異世界最強の『農家』様 〜俺は農家であって魔王じゃねえ!〜

農民ヤズ―

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七章

軍隊狩り

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「……なんだお前ら」

 誰がそんなことを、なんてのは考えるまでもないことだろう。ザフトの兵が俺たちを半円状に囲うように武器を構えている。どうやら俺達を逃すつもりはないようだ。

 まあ、それも当然と言えば当然だろう。何せこっちは敵の作戦の要となっていたであろうドラゴンを殺し、ついでに魔物の数もヘラされ、作戦をぶっ壊されたんだ。
 今回は逃げて次に賭けるとしても、ドラゴンを倒した俺たちが生き残ってたらまた邪魔をされるかもしれない。だったら今ここで倒してしまうべきだと考えるのは至極当然のことだ。
 そんな理屈は理解できる。俺が相手の立場でもそうするだろう。未来に立ちはだかる壁があるのなら、今のうちに取り除いてしまえと命令を出すはずだ。

 だが……

「こっちはやっと会えた母親を傷つけられてイラついてるんだ。加減なんてしてらやないぞ」

 だが、そんなのは知ったこっちゃない。人の母親殺そうとしておいて、反撃されないわけがないだろうが。

 まずは数を減らそうか。

 俺は母さんを抱き上げるために伸ばしていた手を引っ込めて立ち上がると、俺たちを囲っているザフトの連中を見回してから一度深呼吸をし——口を開いた。

「《天地返し》」

 そう口にした瞬間、先ほどドラゴンにやったように俺の目の前の地面が抉れ、浮かび上がった。
 浮かび上がった地面はそのままくるりと反転すると、そのまま上に乗せていた人間とともに地面に落下していく。

「な、何をしている! 攻撃だ! 攻撃を放つんだっ! 弓と魔法っ、放て!」

 ザフトの連中はいきなり味方が百人単位で倒されたことに動揺していたようだが、そんな兵たちの動揺を正すように命令する言葉が聞こえてきた。
 その選択は間違ってはいない。ここで怯んだり迷ったりする姿を見せるのは悪手でしかないからな。
 だが、命令したその声は行動こそ間違いではないが、命じた本人も怯えているように感じられた。
 怯えた状態でもどうするべきか選択をし、命令して兵をまとめ上げることができるのは立派なことだろう。

 指揮官らしき言葉に従うように、倒された正面の兵達のことは無視して左右にいた兵達から魔法と矢が飛んでくるが——

「《潅水》」

 第三位階のスキルだが、第六位階にまで上がったことでその威力もだいぶ強化されている。そして俺は普通の奴らと違ってスキルの上限をさほど気にすることなく何十、何百回と同時に使用することが可能だ。
 つまりどうなるかというと……軽く川が氾濫した程度の水が押し寄せることになる。

「な、なんだあっ!?」

 突如俺の手の平から放たれた濁流によって弓も魔法も跳ね返されることとなり、ザフトの連中は驚きの声をあげている。
 中には悲鳴も混じりながら押し流されている奴らもいるが、まあどうでもいいことだ。死んだら死んだでそれでいいし、生きてても大した障害にはならないだろう。

「《案山子》」

 とはいえ、とりあえず問題はないが狙われても面倒なので、敵の意識を逸らすために案山子を俺のいる場所とは違う方向にいくつか作っておく。

 案の定、というべきか。濁流に流されたザフトの連中だったが、すぐに第二射が放たれた。
 だが、それらは全て俺の設置した案山子へと向かって飛んでいく。

 そんな様子を見ながら、俺は今しがた魔法を放ってきた左右の兵達にも天地返しを行なって処理し、正面奥に待ち構えていたザフトの本陣へと向かって進んでいくことにした。

「くそっ! なんだよ! なんなんだよあいつはっ!」
「か、構えろ! こっちにくるぞ!」
「ざけんな! 逃げるのが先に決まってんだろ! ドラゴンを倒すようなやつなんだぞ! 勝てるわけねえだろうがっ!」
「なんであんなにいろんなスキルが使えんだよ! おかしいだろうがよお!」

 ザフトの連中は文句を言いながらも攻撃を仕掛けてくるが、その大半はまともに俺に当たらずに生み出した案山子へと逸れていく。そしてその攻撃には勢いがなく、危険を感じるほどの『圧』もない。
 時折俺に届く攻撃もあったが、そんなのは数える程度で大した苦労もなく処理することができた。
 そうして俺はどんどん前へと歩を進めていく。

 ……さっきの話、敵の指揮官は恐怖を感じても間違っていない選択をできるのはすごいって話だ。
 確かにドラゴンを倒されても敵を討ち取ろうとする選択というのは間違いではないのだろう。だが、今回に限っては正しいわけでもなかったのだ。

 この状況で俺を討ち取るために戦うというのは、確かに常識と照らし合わせて考えるのなら間違いではないことだ。敵は一人なんだし、ドラゴンと戦った後なんだからな。疲れていると考えるのは当然だし、それが常識だ。

