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11章
フィーリアの選択
「え?」
「場所は用意できる。カラカス本街で住むのもいいけど、そっちが嫌なら花園の方でもいいし、なんだったら新しく町を作ってもいい。ちょうど行くアテのない人たちが近くにいるし、街の住民として誘えば来ると思う。だから、どうだ?」
花園はもともと聖樹の種を育てるための場所として作ったが、母さんと暮らすことができるように、という理由でもある。
だから、母さんが望むならあちらで暮らすことはできるのだ。
住む場所は聖樹の庭にある俺の家でいいし、なんだったら新しく作ることもできる。
「どうって言われても……」
「母さん自身はこの城に居続ける理由はもうないだろ? 前王はいなくなったし、今は第一王妃の息子が王様やってるんだからそばにいる必要もないはずだ」
国王が生きているうちはカラカスにいくことはできなかっただろう。俺が勝手に連れて行けば拐ったってことになるし、母さんから出ていけば実家と国の仲が悪くなりかねない。
だが、もう国王はいないんだ。
王太子はこっちの味方だし、前から連れ出してもいいって話はついていた。
母さんがこの城を離れることになんの問題もないのだ。
「そうね。確かに私は前王の妃ということでこの城に居続けているわ。絶対にいなくてはならない理由もないし、そもそも前王の妃は夫である王が退位した後は実家に戻ってもいいことになっているのだから、離れてはいけないということもないわ」
「だろ? こっちにくれば一緒に暮らすことができる。そのための環境づくりの基礎はもう終わったんだ。あとは母さんの答えでどうするかが決まる」
「でも、フィーリアちゃんはどうするの?」
母さんはそう言いながら、隣で優雅にお茶を飲んでいたフィーリアへ、迷いのある表情で顔を向けた。
そんな問いをするってことは母さん自体は乗り気なんだろうと思う。
しかしそんな顔を向けられ、問われたフィーリアは……
「私は、こちらに残ります」
母さんの顔を見返しながらはっきりとそう答えた。
それは、予想していたことではあったが、本人の口から言葉にされると少し意外に思えてしまった。
「こっちに来ないのか?」
「ええ。私もいい年齢ですし、親や兄に寄生して生きるつもりはありません。そのようなことをせずとも生きることができるだけの立場にいますし」
「まあ、兄を頼ってるって意味では王太子——現王を頼ってるけどな」
戴冠式自体はまだだが、あの王太子はすでに新たな王として仕事をしている。
厳密にはまだ王ではないのかもしれないが、みんなそう扱ってるし問題ないだろ。
「そこは頼っているのではなく利用しているのです。それに、私程度の位階ではカラカスで安全に過ごすのは少々面倒ではありませんか?」
「確かに、今第四だったか?」
フィーリアは土魔法師と騎士の両方を育てていた気がするが、高い方は土魔法師の第四だった気がする。
「現在は第五位階ですね。王族としてはそれなりの力ですが、カラカスでは一般レベルなのでしょう?」
確かに、本人の言うように一般の街や王族の中では第五位階はそれなりの位階だ。
だが、これも本人が言ったようにカラカスでは第五位階は〝第五位階程度〟と言うことができるほどに強者が集まっている。
「誰もがってわけでもないけど、何かしらやらかすやつは大抵そのくらいはあるな」
カラカスで暮らしている奴らの過去を考えれば、それくらいは当然といえば当然だ。
だって、それくらいの力を持ってないとそもそもあの街までたどり着くことなんてできなかっただろうし。
「でしたら、私が穏やかに、安全に安心して過ごすには、護衛や警備が必要になってきます。もちろんこちらでも護衛はつけていますが、その規模や手間が拡大されるのは間違いないでしょう」
フィーリアは実際に花園のことを見たことがないからそんな考えになっているんだろうが、あそこならば安全に過ごすこともできる。
だが、俺の——『魔王』の妹、或いは関係者だとバレれば、花園の中であろうと襲ってくる者はいるだろう。それらから守るために、護衛はつけることになるだろうし、警備だってつけるだろう。俺の館ではなく別の場所に家をたててそれを使うとなれば、警備の必要性は尚更増すだろう。
「加えて、私は私が幸福に暮らせるようになるために動いてまいりました。カラカスという一つの場所で身内が集まっていれば、いざと言う時に逃げ場がなくなってしまいます。信じることのできる身内は分散して拠点を構え、困った時にお互いに力を貸し合うことでリスクを減らすべきです。そうすることで、心安らかに人生を謳歌することができるでしょうから」
