異世界最強の『農家』様 〜俺は農家であって魔王じゃねえ!〜

農民ヤズ―

文字の大きさ
257 / 589
九章

王様就任

 
「そんなわけで、あんたしか王様候補がいないんだ。今回の騒ぎの原因はあんたとも言えるんだから、素直に罰ゲームを受けときな」

 罰ゲームで王様決めるのかよ。それでいいのか、この街。
 まあ、親父なら誰も文句言わない気もするけど。

「それに、ちょうど良いじゃないですか。息子が王子なのですから、あなたが王を名乗ってもおかしくはないでしょう?」

 かと思ったら、エドワルドがそんなことを口にした。

「は? ……は?」

 俺はその言葉を聞いた瞬間に、思わず声を漏らしてしまったが、その言葉の意味を考え直してみても同じように間抜けな声を漏らしてしまった。

 だが、それも仕方ないだろ? だって、俺が王族の血を引いてるってのは身内しか知らないことなんだ。最初に俺を拾ってくれた親父とその時にいた仲間以外は、うちの所属の奴らであっても知らないはず。
 それをこうも堂々と、知っていて当たり前かのように口にされたんだから驚かないはずがない。

「……てめえ、知ってたのか?」
「むしろ知らないと思いましたか? あなたが来た時から調べていましたよ。その時はそれほど本気ではなかったのですが、あの決闘騒ぎの時から少々真面目に調べさせていただきました」

 親父はスッと目を細めて雰囲気を変え、エドワルドを軽く威圧したが、それでもエドワルドの態度は変わらなかった。親父のそれが単なる威嚇であり、実際に手を出すつもりはないと理解しているからだろう。

「はぁ、そうかよ。……つか、なんだ。お前は王様やりたくねえのか? 武力に関しては俺が担当してもいいぞ」

 親父が王様として押されているのは、カラカスの住民達をおとなしくさせるだけの『力』があるからだ。
 だが、逆に言えば力さえあれば誰であっても王様にはなれるってことで、親父が協力することで『力』担当を確保できるんだったらエドワルドが王様をやることだってできるってことだ。

 だから親父は、自分が『力』になってやるからお前が王様やれよ、と言う押し付けのような提案をしたわけだ。と思う。

 だが、そんな親父の考えは……

「いえ、私の場合はそんなものよりも財務大臣をやりたいですね。良いですよね財務大臣。もう響きが素晴らしい」

 という、とてもどうでもいい理由で却下された。
 そんな理由で断られるほど王様の立場って軽いものなのか?

「大臣か……。ならあたしはどうしようかねぇ……。外務大臣とかそこら辺かねぇ。接待は得意だし。うちの子たちも使えば、まあ失敗はないだろうね」

 そして婆さんもさっさと自分の事を決めてしまう。

「んで、俺が王様か……まじで俺が王様やんのか?」

 そんな二人の言葉を聞いて親父はなんとも言えない顔をしてるが、そりゃあそうだろうな。選択肢が親父しかないとはいえ、そもそも親父だって王様ってガラじゃないもんな。

「当たり前じゃないですか。嫌ならそれはそれで構いませんが、勝手にこっちで仕立て上げますよ?」
「もう決まったんだから諦めな。それに、そんな何かをする必要なんてないだろう? この街で縛りつけようとしたら暴動が起こるよ。今まで通りでいいのさ。外面だけ国の体裁を取ってればそれで十分さね」
「はあ……めんどくせ——」

 親父は嫌そうな顔をしながら盛大にため息を吐き出したが、そこで目があってしまった。なんか嫌な予感がするが、これは気のせいだろうか? 気のせいであってほしい。

 だが、そんな俺の願いは儚くも消え去ることになりそうだ。だってこいつ、すごいムカつく笑みを浮かべてんだもん。

「おい親父——」
「おい待った。王様の件、俺じゃなくてこいつでよくねえか?」

 そして、そんな俺の考えが正しかったんだと証明するかのように親父は再び正面に顔を向けると、俺の呼びかけを遮って俺のことを指差しながら言い放った。

「おや、息子を身代わりにするのかい? ひどい親だねえ」
「一応こちらとしても配慮してその子ではなく貴方にしたのですが?」
「配慮なんていらねえよ。この場にいる以上はもうガキじゃねえだろ?」

