行え。結果として止めることになるとしてもだ」
「わかってるよ。それくらいの義理は通すつもりだよ」
「ならばいい」
最低限の報告さえしてもらえれば、こいつの貴族狩りに関しては問題ないだろう。民を虐げる悪しき貴族を処理するのは、俺の願いとしても合っているからな。
「……初めは気ままな一人旅だと思っていたのだがな。随分としがらみが多いことだ」
当初は一人で世界を旅していようと考えていたが、今では裏ギルドなどという組織の長にまで任命されてしまったことだし、大分予定が崩れたものだ。
それでも、今の関係を嫌っているというわけではなく、捨てるつもりもない。
まあ、捨てたとしても関係の方が追いかけてきそうな気もするがな。
「さて、これからはどうしたものか」
今の所、今後の予定は天武百景に参加することは決まっているが、それ以外は決まっていない。
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