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五章
二回戦に勝って
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天武百景二回戦、シルル王女との戦いに勝って、俺たちは今日も祝勝会としてバイデントの拠点で馬鹿騒ぎをしている。もっとも、馬鹿騒ぎをしているのはバイデントとスティア達で、俺自身は隅の方で大人しくしているのだが。
自身が主役の一人である祝いの場で、このように離れたところで飲んでいるのはマナーとしてなっていないが、今は少し考えたいことがあるのだ。
「あの……アルフ君。どうかしたの?」
と、部屋の隅で一人飲んでいると、マリアが心配そうな様子で近づき、問いかけてきた。
「どうとは、何がだ?」
「何がって……なんか試合が終わってから悩んでるっていうか、何か考え込んでるようだったから」
「ん……まあ、そうだな。考えているのは事実だが、問題となるようなものではない」
「そう? だったらいいんだけど……」
マリアは歯切れが悪そうにしつつも、これ以上は俺が話さないと思ったのか、それ以上突っ込んでくることなく黙ってしまった。
こちらのことを心配してくれたというのにこのような対応をするのはまずいと理解しているが、それでもこの悩みは誰かに話すようなことでもない。
それに、問題になるわけではないという言葉は嘘ではないのだ。ただ俺が自分で勝手に悩んでいるだけのこと。
「お疲れ様……って、どうかした?」
マリアと無言の時間を過ごしていると、今度はルージェがやってきた。
「ああ……ルージェか。いや、なにもない」
「そうは見えないけど、まあそう言うんだったら何も聞かないよ。それから、明日も応援してるよ」
「あ、えーっと、私も応援してるわ。頑張ってね、アルフ君」
「ああ。ありがとう」
そうしてルージェはマリアのことを連れて行ってこの場を離れたが、これはあいつなりの気遣いだろうか。
「はあ……まさか、こんな悩みが出てくるとはな……」
二人が離れたことで周りには誰もいなくなり、ため息を吐き出しながら小さく呟いた。
「ねね、私の試合見てた?」
だが、そんな一人の時間も長くは続かない。阿呆がやってきたからだ。
「……ああ、見てたぞ」
「本当に? なーんか嘘くさい反応な気がするんですけどー?」
「そんなことはない。二戦とも相手を場外に追い出しての勝利だったな。流石、と言ったところだな」
実際、こいつはよくやっていた。二回戦の相手は身体強化を極めた斧使いで、一撃でどんなものでも叩き切るという戦い方をする戦士だった。
通常の敵が相手だったのであれば、たとえ盾を構えられたとしてもその盾ごと相手を斬り、倒すことができたのだろうが、残念ながら相手が悪すぎた。何せ、スティアはそんな斧使いの完全な上位互換だったのだから。
力で押そうとしても、その力はスティアの方が上であり、その上素早さまでスティアの方が速いのだからどうしようもない。
もっとも、スティアは真っ向勝負を挑んだわけだが、斧と槌のぶつかり合いを制したのはスティアだった。
あの戦いには細かい技巧や駆け引きなどもあったが、それ以上に観衆には大きな武器のぶつかり合いというのはわかりやすい派手さがあり、見応えがあったことだろう。
しかも、戦いが終わった後は手を取り合って共に雄叫びを上げていたのだから、終わり方も心地好いものだった。あのおかげで、観衆たちは負けた戦士に対しても賞賛を送り、スティアも相手も笑顔で舞台をさっていった。
第二回戦の戦いの中であれがもっとも人気だったのではないだろうか?
「あ、本当にちゃんとみてたんだ。えへへ~。そうよ。私はすっごいのよ!」
「そうだな……」
そんなスティアに比べると、俺の終わり方はなんともいえない歯切れの悪さがある。
仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが……
「んでんで、あんたはあの子と結婚するの?」
「っ!?」
などと考えていると、突然スティアに核心を突かれ、驚きに目を見開いてしまった。
「えーっと、シ……なんとかってお姫様と」
「なんっ、でお前が知っているっ……!」
「え? だってあんだけ堂々と話してたじゃない。あー、まあ普通の人には聞こえなかったかもだけど、なんか話してるなー、って分かれば意識をそこに向けると聞こえるもんよ」
「……そうか。お前は特殊だったな」
舞台の上で何を話しているのかなど、観客席には聞こえない。だが、こいつは目も耳もずば抜けてその性能が高い。であれば、どこで見ていたのか知らないが舞台の声が聞こえていてもおかしくはないのか。
「そんで、どうすんの? なんか知んないけど、そのことで悩んでたんでしょ? ルージェ達がなんか心配してたわよ」
そう言いながらスティアは俺の対面にあった椅子に座ったが、こういうのは深く聞かずにいるべきではないだろうか?