 この場にいる以上はって、連れてきたのあんたじゃん。今回の事情説明云々とか、今後を考えて参加しといたほうが云々って事で。
 別に新しく会議に参加してくれって正式に打診されたわけでもないし、俺から進んできたわけでもない。

「それに、まじもんの王子であるこいつが王様やった方が正当性とかなんかそんな感じのはいい感じじゃねえか?」

 親父の言葉は随分とあやふやなものだが、確かに俺の血筋を使えば普通のやつを使うよりは上手く話を進めることができるだろうとは思う。
 だからってやりたいわけでもないけど。

「……まあそうですね。理不尽な理由で国王に捨てられた王子が生き延びた。そして生き延びた先で犯罪者たちをまとめ上げて治安を回復させたとなれば、市民感情としては正当性がどっちにあるのか悩むでしょうね」
「力は見せた。若いから将来性もあるし世代交代で荒れ辛い……良いんじゃないかい?」

 なんかエドワルドも婆さんもいい感じに話が決まっている気がするが、俺は俺が王様として担がれる事を良しとしたわけじゃないぞ。

「いや、俺は嫌なんだけ——」
「じゃあそういうわけで、こいつが王様な! 俺は、あー、軍務卿とかそんなんか。……いや? それよか騎士か? 一応前職は騎士だったわけだし、もっかい騎士にでも戻って騎士団長でもやってるか」
「おい待て! くそっ! なに押し付けてんだ。ざけんなよ!?」

 しかし、そんな俺の言葉も無視されてしまい虚しく消えていく。

 こいつら、まさか談合でもしてやがったんじゃないかってくらいにスムーズに話が進んでいくんだが、もしかして本当にそうなのか?

 確かに親父は王様より軍部の方が似合ってるかもしれないけど、だからって俺に王様役を押し付けるかよ!?

「それでは王様、これからよろしくお願いいたしますね。金の管理は任せてください」

 エドワルドは以前見たことのある金稼ぎを考えている笑みを浮かべている。

「あたしもよろしく頼むよ、王様。……おっと、こんな話し方したら首を切られちまうかねえ?」

 婆さんは楽しげな様子で笑っている。

「頑張れよ、王様」

 そして親父は揶揄うように、だがどこか満足げにしながらニヤリと笑っていた。

 全員笑っているのは同じだが、そこに込められている思いは多分全員別の物だろう。

「いや、おい、待て! これはダメだろ! これはなくないか!?」

 こんな最初っから決まってた流れみたく話が進んでいいのか? ボス達の中からトップを決めるんだからもっとこう、時間をかけたりして話し合って決めるもんじゃないのかよ?

「良いじゃねえか。血筋的には問題ねえし、教養も身についてる。それに、一部ではすでに魔王だなんて呼ばれてんだろ?」

 俺の文句に対して親父がそう指摘してきた。

 確かにその言葉は間違いじゃないさ。
 魔王って呼ばれたのも間違いではないし、血筋もまあ王族のものではある。教養はこのクソ親父に無理矢理だったが習わされたから、今から王宮に行ったとしても文句を言われない程度の作法は身についている。

 だが、実際に王様やりたいかって言うとやりたくない。

「魔王。良いじゃないかい。随分と楽しそうな名前だねぇ。いやいや、こんな歳でこんな心踊る状況に出くわすとは、人生なんてわかんないもんだね」
「では魔王様。これからよろしくお願いします。ああ、拒否しても構いませんが、こちらで強引に仕立て上げますので面倒が増えると思いますよ」

 強引に仕立て上げるとか、確かにこいつらなら問題なくできるだろうけどさ! 俺にも拒否権とかねえのかよ!

「いやっ、くそっ……!」

 その場にいた三人のボスの顔を見回すが、全員がそれぞれ違った笑みを浮かべている。
 どうやら、これはもう決定事項のようだと言うのを嫌でも理解せざるを得ない。

「てめえクソ親父っ! ちょっと顔面貸せ。殴らせろ!」 

 もう決まった事だというのは理解したが、この謀られた感の溢れるやるせなさはどうしようもない。
 それを少しでも解消するために……言ってしまえば八つ当たりをするために拳を握ったのだが、あいにくと周りにいるのは五帝とその部下。
 エドワルドも婆さんも殴るわけにはいかないし、そもそも俺としてもなんかこいつらを殴ってもあんまし納得できないというか、殴ったところで気が晴れないような気がする。ぶっちゃけると殴るのに抵抗感がある。ほら、俺ってば常識と良識が溢れてるからさ。あんまし関わりのない人を殴るのとかちょっとな。

 だが、親父は別だ。普段から結構こういう暴力まじりのスキンシップはあったので殴る事そのものに抵抗はないし、八つ当たりにはちょうどいい。
 それに、今笑っている三人の中でもニヤニヤと笑う親父の顔が一番ムカついたって理由もある。なんかこいつ、いつになく楽しげに笑ってる気がするんだよな。

 なので、親父にやるせなさと拒絶をのせた拳を送ろうと思う。息子から父へのプレゼントだ。喜んで受け取れ。

「おっと、いきなりの命令か? おいおい、暴君にはならねえで欲しいんだが?」

 そんな拳を構えながらの俺の言葉に、親父は戯けたように両手をあげて怯えたような顔をしているが、どう考えてもこいつが俺に怯えるわけがない。

「安心しろ。こんなのはあんたに対してだけだから。王様からの特別扱いだ。良かったな」

 息子から父親への贈り物が嫌だってんなら、王様から部下への贈り物に変更だ。俺が王様だってんなら断れないだろ?
 いや、どうだろう? 親父の場合は平気で断りそうだし逆らいそう。

「正式に就任式やるまでは王様扱いしねえでいてやるよ。良かったな」
「よくねえよ!」

 そんな期間限定の普通扱いはいらない! どうせならずっと王様扱いしないでくれ!
感想 517

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

何でも押し付けられて拘束されてた役立たずのコミュ障だけど雑用やって脱出したので奪い取られるだけの毎日はやめて目立たずのんびり毎日を満喫する!

迷路を跳ぶ狐
ファンタジー
 高名な魔法使いの家に生まれながら、ろくに魔物も倒せず、無能と虐げられるパッとしない僕。  それでも「強力な魔法使いとして名を馳せることが義務だ!」と無理に魔物討伐隊の隊長に任命されたけど、僕は一族が望んだ成果とは程遠い、情けない結果しか残せなかった。  激怒した一族は僕を幽閉、罪人の汚名まで着せられ、その後は城の雑用全てを押し付けられる日々。  こんなところにずっといられるか!!  僕を心配した義兄様と幼い頃からの付き合いの伯爵家の力も借りて、やっと脱出した僕。雑用を担う魔法使いとして働きながら、世界を満喫することを決めた。義兄様は僕が心配なのか、「雑用なんて……」って言うけど、雑用やってくれてる人がいてくれるから世界は回ってるんですよ! と、僕は言い返した。  引きずったコミュ障はそのままだし、思いがけず魔物に襲われたり、恩人が領主の城に連れて行かれるのを目撃してしまったり……いろいろあるけど、せっかく脱出したんだ!! これからのんびり雑用しながら毎日を楽しみます!

親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監
ファンタジー
日本のIT企業戦士であった有能な若者がある日突然に異世界に放り込まれてしまった。 異世界に転移した際に、ラノベにあるような白い世界は無かったし、神様にも会ってはいない。 但し、理由は不明だが、その身には強大な魔法の力が備わっていた。 転移した異世界の都市は、正にスタンピードで魔物の大襲撃に遭っているところであり、偶然であるにせよその場に居合わせた転移者は魔物を殲滅して街を救い、以後その異世界で大魔法師として生きることになった。 そうして、転移から200年余り後、親族や大勢の弟子が見守る中で彼は大往生を遂げた。 しかしながら、異世界で生涯を終え、あの世に行ったはずが、230年余りの知識経験と異能を持ったまま赤子になって明治時代に生まれ変わってしまったのである。 これは異世界に転移したことのある出戻り転生者の物語である。 *  あくまでもフィクションであり、登場人物や時代背景は史実とは異なります。 ** 史実に出て来る人物又は良く似た名前の人物若しくは団体名が登場する場合もありますが、広い心で御容赦願います。 *** 週1(土曜午後9時)の投稿を予定しています。 @ 「小説家になろう」様にも投稿しています。