異世界最強の『農家』様 〜俺は農家であって魔王じゃねえ!〜

農民ヤズ―

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10章

特攻編成

 
「難しく考える必要なんてないだろう? あんたは身内を守りたいってんで強くなったって聞いたよ。なら、家族を助けるのに何を迷うことがあるってんだい。周りのことなんて顧みず、己のやりたいことを成す。それがこの街の馬鹿どもの生き方ってもんじゃないかい? 究極の自分勝手をするのがここの王様で、魔王だろ? 魔王を名乗ってんだから、後先なんて考えずにやりたいことをやりな。面倒なあれこれなんて、あたしみたいな年寄りや、エド坊みたいなのに押し付けりゃあいいんだよ」

 そんな俺を諭すかのように優しげな笑みを浮かべたカルメナ婆さんがそう語りかけてきた。

 そう言われれば、本当にそれでいいんだと甘えたくなってしまう。

 頼っていいんだろうか? これからやるのは俺の自己満足だ。国のためなんかじゃないし、街のためでもない。仲間のためでもなく、ただ俺がそうしたいからってだけのわがままだ。
 わがままのために国の利益を捨てる。それは間違っているんだろう。
 それでも、俺は好きに動いてもいいんだろうか? 母さんたちを助けるために戦ってもいいんだろうか?

「団長、みんな呆れてましたが、まあ一応特攻の準備が整ったっすよ」
「おう、そうか」

 なんて考えていると、どこに行ったのかエディが息を切らして戻ってきた。

「んじゃあいくか。婆さん。なんか必要なもんは頼んだ。報酬はうちにあるもんなんでも持ってけ」
「いらないよ。何カッコつけてんだいバカたれ」

 なんで婆さんに頼んだんだ? この場合は街の管理やらなんやらはほとんどエドワルドがやるだろうし、何かを頼むならそっちに頼むべきじゃないんだろうか?

 なんて思っていると、婆さんが俺のことを見て笑いながら話しかけてきた。

「王妃様やお姫様を助けるんだってんなら、逃げ場所を用意しておく必要があるだろ? それはこっちで用意しておくから、かっこよくバシッとお城から連れ出してきな。魔王らしくさ」

 確かに、母さんやフィーリアを連れ出したとしても、すぐに住める環境があるわけでもない。安全面にも問題があるし、連れてきてから守りや暮らしについて考えるんじゃ遅いか。

 エドワルドはそういったところは合理的に考えるから女性の準備という点では完璧とはいえないだろう。だから親父は婆さんに頼んだんだと思う。この人なら女性について誰よりも知ってるだろうし、必要なものはなんでも用意できるだろうから。

「婆さん。ありがとう」

 俺はそう言って素直に感謝の気持ちを示しながら頭を下げるが、婆さんは首を横に振った。

「大したことをするわけじゃないんだから気にしなさんな。そんなことより、あんたはもう王様なんだ。ありがとうなんて言葉よりも、人に任せるときに相応しい言葉があるんじゃないかい?」
「……なら、ここは任せた」

 俺はそう言って歩き出した。


「おっ、ボス。来たか」
「まさかまたこんな無茶をするなんて思っても見なかったぜ」
「しかも今回は坊っちゃんも一緒だってんだからな。こっちの負担も考えてほしいもんだっての」
「……悪いな。なんだか無茶させるみたいで」

 会議の場を離れた俺と親父はカラカスにある親父の館にまで戻ってきたのだが、そこにはすでに何人もの仲間達が武装をした状態で待っていて、到着した親父に軽く文句を言っている。
 普段からバカなことを言ってるのはその通りなんだが、今回はただふざけての言葉じゃなくて、本当に大変なことだからこその言葉って感じがした。

「いやいや、坊ちゃん! 坊ちゃんが悪いわけじゃねえですって!」
「そうそう。家族を助けに行きたいってのは誰だって同じでしょう。むしろ全力で手ェ貸しますよ」
「てめえは何言ってやがんだってんだ! 坊ちゃん責めてんじゃねえよ!」
「いだっ! いや、俺はそんなつもりで言ったんじゃ……」

 だからこそ俺はみんなに頼ることを決めつつも面倒なことをさせて悪いなと頭を下げたのだが、そんな俺の言葉にみんなは慌てながら首を振って反応した。

 その反応はいつにも増してふざけた様子だが、みんな心配かけさせまいとしているんだろう。
 それが理解できたために、俺はそれ以上何かを言うことはせず、話を進めることにした。

「それで、結局特攻って何するんだ?」

 親父は騎士をやってたときにやったことがあるって言ってたが、具体的にどうするかまではわからない。

「こいつらが俺らを担ぐ。強化魔法をかけられたこいつらが死ぬ気で走る。疲れたら回復する。回復できなくなったらそいつをその場に放置して、走ることができなくなるまで走らせる。んでその後は俺たちが降りて自前の足で走る。大体そんな感じだな。これで王都までの道のりなら……まあ丸一日ありゃあつくだろ」

 親父はなんでもないかのように言ってるが、聞いた内容は正気とは思えなかった。
 みんなの方を改めて見てみると、天を仰いだり苦笑してたり色々な反応があった。

 だってそうだろう。一日って……ここから一日で着くような距離じゃないぞ?
 それに担ぐ? 担ぐってどういうことだよ。絵面が想像できないんだが?

