聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと家を追い出されたけど最強なので問題なし〜

農民ヤズ―

文字の大きさ
138 / 189
四章

バイデントのこれから

しおりを挟む
 
「言っておくが、そいつはただの村娘ではない。『貴族狩り』と呼ばれている犯罪者だ」
「「「「「っ!!」」」」」
「……わ~お。いきなり殺気全開って、随分と随分な反応じゃない? そんなに犯罪者は嫌い?」

 俺の言葉を受けた瞬間に、『バイデント』の五人はそれぞれの武器に手をかけ、ルージェへと殺気を放った。それだけ警戒しているということなのだろうが、まだ手が出ていないだけ理性が働いているということだろうか。

 そんな殺気を受けて、ルージェもただ呆けているわけがなく、僅かに腰を落としていつでも動けるようにしている。
 そして、相手の様子を伺うためなのか、それとも単なる癖なのか、相手を挑発するようにふざけた調子で声をかけた。

「ボス。あんたのそばにいるってことは大丈夫なんだろうけど、一応聞くぞ。こいつはあんたの敵か?」
「敵ではないが、味方でもないな。限定的な共犯者、と言ったところか?」
「普通に仲間でいいでしょ。拠点も行動も所属してる組織も同じなんだからさ」

 あくまでも一時的な仲間だ。ただお互いに思惑があり、それが重なったから共に行動しているだけに過ぎない。それを他の仲間と同列に扱うのは、他の者へ示しがつかないだろう。

「仲間っていうことは、ボスも『貴族狩り』に関わってたりするの?」
「……そうだな。ああ。俺もルージェの行動には協力している」

 フィーアの問いかけに頷くと、僅かに、だが確かに動揺した気配が感じられた。
 だがそれもそうだろう。何せ俺が貴族を殺しているなど、裏ギルドに所属していることなどとは比べ物にならない内容だからな。

「それって、なんで? 前までは犯罪者の協力をするような感じじゃなかったでしょ?」

 そうだな。貴族を殺すことは犯罪だ。いや、貴族でなくとも人を殺すことは犯罪であり、以前の俺はそんな犯罪を嫌っていた。その俺を知っている者からしてみれば、今の俺の行動は訳のわからないものになっていることだろう。
 だが……

「普通にしているだけでは守れない者がいる。法の中で動いていては処理することができない悪がいる。そのことを知っただけだ。前までの俺は、所詮貴族として世の中を知った気になっていただけのガキだったということだ。世の中は、俺が思っていたよりもクズで溢れていた」

 世の中には殺さなければ理解できない者がいる。殺してもなぜ自分がと思う者がいる。そんな者達のせいで無辜の民が傷つくのであれば、そんな邪魔な存在は消さなくてはならない。それが俺の考えで、生き方だ。

 だが、どんな思惑があったとしても、たとえそれがどれほど崇高な願いだと言われたとしても、やっていることは犯罪だ。そんな俺の考えに対し、ログナー達は果たして何を思うのか。

「まあ、いいんじゃねえか? それで助けられる奴がいるのも事実なんだ。どうせあんたのことだ。後先考えずに、なんてことはないんだろ?」
「助けられた者は、法律がどうのだなんてなんの役にも立たない無駄な正義には、なーんの興味もないしねー。ただ、助けてくれてありがとう、ってだけだよ」

 だが、俺の考えも、俺が犯罪者だという事実も、こいつらにとってはどうでも良かったようで、ログナーとフレネルの言葉に他の三人も頷いている。
 ……こうして変わらずに信頼を寄せてくれるということは、本当にありがたいことだ。

「まあいい。なんにしても、そういったわけで俺はここで裏ギルドのトップをやっている。だから聞きたいのだが、お前たちはオルドスがなぜここにきたのか知っているか?」

 一旦お互いの状況について理解することができたのだから、詳しい話は後にするとして聞いておかなければならないことを聞くとしよう。

「王子様か? それなら、あんたを探すためだ。まあ、表向きはここで起こった裏ギルドの騒ぎに関しての調査のためと、天武百景のまえに各地の視察のために領主に会いに、ってことだけどな」
「裏ギルドの騒ぎか……確かに、この場所はこの国においてもそれなりに重要な場所だからな。天武百景が近づいている状況で騒ぎが起これば、調査に来るくらいはしてもおかしくないか」
「あくまでも表向きで、実際にはあんたを探すことのほうが重要みたいだったけどな」
「あいつにも、別れの手紙は送ったのだがな……」
「そんなんで納得できるほどおとなしい性格じゃなかったってことだろ」

 まあ、それはわかっている。俺も、あれだけでおとなしくしているとは思っていなかった。だからこそ、あいつに手紙が届くのは俺が王都を出発してからになるようにしたのだしな。

