異世界最強の『農家』様 〜俺は農家であって魔王じゃねえ!〜

農民ヤズ―

文字の大きさ
222 / 589
八章

お祝いの夜の出来事

「——えーっと、それじゃあ、えーっと……本日は新たに聖樹が誕生するという大変喜ばしい出来事が——」

 それから少しの時間が経ち、周囲はすでに日が落ちたことで暗くなっていたが、ここは照明で照らされているためにそんなに暗くはない。

「よく短時間でこれだけ準備できたもんだな」
「必要な時に必要なものを用意することができてこそのメイドですので」

 メイドすげー。

 ソフィアの言葉を受けてそんなことを思いながらあたりを見回すと、まず最初に目につくのは聖樹であり、そこから少し離れたところにはソフィアとベルが用意したテーブルや料理が置かれていた。少し離れているのは聖樹に火を近づけないためだ。もし火の粉が飛んで聖樹に燃え移ったとかになったら目も当てられないからな。

「にしても大変だっただろ。二人ともありがとな」
「——って聞いてよ! せっかく頑張って考えたんだから」

 色々と用意してくれたソフィアとベルに礼を言っていると、何だかリリアが叫び出した。
 まあ一応理由はわかってるんだけどな。リリアが言った通り、俺たちがあいつの話を聞いていないからだろう。

 しかしだ。俺からも言わせてもらいたいことがある。

「そもそもなんだってお前が音頭を取ってんだ? こう言うのは俺の役目じゃねえの?」

 やりたいわけじゃないけどさ。でも今回の主役って言ったら俺、あるいは聖樹だろ? リリア関係ないじゃん。

「え? だって目立ちたいんだもん」

 ……うん。そっか。よし、無視していこう。

 まあさっさと始めちゃうか。変に気取ることもないし、引き伸ばす理由もない。俺だって早く飯を食いたいし。リリアだって飯食ってれば大人しくなるだろうし。

「それじゃあ、聖樹の誕生……誕生? 発生? まあそんな感じのを祝って乾杯!」

 誕生というのを命が生まれた瞬間と捉えるのなら、種ができた時点で聖樹は誕生していたことになるので何と言っていいのかわからなかったが、まあその辺の細かいところはどうでもいいだろう。
 とにかくなんか楽しい雰囲気が出せれば聖樹は満足してくれるだろう。あとついでにリリアも。

「ふふ~ん! こうして外で食べるのも楽しくっていいわよね!」

 そう言ってリリアははしゃいだ様子を見せているが、もうすでにさっきまでの話を聞いてもらえなかった落ち込みからは抜け出したよう……あ、リリアのやつ頭から水被ってる。せっかく俺があいつ用に水出してやったのに。
 あいつ、手になんか持った状態で大きく動きすぎなんだよ。もっと落ち着いた動きをしろ。

「さて、そんじゃあ、一応演奏をしておくか」

 軽く料理を食べてからそう言うと、用意していた横笛をソフィアが俺に差し出してきた。
 それを受け取ると、俺は聖樹の前に立ち、横笛を構える。

 せっかくなら聞いたことがない感じのものがいいだろう。その方が楽しめるはずだ。

 そう思ってこちらの世界ではなく日本にいた時に聞いた神秘的な感じのする曲を奏で始める。

 楽器をまともに使うのは久しぶりだが、指は動くな。
 ちょっと危ないところもあったが、まあなんとか及第点は与えられる程度の出来で終わらせることができた。

「お疲れさん」
「お見事でした!」
「あんた、本当に楽器なんて使えたのね!」

 ベル達が演奏を終えた俺を迎えたが、リリアだけはものすごく失礼なことを言っている。
 まあ、この場は一応祝いの場だ。文句を言うのも弄るのも後にしてやろう。後にするだけだけどな。

「聞いたことがない曲でしたが、オリジナルでしょうか?」

 これでもソフィアは貴族の御令嬢だ。しかもどっかいいところに嫁げやしないかと全力で教養を身につけさせられた。そのため、貴族の令嬢としては最上級の教養が身に付いている。
 そんなソフィアが知らないとなれば、ものすごくマイナーな曲か、オリジナルってことになる。
 だが、この曲はオリジナルではない。すっごく遠い場所からちょっと持ってきただけだ。