まあ、こっちとあっちで別れていれば、片方に何かあった時にもう片方を頼ることはできるだろう。
だが、人生の謳歌となれば、こちらよりもカラカスの方が向いていると思う。あっちは本当に『自由』だし。
それに対して、こっちの城は王女として生きる必要があるので、いろんな制限がかかることになる。
「ここにいれば、何かしらの制約があると思うが、それでもいいのか?」
「今更ですね。今まで王女として生きてきて、なんの制限もなかった日などありません。自由、というものには憧れはありますが、自由を満喫するには危険が伴います。私は自由の中で泳げるほどの力も自信も、やる気もありません。反面、ここでの暮らしは制限こそありますが、安全に安定した私に都合の良い暮らしを送ることができますので、私にとっては都合が良いのです」
「……そうか」
言われてみれば、それもそうかという感じはする。
今まで生きてきた場所を離れ、今までの生活を捨てて、危険な場所だと分かっているところに引っ越すなんてのは明らかなリスクだ。
平穏や安定を望むんだったら、むしろこっちにいたほうがいいのかもしれない。
しかし、俺がそう納得しても母さんは納得しきれないのか、眉を寄せてフィーリアのことを見ている。
「……フィーリアちゃんは本当に行かないの?」
どうやらフィーリアが行かないことが気がかりなようだ。
「はい。それに、私たち二人ともがここを離れたとなれば、おじいさまと第一お兄様——現王の間に傷が入りかねません。本人らはその思いはなくとも、周りが対立を示唆して両者の間に壁ができる可能性はあります。ですので、それを食い止めるためにも私はここに残るべきでしょう」
フィーリアの言っていることは間違いではないのだろう。
この王が新しく変わるという状況で、西の守りを任されている家の一族が城から離れるとなったら、それは新たな王に不満があるのだと捉えられ、最終的には内乱にさえなってしまう可能性だってある。
もちろん可能性であり、イルヴァやフィーリアにそんな気はないのは理解しているが、客観的に見た場合はそうとられても仕方がない。
だが……
「……そう。なら、私も残った方がいいかしら? フィーリアちゃんにばかり押し付けるのは……」
フィーリアがそう言えば、それはでは引っ越しに乗り気だった母さんも残ろうとし出してしまった。
「ですが、お母さまはお兄さまとともに暮らしたいのでしょう?」
「それはもちろんよ! ……でも、できることなら家族で暮らしたいの」
「全部を叶える、というのは無理ですよ。私たちはすでに誰もがそれなりの立場を持っているのですから」
「でも……」
首を横に振りながら口にされたフィーリアの言葉に、母さんは悲しげに眉を顰める。
「それに、ずっと一緒に暮らすということはできませんが、私がこちらに残ったとしても私達全員が揃う機会というのは作ることができます。お兄さまは王ですのでそう易々と動けないでしょうけれど、私であれば定期的にカラカスへと移動することも可能です。現王である第一お兄さまの協力があれば可能です。第一お兄様自身、カラカスとの仲が悪化しないためにも私を送って繋ぎ止めようと考えられるでしょうから、さほど労するというわけでもありませんし」
王太子的には、俺との繋がりは大事にしたいだろうし、定期的に人をよこすことになるだろう。
その役割としてフィーリアは適任と言える。何せ、俺が絶対に追い返さない人物なのだから。
だからこそ、あの王太子はフィーリアのことはどうしたって邪険にはできないだろうな。
「……お兄さま方はいつ帰られるのですか?」
「特にいつって予定は決まっていないが、まあ早い方がいいだろうな」
「でしたら、一晩時間をいただけませんか? それで考えればお母さまも考えがまとまることでしょう」
「……そうだな。そんな急かすつもりもないし」
まあ、こんな話を急に決めろって言っても決まるもんでもないだろう。
そう思い、ひとまずその場は解散することとなった。もちろん、普通にお茶会をしてからだが。だってじゃないと母さんがむくれるし。
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* あくまでもフィクションであり、登場人物や時代背景は史実とは異なります。
** 史実に出て来る人物又は良く似た名前の人物若しくは団体名が登場する場合もありますが、広い心で御容赦願います。
*** 週1(土曜午後9時)の投稿を予定しています。
@ 「小説家になろう」様にも投稿しています。