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五章
異常事態と知人
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——◆◇◆◇——
「——まさか!?」
エルライト殿の戦いを見ていた俺は、その光景に思わず席を立ち上がってしまった。
「どしたの?」
「お前にもわかるだろう? あの異常さが」
問いかけてきたスティアに顔を向けることなく言葉を返すが、こいつとてあれが異常だということは気づいているはずだ。
「ん、まあね。あれって、全部私達のと同格……とまではいかなくっても近い感じの武器でしょ」
「おそらくはな」
自身にできる限りの全てを詰め込んだ俺の魔創具と、神獣とやらの力を形にしたスティアの魔創具。それらに近い感じを受けたのだ。
「それって、あれ全部が聖剣ってこと?」
「聖剣かどうかは知らんが、少なくとも力の桁だけで言えばその通りだ」
そばに座っていたルージェが問いかけてきたのでそれに頷くが、その言葉を聞いたルージェは目を見開き、直後戦いの光景に目を向けながら叫んだ。
「……やばくない? え。っていうかなんであんなにあるのさ!」
なぜと聞かれてもわかるわけがない。目の前にあるのは、軽く二十は超える数の聖剣だ。それがどうしてこのようなところに、それもたった一人が所有しているのか皆目見当もつかない。
「知らん。聖剣に関してはお前の方が詳しいのではないか?」
これまで貴族を襲撃してきたルージェは、貴族家が保有している聖剣に関して元貴族だった俺以上に持っている。当然だろう。もし襲った家が聖剣持ちだったのなら、場合によっては死ぬことになるのだから。
だが、そんなルージェでもあれだけの数の聖剣に心当たりはないのか、首を振って答えた。
「いや、ボクだってそんな詳しいわけじゃないっての」
「それより、あれが全部聖剣なんだとしたら、ちょっとまずいことになるんじゃないの?」
マリアが焦りを見せながら問いかけてきたが、まず間違いないだろうな。それも、ちょっとまずい、程度ではない事態になるはずだ。
もっともそれは相手があれだけの聖剣の力を全て解放すればだが……解放しないと考えるのは愚かしいか。開放しないのであれば、そもそもあれだけの数を見せる必要もなかっただろうし、現在進行形で力を貯める必要もない。
「……おそらくは、この結界程度では防ぐことはできんだろう」
俺と戦ったシルル殿下の攻撃でさえ結界は防ぐことができなかったのだ。あの一撃は聖剣の一撃を超えていたと思うが、防げなかった事実は変わらない。そして、殿下の一撃を防ぐことができなかったのであれば、あれだけの数の聖剣の攻撃も防ぐことができないだろう。
「それ、マジ? やばいどころの話じゃないよそれ!」
「分かっている。マリア、お前は防ぐことができるか?」
マリアは攻撃することを捨て、守ることにのみ特化した魔創具を持っている。可能性があるとすればそれだが……
「う、うーん……アルフ君の全力を何本も束ねたような攻撃ってことだよね? 多分無理だと思うわ。私たちだけを、って言うんだったら、ギリギリなんとか防げたら嬉しいな、ってくらいね」
やはり無理か。まあ、そうだろうな。
「つまり、使われたら観客ごと会場が消え去ると言うことか」
「どうすんの——って、あ。なんか動き出したわ!」
どうすべきか悩んでいると、スティアが叫んだ。
その言葉によって意識を舞台に向けると、エルライト殿が敵に向かって大きな力を秘めた剣を手に走り出していた。
「え、なに? あの人もしかしてあの武器達を斬るつもり?」
「だとしても、あれだけ高密度の魔力で攻撃なんてしたら、どのみち結界なんて壊れちゃうわ!」
エルライト殿の考えはそう間違っているものではない。あれだけの数の聖剣が全て解放されれば、その効果に大小あれどこの会場は吹き飛ぶことになるだろう。
それをさせないためには、相手が攻撃してくる前にこちらから仕掛け、聖剣を破壊するしかない。それによって生じる衝撃は、誤差として受け入れるしかないだろう。
「だが、それ以外に手がない……っ! マリア! 盾を出せ!」
「っ!」
俺の言葉を受けてマリアが盾の魔創具を取り出し、構えた。
直後、エルライト殿の一撃が宙に浮かんでいた聖剣の群に向かって放たれ……込められていた力がこの会場を蹂躙した。
「バカな……あれを受けても尚倒れないなど……おい。これはどういうことだ?」
観客の悲鳴をかき消すほどの衝撃が収まってすぐ、舞台へと顔を向けたが、そこにあったもの……いや、いた人物を見て驚きに目を見張ることとなった。
「いったあ~~~。うう……頭打ったぁ……」
「スティア。そんなどうでも良いことではなく、舞台を見ろ」
「どうでも良いってなによ。頭打ったのはどうでも良いことなんかじゃ——」
「早くしろ!」
「……なによぉ。あんたがそんなに大声出すなんて、一体なにがあるって……………………うそ」
頭を打ったのか、押さえながらとぼけたことを言ってたスティアだが、その言葉を無理やり止めて舞台を見させると、俺と同じように驚きに目を見開いて固まった。
だが、それも当然だろう。何せ今舞台の上には俺たちの知っている人物がいるのだから。
その人物とは……
「ねえ、あれってスピカよね? なんであんなところにいるわけ?」
そう。以前俺たちが出会い、どこぞの組織に追われていた少女スピカだった。
「俺が知ったことではない。だが、やはりあればあの時の少女か」
なぜこんなところにいるのかと言われたらわからないが、やはりあの少女であることに間違いなかったか……
「あの時って、もしかしてボク達が会った時のあの子?」
当時は仲間と呼べるほどの関係ではなかったが、ルージェも共に行動していただけあってスピカのことは覚えているようだ。
「おそらくはな。俺の見間違いや記憶違いではないのであれば……」
「見間違いなんかじゃないわ! あの子はスピカで間違いないんだから!」
「……だそうだ」
あの少女ともっとも親しくしており、世話を焼いていたスティアが言うのだからそうなのだろう。
「だとしたら、なんでこんなところにいるのか、って話になるんだけど……っ!」
もはや試合どころではなくなった舞台の上で佇むスピカ。だが、まだ背後に控えさせている聖剣を収めないからか、警備の者がスピカを止めるべく制止の声をかけた。
しかし、スピカはそんな警備のものへと背後に浮いていた聖剣の一つを向け、貫いた。
「そのようなことを話している状況ではないようだな」
なぜここにいるのか、なぜこのようなことをしているのかわからないが、スピカはまだ戦うつもりのようだ。警備を一人殺されたことで、他の警備の者達も現れ、全員が武器を構えてスピカへと向けている。このままではスピカ対この会場にいる全ての者となりかねない。その前に止めなければ。
「だね。どうするの? 逃げるのが無難だと思うけど……」
「逃げるわけないじゃない。あの子にはいっぱい言いたいこととかあるんだから。なんであんなことしてるのかわかんないけど、私が止めてみせるわ!」
「あ、ちょっ! スーちゃん!?」
スティアは言うだけ言うと、マリアの制止を振り切って舞台に向かって一人走り出し、スティアの護衛達もその後を慌てながら追いかけていった。
「アルフ君、どういうことなの!?」
スティアが普段になく慌てていた事から、事情を知らないマリアは混乱した様子で問いかけてきた。
「あれは以前迷子になっていたところを保護した少女なのだが、どうやら訳ありでな。あの少女を探している組織と揉め事を起こし、最後にはあの少女は空間転移をして消えた」
「空間転移って……本当に? それって確かかなり難しい魔法だったよね?」
「ああ。自慢するわけではないが、俺でさえ準備を重ねることでようやく、というような魔法だ。それをなんの準備もなく容易く使用してみせた」
「あの光景を見ると、何本も聖剣を持ってるみたいだし、そのうちの一つの能力なのかもね」
確かに、スピカ自身が使ったと考えるよりも、どうやって集めたのかはわからないが聖剣の能力の一つだと考えた方がいいだろう。
「かもしれないな。まあそういったわけだ。正確なところなどなに一つとして分かっていないが、スティアがあの少女のことを気に入っているのは確かだ」
「じゃあ、他の人に任せて逃げるってことは……」
「できないだろうな」
俺としては、身内に被害が及ぶのであればスピカを見捨てることは受け入れる。だが、スティアはそうはいかないだろう。スティアも俺の身内かと言われると微妙なところではあるが、ひとまずはギリギリのところまで足掻いてみるとしよう。
