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九章
王様就任
「そんなわけで、あんたしか王様候補がいないんだ。今回の騒ぎの原因はあんたとも言えるんだから、素直に罰ゲームを受けときな」
罰ゲームで王様決めるのかよ。それでいいのか、この街。
まあ、親父なら誰も文句言わない気もするけど。
「それに、ちょうど良いじゃないですか。息子が王子なのですから、あなたが王を名乗ってもおかしくはないでしょう?」
かと思ったら、エドワルドがそんなことを口にした。
「は? ……は?」
俺はその言葉を聞いた瞬間に、思わず声を漏らしてしまったが、その言葉の意味を考え直してみても同じように間抜けな声を漏らしてしまった。
だが、それも仕方ないだろ? だって、俺が王族の血を引いてるってのは身内しか知らないことなんだ。最初に俺を拾ってくれた親父とその時にいた仲間以外は、うちの所属の奴らであっても知らないはず。
それをこうも堂々と、知っていて当たり前かのように口にされたんだから驚かないはずがない。
「……てめえ、知ってたのか?」
「むしろ知らないと思いましたか? あなたが来た時から調べていましたよ。その時はそれほど本気ではなかったのですが、あの決闘騒ぎの時から少々真面目に調べさせていただきました」
親父はスッと目を細めて雰囲気を変え、エドワルドを軽く威圧したが、それでもエドワルドの態度は変わらなかった。親父のそれが単なる威嚇であり、実際に手を出すつもりはないと理解しているからだろう。
「はぁ、そうかよ。……つか、なんだ。お前は王様やりたくねえのか? 武力に関しては俺が担当してもいいぞ」
親父が王様として押されているのは、カラカスの住民達をおとなしくさせるだけの『力』があるからだ。
だが、逆に言えば力さえあれば誰であっても王様にはなれるってことで、親父が協力することで『力』担当を確保できるんだったらエドワルドが王様をやることだってできるってことだ。
だから親父は、自分が『力』になってやるからお前が王様やれよ、と言う押し付けのような提案をしたわけだ。と思う。
だが、そんな親父の考えは……
「いえ、私の場合はそんなものよりも財務大臣をやりたいですね。良いですよね財務大臣。もう響きが素晴らしい」
という、とてもどうでもいい理由で却下された。
そんな理由で断られるほど王様の立場って軽いものなのか?
「大臣か……。ならあたしはどうしようかねぇ……。外務大臣とかそこら辺かねぇ。接待は得意だし。うちの子たちも使えば、まあ失敗はないだろうね」
そして婆さんもさっさと自分の事を決めてしまう。
「んで、俺が王様か……まじで俺が王様やんのか?」
そんな二人の言葉を聞いて親父はなんとも言えない顔をしてるが、そりゃあそうだろうな。選択肢が親父しかないとはいえ、そもそも親父だって王様ってガラじゃないもんな。
「当たり前じゃないですか。嫌ならそれはそれで構いませんが、勝手にこっちで仕立て上げますよ?」
「もう決まったんだから諦めな。それに、そんな何かをする必要なんてないだろう? この街で縛りつけようとしたら暴動が起こるよ。今まで通りでいいのさ。外面だけ国の体裁を取ってればそれで十分さね」
「はあ……めんどくせ——」
親父は嫌そうな顔をしながら盛大にため息を吐き出したが、そこで目があってしまった。なんか嫌な予感がするが、これは気のせいだろうか? 気のせいであってほしい。
だが、そんな俺の願いは儚くも消え去ることになりそうだ。だってこいつ、すごいムカつく笑みを浮かべてんだもん。
「おい親父——」
「おい待った。王様の件、俺じゃなくてこいつでよくねえか?」
そして、そんな俺の考えが正しかったんだと証明するかのように親父は再び正面に顔を向けると、俺の呼びかけを遮って俺のことを指差しながら言い放った。
「おや、息子を身代わりにするのかい? ひどい親だねえ」
「一応こちらとしても配慮してその子ではなく貴方にしたのですが?」
「配慮なんていらねえよ。この場にいる以上はもうガキじゃねえだろ?」
この場にいる以上はって、連れてきたのあんたじゃん。今回の事情説明云々とか、今後を考えて参加しといたほうが云々って事で。
別に新しく会議に参加してくれって正式に打診されたわけでもないし、俺から進んできたわけでもない。
「それに、まじもんの王子であるこいつが王様やった方が正当性とかなんかそんな感じのはいい感じじゃねえか?」
親父の言葉は随分とあやふやなものだが、確かに俺の血筋を使えば普通のやつを使うよりは上手く話を進めることができるだろうとは思う。
だからってやりたいわけでもないけど。
「……まあそうですね。理不尽な理由で国王に捨てられた王子が生き延びた。そして生き延びた先で犯罪者たちをまとめ上げて治安を回復させたとなれば、市民感情としては正当性がどっちにあるのか悩むでしょうね」
「力は見せた。若いから将来性もあるし世代交代で荒れ辛い……良いんじゃないかい?」
なんかエドワルドも婆さんもいい感じに話が決まっている気がするが、俺は俺が王様として担がれる事を良しとしたわけじゃないぞ。
「いや、俺は嫌なんだけ——」
「じゃあそういうわけで、こいつが王様な! 俺は、あー、軍務卿とかそんなんか。……いや? それよか騎士か? 一応前職は騎士だったわけだし、もっかい騎士にでも戻って騎士団長でもやってるか」
「おい待て! くそっ! なに押し付けてんだ。ざけんなよ!?」
しかし、そんな俺の言葉も無視されてしまい虚しく消えていく。
こいつら、まさか談合でもしてやがったんじゃないかってくらいにスムーズに話が進んでいくんだが、もしかして本当にそうなのか?
