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Ⅰ.出会い編
アゼンside≫婚約者の苦悩 前編
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「却下」
たった今部屋を後にした王宮騎士団員の書類に判を押す。これで何人目だろうか。途中から数えるのも馬鹿らしくなった。
すると僕の声を拾った護衛騎士が気まずそうに口を開いた。
「ですが殿下…今のでルリアーノ様の騎士候補者は最後になりますが…」
「…なに?」
あれだけ時間をかけて選別したというのに、ただの1人も僕の婚約者にふさわしい騎士がいなかったということ?
わざわざルリに会いにいく時間まで削って探したのに。──全てはあのローレンスとかいう騎士を引き離すために。
あの騎士は危険だ。普通王室の誘いを断ってまで公爵家の、しかも令嬢の騎士を志願することはない。大多数の騎士が名誉や待遇などの面で好条件の方を選ぶだろう。
それなのにあえてルリアーノの騎士になることを選んだのは、それ相応の理由があるからだ。
それ相応の理由──それは、あの騎士の目を見たら必然とわかる。何故だかはわからないが、ローレンス・ベイリーはルリに異常な執着を抱いている。確かにルリはそこら辺のご令嬢と比べると頭一つ抜けて優れた外見をしているし、魅力にも溢れていると思う。
しかしベイリー侯爵家は代々優秀な騎士を輩出していて、王家の専属騎士になる者も少なくない。そんな伝統を無視してまでルリアーノを選ぶというのは、並大抵の執着心ではないはずだ。
あんな危険極まりない男が僕の婚約者の周りに常にいると考えただけで莫大な不安が胸を襲う。だけどいくらルリに注意しても全く聞き耳持ってもらえないし……。
ルリアーノのような強情な女性は初めて会った。
幼少時代、能力の高さゆえに張り合いをなくしつまらない人生を送っていた僕。
身分のせいもあるが、同年代の子どもと接していても全く楽しくなかった。
婚約者ができると知った時も、ワクワクする気持ちなんて微塵もなく、興味もない相手のご機嫌を取らなくてはならないことに辟易していた。
……だけど、ルリアーノは話せば話すほど普通の女の子ではなかった。僕の一個下だというのに、僕なんかより進んでいる勉強や稽古の数々。
今まで自分より優秀な奴になんて出会ったことがなかった僕は、戸惑い、否定し、対抗心を燃やした。
きっと本気を出せば年下の女の子なんかに負けるはずがないと、周囲も驚くほど勉学や稽古に熱心に取り組んだ。
けれど、本気を出してもルリアーノに勝てることはなかった。
力では勝っている筈なのに剣の勝負でさえ負けてしまい、僕のプライドは粉々に砕け散った。
──だけど悪い気分がしないのは何故だろう。
ルリアーノに負けるたび、悔しいという気持ちの他に喜びを感じていた。
自分と同等以上に渡り合える存在が現れたことで、僕はいつの間にか人生に楽しさを見出していたのだ。
最近はルリアーノに勝つことよりも、少しでも長い間ルリと共に過ごしたいと思うようになった。
──僕は多分、彼女のことが好きだ。しかも自分が思っている以上に、気持ちは強い。
たった今部屋を後にした王宮騎士団員の書類に判を押す。これで何人目だろうか。途中から数えるのも馬鹿らしくなった。
すると僕の声を拾った護衛騎士が気まずそうに口を開いた。
「ですが殿下…今のでルリアーノ様の騎士候補者は最後になりますが…」
「…なに?」
あれだけ時間をかけて選別したというのに、ただの1人も僕の婚約者にふさわしい騎士がいなかったということ?
わざわざルリに会いにいく時間まで削って探したのに。──全てはあのローレンスとかいう騎士を引き離すために。
あの騎士は危険だ。普通王室の誘いを断ってまで公爵家の、しかも令嬢の騎士を志願することはない。大多数の騎士が名誉や待遇などの面で好条件の方を選ぶだろう。
それなのにあえてルリアーノの騎士になることを選んだのは、それ相応の理由があるからだ。
それ相応の理由──それは、あの騎士の目を見たら必然とわかる。何故だかはわからないが、ローレンス・ベイリーはルリに異常な執着を抱いている。確かにルリはそこら辺のご令嬢と比べると頭一つ抜けて優れた外見をしているし、魅力にも溢れていると思う。
しかしベイリー侯爵家は代々優秀な騎士を輩出していて、王家の専属騎士になる者も少なくない。そんな伝統を無視してまでルリアーノを選ぶというのは、並大抵の執着心ではないはずだ。
あんな危険極まりない男が僕の婚約者の周りに常にいると考えただけで莫大な不安が胸を襲う。だけどいくらルリに注意しても全く聞き耳持ってもらえないし……。
ルリアーノのような強情な女性は初めて会った。
幼少時代、能力の高さゆえに張り合いをなくしつまらない人生を送っていた僕。
身分のせいもあるが、同年代の子どもと接していても全く楽しくなかった。
婚約者ができると知った時も、ワクワクする気持ちなんて微塵もなく、興味もない相手のご機嫌を取らなくてはならないことに辟易していた。
……だけど、ルリアーノは話せば話すほど普通の女の子ではなかった。僕の一個下だというのに、僕なんかより進んでいる勉強や稽古の数々。
今まで自分より優秀な奴になんて出会ったことがなかった僕は、戸惑い、否定し、対抗心を燃やした。
きっと本気を出せば年下の女の子なんかに負けるはずがないと、周囲も驚くほど勉学や稽古に熱心に取り組んだ。
けれど、本気を出してもルリアーノに勝てることはなかった。
力では勝っている筈なのに剣の勝負でさえ負けてしまい、僕のプライドは粉々に砕け散った。
──だけど悪い気分がしないのは何故だろう。
ルリアーノに負けるたび、悔しいという気持ちの他に喜びを感じていた。
自分と同等以上に渡り合える存在が現れたことで、僕はいつの間にか人生に楽しさを見出していたのだ。
最近はルリアーノに勝つことよりも、少しでも長い間ルリと共に過ごしたいと思うようになった。
──僕は多分、彼女のことが好きだ。しかも自分が思っている以上に、気持ちは強い。
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