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四章
バイデントのこれから
しおりを挟む「言っておくが、そいつはただの村娘ではない。『貴族狩り』と呼ばれている犯罪者だ」
「「「「「っ!!」」」」」
「……わ~お。いきなり殺気全開って、随分と随分な反応じゃない? そんなに犯罪者は嫌い?」
俺の言葉を受けた瞬間に、『バイデント』の五人はそれぞれの武器に手をかけ、ルージェへと殺気を放った。それだけ警戒しているということなのだろうが、まだ手が出ていないだけ理性が働いているということだろうか。
そんな殺気を受けて、ルージェもただ呆けているわけがなく、僅かに腰を落としていつでも動けるようにしている。
そして、相手の様子を伺うためなのか、それとも単なる癖なのか、相手を挑発するようにふざけた調子で声をかけた。
「ボス。あんたのそばにいるってことは大丈夫なんだろうけど、一応聞くぞ。こいつはあんたの敵か?」
「敵ではないが、味方でもないな。限定的な共犯者、と言ったところか?」
「普通に仲間でいいでしょ。拠点も行動も所属してる組織も同じなんだからさ」
あくまでも一時的な仲間だ。ただお互いに思惑があり、それが重なったから共に行動しているだけに過ぎない。それを他の仲間と同列に扱うのは、他の者へ示しがつかないだろう。
「仲間っていうことは、ボスも『貴族狩り』に関わってたりするの?」
「……そうだな。ああ。俺もルージェの行動には協力している」
フィーアの問いかけに頷くと、僅かに、だが確かに動揺した気配が感じられた。
だがそれもそうだろう。何せ俺が貴族を殺しているなど、裏ギルドに所属していることなどとは比べ物にならない内容だからな。
「それって、なんで? 前までは犯罪者の協力をするような感じじゃなかったでしょ?」
そうだな。貴族を殺すことは犯罪だ。いや、貴族でなくとも人を殺すことは犯罪であり、以前の俺はそんな犯罪を嫌っていた。その俺を知っている者からしてみれば、今の俺の行動は訳のわからないものになっていることだろう。
だが……
「普通にしているだけでは守れない者がいる。法の中で動いていては処理することができない悪がいる。そのことを知っただけだ。前までの俺は、所詮貴族として世の中を知った気になっていただけのガキだったということだ。世の中は、俺が思っていたよりもクズで溢れていた」
世の中には殺さなければ理解できない者がいる。殺してもなぜ自分がと思う者がいる。そんな者達のせいで無辜の民が傷つくのであれば、そんな邪魔な存在は消さなくてはならない。それが俺の考えで、生き方だ。
だが、どんな思惑があったとしても、たとえそれがどれほど崇高な願いだと言われたとしても、やっていることは犯罪だ。そんな俺の考えに対し、ログナー達は果たして何を思うのか。
「まあ、いいんじゃねえか? それで助けられる奴がいるのも事実なんだ。どうせあんたのことだ。後先考えずに、なんてことはないんだろ?」
「助けられた者は、法律がどうのだなんてなんの役にも立たない無駄な正義には、なーんの興味もないしねー。ただ、助けてくれてありがとう、ってだけだよ」
だが、俺の考えも、俺が犯罪者だという事実も、こいつらにとってはどうでも良かったようで、ログナーとフレネルの言葉に他の三人も頷いている。
……こうして変わらずに信頼を寄せてくれるということは、本当にありがたいことだ。
「まあいい。なんにしても、そういったわけで俺はここで裏ギルドのトップをやっている。だから聞きたいのだが、お前たちはオルドスがなぜここにきたのか知っているか?」
一旦お互いの状況について理解することができたのだから、詳しい話は後にするとして聞いておかなければならないことを聞くとしよう。
「王子様か? それなら、あんたを探すためだ。まあ、表向きはここで起こった裏ギルドの騒ぎに関しての調査のためと、天武百景のまえに各地の視察のために領主に会いに、ってことだけどな」
「裏ギルドの騒ぎか……確かに、この場所はこの国においてもそれなりに重要な場所だからな。天武百景が近づいている状況で騒ぎが起これば、調査に来るくらいはしてもおかしくないか」
「あくまでも表向きで、実際にはあんたを探すことのほうが重要みたいだったけどな」
「あいつにも、別れの手紙は送ったのだがな……」
「そんなんで納得できるほどおとなしい性格じゃなかったってことだろ」
まあ、それはわかっている。俺も、あれだけでおとなしくしているとは思っていなかった。だからこそ、あいつに手紙が届くのは俺が王都を出発してからになるようにしたのだしな。
だが、まさかこれだけ時間が経ってもまだ探しているとはな。俺がわざと遅らせて手紙を出したことの意味は、あいつならば理解できただろう。それでも追ってくるということは、それだけ俺のことを気にしているということなのだろう。
「だがまあ、それならばオルドスの方は問題ないか。俺がいると知っているのならば、事を大きくしようとはすまい」
なんにしても、王都で裏ギルドを潰したように、騒ぎを起こした『揺蕩う月』を処理しにきたのではなくて良かった。
俺を探すためにここにきて、『バイデント』もこの場所を探り当てることができたのだから、数日もすればあちらから手紙の一つでも届くはずだ。あるいは、もしかしたら王太子自ら時間を作って会いに来ることもあるかもしれない。
「……あっ! そうだ、一つ注意してほしいことがあるの」
「フィーア? なんかあったか?」
そうして話は終わり、この後はどうすべきかと考えていたところでフィーアが突然声を上げ、ログナーが問いかけた。
「あるでしょ。ほら、一緒に来たあいつ。えっと、確かクレインとか言ったやつよ」
クレイン? ……それは誰だ?
