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プロローグ

終焉

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 人には様々な役割がある。
ヒーロー。ヒロイン。当て馬。ライバル。
沢山沢山ある中で、私が一番なりたかったのは『ヒロイン』だった。お伽話のお姫様。女の子なら一度は夢見るものでしょう?愛する人に愛させる奇跡の物語。

 流石にそんな夢のような恋物語に憧れるようなことはなくなったけれど、私には「愛している」といっても過言ではないほどに好きな人がいた。
彼と私は許婚だった。私達は、魔族の貴族の嫡流だった。親同士が取り決めたものだったから、最初こそぎこちない関係だった。でもそれも長くは続かず、私達はすぐに仲良くなった。外面上は許婚として、内面上は友人の一人として、いつも一緒にいた。私はいつしか彼に恋をした。
 
 けれど私は薄々気がついていた。
彼はヒーローだけど、そのヒロインは私じゃない。
許婚で両思いでハッピーエンド?
馬鹿みたい。
そんな夢物語、あるはずないのに。
彼には特別仲のいい女友達がいる。私という許婚がいるから言わないだけで、彼はきっと彼女が好きだ。
私に縛られて、動けないだけで。
私のことを見ているようで、心は彼女に向かってる。
辛くて辛くて、私のことを見て欲しくて。
彼と一番仲のいい男友達に相談したことだって何回もある。
なんて自分勝手。私を見て欲しいだなんて。
いつしか、私は彼の幸せを願うようになっていた。
私なんて見なくていい。
ヒーローは、ヒロインとくっつけばいいの。
私はきっと、当て馬役ね。

 そして、そんな日々は突然終わりを告げた。
彼が、「魔王を討つ」と言ったことで。
彼はとても優しい人だった。
命の危険だってあるのに、民のためだと言って、権力にものを言わせて悪政を働く「魔王」に反旗をひるがえすほど。
魔王を討てば、その人物が次の魔王となる。
彼が魔王になれば……きっと素晴らしい世界が出来上がる。彼は機転がきくし、優しいもの。
そう思った私は、彼に協力するという旨を伝えた。
彼は人望が厚く、魔王討伐の日は大勢の仲間が集まった。その中には、彼女もいた。
こんなところまで来るなんて、やっぱり両思いなんじゃない。私はお邪魔ね。
自嘲気味な笑みを浮かべながらも、私は彼に続いて魔王の元へと向かった。魔王がいると言う広間の扉を開ける。

 それが、悲劇の始まりだった。

魔王は強かった。
その強さは桁違いで、大勢いた仲間たちはたった数秒のうちに消し炭へと化した。
生き残ったのは、たったの数人。
私も、彼も、彼女も、その中に入っていた。
魔王が再び攻撃を繰り出そうと、拳を振りかざしたのを見て、私は咄嗟に彼の前へ出た。
でも、すぐに彼自身の手によって私は後ろへ回ることになった。私を庇うようにして立つ彼の背中は、涙で滲んで見えなかった。
 なんて、優しいの。
あなたの邪魔しかしていない私を庇うなんて。 
そんな時。
魔法を跳ね返すバリアをはって攻撃に耐えている彼を見て、魔王がニヤリと笑ったのを私は見た。
攻撃を全て避け切っているのは彼だけ。
魔王は、この中で一番強い敵が彼だと見破ったのだ。
「死の枷よ!」
声高らかに魔王が彼目掛けて放ったのは、存在すら危ぶまれていた伝説上のスキル。
膨大な魔力と自らの寿命を削ることでやっと使うことのできるスキルで、その枷に囚われたものは数秒のうちに死ぬという呪われたスキルだ。
あのバリアでは、枷は防げない。
まずい!まずい!まずい!!
私は彼のローブを引っ掴んで手前に引き、庇うように両手を広げた。
 「ナユ!!」
後ろから、彼の絶叫する声が聞こえて来る。
仲間はみんな、その瞳に絶望を宿して私を見ている。
それでもまだ私を庇おうとする彼を、私は思い切り突き飛ばした。
ほらね。やっぱり私はヒロインじゃなかった。
ヒロインは、こんな土壇場で死なないもの。
所詮は当て馬ね。
でも、いいの。これでいいの。
これでやっと…やっと彼は解放される。
 「死の枷よ……っ!!」
枷に囚われる直前、私は魔王にスキルを放った。
私は『復讐』というスキルを持っている。自分にされたことと全く同じことを、敵にそっくりそのまま返すことのできるスキルだ。習得しておいてよかった。
魔力のほとんどを失った今の魔王に、あれは避けられない。魔王は十中八九死ぬだろう。
安堵した瞬間、手首や足首に鉛色の重くて固い枷が私を拘束する。
 「ナユ!」
 「……っ」
何かが喉からせり上がってきて、思わず咳き込むと、それは血だった。全身からスーッと、まるで血を吸い取られているかのように、温もりが消えてゆくのがわかった。それと同時に力も抜けて、膝からカクリと崩れ落ちた。それを支えるようにして抱きとめてくれた彼を振り返って、最後の力を振り絞って告げる。

 「バイバイ」
 
誰かの叫び声が、遠くから聞こえた。


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初めましての方も、そうでない方も、御機嫌よう。
お読みいただきありがとうございます!
血迷って?書き始めた新連載です。
暗いのは最初だけなので、ご安心をば。

誤字などございましたらご指摘くださいませ。
感想も、泣いて喜びますので。
宜しければブックマークを……:;(∩´﹏`∩);:

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