78 / 79
悪魔と契約はしてないけど、確かに聖女らしくはないな
しおりを挟む――◆◇◆◇――
「――ルーナリア・ティックナーは聖女でありながら悪魔と契約しその力を利用している背信者! 魔女なのです!」
これまで何もなかったし、もしかしたら何事もなく終わるかなと思ったら来ちゃったかー。
王の御前で……しかも新しい王子の門出ともいえるこの場でこんな邪魔をするようなことを言うなんて、普通にまずい事だって誰でもわかると思うんだけど……それでも言ってきたってことは、そんなに私の事を邪魔したいってことなのかな?
ここで邪魔しないともう私を落とすことは出来ないって考えたとか? だとしても無礼すぎると思うけど……何か勝算があるわけ?
「聖女とは、神の加護を与えられた者の事を言うのではありませんか? 神の意思に反したことをしたというのであれば、私からは既に加護が取り除かれているはずです。けれど、私はまだ聖女として神の加護を使用することができます。つまり、神は私の行いを否定していないということです。それでも私の事を背信者と申されるのですか? もしそうなのであれば、貴方は神の意志を否定する、ということになるのですが……その認識で間違っていませんか?」
何のつもりで割り込んできたのか知らないけど、私がまだ神の加護を取り上げられていないのは間違いないんだし、どうあがいても背信者とは言えないでしょ。
そんなことは向こうも分かってるだろうに、こんなふうに叫ぶなんて……ちょっとだけ楽しみかもしれない。
「そうは言っていない! 確かにあなたは神の意思に違反しているわけではないのかもしれません! しかし! しかしです! だからといって神の意思に沿って行動していると言い切れるわけでもないのではないでしょうか? 人は罪深い存在です。神が相手であったとしても、その決まり事の穴を見つけ、神を欺く大罪を犯すことは十分に考えられる事です」
んー、まあ神様って言っても完璧な存在じゃないし、欺くこともできるかもね。じゃあその欺く方法を立証しろって話なんだけどさ。
「そこまで言われるのであれば、具体的に彼女が神を欺いて何をしたのか教えてもらえないだろうか?」
私が適当に聞き流しながらこれからの展開を考えていると、邪魔されたことに腹が立ったのからランドル様が険しい顔つきで私の事を守るように前に出て問いかけた。
やだ……さっきの話の後だからか、ちょっとカッコよく見えるじゃない。
そんな私の動揺に誰も気づくことなく、その場にいた皆の視線は私を糾弾した教会の者へと向けられる。
「良いでしょう。聖女とは神から加護を与えられる代わりに、自身の身を守るなどの特別な状況を除いては人を傷つける事を赦されていません。しかしながら、あなたは魔法を使って人を傷つけ、あまつさえ殺しもしています。それも、本来ならば使えぬはずの呪いを使って相手を不審死させたというではありませんか。これが神を欺いたと言わずなんというのです!」
「なにを愚かなことを。私が呪いを使ったなどというのは言いがかりにすぎません。ただ、少し変わっているかもしれませんが神の加護を使っただけです」
まあ、ちょっと使い方は変わってるかもしれないけど、私はあくまでも神の加護に許された範囲内で力を使っただけ。
それに、聖女だからって殺しができないわけではない。そのことをみんな勘違いしてるんだよねー。
まあ、教会としても『聖女』という存在に対するイメージを守るために殺生は禁じているからそう認識していてもおかしくはないのかもしれないけど。だって、殺しても平気だからって言ってもさ、平気で敵を殺して血まみれで街中を歩く聖女とか怖くない? 神聖さが逆に不気味に思えてくるでしょ。
「それはどのような?」
どのようなって……私に手札を晒せっていうの? ばっかじゃない。そんなことするわけないでしょ。
「申し訳ありませんが、その方法については話すことは出来ません。もしもの場合は私はその方法を使って身を守る必要がありますので、他者に方法を話すつもりはないのです」
「しかし、それではあなたの無実を証明することは出来ないのではありませんか?」
だよね。まあ当然これじゃ納得するわけないなんてのは理解してる。
ただ、話したくないのは事実。手札を晒すのが嫌だって理由もだけど、ぶっちゃけ私自身私の戦い方が異質だってのは理解してるし、悪魔云々と言われるのも仕方ないと思う。私自身でさえそうなんだから他の貴族たちは私の戦い方を知ったら敵に回る可能性も十分に考えられる。
