聖女様、魔法の使い方間違ってません?

農民ヤズ―

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甘いものを食べると元気になるらしい

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「……王都がどれくらい怖くて厄介な場所なのか、少しだけ話してもいいかしら?」

 そんな思いを自覚したから……自覚してしまったからだろうか。ついそんな言葉が口から零れていた。

「うん。私達がお姉さんの悩みを聞いてあげる!」
「ふふ……そう。ありがとう」

 なんとも優しい女の子なんだろうか。きっとこの子は将来いい女になる。私が保証する。

 見てるか神様。私みたいなのじゃなくて、こういう善い子をを聖女にすべきなんだってば。

「……私はね。これでも恵まれた家に生まれて、不自由なく育ったの。でも、その対価として将来は皆のためになる生き方をしなくちゃいけなかったのよ。それ自体に不満はなかったんだけど、そうしてみんなのためになるように頑張ってきて、自分の時間を削ってでも勉強して、仕事もしてきたんだけど……その仕事をクビになっちゃった。なにがいけなかったのかな……」

 どうしてだろう。少しだけ……ほんの少しだけ愚痴を言おうとしただけなのに、どうしてか不思議と私の口は止まってくれない。
 止めようと思ってもバカになった私の口は止まることなく、私自身でも認めていなかった私の心を吐き出してしまった。

「……なんて、そんな自分でも分からない状況や理不尽な事は沢山あるから、王都は王都で怖い所なのよ。将来行くことがあっても、はしゃぎすぎて気を抜かないようにね」

 ようやくため込んでいたものをすべて吐き出したのか、私は自分の事であるにもかかわらず今の行動が信じられず、口に軽く手を当てて驚きに目を見開いて動きを止めてしまった。

 ただ、このままではいけないという頭だけは働いていたので、それまでの空気を切り替えるかのように冗談めかして笑みを浮かべてみたけど、多分今の私は普段に比べて引きつっているような酷い笑顔だろうというのが自分でもわかる。

「お姉さん」
「ん? どうしたの……っと」
「ぎゅー」

 女の子はそういいながら私の体に手を回し、言葉通りぎゅーっと抱きしめてきた。

「悲しくって泣きたいときは、こうしてぎゅーってしてもらうと、悲しい気持ちを吸ってもらえてちょっとだけマシになるの。だから私がお姉さんの悲しいのを吸ってあげる」

 なんでこんなことをしてきたのかは理解した。でもこの突然の状況に私はどう対処して良いのかわからず、女の子のことを押し退けこそしなかったものの、情けないことに助けを求めるように他の男の子二人のことをみつめてしまった。

「ちょっとまってろよ!」

 そんな私の行動をどう思ったのか。男の子の一人が突然そんなことを言い出し、もう一人の男の子の手を引いてどこかに走り去ってしまった。

 こんな状況で私達を残して言ってどこに行ったのだと思っていると、数分と経たずに域を切らせた男の子たちが戻ってきたのだが、なにやら籠が抱えて戻ってきたようだ。

「これやるよ。だから元気出せって」
「これは……?」

 差し出された籠を見ると、その中にはちいさな木の実がまだ木の枝や葉っぱが混じったまま仕訳をされていない状態で入っていた。きっととって来たばっかりなんだろう。

「その辺で採れた木の実! 僕たちが採ってきたんだ!」
「甘いもん食べると元気になるんだぞ!」

 それはそうかもしれないとは思うし、こうして持ってきてくれたということはきっと食べて良いという事なんだろう。
 けど、女の子に抱きしめられたままの状態で出されたものを食べるというのは躊躇われた。ただ、せっかく持ってきてくれたものを無碍にするというのは少し心苦しい。

「はい、あーん」
「あ、あーん」

 私がどうすべきか迷っていると抱き着いてきていた女の子が手を放し、男の子の持っていた加護に手を伸ばすと木の実を一つ取って私の口の前に持ってきた。

 流石にそこまでされれば食べないわけにもいかず、少し恥ずかしいけど私は女の子に差し出された木の実を食べた。

 そうして食べた木の実はまだ熟しきっていないのか、それとも元々こういうものなのかは分からないが、木の実の甘さはあるものの結構な酸味があった。
 正直に言って、これまで食べてきたお菓子の方が無駄な酸味もなく何倍も甘い。けど……

「甘いなぁ……」

 どうしてか今はこの酸っぱい木の実が人生で一番甘く感じられた。

 ――◆◇◆◇――

「――お世話になりました」

 貸してもらった倉庫で一夜を明かした私は、村を出ていく前に村長の家に行って挨拶をしていった。

 たった一晩だけという短い間だったけど、この村に来てよかったと、そう思えた。
 けど、良かったと思えたと同時に、この村で出会うことができた子供達三人組と別れてしまうことに少しだけ寂しさもある。
 なぜだろうか。今までだって知り合った誰かと別れる事なんて沢山あったけど、特に寂しいとは思っていなかった。王子や学友たちでさえ、気にならなかったのに、たった一日話をしただけの相手と別れることになるのがこうも寂しいと感じるだなんて思いもしなかった。

 分かっている。ここはあったかいのだ。この村にはぬるま湯に浸かっていられる心地よさがあった。
 王都に比べれば何もない。けど、それでも住民たちの顔は明るく、温かかった。王都での出来事で傷ついていた私には、それが心地よかった。

 けれど、ここに留まり続けるわけにはいかない。

 気持ちを切り替えるために一度大きく深呼吸をした私は村を出ていこうと馬を曳いて歩いていたのだが、村を出る直前になって見知った三人組が姿を見せた。昨日の子供たちだ。

 偶然私の事を見かけたのか、それとも私が今日出ていくと話したから見送りに来てくれたのか。それは分からないが、何だか寂しさが薄れたような気がした。

「お姉さん。また来てね!」
「ええ。いつか必ず来るわ」

 最後にそう言葉を交わしてから私は馬に乗って村を出ていったけど、少し進んで振り返ってみたらまだ子供たちが私の事を見ていた。
 私が振り返ったのに気づいた子供たちは、笑いながら大きく手を振ってくれている。

「……ありがとう」

 そう呟いてから、再び正面に向き直った。
 次にこの村に来るのがいつになるかは分からない。でも、いつかまたこよう。そしてその時はもっとまともな……何も心配することも悩みもない状態で、ただあの子達と笑うために来よう。
 その為にも……

「いつまでも腑抜けてなんていられない、か」

 悲劇のヒロインなんて似合わないし、性に合わない。
 泣くのはおしまい。弱音はもう吐いたんだから、後はこれからのことを考えていこう。

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