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Ⅰ.出会い編

10.いざ王宮へ

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 ふぅ、と一呼吸おいてザックに向き直る。

「ザック、落ち着いて。貴族に生まれたのだから、ちゃんと貴族の務めを果たさないといけないわ」
「お姉様……」

 お父様の時とは違いしっかりと私の言葉を胸に刻んでくれたようだ。
 だけどやはりその顔は納得していないようで。悔しそうに下唇を噛んでぷるぷると震えている。

「心配しなくても大丈夫よ。実際に結婚するのは何年も先のことだから」

 その唇に人差し指を当て、やんわりとやめさせるように努めて穏やかな声を出す。
 うん、まあ結婚する前に断罪されてしまうので実際には結婚することなんてないんだけどね。
 私がいくらアゼン様を虜にしたところでヒロインが登場すれば見事に掻っ攫われてしまうのだろう。

「僕……お姉様とずっと一緒にいたいです」

 するとザックが私の手を握り締めて懇願するように言ってきた。グレーの瞳は少し潤んでいてキラキラと光っているように見える。
 き、綺麗……。なんて綺麗な瞳なのかしら。ザックの神秘的なその様に暫し見惚れてぼーっとしてしまう。

 そして気付いたら流れるように口から零れ出ていた。

「え、ええ勿論よ。私達はずっと一緒だわ」
「本当ですか? もし皇太子殿下がとても素敵な方でも僕との時間を優先すると誓ってくれますか?」
「え、ええ……約束するわ」

 お父様が隣で何か言っていたけれど、ザックに釘付けだった私の耳には何も聞こえなかった。



 見事ザックを納得させるのに成功し、私達は馬車に乗り込んだ。

「後でザックとしっかり話をしないとな……」

 そう頭を抱え込むお父様にお母様が不思議そうに首を傾げていた。
 ザックは言わずもがなお留守番だ。帰ってきたらたらふく激辛料理を食べさせてあげると約束したら、複雑な表情ながらも喜んでいた。可愛いやつである。


 何時間か馬車に揺られて到着した王宮。手厚く出迎えられ、玉座のある間へと案内される。
 そこには国王様と王妃様、そして2人目の攻略対象であるアゼン・ラハード王太子殿下がいた。

「よく来たな、ルリアーノ。此度のそなたとの縁談話、大変嬉しく思う」
「ありがとうございます。王家に恥じのないよう全力を尽くしますわ」

 国王様と簡単な挨拶を交わす。
 これは私のお父様やお母様にも言えることだけど、この国の人達は全く老いというものを感じないわね。とても子どもがいるとは思えないほど煌びやかな外見をしている。これが美形の特権だろうか。

「さて、貴重な時間を奪ってしまうのも忍びない。アゼン、ルリアーノ嬢を案内して差し上げなさい」
「はい、父上」
「我々は積もる話でもしようか、アルランデ公爵?」

 国王様が茶化すようにお父様を誘う。確かこの2人は同級生だったわね。
 仲は相当よろしいようで、主従関係を越えた何かを感じる。
 王妃様もお母様とはお茶友達みたいでさっさとテラスの方へ行ってしまった。

 取り残された私とアゼン様。
 チラリと横を見ると、誰もが虜になるような王子様スマイルで手を差し伸べられていた。

 さーて、この王子様はどうやって攻略しようかしら?
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