「あー、今回王太子の護衛とか言ってついてきたやつか。だが、そんなに警戒するようなことがあったか?」
「うーん。なんていうのかな。あいつ、護衛じゃない気がするのよ。名目上はそうなんでしょうけど、目的が別にある感じに思えてならないのよね」
「その目的がボスに関係してるってことか?」
「絶対にそう、とは言わないけど、わざわざ今回ついてきたんだから、その可能性も考えておくべきじゃない?」
バイデントの五人は謎の人物について話し合っているが、『王太子に同行することができるクレイン』か……。あまり考えたくはないが、思い当たる相手がいないわけではない。というよりも、それ以外に考えられない。
「——いや、おそらくだがその者に関しては気にする必要はないだろう」
王太子の知り合いでクレインとなると……一人しか思いつかない。
護衛依頼とはいえ、一般人である『バイデント』が会うことができているからいるから勘違いしそうになるかもしれないが、本来王太子とはそうそう簡単に会えるものでもないのだ。
『バイデント』のように運よく会うことができたとしても、馴れ馴れしく話をすることはできないし、許されない。たとえ王太子からの命令があったとしてもだ。俺でさえ公の場では言葉を崩すことなく話をしていたくらいだからな。
にもかかわらず気安い態度を周りに見せながら話をしていたとなると……まず間違いないだろうな。
「ボスの知り合いか?」
「確証はないが、おそらくはな」
「そうなの? なら一安心かしらね」
「まあお前たちが気にする必要はないだろう」
こいつらが気にしたところで意味はない。今後会うことはあったとしても、まともに関係ができるとも思えないからな。おそらくは何事もなく終わるだろう。
「……もっとも、穏便に終わるかはわからないがな」
まあ、何事もなく、というのはこいつらに限った話で、俺の場合は少し違うことになるかもしれないが。
「それよりも、お前たちはこれからどうするつもりだ?」
俺の呟きを聞き取れなかったのか周りにいた者達は首を傾げたが、それを無視して話を進めることにした。
「どうって、そりゃあボスの下でまた一緒にやってくつもりだぞ」
それはありがたいが、お前達はすでにそれなりの規模の傭兵ギルドとなっているだろうに。
『バイデント』はここにいる五人以外にもメンバーがいる。俺が直接拾ったわけではないが、所属していることは間違いない。そいつらはどうするというのだ。
「『バイデント』のギルドはどうする」
「そっちはそっちで別のやつに任せれば……」
「阿呆が。あそこはお前たちの居場所であり、他のギルド員たちはお前たちの下に集まったのだ。それなのにお前たちがあの場所を捨ててどうする。捨てられた者たちが居場所を求めて集まったのにも関わらず、また捨てるのか?」
俺がこいつらを助けたからなのか、同じように困っている者、嘆いている者に手を差し伸べて作られたのが今の『バイデント』である。その中には親や仲間から捨てられた者もいたはずだ。それなのに、自分達を拾ってくれた恩人達が自分達のことを捨てた、となれば、その者達はもう二度と人を信じることができずに絶望したまま生きることになるかもしれない。
俺はこいつらに好きにしろと言ったが、そのようなことを許すつもりはない。仲間を捨てたとしても、そのことに関して何かを言いはしない。好きにしろと言ったのだから当然だ。
だが、仮にそのような不義理を成した上で俺の元へ来るというのであれば、言い訳など聞くことなく追い返すつもりだ。
「うっ……でも……」
それでも諦めるつもりはないのか、ログナーは言い縋ってきた。だが、なんと言って俺を説得すれば良いのかわからないのかあちこちに視線を向け、どうにかして言葉を探そうとしている。
「だったらよぉ、ここに新しく支部をつくればいいんじゃねえのか?」
そんな中で、獣人のボーチがなんでもないことを言うかのようにそう口にした。
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