 だが、まさかこれだけ時間が経ってもまだ探しているとはな。俺がわざと遅らせて手紙を出したことの意味は、あいつならば理解できただろう。それでも追ってくるということは、それだけ俺のことを気にしているということなのだろう。

「だがまあ、それならばオルドスの方は問題ないか。俺がいると知っているのならば、事を大きくしようとはすまい」

 なんにしても、王都で裏ギルドを潰したように、騒ぎを起こした『揺蕩う月』を処理しにきたのではなくて良かった。

 俺を探すためにここにきて、『バイデント』もこの場所を探り当てることができたのだから、数日もすればあちらから手紙の一つでも届くはずだ。あるいは、もしかしたら王太子自ら時間を作って会いに来ることもあるかもしれない。

「……あっ! そうだ、一つ注意してほしいことがあるの」
「フィーア? なんかあったか?」

 そうして話は終わり、この後はどうすべきかと考えていたところでフィーアが突然声を上げ、ログナーが問いかけた。

「あるでしょ。ほら、一緒に来たあいつ。えっと、確かクレインとか言ったやつよ」

 クレイン? ……それは誰だ?

「あー、今回王太子の護衛とか言ってついてきたやつか。だが、そんなに警戒するようなことがあったか?」
「うーん。なんていうのかな。あいつ、護衛じゃない気がするのよ。名目上はそうなんでしょうけど、目的が別にある感じに思えてならないのよね」
「その目的がボスに関係してるってことか?」
「絶対にそう、とは言わないけど、わざわざ今回ついてきたんだから、その可能性も考えておくべきじゃない?」

 バイデントの五人は謎の人物について話し合っているが、『王太子に同行することができるクレイン』か……。あまり考えたくはないが、思い当たる相手がいないわけではない。というよりも、それ以外に考えられない。

「——いや、おそらくだがその者に関しては気にする必要はないだろう」

 王太子の知り合いでクレインとなると……一人しか思いつかない。

 護衛依頼とはいえ、一般人である『バイデント』が会うことができているからいるから勘違いしそうになるかもしれないが、本来王太子とはそうそう簡単に会えるものでもないのだ。
『バイデント』のように運よく会うことができたとしても、馴れ馴れしく話をすることはできないし、許されない。たとえ王太子からの命令があったとしてもだ。俺でさえ公の場では言葉を崩すことなく話をしていたくらいだからな。
 にもかかわらず気安い態度を周りに見せながら話をしていたとなると……まず間違いないだろうな。

「ボスの知り合いか?」
「確証はないが、おそらくはな」
「そうなの? なら一安心かしらね」
「まあお前たちが気にする必要はないだろう」

 こいつらが気にしたところで意味はない。今後会うことはあったとしても、まともに関係ができるとも思えないからな。おそらくは何事もなく終わるだろう。

「……もっとも、穏便に終わるかはわからないがな」

 まあ、何事もなく、というのはこいつらに限った話で、俺の場合は少し違うことになるかもしれないが。

「それよりも、お前たちはこれからどうするつもりだ?」

 俺の呟きを聞き取れなかったのか周りにいた者達は首を傾げたが、それを無視して話を進めることにした。

「どうって、そりゃあボスの下でまた一緒にやってくつもりだぞ」

 それはありがたいが、お前達はすでにそれなりの規模の傭兵ギルドとなっているだろうに。
『バイデント』はここにいる五人以外にもメンバーがいる。俺が直接拾ったわけではないが、所属していることは間違いない。そいつらはどうするというのだ。

「『バイデント』のギルドはどうする」
「そっちはそっちで別のやつに任せれば……」
「阿呆が。あそこはお前たちの居場所であり、他のギルド員たちはお前たちの下に集まったのだ。それなのにお前たちがあの場所を捨ててどうする。捨てられた者たちが居場所を求めて集まったのにも関わらず、また捨てるのか?」

 俺がこいつらを助けたからなのか、同じように困っている者、嘆いている者に手を差し伸べて作られたのが今の『バイデント』である。その中には親や仲間から捨てられた者もいたはずだ。それなのに、自分達を拾ってくれた恩人達が自分達のことを捨てた、となれば、その者達はもう二度と人を信じることができずに絶望したまま生きることになるかもしれない。

 俺はこいつらに好きにしろと言ったが、そのようなことを許すつもりはない。仲間を捨てたとしても、そのことに関して何かを言いはしない。好きにしろと言ったのだから当然だ。
 だが、仮にそのような不義理を成した上で俺の元へ来るというのであれば、言い訳など聞くことなく追い返すつもりだ。

「うっ……でも……」

 それでも諦めるつもりはないのか、ログナーは言い縋ってきた。だが、なんと言って俺を説得すれば良いのかわからないのかあちこちに視線を向け、どうにかして言葉を探そうとしている。

「だったらよぉ、ここに新しく支部をつくればいいんじゃねえのか?」

 そんな中で、獣人のボーチがなんでもないことを言うかのようにそう口にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...