「いや。前に勇者の世界の本を読んだことがあってな。そこに書かれてたんだ」

 嘘ではない。ただ、その本がこっちにあるわけではないってだけ。

「そうでしたか。お見事でした」
「でも、ソフィアの方がこういうのは得意そうなんじゃないか?」
「昔の話です。最近ではロクに練習をしていませんでしたし、指が動くか分かりません」
「そっか。まあソフィアが、というかうちで俺以外が演奏してるところを見たことも聞いたこともなかったな」
「……近いうちに練習しておきますので、いずれ一緒に演奏をしてみますか?」
「そうだなぁ……それも面白そうかもな」

 どうせやることなんてないんだ。国王と対峙するための準備は進めるが、それでも常に動き続けて準備をするってわけでもない。どうしたって空き時間というものは出てくるし、むしろそっちの方が多いかもしれない。
 だから、空いた時間はそうやって時間を潰すのもいいだろう。

「————」
「んあ?」

 それからは適当に食事を口にしながら過ごしていると、何か声が聞こえてくきたのに気がついた。いや、今のは声っていうかもうちょっと違う……

「……どうした」

 そこで片手に料理を持っていたカイルが俺の様子に気づいた。

「いや……なんか聞こえなかったか?」
「敵か?」

 俺の言葉を聞くなり手に持っていた料理を近くの台に置き、剣に手をかけるカイル。
 だが……

「どうだろう? 敵意の類は感じられなかったし、今もなんもない、よな?」
「まあ、敵意悪意の類はなんにもないな」

 カイルがそう言うなら、ひとまずは安心か。

 俺とは違って本当の意味でカラカスで生きてきたカイル。小さい頃は路地で過ごしていただけあって、その手の気配には俺よりも鋭い。
 そんなカイルが護衛として鍛えてきたのだから、敵意悪意の類は余程のことがない限り見逃すことがないだろう。

「それに、ソフィアは何の反応もしてねえみたいだしな」
「ん? ソフィアがどうかしたのか?」
「忘れたのか? ソフィアのスキル」
「……何があったっけ?」

 ソフィアのスキルと言われて思い出してみるが、何かあったか?

「『従者』を第三位階にしたときに覚えた常時発動スキルだ。自身が主人と定めた相手に対する敵意や悪意を感じ取ることができるだろ? 位階が低いと主人と離れてると効果はないとか聞いたが、この程度の距離なら気付くだろ」

 そういえばそんなのもあったな。ベルの場合は確か主人の状態を感知する能力、だった気がする。一定範囲内に主人——俺がいれば、健康かどうかとか怪我をしているとか、あとは俺に場所なんかがわかるらしい。

 ソフィアのスキルはベルとは違って、俺の状態ではなく、俺に敵意を向ける存在について知覚する能力だ。
 便利だが、主人限定となると随分と使い勝手が悪いような気もする。でもまあ、従者としては役に立つことは間違いないな。

「そのソフィアが騒がないなら一応は安心ってか」
「油断するほど安心できるかってーとまた別だけどな」

 一応の危険はないみたいだが、確認しないわけにもいかない、か。

「なになに? 何話してんの?」
「どうかされましたか?」

 なんて俺たちだけで話していたからだろうか。リリアが肉を片手にこっちにやってきた。
 口の周りにベタベタとタレをつけているが、こいつならこんなもんだろ。
 エルフが何の迷いもなく肉を食ってるところに言いたいことがないわけでもないが、別にエルフは俺がそう言うイメージを持ってるだけで菜食主義ってわけでもないんだから肉を食っていてもおかしくはない。

「口の周りにタレがついてんぞ。ふけよ」
「あ、そう? ……あれ?」

 口の周りが汚れていることを教えてやったのだが、リリアはそれを拭おうとして、だがその手を止めた。よく見るとリリアの手は汚れているからそれに気がついたんだろう。
 けど、そりゃあそうだろとしかいえない。だって手掴みで料理食ってるし、汚れないわけがない。
 しかし、リリアも成長しているのだろう。前にも似たようなことがあったときはそのままの手で口元を拭って余計に汚していたが、今回はちゃんと気づけた。
 そして、あろうことかそれだけではなくポケットに手を入れてハンカチを取り出したのだ。
 取り出したハンカチで口を拭い、汚れを落とすと、どうだと言わんばかりに胸を張った。
 綺麗にできたことを褒めて欲しいんだろうか? ……子供かよ。

 でもさ、そんな汚れてる手をポケットに突っ込んでみろよ。どう考えても服が汚れるだろ。しかも、口を拭ったあとのハンカチを裏返して折り畳むこともなくそのまままたポケットに突っ込みやがった。その結果汚れがどうなるか、とか全く考えていない。

 こいつ、成長しているようで成長しない気がするんだが、それは俺の勘違いだろうか?

