私はヒロインになれますか?

水瀬 こゆき

文字の大きさ
5 / 14
一章

魔王様はガクブルですか?

しおりを挟む
 
 魔王は威厳を保ちつつ玉座に腰掛けながらも、内心ではかなりビビっていた。まさか宰相の言う『なんとか』ロースがサタンコロースだっただなんて…!怖い。怖すぎる。サタンコロース…人間はなんて悪趣味なんだ。人間からすれば確かに魔族は『悪』なのかもしれない。だが、そうだからといってサタンコロース……「サタンを殺す」だなんて事を言っている奴と一瞬になって、聖誕祭だがなんだか知らないがそれを祝うとはいい度胸だ。人間、怖い。

 魔王とは言っても実はたいした仕事はしていない。
大抵のものは指示さえ与えれば部下がこなしてくれるのだ。勿論、念の為にちゃんと出来ているかどうかの確認はするが。
そんな訳で、魔王は就任以来殆どの時間をぐーたらしながら過ごしていた。正直、こんなに楽な仕事?はこの世に存在しないと思う。
そして魔王は会議をなんとか終わらせた今、のんびりと玉座に腰掛けながら平和な時を過ごしていた。とは言っても心は全く平和ではなかったが。
 あぁ、怖い。
僕なんてきっと、呆気なくあの『サタンコロース』にやられるんだろうな。逃げたい。誰か僕を助けてくれないかな。それか良い感じの遺影を探してくれないだろうか。はぁ……。

 「魔王様、また悪い癖が出てますよ」

 魔王の側で声をあげたのは、宰相だ。
宰相と魔王は幼い頃からの知り合いで、互いに気が知れている上に信頼もしていた。宰相は仕事もできるし、文句なしに優秀だ。

 「でも宰相……サタンコロースだよ?僕なんてきっと『プチっ!』って潰される」

 深く被ったフードの端を下に引っ張りながら弱気な発言をする魔王に、宰相は呆れたように言った。

 「どの口が仰いますか。良いですか?自覚はおありでしょうが、今の魔族界には貴方から玉座を奪おうと考えている者など、誰一人存在しませんからね」

 「それはまぁ……そうだろうね」

 嫌な事を思い出したとばかりに顔を歪めつつ、躊躇いながらも魔王はそれを否定することはしなかった。
正直なところ、自分が魔族たちから一目置かれていることには十分すぎるほど自覚はあるし、その原因もはっきりとわかっている。

 「先代の魔王は、とてもお強い方でしたからね」

 「…うん。強かったよ。攻撃された時は、死ぬかと思った」

 先代魔王は、暴君だった。
民から税という税を巻き上げ、それの殆どを私利私欲のために使用し、部下の妻たちを無理やり奪って大勢の女を侍らせ……などと悪行の限りを尽くした。
だが、誰も逆らうことはできなかった。
その先代魔王が、桁違いに強かったからである。
魔王は世襲制ではない。実力制だ。
魔王に勝負を挑み、魔王に勝てばその者が新魔王となる。勝ちさえすれば、どんな状況であってもその者は新魔王に選ばれるというのがルールだ。

 たとえ、その勝負において先代魔王を殺めてしまっても、だ。

 「でも、貴方はあの暴君を見事打ち負かしたでしょう?終わり良ければすべて良しです」

 穏やかな笑みを向けてくる宰相に、魔王は頷いた。

 「まあね」

 もっと、違う勝ち方だったらなぁ……

 小さすぎるその声をかろうじて拾った宰相は、何も言わずにただ俯いた。 暫しの間、沈黙がその場を支配した。居心地がいいのか悪いのか。それすらもわからないほどの静かさだ。

 そして、そんな静寂を破ったのは大きな大きな爆音のような音だった。

 「今の音は……一体何事です!?」

 驚きすぎて固まったまま動けないヘタレな魔王の代わりに、宰相が素早く廊下へ出て護衛の者に状況説明を促す。

 「それが……自分もよく見ていなかったのですが、あの人が城壁を蹴破ったんです」

 あの人、と言いながら護衛が指差したのはあの『サタンコロース』だった。宰相は、顔を真っ青にさせて魔王の肩を掴むとガクガクと揺さぶった。

 「魔王様!固まってる場合じゃないですよ!魔王様!!聞こえてます!?まお………おい、ヴァン!このヘタレ魔王!耳を塞いでも現実逃避はできないぞ!」

 フードの上から耳を塞いで外からの音を遮断し始めたヘタレた魔王に、宰相の口調は思わず崩れる。まだ、魔王と宰相という関係になる前の……ただの幼馴染だった頃の口調で、魔王を揺さぶった。
魔王は耳から手を離すと、宰相を見つめる。

 「な……なんで『サタンコロース』が僕の城を破壊する訳?」

 宰相は、震える魔王にフッと笑顔を見せた。それは一種のドヤ顔とも呼ばれるそれである。その表情に、魔王はパァーッと顔を輝かせた。
 幼い頃から、宰相はとても頭が切れた。今でもそれは変わらないし、日が経つごとに彼はメキメキとさらなる発展を遂げる。そんな彼のことだ。きっと、この事態の原因もすでに突き止めていて、それに対する対策なんてものも考えてあるに違いない!
 キラキラと希望に満ちた目で自らを見つめる魔王に、宰相は笑顔を深めると…

 「お前、『魔王様はどうしてヘタレなの?』って誰かに聞かれたとして答えられるか?」

 「え?無理」

 宰相は、とてもいい笑顔で言った。

 「そういう事だ」

 つまり、宰相にも原因はわからないと?
はい、わかりました。僕はきっと死ぬんですね。

その後、サタンコロースを牢に入れたという報告を受けた魔王は、ビビりまくりながらも宰相に引きずられるようにして、サタンコロースの元へと向かったのだった。

 *****************

 こんなヘタレ魔王がヒーローで申し訳ないです。
 でも安心してください。
ヒーローなる魔王様はヘタレなだけなお方ではありません故。
次はカトレアちゃん視点!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...