確かに親父は王様より軍部の方が似合ってるかもしれないけど、だからって俺に王様役を押し付けるかよ!?
「それでは王様、これからよろしくお願いいたしますね。金の管理は任せてください」
エドワルドは以前見たことのある金稼ぎを考えている笑みを浮かべている。
「あたしもよろしく頼むよ、王様。……おっと、こんな話し方したら首を切られちまうかねえ?」
婆さんは楽しげな様子で笑っている。
「頑張れよ、王様」
そして親父は揶揄うように、だがどこか満足げにしながらニヤリと笑っていた。
全員笑っているのは同じだが、そこに込められている思いは多分全員別の物だろう。
「いや、おい、待て! これはダメだろ! これはなくないか!?」
こんな最初っから決まってた流れみたく話が進んでいいのか? ボス達の中からトップを決めるんだからもっとこう、時間をかけたりして話し合って決めるもんじゃないのかよ?
「良いじゃねえか。血筋的には問題ねえし、教養も身についてる。それに、一部ではすでに魔王だなんて呼ばれてんだろ?」
俺の文句に対して親父がそう指摘してきた。
確かにその言葉は間違いじゃないさ。
魔王って呼ばれたのも間違いではないし、血筋もまあ王族のものではある。教養はこのクソ親父に無理矢理だったが習わされたから、今から王宮に行ったとしても文句を言われない程度の作法は身についている。
だが、実際に王様やりたいかって言うとやりたくない。
「魔王。良いじゃないかい。随分と楽しそうな名前だねぇ。いやいや、こんな歳でこんな心踊る状況に出くわすとは、人生なんてわかんないもんだね」
「では魔王様。これからよろしくお願いします。ああ、拒否しても構いませんが、こちらで強引に仕立て上げますので面倒が増えると思いますよ」
強引に仕立て上げるとか、確かにこいつらなら問題なくできるだろうけどさ! 俺にも拒否権とかねえのかよ!
「いやっ、くそっ……!」
その場にいた三人のボスの顔を見回すが、全員がそれぞれ違った笑みを浮かべている。
どうやら、これはもう決定事項のようだと言うのを嫌でも理解せざるを得ない。
「てめえクソ親父っ! ちょっと顔面貸せ。殴らせろ!」
もう決まった事だというのは理解したが、この謀られた感の溢れるやるせなさはどうしようもない。
それを少しでも解消するために……言ってしまえば八つ当たりをするために拳を握ったのだが、あいにくと周りにいるのは五帝とその部下。
エドワルドも婆さんも殴るわけにはいかないし、そもそも俺としてもなんかこいつらを殴ってもあんまし納得できないというか、殴ったところで気が晴れないような気がする。ぶっちゃけると殴るのに抵抗感がある。ほら、俺ってば常識と良識が溢れてるからさ。あんまし関わりのない人を殴るのとかちょっとな。
だが、親父は別だ。普段から結構こういう暴力まじりのスキンシップはあったので殴る事そのものに抵抗はないし、八つ当たりにはちょうどいい。
それに、今笑っている三人の中でもニヤニヤと笑う親父の顔が一番ムカついたって理由もある。なんかこいつ、いつになく楽しげに笑ってる気がするんだよな。
なので、親父にやるせなさと拒絶をのせた拳を送ろうと思う。息子から父へのプレゼントだ。喜んで受け取れ。
「おっと、いきなりの命令か? おいおい、暴君にはならねえで欲しいんだが?」
そんな拳を構えながらの俺の言葉に、親父は戯けたように両手をあげて怯えたような顔をしているが、どう考えてもこいつが俺に怯えるわけがない。
「安心しろ。こんなのはあんたに対してだけだから。王様からの特別扱いだ。良かったな」
息子から父親への贈り物が嫌だってんなら、王様から部下への贈り物に変更だ。俺が王様だってんなら断れないだろ?
いや、どうだろう? 親父の場合は平気で断りそうだし逆らいそう。
「正式に就任式やるまでは王様扱いしねえでいてやるよ。良かったな」
「よくねえよ!」
そんな期間限定の普通扱いはいらない! どうせならずっと王様扱いしないでくれ!
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*** 週1(土曜午後9時)の投稿を予定しています。
@ 「小説家になろう」様にも投稿しています。