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八章
感動の再会……?
「——ここだな」
「ここに娘が……」
地図に書かれていたのは東区の中でも東の端の方にある建物。見た目だけで言ったらそこら辺の建物と対して変わらないが、うちの所有だってわかっているからかその建物の周りで屯している奴はいない。
「坊ちゃん?」
「どうしてまたこんなとこに来てんすか? それとそっちのはどこのどいつで?」
そんな場所に俺と子爵、あとお互いの護衛たちを引き連れ、馬車を降りてその建物に近づいていく。
馬車から降りて近づいたところで警備をしていたもの達が驚いた様子で俺に話しかけてくるが、子爵に向けられるのは探るような視線と警戒心だった。
だが、そんな態度も無理はないだろう。だってこの場所はカラカスの中でも暗い、奥まった場所にあるんだから。
ここがどれくらいハズレの場所にあるのかというと、俺はこの建物には一度も来たことがないくらいだ。
一応、逃げ場を確保するって意味で大雑把ながら街の地図は頭に入れてあるから存在は知っていたけど、来たこと自体はなかった。
それなのに今回突然余所者を連れてやってきたとなれば驚くし、なんのために、と警戒してもおかしくないかもしれない。
「この人はここにいるらしい女の父親だ。親父の許可はある。ほら」
「……確かに」
俺だってここに何があるのかわかっていないが、ここに行けと言われ、親父から許可をもらっただけ。
「坊ちゃん。そいつの娘が中にいるのかもしれませんが……お気をつけてください」
お気をつけてってなんだ? 何があるんだ? そんな気をつけないといけないような何かがあるとでも言うのか?
「それは……」
「中を見ればわかります。少し進むと部屋があってそこに案内がいますんで、そいつのいう通りに進んでください」
そのことについて尋ねてみようとしたのだが、男は俺の言葉を遮って首を横に振った。
それ以上聞いても何も答えてくれないだろうと言うことがわかったので、俺はその場での問答をやめて勧められた通り先に進むことにした。
どうせ先に行けば何があるかなんてわかるんだ。なら、今は進もう。
「はーい」
建物のドアをノックすると、中からどこか気怠げな女性の声が聞こえてきた。
「あー……どなた?」
少し待っているとドアが開き、中から先程の声の主であろう女性が顔を見せたが、俺たちのことがわからないんだろう。少し警戒を滲ませた様子でこっちのことを見ている。
「ここにこの人の娘がいるからって教えられた。親父からの許可はある」
そう言いながら親父からもらった紙を渡し、許可があることを示したのだが……
「えっと、確かにボスからの許可ですね。それじゃあ……え? 親父って……もしかして坊ちゃん!? え、うそ! うっわ、大きくなってんじゃん!」
どうやらこの女性は俺の知り合いのようだ。優しげに、そして楽しげに笑いながら少しかがみ込むようにして俺の顔を覗き込んできた。
うちの所有している建物にいるんだからうちの人間なわけで、知り合いでもおかしくはないんだが、失礼ながら見覚えがない。
大きくなってるって表現からして俺がガキの頃にあったんだろうが、いつ頃の話だろうか?
「……どっかで会ったか?」
「あっ、そっかわかんないか。結構小さい時にお屋敷で働いてたんだよ——ですよ?」
「別に普段通りでいいさ」
「そう? まあじゃあいいや。で、かれこれもう五、六……八年くらい? ここと似たような場所で似た感じで働いててさ、そんなだからもうずっと会ってないんだ。だからわかんなくても仕方ないかな。……あっ、ちなみに名前はメアリーね」
話しづらそうにしていたから普段通りでいいと言うと、メアリーは迷うことなく態度を変えて……いや、戻して自分について説明してくれた。
八年前だと……俺が七歳くらいの時か? この調子だとあるいはもっと前って可能性もあるが、まあその辺の話だな。
……んー、ガキの頃どころか赤ん坊の頃から記憶ははっきりしてるんだけど、ぶっちゃけ記憶にない。
けど、あの館って人の出入り結構あったし、全員の顔を覚えているわけでもないから仕方ないだろう。向こうは俺のことを知っていて、うちの仲間だってことだけ理解しておけば良いだろう。
「そうだったのか。それでメアリー。俺たちがここにきた目的だが……」
「はいはい。——そっちの人の娘がここにいる、だったね。会いにきたんでしょ?」
突然雰囲気が変わった。それこそ先程までの優しさの感じられた姿は別人だったと言われても納得できてしまいそうなくらい。
「……ああ。これを渡せって」
「そうだ。いるのなら会わせてくれ」
「……ボスの許可が出てるみたいだし、いいけど……」
