聖女様、魔法の使い方間違ってません?

農民ヤズ―

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本当の私

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「もうそろそろ着くかな?」

 しばらくの間剣を振って敵を殺し続けているけど、ランドル卿達はどこにいるんだろうか? 敵の罠にかかって包囲されているって聞いたけど……ああ、いたいた。

「ようやく辿り着いたけど、無事みたいね。無茶した甲斐があったってもんね」
「ル、ルーナリア嬢……?」
「なにマヌケな顔してんのよ。こんなところで死ぬつもりなの?」

 敵に囲まれて追い詰められているところだったランドル卿の部隊を見つけた私は、その横っ腹に突撃していき、思い切り暴れてやった。

 そんな状況になるとは予想していなかったみたいで、敵軍は混乱したまま戦い続けた。けど、横から殴られたことで起きた混乱を見逃すことなく、ランドル卿の部隊は攻勢に出て敵の部隊を押し返すことで拮抗した状態を作ることができた。

 突然包囲の一画が崩れたかと思ったら、そこから戦場に似つかわしくない服を着た女が一人で現れたんだから、驚くのも無理はないと思う。
 戦場にいるんだからもっとしっかりしろと思う反面、そんなマヌケ面を見ることができてなんだか安心感が湧いてきた。

「え、いや……え?」
「なに? 私がこんなところに居るのがおかしい?」
「あ、はい……。はっ! な、なぜこんなところに居るんですか!? 貴女には下がっているように言ったはずだ!」
「その結果がこれでしょ? 私だって後ろに下がって見てるだけで終わるんだったらこんなところまで出張ってこないわよ。文句を言うんだったら、そんな死にかけるような状態にならないでよ」
「これは……」
「言い訳とかいらないからね。結果としてあなたは傷ついて、私はここに出てきたんだから」

 ランドル卿としても言い分はあるだろう。彼自身が悪いわけではないのも分かっている。
 けど、それはそれとして、敵に追い詰められたことは事実だ。だからこそ私がここにいるわけだし。

「さってと……それじゃあ、このくっだらない戦争を終わらせまようかな」

 私の乱入で拮抗状態になったものの、それは一時的なものだって分かってる。だって依然としてこっちの部隊は囲まれているわけだし、これまでの疲労がたまっているんだからこれ以上先はない。

 私が回復させたり強化させたりしてもいいんだけど、それじゃあ非効率だ。どうせここまで来てしまったんだから、全部私がやっちゃった方が早い。
 こんなくだらない戦争なんて一秒でも早く終わった方がいいに決まってるんだから、私が終わらせてあげよう。

「我らを見下ろしている偉大なる神様。どうか私にバカどもを吹っ飛ばす力をお貸しください。……なんて。どうせこれで最後なんだし、最後くらい力をかしてよね」

 お祈りとはとても言えないような言葉を口にし、最後に冗談めかしたようにお願いすれば祝詞は完成。まあこんな言葉なんて言う必要はないんだけど、どうせ今回が最後なんだし少しくらいはお願いしてもいいでしょ。今までお願いなんてしてこなかったんだから、最後に一回くらい聞いてくれてもいいと思う。

「退きなさい! 私がこの国を守る限り、もうこれ以上誰も犠牲にはさせません!」

 その宣言と共に私は『神に最も愛された聖女』として力を開放し、杖を掲げた。
 まだ魔法は発動していないにもかかわらず、それだけで私の周囲には圧力が生まれ、私達のことを囲んでいる敵軍はじりじりと後退し始めた。

 ただ、それでもやはり撤退するつもりはないようで、こちらに武器と共に敵意のこもった視線を向けてきている。

「……意図的に殺すつもりはないけど、死んだらごめん」

 首の筋力強化はもうやらない。あれは見た目が悪いっていうのもあるけど、大勢を相手にするのに向いていないから。

 だから代わりに、私は私達の周りに光の壁を展開した。
 私とランドル卿の部隊を囲み、敵軍と隔てるように四方に発生した光の壁。敵軍はその突然発生した壁に驚きながらも攻撃を加えているけど、そんな攻撃で壊れる程軟じゃない。

 そして私はその壁にさらに捜査を加え、敵軍に向かって光の壁を飛ばした。
 動かしたとか、押したとかではなく、思い切り、殴り飛ばすかのように壁を飛ばし、その前に立っていた敵をも巻き込んでいった。

 そんな光景を敵味方問わず唖然とした表情で見ているけど、まあそうでしょうね。さっきまで剣で切り合って命がけの接戦をしていたのに、突然こんな訳の分からない光景を見ることになったら、そりゃあ驚くってものでしょ。

 けど、これで終わりじゃない。自分達の周りの安全を確保することができたら、次は本格的な攻勢に出ないとね。

 といっても、やることは同じ。ただ今回は私達の周りじゃなく、敵の目の前。渡したタイの国から押し返すように、敵の国に向かって壁を生み出し、押し飛ばしていく。

 逃げまどう者や、光の壁が動き出す前に壊してしまおうとする者もいるが、全部関係ない。
 私の作った光の壁は止まることなく進み、そのたびに敵が弾き飛ばされていく。

 きっとあの中には落下時の衝撃で骨の何本か折っている人がいるだろう。打ち所が悪くて死んでいる人だっているだろう。

 でも仕方ない。それが戦争で、仕掛けたのはあっち。退かないという選択をしたのもあっち。
 私はこの国と民を守るために戦う。たとえここにいる敵が最後まであきらめず、全員殺すことになったとしても。

「さ、さがれえええええ!」

 それから十数分ほど経ったところで、これ以上戦っても無駄だと感じたのか敵軍は逃げ出すように撤退していった。

「はあ。これで終わりかぁ……」

 敵を殺したかったわけではないけど、久しぶりに全力で暴れることができて結構楽しいと感じていた私は、敵が退いて戦いが終わったことに安堵を感じるとともにどことなく寂しさも感じてしまった。

「あなたは……」

 そんな私を見て何を感じたのか、ランドル卿は私の事を見つめながらもなにか迷っているように口ごもっている。

 なにを言いたいのか大体わかるけどね。おおかた、昨日までの私の態度や行動の変化でしょ。だって、今の私ってどう見ても聖女らしくないし、昨日までとは同一人物に見えないだろうからね。〝今までの私〟を見て思いを告げてきたランドル卿としては、騙された気分にでもなったんじゃない?

 でも、残念なことにこれが本来の私なのよ。……本当の私、なんて言うと気取ってるみたいでちょっと恥ずかしいけどね。

「前に言ったでしょ? 今度会う時に〝本当の私〟を見せてあげる、って。まあ、先に言ってきたのは貴方だった気がするけど」
「本当の、貴女……」
「うん、そう。うちの領地に開発が行われる前までは魔物の領域のせいで結構危険があってね。私も小さい時から領地を守るために戦おうって頑張ってきたの。まあ、元々才能があったってのもあるし、そういう性格だったっていうのもあるけど……そんな感じで育ってきた私がいきなり聖女だの王子の婚約者だのになって、無理やり色々押し付けられて教育されたことで出来上がったのが、昨日までの私。ちゃんと聖女様できてたでしょ?」
「……では、なぜ今になってそんな態度を?」
「こんな状況だし、今更聖女らしく話す必要もないかなって。だって剣をぶん回して敵を殺して血まみれになってる女とか、聖女からかけ離れてるでしょ」

 そんな状況で聖女らしく振舞っていても、どう考えても〝聖女〟には見えないでしょ。それどころか、血まみれで微笑んでいるヤバい女になりそうな気がする。

「んん?」

 なんて話してると空から光が降り注ぎ、血まみれだった体が綺麗になった。さっと辺りを見回しても誰も魔法を使って気配はなく、ただ空から光が降っているだけ。ということはつまり……

「……なんだ。意外と理解のある神様じゃない。まあ、こんな呪いを押し付けた事は許さないけどね」

 あのストーカーな神様は今も私のことを見てるみたい。もしかしたらこんな状況になってしまったことに罪悪感を覚えたのかな? だからお詫びにキレイにした、とか。
 こんな騒ぎのお詫びがこの程度って、随分軽く見られたものだとは思うけど、でもまあ神様相手だし、今まで何もしてきてくれなかったのに今回はこうしてお詫びみたいなことをしてくれて、なんだかちょっとだけ満足感のようなものがある。
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