「そういうわけだ。お前達は逃げるならそれで構わないが、その前にせめてバイデントを呼んできてくれ」
と、俺はこの場を収めるために戦うと決めたが、だからと言ってマリアとルージェにも戦えと強要するつもりはない。
ただ、何がどうなっているのかわからないが、何かをやらかすにしても自分たちが動かせる人手はほしいのでバイデントは呼んできて欲しいところだ。
「私は逃げないわ。だって、アルフ様を守る騎士だもの」
「ボクは、どうしよっかなー。正直、なりふり構わずここから逃げるのが一番だって思ってるんだけどね。あれだけの相手となると、戦いになったらボクができることなんてたかが知れてる……というか、できることなんてないだろうし。まあ、バイデントを探して呼び出すことくらいはしてもいいよ。君があそこに出ていけば、ボクが呼ぶまでもなくそっちに向かうだろうけどね」
まあ、だろうな。バイデントの奴らなら、どこかで観戦をしているだろうし、俺が舞台の上に出ればそれを見つけて自分たちから参戦してくる事だろう。
ただ、それも絶対ではない。どこかで席を外している事だって考えられる。
「それならそれで構わない。ただ、バイデントを見つけたら伝えておけ。『他に賊が潜んでいるかもしれん。そちらを探しだせ』と」
「他に賊? ……あー、まあそっか。これだけの騒ぎを起こしてたった二人で、なんてのはありえないね」
「よほどの馬鹿であれば別だろうが、どうにもそうではないようだからな」
「りょーかいっと。それじゃあボクは行くけど、まあ精々死なないようにね」
「大丈夫よ。だって私が守るもの!」
「ああ、そうだったね。それじゃあ、頑張ってね」
そう言ってルージェは走り去り、俺は一度深呼吸をすると改めて舞台へと向き直った。
「それで、どうするの? スーちゃんのところに合流する?」
「……ああ。マリアはそうしてくれ」
「私はって、アルフ君はどうするの?」
時間が経てば他の参加者達も加わるだろうし、そうなればより一層問題が起こる確率は低くなる。俺が加わったところで、結果に大した違いはないだろう。
であれば、俺は別のことをやるべきだ。
「俺はあちらの者に話がある」
そう言いながら、俺は舞台の外、ここから見下ろせる広場の端に待機している人物へと目を向けた。
「——まさか!?」
エルライト殿の戦いを見ていた俺は、その光景に思わず席を立ち上がってしまった。
「どしたの?」
「お前にもわかるだろう? あの異常さが」
問いかけてきたスティアに顔を向けることなく言葉を返すが、こいつとてあれが異常だということは気づいているはずだ。
「ん、まあね。あれって、全部私達のと同格……とまではいかなくっても近い感じの武器でしょ」
「おそらくはな」
自身にできる限りの全てを詰め込んだ俺の魔創具と、神獣とやらの力を形にしたスティアの魔創具。それらに近い感じを受けたのだ。
「それって、あれ全部が聖剣ってこと?」
「聖剣かどうかは知らんが、少なくとも力の桁だけで言えばその通りだ」
そばに座っていたルージェが問いかけてきたのでそれに頷くが、その言葉を聞いたルージェは目を見開き、直後戦いの光景に目を向けながら叫んだ。
「……やばくない? え。っていうかなんであんなにあるのさ!」
なぜと聞かれてもわかるわけがない。目の前にあるのは、軽く二十は超える数の聖剣だ。それがどうしてこのようなところに、それもたった一人が所有しているのか皆目見当もつかない。
「知らん。聖剣に関してはお前の方が詳しいのではないか?」
これまで貴族を襲撃してきたルージェは、貴族家が保有している聖剣に関して元貴族だった俺以上に持っている。当然だろう。もし襲った家が聖剣持ちだったのなら、場合によっては死ぬことになるのだから。
だが、そんなルージェでもあれだけの数の聖剣に心当たりはないのか、首を振って答えた。
「いや、ボクだってそんな詳しいわけじゃないっての」
「それより、あれが全部聖剣なんだとしたら、ちょっとまずいことになるんじゃないの?」
マリアが焦りを見せながら問いかけてきたが、まず間違いないだろうな。それも、ちょっとまずい、程度ではない事態になるはずだ。
もっともそれは相手があれだけの聖剣の力を全て解放すればだが……解放しないと考えるのは愚かしいか。開放しないのであれば、そもそもあれだけの数を見せる必要もなかっただろうし、現在進行形で力を貯める必要もない。
「……おそらくは、この結界程度では防ぐことはできんだろう」
俺と戦ったシルル殿下の攻撃でさえ結界は防ぐことができなかったのだ。あの一撃は聖剣の一撃を超えていたと思うが、防げなかった事実は変わらない。そして、殿下の一撃を防ぐことができなかったのであれば、あれだけの数の聖剣の攻撃も防ぐことができないだろう。
「それ、マジ? やばいどころの話じゃないよそれ!」
「分かっている。マリア、お前は防ぐことができるか?」
マリアは攻撃することを捨て、守ることにのみ特化した魔創具を持っている。可能性があるとすればそれだが……
「う、うーん……アルフ君の全力を何本も束ねたような攻撃ってことだよね? 多分無理だと思うわ。私たちだけを、って言うんだったら、ギリギリなんとか防げたら嬉しいな、ってくらいね」
やはり無理か。まあ、そうだろうな。
「つまり、使われたら観客ごと会場が消え去ると言うことか」
「どうすんの——って、あ。なんか動き出したわ!」
どうすべきか悩んでいると、スティアが叫んだ。
その言葉によって意識を舞台に向けると、エルライト殿が敵に向かって大きな力を秘めた剣を手に走り出していた。
「え、なに? あの人もしかしてあの武器達を斬るつもり?」
「だとしても、あれだけ高密度の魔力で攻撃なんてしたら、どのみち結界なんて壊れちゃうわ!」
エルライト殿の考えはそう間違っているものではない。あれだけの数の聖剣が全て解放されれば、その効果に大小あれどこの会場は吹き飛ぶことになるだろう。
それをさせないためには、相手が攻撃してくる前にこちらから仕掛け、聖剣を破壊するしかない。それによって生じる衝撃は、誤差として受け入れるしかないだろう。
「だが、それ以外に手がない……っ! マリア! 盾を出せ!」
「っ!」
俺の言葉を受けてマリアが盾の魔創具を取り出し、構えた。
直後、エルライト殿の一撃が宙に浮かんでいた聖剣の群に向かって放たれ……込められていた力がこの会場を蹂躙した。
「バカな……あれを受けても尚倒れないなど……おい。これはどういうことだ?」
観客の悲鳴をかき消すほどの衝撃が収まってすぐ、舞台へと顔を向けたが、そこにあったもの……いや、いた人物を見て驚きに目を見張ることとなった。
「いったあ~~~。うう……頭打ったぁ……」
「スティア。そんなどうでも良いことではなく、舞台を見ろ」
「どうでも良いってなによ。頭打ったのはどうでも良いことなんかじゃ——」
「早くしろ!」
「……なによぉ。あんたがそんなに大声出すなんて、一体なにがあるって……………………うそ」
頭を打ったのか、押さえながらとぼけたことを言ってたスティアだが、その言葉を無理やり止めて舞台を見させると、俺と同じように驚きに目を見開いて固まった。
だが、それも当然だろう。何せ今舞台の上には俺たちの知っている人物がいるのだから。
その人物とは……
「ねえ、あれってスピカよね? なんであんなところにいるわけ?」
そう。以前俺たちが出会い、どこぞの組織に追われていた少女スピカだった。
「俺が知ったことではない。だが、やはりあればあの時の少女か」
なぜこんなところにいるのかと言われたらわからないが、やはりあの少女であることに間違いなかったか……
「あの時って、もしかしてボク達が会った時のあの子?」
当時は仲間と呼べるほどの関係ではなかったが、ルージェも共に行動していただけあってスピカのことは覚えているようだ。
「おそらくはな。俺の見間違いや記憶違いではないのであれば……」
「見間違いなんかじゃないわ! あの子はスピカで間違いないんだから!」
「……だそうだ」
あの少女ともっとも親しくしており、世話を焼いていたスティアが言うのだからそうなのだろう。
「だとしたら、なんでこんなところにいるのか、って話になるんだけど……っ!」
もはや試合どころではなくなった舞台の上で佇むスピカ。だが、まだ背後に控えさせている聖剣を収めないからか、警備の者がスピカを止めるべく制止の声をかけた。
しかし、スピカはそんな警備のものへと背後に浮いていた聖剣の一つを向け、貫いた。
「そのようなことを話している状況ではないようだな」
なぜここにいるのか、なぜこのようなことをしているのかわからないが、スピカはまだ戦うつもりのようだ。警備を一人殺されたことで、他の警備の者達も現れ、全員が武器を構えてスピカへと向けている。このままではスピカ対この会場にいる全ての者となりかねない。その前に止めなければ。
「だね。どうするの? 逃げるのが無難だと思うけど……」
「逃げるわけないじゃない。あの子にはいっぱい言いたいこととかあるんだから。なんであんなことしてるのかわかんないけど、私が止めてみせるわ!」
「あ、ちょっ! スーちゃん!?」
スティアは言うだけ言うと、マリアの制止を振り切って舞台に向かって一人走り出し、スティアの護衛達もその後を慌てながら追いかけていった。
「アルフ君、どういうことなの!?」
スティアが普段になく慌てていた事から、事情を知らないマリアは混乱した様子で問いかけてきた。
「あれは以前迷子になっていたところを保護した少女なのだが、どうやら訳ありでな。あの少女を探している組織と揉め事を起こし、最後にはあの少女は空間転移をして消えた」
「空間転移って……本当に? それって確かかなり難しい魔法だったよね?」
「ああ。自慢するわけではないが、俺でさえ準備を重ねることでようやく、というような魔法だ。それをなんの準備もなく容易く使用してみせた」
「あの光景を見ると、何本も聖剣を持ってるみたいだし、そのうちの一つの能力なのかもね」
確かに、スピカ自身が使ったと考えるよりも、どうやって集めたのかはわからないが聖剣の能力の一つだと考えた方がいいだろう。
「かもしれないな。まあそういったわけだ。正確なところなどなに一つとして分かっていないが、スティアがあの少女のことを気に入っているのは確かだ」
「じゃあ、他の人に任せて逃げるってことは……」
「できないだろうな」
俺としては、身内に被害が及ぶのであればスピカを見捨てることは受け入れる。だが、スティアはそうはいかないだろう。スティアも俺の身内かと言われると微妙なところではあるが、ひとまずはギリギリのところまで足掻いてみるとしよう。
「そういうわけだ。お前達は逃げるならそれで構わないが、その前にせめてバイデントを呼んできてくれ」
と、俺はこの場を収めるために戦うと決めたが、だからと言ってマリアとルージェにも戦えと強要するつもりはない。
ただ、何がどうなっているのかわからないが、何かをやらかすにしても自分たちが動かせる人手はほしいのでバイデントは呼んできて欲しいところだ。
「私は逃げないわ。だって、アルフ様を守る騎士だもの」
「ボクは、どうしよっかなー。正直、なりふり構わずここから逃げるのが一番だって思ってるんだけどね。あれだけの相手となると、戦いになったらボクができることなんてたかが知れてる……というか、できることなんてないだろうし。まあ、バイデントを探して呼び出すことくらいはしてもいいよ。君があそこに出ていけば、ボクが呼ぶまでもなくそっちに向かうだろうけどね」
まあ、だろうな。バイデントの奴らなら、どこかで観戦をしているだろうし、俺が舞台の上に出ればそれを見つけて自分たちから参戦してくる事だろう。
ただ、それも絶対ではない。どこかで席を外している事だって考えられる。
「それならそれで構わない。ただ、バイデントを見つけたら伝えておけ。『他に賊が潜んでいるかもしれん。そちらを探しだせ』と」
「他に賊? ……あー、まあそっか。これだけの騒ぎを起こしてたった二人で、なんてのはありえないね」
「よほどの馬鹿であれば別だろうが、どうにもそうではないようだからな」
「りょーかいっと。それじゃあボクは行くけど、まあ精々死なないようにね」
「大丈夫よ。だって私が守るもの!」
「ああ、そうだったね。それじゃあ、頑張ってね」
そう言ってルージェは走り去り、俺は一度深呼吸をすると改めて舞台へと向き直った。
「それで、どうするの? スーちゃんのところに合流する?」
「……ああ。マリアはそうしてくれ」
「私はって、アルフ君はどうするの?」
時間が経てば他の参加者達も加わるだろうし、そうなればより一層問題が起こる確率は低くなる。俺が加わったところで、結果に大した違いはないだろう。
であれば、俺は別のことをやるべきだ。
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