すでに親父から許可は出ているんだし、すんなりと通してくれるものかと思っていたが、俺が親父からの手紙を渡してもメアリーはどこか渋った様子を見せている。
「あたしの許可なく勝手に行動しないでね。それが守れるんだったら案内してあげる」
そして、少し悩ましげに顔を顰めた後、小さく首を振りながら息を吐き出してそう言った。
メアリーは俺たちを案内するように歩き出し、俺たちはその後をついていくが……
「……地下?」
向かったのは地下へと続く階段だった。
だが、その階段への道を遮っていた扉は異常なものだと言えるくらいに頑丈すぎる作りをしていた。
玄関や建物の主人の部屋につけるのならまだわかる。だが、ここは地下への道だ。まさかこの先にこの建物の管理者の部屋があるわけでもないだろう。
「そ。地上だといつ誰に会うかわからないからね。みんなの状況を考えると、どうしたって人目から遠ざけないとなんだけど……ま、地下に隠すのが一番安全なわけなの」
そんな場違いなほどに頑丈な扉を空けて階段を下っていくと、再び先程のものと同じような扉が目に入った。
その扉をあけて奥へと進むが、その先にはなんだかよくわからない部屋があった。長方形の部屋を三つに区切った、と言えばわかるだろうか。
部屋を区切っているのは、刑務所なんかにある面会室の仕切りのような壁で、下半分は普通の壁だけど上半分は鉄格子によって遮られている。
刑務所と違うのは仕切りが二重になっていて、間の空間がやけに広いってことだが……なんでそんな作りになっているのかわからないが、何かしら意味のあるものなんだろう。
「じゃ、今連れてくるから待ってて」
メアリーはそう言うと俺たちを残して一つ目の仕切りの鍵を開けて出ていき、反対側から鍵を閉めた。
そのまま二つ目の仕切りに進み、鍵を開けて出入り口を潜るとまた鍵を締め直した。
そして二つ目の仕切りのさらに奥にある扉へと向かい、その奥へと消えていった。
作りもそうだが、そのやけに厳重な行動がこの場所の異常さをこっちに伝えてくる。
「なんだここは……刑務所、じゃないよな」
「私も見たことありません」
「お前が知らないなら知らないって。存在すらさっぱりだったくらいだ」
「私もこんな場所があるなんて今日初めて知りました」
俺だけじゃなく、ソフィアもカイルもベルも、誰もこの場所については知らないようだ。
そうしてしばらく待っていると、二つの仕切りの向こうにある扉からメアリーが戻ってきた。
だが、戻ってきたメアリーは一人ではなく、もう二人、女性が一緒に姿を見せた。
その二人のうち片方はメアリーの同僚なのだろうか。少し何かを話している。
だが、もう片方の女性——いや、女性というよりも少女か。その少女はどこか虚な目をし、全体的にやつれて見窄らしい感じのしている様子だ。一緒に現れた女性に手を引かれている。
「エリスッ!」
エリスって……あれがあの時のお嬢様? 嘘だろ?
父親である子爵が叫んでいるのだから間違いはないんだろうが、俺の目には視線の先にいる少女があの時の貴族の娘だとはどうしても思えなかった。
目の前にある鉄格子が邪魔だと言わんばかりに鉄格子を掴み、その手に力を込めている子爵を見ていると、いつの間にかこちらに向かってきていたメアリーに気がついた。
「どけっ!」
「ちょ、きゃっ!」
が、メアリーが扉を開けてこちらに戻って来たのと同時に走り出し、メアリーを押し退けてエリスの元へと走っていった。
その動きはとても速く、メアリーの突き飛ばされ方も普通ではなかった。おそらくはなんらかのスキルを使ったのだろう。
「ああよかった! よかったっ……!」
そうして子爵は娘の前に立つことができたが、メアリーを押しのけたとはいってもまだもう一つ仕切りが残っているため、それを間に挟んでの再会となった。
「もう大丈夫だ。帰ろう。家に帰るんだ。もうお前を攫われるなんて危険な目に合わせたりなどしない! こんなところからもすぐに出してやる。だから、かえ——」
「何してるんですか!」
鉄格子の隙間から娘に向かって手を伸ばす子爵だが、エリスのそばにいた女性が手を向けて魔法を発動した。
風の塊を叩きつけるだけの魔法だったがために怪我などはなく吹っ飛ばされただけだったが、それでも鉄格子から距離を取らされていた。
そこでメアリーが追いつき、子爵の体を掴んで押し倒し、拘束した。
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* あくまでもフィクションであり、登場人物や時代背景は史実とは異なります。
** 史実に出て来る人物又は良く似た名前の人物若しくは団体名が登場する場合もありますが、広い心で御容赦願います。
*** 週1(土曜午後9時)の投稿を予定しています。
@ 「小説家になろう」様にも投稿しています。