「色々と言いたいことはあるが、とりあえず……こっから王都まで馬で一週間だぞ?」
「そりゃあ馬で進んだら、だろ? ここにいるのはそれなりに高位の位階の奴らだぞ? 馬なんかよりも速えに決まってんだろ」

 まあ確かに走れば馬や魔物なんかよりも圧倒的に早く走ることができるだろう。
 親父は常人の何十倍もの力を持ってるし、俺だって十倍ちょっとくらいの能力はある。走って進めばかなりの速度が出る。

 だが、それでもかなり無茶を言ってる。
 それに、『担ぐ』ってなんだ? って疑問は全く解消できていない。

 いや、言ってる言葉の意味はわかるんだ。わかるんだが……やっぱり理解できない。
 前にもやったことがあるらしいが、そもそもなんだってそんな発想になったんだ?

「任せてくだせえ、坊ちゃん。昔もよくこの方法を使ってやしたから問題ありやせんぜ」
「つっても、もう十何年以上も前のことだから多少の遅れはあるかも知んねえですが、まあその辺は勘弁してくだせえ」

 俺の混乱を感じ取ったのか、みんなは自信満々にそう言い放った。
 ……色々とおかしいとは思うが、まあこう言ってることだしやるか。
 これが親父達が知る中で最速の移動方法だってんならそこに疑いはないし、どのみち急がないといけないってのは本当なんだ。だったら多少の疑問……多少か? まあある程度の疑問は無視して実行するべきだろう。


 そうして俺は親父の提案した作戦に同意し、みんなに担がれて街を出発した。
 だが、これで何度目だろうか。すでに二桁は余裕でいってた気がするが、もうそれだけの回復が今俺と親父を担いでいる男たちに行われていた。

「ぐっ……!」

 しかし、回復といっても無限にできるわけではなく、ただの疲労回復の魔法といっても何度も使えばそれなりに疲れるし、限界はある。
 その限界がやってきたようで、治癒魔法師の仲間が走っていた足をもつれさせた。
 すぐにそばにいた別の仲間に支えられたが、そいつがもう今までと同じ速度を維持しながらではまともに走れないってのは理解できた。

「魔力切れか」
「いや、まだだ。まだいけるぞ俺は」

 親父がそいつの状態を見て呟いたが、転びそうになった治癒魔法師の男は首を振って否定した。
 だが、その声は震えており、それが虚勢だってのは俺でもわかる。

「強がるんだったら声の震えをどうにかしてからにしろや、間抜け。だが、もうちっと頼むわ」
「任せろ、団長」

 しかし、もう無理だと思っていたのだが、親父はそいつに対してまだ頑張るように告げ、男は苦しげながらも笑って了承した。

 そうして俺たちはそのまま走り続け……

「悪い。これで……しまいだ……」

 今までの治癒魔法の感覚よりも早くに回復がかけられ、そのことに疑問を持った俺は治癒師の男へと視線を向けたのだが、明らかに顔色を悪そうにしている。

「良くやった」

 親父がそういうなり治癒師の男は俺を見て笑い、気を失った。危ない、と思ったが、すぐに他の仲間がそいつを抱えたことで治癒師の男は転ぶことなく済んだ。

「そいつの守りは任せたぞ」
「っす。団長らは目的を達成することだけを考えてくだせえ」

 短くそれだけ話をすると、ついてきた集団の中から気絶した治癒魔法師の男と、数名の仲間が離脱した。

「いいのか、あいつらを置いてって」
「元々治癒を使わせるためだけに連れてきたんだ。治癒の使えねえやつを連れてってもただの荷物にしかならねえ」

 俺は後ろの置いていった奴らを気にしながら問いかけた。もうさっきの奴らの姿を見ることはできない。それくらいの速度で俺たちは進んでいるのだ。
 だが、見えなくなったことで余計に心配になってくる。本当にあんなところで放置してもいいのかって。
 しかしそんな俺とは違って親父は後ろを振り返ることもなく、特に気にした様子もなくそう口にした。
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