そう思いながらも、今更言ったところで意味はないのだと理解している。
「聞いていたならわかっているだろう? どうもしないさ」
「えー。それでいいわけ?」
「良いか悪いかで言ったら、悪いのだろうな」
殿下の想いに、俺は応えなかった。だが、それがよく考えた上での答えなのかと言ったら、多分違う。あれは、あの場では深く考える時間がなかったから……いや、違うな。深く考えたくなかったからそう答えただけだ。一度考えてしまえば、明日からも続く天武百景に支障が出るかもしれないと思ったから。
そんな自分本位な考えであの想いを拒絶することは、どう考えても悪いことだ。
「だが、そうする以外の道が分からないのだ」
だから深く考えることをせず〝とりあえず〟断った。
もっとも、そんな考えは殿下には見透かされていたようだが。
「分からないなら考えればいいじゃん」
「そうだな。だが、それは今ではない。お前が言ったのではないか。今はただ大会で優勝することだけを考えるべきだ、と。殿下のことを考えるのは、全てが終わった後だ」
「あー……まあそんなことも言ったっけっか。でもさー、わかってる? それって結構ろくでなしな感じのことを言ってるんだけど?」
「……わかっているさ。その場の考えで断っておきながらも心からの拒絶をすることはなく、気がある素振りをみせていながらも答えを先延ばしにする。控えめに言ってクズだろうな」
「分かっててそうしてんの? ふーん。なら、別にいいんじゃない?」
予想していなかったスティアの言葉に、俺は眉を顰め、わずかに迷ったのちに問いかけた。
「……お前はいいのか?」
なんでそう問いかけたのかは自分でもわからなかった。
「良いってなんで? 別に私に聞くことでもないでしょ。なに? あんたってば私に引き留めてほしいとか思ってたりすんの?」
「阿呆。そのようなことは考えていない。ただ……お前としては俺が殿下と婚姻を結べば困るのではないか?」
「なんでそんなことで困るの……って、ああ。そういえば私はあんたを口説いてる最中なんだっけ?」
「……自身の目的を忘れるな」
「目的って言っても、パパ達の考えだしー? 私は別にどうでも良いっていうかー……いや別にあんたのことは嫌いじゃないんだけどね?」
両手で頬杖をつきながら俺のことをまっすぐ見つ目ているスティア。そんなスティアから出てきた言葉に、俺は自然と顔を逸らしてしまった。
「それに、お嫁さんが二人でも別に構わないでしょ。なんだったら五人六人でも良いと思うわよ? パパとか五人はお嫁さんいるし。あんただって元は貴族じゃないの」
「一国の王と比べるな、阿呆……」
仮に俺がトライデンの次期当主だったとしても、流石に王女を二人も娶ることなどできるわけがない。
「まあ、ちゃんと考えて答えを出すんだってんなら、それで良いんじゃない?」
そう言いながらスティアは俺の前に置いてあった料理を指でつまみながら口へ運んでいく。……フォークを使え。
行儀の悪いスティアに、俺はフォークを生成して投げ渡す。突然投げたにも関わらずスティアはそれを受け取り、そのままパクパクと料理を食べ出した。……俺の魔創具はこのように使うためにある訳ではないのだがな。
だが、なぜだろうか。答えは出せていないし、これからも悩むだろう。こいつの態度や言葉に、どこか救われたような、これでいいのだと安心感を感じた。
「——あ。でも、結局考えても意味ないと思うけどねー」
そのまましばらく料理を食べていたのだが、突然スティアがそんなことを口にしてきた。
「なぜだ。お前は俺がどんな答えを出すのかわかるのか?」
「ううん。そっちじゃないわ。あんたじゃなくって、あの、えー、シルル王女? の方の答えがわかってるだけね」
「殿下の答え? それは、俺が天武百景が終わった後に再び向き合う際の、ということか?」
「うん。多分だけど、どう動いたって結局は結婚することになると思うわよ」
「……なぜそう思う?」
何かそう思う確証でもあるのだろうか?