 まあ、その辺のことはソフィアに任せよう。服の汚れ自体は浄化があるから問題ないだろうし。

 そんなことよりも、今はソフィアとベルに状況を話すことの方が大事か。

「——ってわけで、なんとなく異変がありそうな気がしたんだ。もしかしたら何もないかもしれないが、その場合は悪いな」
「いえ、もしこれで何かあったら問題ですから。今後も異変や違和感がありましたら迷うことなくお呼びしてくださって構いません」

 ソフィアの言葉にベルが頷き、リリアも頷いた。だが、リリアはちゃんと話がわかってるんだろうか? こいつの場合はただ頷いてそうな気がするんだよな。

「で、その異変はその後なんかあるのか?」
「ああ。なんだかずっと見られてるような、それから呼ばれてるようなそんな感じがしてる」

 カイルの言葉で意識を周囲に向けるが、先ほどから状況は変わっていない。

「見られてるって言っても、気配はなんもねえぞ?」
「声も聞こえませんし、呼ばれていると言っても誰にでしょうか?」
「それはわからないけど、とりあえず反応のある方に行くしかないだろ」

 そうして俺たちは一旦料理や飲み物などを置いてそれぞれの武装を手にすることにした。

「どっちだ?」
「反応は……あっちだな」

 俺はそう言いながら指をさすが……

「あっちって、聖樹か?」

 その方向には聖樹があった。
 だが、その様子は何だか先程までとは違っていた。

「あれ? なんだか、ちょっと光ってる?」
感想 517

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

何でも押し付けられて拘束されてた役立たずのコミュ障だけど雑用やって脱出したので奪い取られるだけの毎日はやめて目立たずのんびり毎日を満喫する!

迷路を跳ぶ狐
ファンタジー
 高名な魔法使いの家に生まれながら、ろくに魔物も倒せず、無能と虐げられるパッとしない僕。  それでも「強力な魔法使いとして名を馳せることが義務だ!」と無理に魔物討伐隊の隊長に任命されたけど、僕は一族が望んだ成果とは程遠い、情けない結果しか残せなかった。  激怒した一族は僕を幽閉、罪人の汚名まで着せられ、その後は城の雑用全てを押し付けられる日々。  こんなところにずっといられるか!!  僕を心配した義兄様と幼い頃からの付き合いの伯爵家の力も借りて、やっと脱出した僕。雑用を担う魔法使いとして働きながら、世界を満喫することを決めた。義兄様は僕が心配なのか、「雑用なんて……」って言うけど、雑用やってくれてる人がいてくれるから世界は回ってるんですよ! と、僕は言い返した。  引きずったコミュ障はそのままだし、思いがけず魔物に襲われたり、恩人が領主の城に連れて行かれるのを目撃してしまったり……いろいろあるけど、せっかく脱出したんだ!! これからのんびり雑用しながら毎日を楽しみます!

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監
ファンタジー
日本のIT企業戦士であった有能な若者がある日突然に異世界に放り込まれてしまった。 異世界に転移した際に、ラノベにあるような白い世界は無かったし、神様にも会ってはいない。 但し、理由は不明だが、その身には強大な魔法の力が備わっていた。 転移した異世界の都市は、正にスタンピードで魔物の大襲撃に遭っているところであり、偶然であるにせよその場に居合わせた転移者は魔物を殲滅して街を救い、以後その異世界で大魔法師として生きることになった。 そうして、転移から200年余り後、親族や大勢の弟子が見守る中で彼は大往生を遂げた。 しかしながら、異世界で生涯を終え、あの世に行ったはずが、230年余りの知識経験と異能を持ったまま赤子になって明治時代に生まれ変わってしまったのである。 これは異世界に転移したことのある出戻り転生者の物語である。 *  あくまでもフィクションであり、登場人物や時代背景は史実とは異なります。 ** 史実に出て来る人物又は良く似た名前の人物若しくは団体名が登場する場合もありますが、広い心で御容赦願います。 *** 週1(土曜午後9時)の投稿を予定しています。 @ 「小説家になろう」様にも投稿しています。