 だが、この世界には常識では計れないような化け物がいる。俺がそうだとは言わないが、それでも片足を突っ込んでるくらいはしてるだろうと思う。
 そんな俺に挑むなんてのは、正しい判断とは言えないと思う。
 まあ、敵にはそんなことは分からないだろうから攻撃を命じたんだろうけど。

 とりあえずこいつらを処理しようと歩きながら天地返しをしているが、効率が悪いな。
 天地返しは一気に範囲を片付けられるって意味ではすごく効率がいいんだが、いかんせん広すぎる。
 このスキルは発動地点を視認していないとうまく使えないんだが、今俺は平地に立っているために発動地点をしっかりと見ることが難しい。

 わかりやすく言うと、海岸から海を見て、海に立っているブイが何メートル先にあるのかはっきりとわかるのか、というのと同じだ。なんとなくの予想はつく。だが、専門でそういった測量をやったことのある人間じゃないとまともに距離を認識することは難しいだろう。
 そして俺はそんなことを専門で学んだわけではないので、一番近くにいる敵を見てなんとなくの距離を判断し、その足下にスキルを使っていた。
 だが、これでは狙いが大雑把になってしまうので規模に対して巻き込める数が少ないのだ。

 それでも母さんを傷つけた敵を排除しないと、と考えながら前に進む足は止めないでいたのだが……

「ヴェスナー様」

 名前を呼ばれたのでハッと振り返ると、そこにはどれくらいかは分からないがザヴィートの兵達がいて、その隊列の中からソフィアが馬に乗ってやってきた。
 後ろの兵達を見る限りどうやらこの兵達を使って橋にいた魔物を倒してこちら側にやってきたようだが、どうしてここにいるんだろう? 兵達の中には何やら台車のような物を引いている馬車もあるが、特に何かが乗っているということもない。あれはなんだろう?

 ……そういえばドラゴンの相手をしてる時に何やら背後から音がした気もする。特に気にしてたわけじゃなかったからよく分からないけど多分それがソフィア達だったのだろう。

「と、止まった?」
「い、今だ! 退け! 退くんだ!」

 俺が止まったことでザフトの連中は安堵したようだが、すぐに撤退を促す命令が聞こえ、ザフトの連中は我先にと逃げ出していったが、そんなことはどうでもいいと思えるくらいどうしてソフィアがこっちにいるのかが気になった。

「ソフィア? どうしてここに?」
「弾の追加と、お母君の運び手が必要ではないかと」

 ソフィアは馬から降りながら馬の背につけていたバックを下ろして俺の前に置いていく。
 その中を開いて見せてくれたのだが、中にはなんのものだか知らないが植物の種がぎっしりと詰まっていた。『弾』というのはこれのことか。確かにそろそろポーチの中身もつきかけていたし、こうして補充できるのはありがたい。

 そして、俺がソフィアから弾の詰まったバッグを受け取っている間にも、兵士たちは母さんの体を丁寧に持ち上げてから、引いてきた台車に乗せた。
 その一連の流れは速やかに行われ、慣れた様子を見るにどうやらあれは負傷者の運搬を行うためのもののようで、今までも何度も行なってきたのだろう。

 だが、そうか……そうだったな。今はザフトの処理をするよりも、母さんを砦に運んで治療させるのが先だった。そうするべきだった。
 そうわかっているにもかかわらず、俺はそれを後回しにして処理を優先していた。

 なんでそうしたのかっていったら、まあ怒っていたからだろう。母親を傷つけられて怒ってたのは自分でもわかるくらいだったから、そうしたのも理解はできる。
 だが、それでももうちょっと冷静になるべきだった。

「そうか。ありがとう。かあ——その人を頼むよ」

 母さんを頼む。そう言おうとして、だが人に言うのはなんだか少し恥ずかしくて俺は〝その人〟なんて他人のように呼んでソフィアに頼むと、ザフトの連中に向かって振り返り止まっていた足を再び踏み出し始めた。

 だが、数歩ほど踏み出したところでその動きを止めた。

 冷静になったからだろう。ふと今までよりも効率的な方法を思いついたのだ。
 その考えがうまくいくかは分からないが、試す価値はあるだろう。俺はそう考えると周囲を軽く見回し、次に自分の足元へと視線を向けた。

 そして、自分の足元に向かって天地返しを使い、地面を抉ってそれを空中に浮かせた。
 だが、いつものようにすぐに反転させて落とすのではなく、今回は中に浮かせたままその状態を維持する。

 そうすると俺は空中に浮かび上がった地面の上に立っていることができるんだが、ここからならよく見える。
 平面だと敵の奥までよく見ることができなかったんから狙いを定めてスキルの対象を設定するのも適当なものになっていたが、ここからならしっかりと地面を見ることができた。
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