「え? だってあの子ちょっと頭おかしいもん。あんたが断ろうが、その後に何年かかかろうが、最後にはどんな手を使ってでも一緒にいるつもりでしょ」
「殿下の頭がおかしいなどと、不敬にも程があるぞ」
「私もお姫様なんだから同格だし、不敬ってほどでもないでしょ。それに、実際おかしいもん。どこがって言われるとなんとも言い難いんだけど、全体的な雰囲気が? 強いていうなら〝目〟ね。タガが外れてるっていうか、うーん。覚悟が決まってる感じの目って言えばわかる? そんな感じなのよね」
「……そうだろうか?」
「そうなの。少なくとも、私はそう感じたわ」
確かにシルル殿下のその行動力は、一国の姫としては少々行き過ぎているかもしれないが……だが、頭がおかしいと言われるほどか?
……いや、頭がおかしいスティアに言われるくらいなのだ。同類にしか感じ取れない何かがあるのかもしれない。
「まあ、とにかく今は優勝することだけを考えれば良いんじゃない? って言っても、優勝するのは私だから、あんたは準優勝しかできないけどね!」
シルル殿下が頭がおかしいということについて気になるところではあるが……今はそれを気にすべきではないか。もし気にするのであれば、それではシルル殿下の想いに応えなかった意味がなくなってしまうのだからな。
「お前の言うとおり、今は優勝することを目指して進むしかないか。これで悩んだ結果負けでもしたら、それこそ殿下の想いを踏み躙ることになる。俺は勝ったのだ。他人の願いを打ち砕いて、そうして勝ったのだ。であれば、中途半端な状態で挑み、負けることなど許されるはずがない」
考えるべきことは色々とあるが、それでも迷うのはこの戦いが終わってからにしよう。
そう考え、俺は改めて天武百景に挑む覚悟を決めた。
自身が主役の一人である祝いの場で、このように離れたところで飲んでいるのはマナーとしてなっていないが、今は少し考えたいことがあるのだ。
「あの……アルフ君。どうかしたの?」
と、部屋の隅で一人飲んでいると、マリアが心配そうな様子で近づき、問いかけてきた。
「どうとは、何がだ?」
「何がって……なんか試合が終わってから悩んでるっていうか、何か考え込んでるようだったから」
「ん……まあ、そうだな。考えているのは事実だが、問題となるようなものではない」
「そう? だったらいいんだけど……」
マリアは歯切れが悪そうにしつつも、これ以上は俺が話さないと思ったのか、それ以上突っ込んでくることなく黙ってしまった。
こちらのことを心配してくれたというのにこのような対応をするのはまずいと理解しているが、それでもこの悩みは誰かに話すようなことでもない。
それに、問題になるわけではないという言葉は嘘ではないのだ。ただ俺が自分で勝手に悩んでいるだけのこと。
「お疲れ様……って、どうかした?」
マリアと無言の時間を過ごしていると、今度はルージェがやってきた。
「ああ……ルージェか。いや、なにもない」
「そうは見えないけど、まあそう言うんだったら何も聞かないよ。それから、明日も応援してるよ」
「あ、えーっと、私も応援してるわ。頑張ってね、アルフ君」
「ああ。ありがとう」
そうしてルージェはマリアのことを連れて行ってこの場を離れたが、これはあいつなりの気遣いだろうか。
「はあ……まさか、こんな悩みが出てくるとはな……」
二人が離れたことで周りには誰もいなくなり、ため息を吐き出しながら小さく呟いた。
「ねね、私の試合見てた?」
だが、そんな一人の時間も長くは続かない。阿呆がやってきたからだ。
「……ああ、見てたぞ」
「本当に? なーんか嘘くさい反応な気がするんですけどー?」
「そんなことはない。二戦とも相手を場外に追い出しての勝利だったな。流石、と言ったところだな」
実際、こいつはよくやっていた。二回戦の相手は身体強化を極めた斧使いで、一撃でどんなものでも叩き切るという戦い方をする戦士だった。
通常の敵が相手だったのであれば、たとえ盾を構えられたとしてもその盾ごと相手を斬り、倒すことができたのだろうが、残念ながら相手が悪すぎた。何せ、スティアはそんな斧使いの完全な上位互換だったのだから。