だから言えない。
けどそれじゃあ納得するはずがないだろうし……仕方ないかぁ。
「どうしてもと申されるのでしたら、国王陛下並びに王妃殿下にのみお話しすることとしましょう。陛下がたであれば聡明な判断をしてくださるでしょう」
これがギリギリのラインでしょ。貴族達には話すことができないけど、国王夫妻だったら話しても大丈夫だと思う。
今まで国王夫妻にも隠してきた〝王太子の婚約者〟である私のイメージはぶち壊すことになるけど、それはもう仕方ない。これから先も仲良くしていくんだったらどこかで〝私〟という存在を知ってもらわなければならないわけだし、ある意味丁度いい機会ともいえる。
この二人なら、私の戦い方、考え方を知っても、驚きはするかもしれないけど私の事を切り捨てることはしないでしょ。だって実際に違法行為をしたわけじゃないし、私という存在はこれからも国の役に立つんだから捨てる理由がない。
「我らはそれで構わぬ。もしティックナー伯爵令嬢に悪しき疑いが出たのであれば、その時は必ず令嬢を処することを神に誓おう」
「それはっ……」
流石に国王の判断を信じることは出来ない、なんて言うことは出来ないのか、少し悔しげな様子で黙った。
けど、一度叫んで話を邪魔した以上ここで退くつもりはないのか、教会の者は再び私のことを睨みつけながら問いかけてきた。
「……では、大量の人間を殺したことについてはどう説明されるおつもりでしょう? 戦争の行方を左右するほどの敵を殺したのです。〝自分を守るため〟という言い訳は流石に通用しませんぞ」
悩んだ結果絞り出した問いがそれ? なんていうか、その程度のくだらない事しか言えないんだったら潔く〝誤解だった〟ってことで退いた方が傷は小さかったと思うんだけど?
「神の加護を与えられた者は確かに他者を過度に傷つけることは出来ません。ですが、自分を……そして自分の守りたいものを守るためであれば傷つけ、殺すこともできるのです。私は聖女ではありますが、貴族でもあります。命を懸けて国民を守り、人生をかけて国に尽くすべき貴族なのです。そんな私が民を守るために戦う事はおかしい事でしょうか? 悪魔と契約したと言われるようなことでしょうか? 私の行いは本当に神を欺いたと言われるほど間違っているというのでしょうか?」
そんな私の言葉に、この場にいるものの大半は感心したような表情や、同意する様に頷いている。国王夫妻も誇らしげに口元を緩めているくらいだし、今この状況では皆が私の味方をしてくれるだろう。
まあ貴族の内の何人かは苦々しい顔をしていたけど、それはたぶん自分達が日和ってたことに対する当てつけだとでも思ったんじゃない? 全然そんなつもりはないし、そこで嫌な思いをするくらいだったら最初っから国のために動けよ、ってことでしょ。
「そ、それは……た、確かにその考えは間違っていないでしょう。ですが、戦う事には問題がなくとも、その方法に問題があると申しているのです! 聖女が人を殺し、その血を全身に浴びて笑っていたというのはあってはならないことです!」
あー、そういえば笑ってたかも。いや、血を浴びる事が楽しいわけでも敵を殺すのが楽しいわけでもなく、純粋に暴れることができるのが楽しかったからなんだけど……まあ聖女としては暴れるのが楽しいってのもだいぶマイナス評価だとは思うけどさ。
けどどうしたものかなぁ……聖女が人を殺したことに関しては数百年前の聖女の話を持ち出せば何とでもなるし、笑っていたことも見間違いだとか、味方を助けることができそうで安堵を感じたからとか言い訳をすることは出来ると思う。
でも言葉で説明したところで言いあいになるだろうし、言い争ったところで完全の証明することは出来ないと思う。そうなると、後々面倒になってくるだろうなぁ。
でもこの状況、それこそ神様でも出てこないと私の立場の保証とかできないでしょ。……ああっ! ちょっといいことを思いついた。上手くいけば、この無駄な言い争いを終わらせることができるかも。
「じゃあ神様自身に聞いてみましょうか。もし私が潔白だと証明できなければ、私は『聖女』の地位を返上しましょう」
11
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる