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一章
私は心変わりしてますか?
しおりを挟む眩しそうに私を見上げる魔王サマは、困ったように眉を八の字にしたかと思うと、すぐに両手でケモミミを隠そうとし始めた。
「なんで隠すんですか」
隠そうとする魔王サマの手を掴んで止めると、その向こうでケモミミがショボンと下を向いているのが見えた。可愛い。
フードについていた角はどうやらこのケモミミを隠すためのものだったらしい。角があったのと同じ位置に、今は焦げ茶のもふもふなケモミミがこんにちはしている。
「だって…僕はダメダメだから。獣人はみんな強くて格好良くて、凄く勇ましい人ばっかりなのに、僕だけこんなだから。僕だけなんだ、臆病なのは」
言い終わるやいなや、彼は私の手を振り払ってフードを被ってしまった。それにしても私の手を振り払うとは…なかなかの腕ね、流石は獣人。
因みにフードだが、今度はそこまで深くは被っておらず、隠れているのは頭部だけだった。
「だからってどうして隠す必要が?」
「僕は決めてるんです。種族に恥じることがないくらい立派になったら…僕が、臆病じゃなくなったら、この姿をちゃんと公開しようって」
「ケジメみたいなものかしら?」
「うん、そう」
何故か体育座りをして小さくなっている魔王サマに、思わず笑みが漏れる。フードで顔がよく見えない時はヘタレた魔王サマだな、くらいにしか思っていなかったけれど、こうして見ると結構可愛い。
ケモミミと同色で癖のある髪に緋色の瞳。
顔はどちらかと言うと可愛い系ではなく格好いい系だけれど、口を開いたらただのヘタレだからこれはノーカンだ。
「ケジメがあるなら、臆病を治す努力をしないとですね。協力してあげますよ。護衛の仕事は楽なんでしょう?暇潰しがてらにね」
小さくなったままの魔王サマに手を差し伸べると、魔王サマはその手を取って立ち上がった。
「ありがとう。頑張ります…!」
控えめに笑う魔王サマは何だか可愛いけれど、私との身長差が相まって全然可愛くない。
可愛いけど、可愛くない!
ときめいてなんか、ない。
おかしい。さっきまでヘタレとしか思ってなかったのに、何よこれ。
きっとケモミミのせいだ。
畜生、ケモミミは反則だ。
イエローカードをはっつけてやろうか。
緋色の優しげな瞳から何とかして逃げたくて目線をそらすと、手土産にと持ってきた布袋が目に入った。
すっかり忘れていたけど、養ってもらうお礼にモンスターを狩ってきたんだった。
カトレアは布袋を引きずって魔王のそばまで持っていくと、それを魔王に引き渡した。
「これ、せめてものお礼にって持ってきたんです。良かったら食べてください」
魔族のことはよく知らないけど、モンスターくらいなら食べるでしょ?
私は人間だから食べないけどね!
「わわ…重いね。わざわざありがとう。一体何を持ってきてくれたの?食材?」
嬉しそうに双眸を細めながら袋の中身を覗き見た魔王だったが、中身を認識した瞬間に固まった。
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