力で押そうとしても、その力はスティアの方が上であり、その上素早さまでスティアの方が速いのだからどうしようもない。
もっとも、スティアは真っ向勝負を挑んだわけだが、斧と槌のぶつかり合いを制したのはスティアだった。
あの戦いには細かい技巧や駆け引きなどもあったが、それ以上に観衆には大きな武器のぶつかり合いというのはわかりやすい派手さがあり、見応えがあったことだろう。
しかも、戦いが終わった後は手を取り合って共に雄叫びを上げていたのだから、終わり方も心地好いものだった。あのおかげで、観衆たちは負けた戦士に対しても賞賛を送り、スティアも相手も笑顔で舞台をさっていった。
第二回戦の戦いの中であれがもっとも人気だったのではないだろうか?
「あ、本当にちゃんとみてたんだ。えへへ~。そうよ。私はすっごいのよ!」
「そうだな……」
そんなスティアに比べると、俺の終わり方はなんともいえない歯切れの悪さがある。
仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが……
「んでんで、あんたはあの子と結婚するの?」
「っ!?」
などと考えていると、突然スティアに核心を突かれ、驚きに目を見開いてしまった。
「えーっと、シ……なんとかってお姫様と」
「なんっ、でお前が知っているっ……!」
「え? だってあんだけ堂々と話してたじゃない。あー、まあ普通の人には聞こえなかったかもだけど、なんか話してるなー、って分かれば意識をそこに向けると聞こえるもんよ」
「……そうか。お前は特殊だったな」
舞台の上で何を話しているのかなど、観客席には聞こえない。だが、こいつは目も耳もずば抜けてその性能が高い。であれば、どこで見ていたのか知らないが舞台の声が聞こえていてもおかしくはないのか。
「そんで、どうすんの? なんか知んないけど、そのことで悩んでたんでしょ? ルージェ達がなんか心配してたわよ」
そう言いながらスティアは俺の対面にあった椅子に座ったが、こういうのは深く聞かずにいるべきではないだろうか?
そう思いながらも、今更言ったところで意味はないのだと理解している。
「聞いていたならわかっているだろう? どうもしないさ」
「えー。それでいいわけ?」
「良いか悪いかで言ったら、悪いのだろうな」
殿下の想いに、俺は応えなかった。だが、それがよく考えた上での答えなのかと言ったら、多分違う。あれは、あの場では深く考える時間がなかったから……いや、違うな。深く考えたくなかったからそう答えただけだ。一度考えてしまえば、明日からも続く天武百景に支障が出るかもしれないと思ったから。
そんな自分本位な考えであの想いを拒絶することは、どう考えても悪いことだ。
「だが、そうする以外の道が分からないのだ」
だから深く考えることをせず〝とりあえず〟断った。
もっとも、そんな考えは殿下には見透かされていたようだが。
「分からないなら考えればいいじゃん」
「そうだな。だが、それは今ではない。お前が言ったのではないか。今はただ大会で優勝することだけを考えるべきだ、と。殿下のことを考えるのは、全てが終わった後だ」
「あー……まあそんなことも言ったっけっか。でもさー、わかってる? それって結構ろくでなしな感じのことを言ってるんだけど?」
「……わかっているさ。その場の考えで断っておきながらも心からの拒絶をすることはなく、気がある素振りをみせていながらも答えを先延ばしにする。控えめに言ってクズだろうな」
「分かっててそうしてんの? ふーん。なら、別にいいんじゃない?」
予想していなかったスティアの言葉に、俺は眉を顰め、わずかに迷ったのちに問いかけた。
「……お前はいいのか?」
なんでそう問いかけたのかは自分でもわからなかった。
「良いってなんで? 別に私に聞くことでもないでしょ。なに? あんたってば私に引き留めてほしいとか思ってたりすんの?」
