198 / 589
七章
軍隊狩り
しおりを挟む「……なんだお前ら」
誰がそんなことを、なんてのは考えるまでもないことだろう。ザフトの兵が俺たちを半円状に囲うように武器を構えている。どうやら俺達を逃すつもりはないようだ。
まあ、それも当然と言えば当然だろう。何せこっちは敵の作戦の要となっていたであろうドラゴンを殺し、ついでに魔物の数もヘラされ、作戦をぶっ壊されたんだ。
今回は逃げて次に賭けるとしても、ドラゴンを倒した俺たちが生き残ってたらまた邪魔をされるかもしれない。だったら今ここで倒してしまうべきだと考えるのは至極当然のことだ。
そんな理屈は理解できる。俺が相手の立場でもそうするだろう。未来に立ちはだかる壁があるのなら、今のうちに取り除いてしまえと命令を出すはずだ。
だが……
「こっちはやっと会えた母親を傷つけられてイラついてるんだ。加減なんてしてらやないぞ」
だが、そんなのは知ったこっちゃない。人の母親殺そうとしておいて、反撃されないわけがないだろうが。
まずは数を減らそうか。
俺は母さんを抱き上げるために伸ばしていた手を引っ込めて立ち上がると、俺たちを囲っているザフトの連中を見回してから一度深呼吸をし——口を開いた。
「《天地返し》」
そう口にした瞬間、先ほどドラゴンにやったように俺の目の前の地面が抉れ、浮かび上がった。
浮かび上がった地面はそのままくるりと反転すると、そのまま上に乗せていた人間とともに地面に落下していく。
「な、何をしている! 攻撃だ! 攻撃を放つんだっ! 弓と魔法っ、放て!」
ザフトの連中はいきなり味方が百人単位で倒されたことに動揺していたようだが、そんな兵たちの動揺を正すように命令する言葉が聞こえてきた。
その選択は間違ってはいない。ここで怯んだり迷ったりする姿を見せるのは悪手でしかないからな。
だが、命令したその声は行動こそ間違いではないが、命じた本人も怯えているように感じられた。
怯えた状態でもどうするべきか選択をし、命令して兵をまとめ上げることができるのは立派なことだろう。
指揮官らしき言葉に従うように、倒された正面の兵達のことは無視して左右にいた兵達から魔法と矢が飛んでくるが——
「《潅水》」
第三位階のスキルだが、第六位階にまで上がったことでその威力もだいぶ強化されている。そして俺は普通の奴らと違ってスキルの上限をさほど気にすることなく何十、何百回と同時に使用することが可能だ。
つまりどうなるかというと……軽く川が氾濫した程度の水が押し寄せることになる。
「な、なんだあっ!?」
突如俺の手の平から放たれた濁流によって弓も魔法も跳ね返されることとなり、ザフトの連中は驚きの声をあげている。
中には悲鳴も混じりながら押し流されている奴らもいるが、まあどうでもいいことだ。死んだら死んだでそれでいいし、生きてても大した障害にはならないだろう。
「《案山子》」
とはいえ、とりあえず問題はないが狙われても面倒なので、敵の意識を逸らすために案山子を俺のいる場所とは違う方向にいくつか作っておく。
案の定、というべきか。濁流に流されたザフトの連中だったが、すぐに第二射が放たれた。
だが、それらは全て俺の設置した案山子へと向かって飛んでいく。
そんな様子を見ながら、俺は今しがた魔法を放ってきた左右の兵達にも天地返しを行なって処理し、正面奥に待ち構えていたザフトの本陣へと向かって進んでいくことにした。
「くそっ! なんだよ! なんなんだよあいつはっ!」
「か、構えろ! こっちにくるぞ!」
「ざけんな! 逃げるのが先に決まってんだろ! ドラゴンを倒すようなやつなんだぞ! 勝てるわけねえだろうがっ!」
「なんであんなにいろんなスキルが使えんだよ! おかしいだろうがよお!」
ザフトの連中は文句を言いながらも攻撃を仕掛けてくるが、その大半はまともに俺に当たらずに生み出した案山子へと逸れていく。そしてその攻撃には勢いがなく、危険を感じるほどの『圧』もない。
時折俺に届く攻撃もあったが、そんなのは数える程度で大した苦労もなく処理することができた。
そうして俺はどんどん前へと歩を進めていく。
……さっきの話、敵の指揮官は恐怖を感じても間違っていない選択をできるのはすごいって話だ。
確かにドラゴンを倒されても敵を討ち取ろうとする選択というのは間違いではないのだろう。だが、今回に限っては正しいわけでもなかったのだ。
この状況で俺を討ち取るために戦うというのは、確かに常識と照らし合わせて考えるのなら間違いではないことだ。敵は一人なんだし、ドラゴンと戦った後なんだからな。疲れていると考えるのは当然だし、それが常識だ。
だが、この世界には常識では計れないような化け物がいる。俺がそうだとは言わないが、それでも片足を突っ込んでるくらいはしてるだろうと思う。
そんな俺に挑むなんてのは、正しい判断とは言えないと思う。
まあ、敵にはそんなことは分からないだろうから攻撃を命じたんだろうけど。
とりあえずこいつらを処理しようと歩きながら天地返しをしているが、効率が悪いな。
天地返しは一気に範囲を片付けられるって意味ではすごく効率がいいんだが、いかんせん広すぎる。
このスキルは発動地点を視認していないとうまく使えないんだが、今俺は平地に立っているために発動地点をしっかりと見ることが難しい。
わかりやすく言うと、海岸から海を見て、海に立っているブイが何メートル先にあるのかはっきりとわかるのか、というのと同じだ。なんとなくの予想はつく。だが、専門でそういった測量をやったことのある人間じゃないとまともに距離を認識することは難しいだろう。
そして俺はそんなことを専門で学んだわけではないので、一番近くにいる敵を見てなんとなくの距離を判断し、その足下にスキルを使っていた。
だが、これでは狙いが大雑把になってしまうので規模に対して巻き込める数が少ないのだ。
それでも母さんを傷つけた敵を排除しないと、と考えながら前に進む足は止めないでいたのだが……
「ヴェスナー様」
名前を呼ばれたのでハッと振り返ると、そこにはどれくらいかは分からないがザヴィートの兵達がいて、その隊列の中からソフィアが馬に乗ってやってきた。
後ろの兵達を見る限りどうやらこの兵達を使って橋にいた魔物を倒してこちら側にやってきたようだが、どうしてここにいるんだろう? 兵達の中には何やら台車のような物を引いている馬車もあるが、特に何かが乗っているということもない。あれはなんだろう?
……そういえばドラゴンの相手をしてる時に何やら背後から音がした気もする。特に気にしてたわけじゃなかったからよく分からないけど多分それがソフィア達だったのだろう。
「と、止まった?」
「い、今だ! 退け! 退くんだ!」
俺が止まったことでザフトの連中は安堵したようだが、すぐに撤退を促す命令が聞こえ、ザフトの連中は我先にと逃げ出していったが、そんなことはどうでもいいと思えるくらいどうしてソフィアがこっちにいるのかが気になった。
「ソフィア? どうしてここに?」
「弾の追加と、お母君の運び手が必要ではないかと」
ソフィアは馬から降りながら馬の背につけていたバックを下ろして俺の前に置いていく。
その中を開いて見せてくれたのだが、中にはなんのものだか知らないが植物の種がぎっしりと詰まっていた。『弾』というのはこれのことか。確かにそろそろポーチの中身もつきかけていたし、こうして補充できるのはありがたい。
そして、俺がソフィアから弾の詰まったバッグを受け取っている間にも、兵士たちは母さんの体を丁寧に持ち上げてから、引いてきた台車に乗せた。
その一連の流れは速やかに行われ、慣れた様子を見るにどうやらあれは負傷者の運搬を行うためのもののようで、今までも何度も行なってきたのだろう。
だが、そうか……そうだったな。今はザフトの処理をするよりも、母さんを砦に運んで治療させるのが先だった。そうするべきだった。
そうわかっているにもかかわらず、俺はそれを後回しにして処理を優先していた。
なんでそうしたのかっていったら、まあ怒っていたからだろう。母親を傷つけられて怒ってたのは自分でもわかるくらいだったから、そうしたのも理解はできる。
だが、それでももうちょっと冷静になるべきだった。
「そうか。ありがとう。かあ——その人を頼むよ」
母さんを頼む。そう言おうとして、だが人に言うのはなんだか少し恥ずかしくて俺は〝その人〟なんて他人のように呼んでソフィアに頼むと、ザフトの連中に向かって振り返り止まっていた足を再び踏み出し始めた。
だが、数歩ほど踏み出したところでその動きを止めた。
冷静になったからだろう。ふと今までよりも効率的な方法を思いついたのだ。
その考えがうまくいくかは分からないが、試す価値はあるだろう。俺はそう考えると周囲を軽く見回し、次に自分の足元へと視線を向けた。
そして、自分の足元に向かって天地返しを使い、地面を抉ってそれを空中に浮かせた。
だが、いつものようにすぐに反転させて落とすのではなく、今回は中に浮かせたままその状態を維持する。
そうすると俺は空中に浮かび上がった地面の上に立っていることができるんだが、ここからならよく見える。
平面だと敵の奥までよく見ることができなかったんから狙いを定めてスキルの対象を設定するのも適当なものになっていたが、ここからならしっかりと地面を見ることができた。
20
あなたにおすすめの小説
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる