聖女様、魔法の使い方間違ってません?

農民ヤズ―

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悪魔と契約はしてないけど、確かに聖女らしくはないな

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 ――◆◇◆◇――
「――ルーナリア・ティックナーは聖女でありながら悪魔と契約しその力を利用している背信者! 魔女なのです!」

 これまで何もなかったし、もしかしたら何事もなく終わるかなと思ったら来ちゃったかー。
 王の御前で……しかも新しい王子の門出ともいえるこの場でこんな邪魔をするようなことを言うなんて、普通にまずい事だって誰でもわかると思うんだけど……それでも言ってきたってことは、そんなに私の事を邪魔したいってことなのかな?
 ここで邪魔しないともう私を落とすことは出来ないって考えたとか? だとしても無礼すぎると思うけど……何か勝算があるわけ?

「聖女とは、神の加護を与えられた者の事を言うのではありませんか? 神の意思に反したことをしたというのであれば、私からは既に加護が取り除かれているはずです。けれど、私はまだ聖女として神の加護を使用することができます。つまり、神は私の行いを否定していないということです。それでも私の事を背信者と申されるのですか? もしそうなのであれば、貴方は神の意志を否定する、ということになるのですが……その認識で間違っていませんか?」

 何のつもりで割り込んできたのか知らないけど、私がまだ神の加護を取り上げられていないのは間違いないんだし、どうあがいても背信者とは言えないでしょ。
 そんなことは向こうも分かってるだろうに、こんなふうに叫ぶなんて……ちょっとだけ楽しみかもしれない。

「そうは言っていない! 確かにあなたは神の意思に違反しているわけではないのかもしれません! しかし! しかしです! だからといって神の意思に沿って行動していると言い切れるわけでもないのではないでしょうか? 人は罪深い存在です。神が相手であったとしても、その決まり事の穴を見つけ、神を欺く大罪を犯すことは十分に考えられる事です」

 んー、まあ神様って言っても完璧な存在じゃないし、欺くこともできるかもね。じゃあその欺く方法を立証しろって話なんだけどさ。

「そこまで言われるのであれば、具体的に彼女が神を欺いて何をしたのか教えてもらえないだろうか?」

 私が適当に聞き流しながらこれからの展開を考えていると、邪魔されたことに腹が立ったのからランドル様が険しい顔つきで私の事を守るように前に出て問いかけた。
 やだ……さっきの話の後だからか、ちょっとカッコよく見えるじゃない。

 そんな私の動揺に誰も気づくことなく、その場にいた皆の視線は私を糾弾した教会の者へと向けられる。

「良いでしょう。聖女とは神から加護を与えられる代わりに、自身の身を守るなどの特別な状況を除いては人を傷つける事を赦されていません。しかしながら、あなたは魔法を使って人を傷つけ、あまつさえ殺しもしています。それも、本来ならば使えぬはずの呪いを使って相手を不審死させたというではありませんか。これが神を欺いたと言わずなんというのです!」
「なにを愚かなことを。私が呪いを使ったなどというのは言いがかりにすぎません。ただ、少し変わっているかもしれませんが神の加護を使っただけです」

 まあ、ちょっと使い方は変わってるかもしれないけど、私はあくまでも神の加護に許された範囲内で力を使っただけ。
 それに、聖女だからって殺しができないわけではない。そのことをみんな勘違いしてるんだよねー。
 まあ、教会としても『聖女』という存在に対するイメージを守るために殺生は禁じているからそう認識していてもおかしくはないのかもしれないけど。だって、殺しても平気だからって言ってもさ、平気で敵を殺して血まみれで街中を歩く聖女とか怖くない? 神聖さが逆に不気味に思えてくるでしょ。

「それはどのような?」

 どのようなって……私に手札を晒せっていうの? ばっかじゃない。そんなことするわけないでしょ。

「申し訳ありませんが、その方法については話すことは出来ません。もしもの場合は私はその方法を使って身を守る必要がありますので、他者に方法を話すつもりはないのです」
「しかし、それではあなたの無実を証明することは出来ないのではありませんか?」

 だよね。まあ当然これじゃ納得するわけないなんてのは理解してる。
 ただ、話したくないのは事実。手札を晒すのが嫌だって理由もだけど、ぶっちゃけ私自身私の戦い方が異質だってのは理解してるし、悪魔云々と言われるのも仕方ないと思う。私自身でさえそうなんだから他の貴族たちは私の戦い方を知ったら敵に回る可能性も十分に考えられる。
 だから言えない。

 けどそれじゃあ納得するはずがないだろうし……仕方ないかぁ。

「どうしてもと申されるのでしたら、国王陛下並びに王妃殿下にのみお話しすることとしましょう。陛下がたであれば聡明な判断をしてくださるでしょう」

 これがギリギリのラインでしょ。貴族達には話すことができないけど、国王夫妻だったら話しても大丈夫だと思う。
 今まで国王夫妻にも隠してきた〝王太子の婚約者〟である私のイメージはぶち壊すことになるけど、それはもう仕方ない。これから先も仲良くしていくんだったらどこかで〝私〟という存在を知ってもらわなければならないわけだし、ある意味丁度いい機会ともいえる。

 この二人なら、私の戦い方、考え方を知っても、驚きはするかもしれないけど私の事を切り捨てることはしないでしょ。だって実際に違法行為をしたわけじゃないし、私という存在はこれからも国の役に立つんだから捨てる理由がない。

「我らはそれで構わぬ。もしティックナー伯爵令嬢に悪しき疑いが出たのであれば、その時は必ず令嬢を処することを神に誓おう」
「それはっ……」

 流石に国王の判断を信じることは出来ない、なんて言うことは出来ないのか、少し悔しげな様子で黙った。
 けど、一度叫んで話を邪魔した以上ここで退くつもりはないのか、教会の者は再び私のことを睨みつけながら問いかけてきた。

「……では、大量の人間を殺したことについてはどう説明されるおつもりでしょう? 戦争の行方を左右するほどの敵を殺したのです。〝自分を守るため〟という言い訳は流石に通用しませんぞ」

 悩んだ結果絞り出した問いがそれ? なんていうか、その程度のくだらない事しか言えないんだったら潔く〝誤解だった〟ってことで退いた方が傷は小さかったと思うんだけど?

「神の加護を与えられた者は確かに他者を過度に傷つけることは出来ません。ですが、自分を……そして自分の守りたいものを守るためであれば傷つけ、殺すこともできるのです。私は聖女ではありますが、貴族でもあります。命を懸けて国民を守り、人生をかけて国に尽くすべき貴族なのです。そんな私が民を守るために戦う事はおかしい事でしょうか? 悪魔と契約したと言われるようなことでしょうか? 私の行いは本当に神を欺いたと言われるほど間違っているというのでしょうか?」

 そんな私の言葉に、この場にいるものの大半は感心したような表情や、同意する様に頷いている。国王夫妻も誇らしげに口元を緩めているくらいだし、今この状況では皆が私の味方をしてくれるだろう。
 まあ貴族の内の何人かは苦々しい顔をしていたけど、それはたぶん自分達が日和ってたことに対する当てつけだとでも思ったんじゃない? 全然そんなつもりはないし、そこで嫌な思いをするくらいだったら最初っから国のために動けよ、ってことでしょ。

「そ、それは……た、確かにその考えは間違っていないでしょう。ですが、戦う事には問題がなくとも、その方法に問題があると申しているのです! 聖女が人を殺し、その血を全身に浴びて笑っていたというのはあってはならないことです!」

 あー、そういえば笑ってたかも。いや、血を浴びる事が楽しいわけでも敵を殺すのが楽しいわけでもなく、純粋に暴れることができるのが楽しかったからなんだけど……まあ聖女としては暴れるのが楽しいってのもだいぶマイナス評価だとは思うけどさ。

 けどどうしたものかなぁ……聖女が人を殺したことに関しては数百年前の聖女の話を持ち出せば何とでもなるし、笑っていたことも見間違いだとか、味方を助けることができそうで安堵を感じたからとか言い訳をすることは出来ると思う。
 でも言葉で説明したところで言いあいになるだろうし、言い争ったところで完全の証明することは出来ないと思う。そうなると、後々面倒になってくるだろうなぁ。

 でもこの状況、それこそ神様でも出てこないと私の立場の保証とかできないでしょ。……ああっ! ちょっといいことを思いついた。上手くいけば、この無駄な言い争いを終わらせることができるかも。

「じゃあ神様自身に聞いてみましょうか。もし私が潔白だと証明できなければ、私は『聖女』の地位を返上しましょう」
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