「阿呆。そのようなことは考えていない。ただ……お前としては俺が殿下と婚姻を結べば困るのではないか?」
「なんでそんなことで困るの……って、ああ。そういえば私はあんたを口説いてる最中なんだっけ?」
「……自身の目的を忘れるな」
「目的って言っても、パパ達の考えだしー? 私は別にどうでも良いっていうかー……いや別にあんたのことは嫌いじゃないんだけどね?」
両手で頬杖をつきながら俺のことをまっすぐ見つ目ているスティア。そんなスティアから出てきた言葉に、俺は自然と顔を逸らしてしまった。
「それに、お嫁さんが二人でも別に構わないでしょ。なんだったら五人六人でも良いと思うわよ? パパとか五人はお嫁さんいるし。あんただって元は貴族じゃないの」
「一国の王と比べるな、阿呆……」
仮に俺がトライデンの次期当主だったとしても、流石に王女を二人も娶ることなどできるわけがない。
「まあ、ちゃんと考えて答えを出すんだってんなら、それで良いんじゃない?」
そう言いながらスティアは俺の前に置いてあった料理を指でつまみながら口へ運んでいく。……フォークを使え。
行儀の悪いスティアに、俺はフォークを生成して投げ渡す。突然投げたにも関わらずスティアはそれを受け取り、そのままパクパクと料理を食べ出した。……俺の魔創具はこのように使うためにある訳ではないのだがな。
だが、なぜだろうか。答えは出せていないし、これからも悩むだろう。こいつの態度や言葉に、どこか救われたような、これでいいのだと安心感を感じた。
「——あ。でも、結局考えても意味ないと思うけどねー」
そのまましばらく料理を食べていたのだが、突然スティアがそんなことを口にしてきた。
「なぜだ。お前は俺がどんな答えを出すのかわかるのか?」
「ううん。そっちじゃないわ。あんたじゃなくって、あの、えー、シルル王女? の方の答えがわかってるだけね」
「殿下の答え? それは、俺が天武百景が終わった後に再び向き合う際の、ということか?」
「うん。多分だけど、どう動いたって結局は結婚することになると思うわよ」
「……なぜそう思う?」
何かそう思う確証でもあるのだろうか?
「え? だってあの子ちょっと頭おかしいもん。あんたが断ろうが、その後に何年かかかろうが、最後にはどんな手を使ってでも一緒にいるつもりでしょ」
「殿下の頭がおかしいなどと、不敬にも程があるぞ」
「私もお姫様なんだから同格だし、不敬ってほどでもないでしょ。それに、実際おかしいもん。どこがって言われるとなんとも言い難いんだけど、全体的な雰囲気が? 強いていうなら〝目〟ね。タガが外れてるっていうか、うーん。覚悟が決まってる感じの目って言えばわかる? そんな感じなのよね」
「……そうだろうか?」
「そうなの。少なくとも、私はそう感じたわ」
確かにシルル殿下のその行動力は、一国の姫としては少々行き過ぎているかもしれないが……だが、頭がおかしいと言われるほどか?
……いや、頭がおかしいスティアに言われるくらいなのだ。同類にしか感じ取れない何かがあるのかもしれない。
「まあ、とにかく今は優勝することだけを考えれば良いんじゃない? って言っても、優勝するのは私だから、あんたは準優勝しかできないけどね!」
シルル殿下が頭がおかしいということについて気になるところではあるが……今はそれを気にすべきではないか。もし気にするのであれば、それではシルル殿下の想いに応えなかった意味がなくなってしまうのだからな。
「お前の言うとおり、今は優勝することを目指して進むしかないか。これで悩んだ結果負けでもしたら、それこそ殿下の想いを踏み躙ることになる。俺は勝ったのだ。他人の願いを打ち砕いて、そうして勝ったのだ。であれば、中途半端な状態で挑み、負けることなど許されるはずがない」
考えるべきことは色々とあるが、それでも迷うのはこの戦いが終わってからにしよう。
そう考え、俺は改めて天武百景に挑む覚悟を決めた。
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