羅天絞喰

D・D

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第一章 怖くて偉大で大きな木

12.出迎

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「さて…」

ザサやミコリたちに見送られ、カウラとラザクは山道を歩き始める。
木々は生い茂っており、草々は行く手を阻むかのように大きく成長しているのがわかる。
二人は岩を飛び越え、野道の草木を掻き分けながら進んでいた。

のだが、

「そっちではなく、こちらの道かと」

「おう。」

ラザクが先頭を行き、カウラがそれについて行く。そのようにして二人は進んでいた。

「ラザク、こちらの方が近いでしょう?」

「そうだな」

ラザクは返答し、方向を変える。

その横にいたカウラは訝しげな顔をする。

先ほどからどうもラザクの行く方向がおかしい。
最短距離の道をザサから教えられたはずなのに、その道を通ろうとしないのだ。

「ラザク、目的地は分かっていますよね?」

「そりゃ、分かってるよ。天樹だろ?」

それは、そうであるのだが。ならば、なぜわざわざ回り道にもなりそうなルートを行く? 

「行く道は頭に入っているのですよね?」

「えー、あーまあ、だいたい。」

カウラの問いに対し、ラザクは曖昧な返事だ。
カウラは怪訝な表情を変えず、まゆをひそめる。

「 …ん」

そんな二人が淡々と歩いて行くうちにある分かれ道が現れた。
カウラはそこで、進もうとするラザクに待ったをかける。

「なんだよ。急ぐんだろ?」

「ラザク、そこの分かれ道、右と左どちらへ行きますか?」

「あー?あっーと、あぁ、えー、これは右…」

「左です。」

ラザクが体躯に似つかない小さな素ぶりで右を指差した。
が、カウラはそれを真っ向から否定し、ピンと左を指で差す。

「………」

カウラは額にしわを寄せ、少し目つきを鋭くした。

「ラザク、もう一度聞きますが、…行く道は頭に入っているのですか。」

「…だいたい」

ラザクはそっぽを向けて口だけで答える。寸分もカウラの方を見ようとしなかった。

「道なりは分かっているのですか?」

ラザクの目もくれない態度にカウラは今度は強めに問い掛ける。瞳に睨みをきかせながら。

しかし、ラザクは素知らぬ素振りで

「まあ、…まぁ。おおかた。」

カウラは全く釈然としない。はらわたが煮え返りそうだ。

「…じゃあ、さっきは何故、右に行くと言ったのですか?」

「あぁ、えぇっと…勘?」

耳をほじくりながら目を背け、答えるラザク。

そんな目の前の男を見て、仏の態度も流石にしびれを切らす。
カウラの頭の中で何かがプツンと切れた音がした。

「分かってないじゃないですか!絶対頭に入ってないじゃないですか!なんでですか。ザサさんから説明は受けたでしょう⁈」

「いやぁ、聞きはしたけどお前が聞いてっから、割と聞き流した部分はあった。」

「はぁ⁈」

ラザクの物言いにはカウラも訳がわからないといった癇癪を起こす。というか、聞いていないのなら
なぜ、

「なぜ、分かってる私を差し置いてあなたが先頭を立っているんですか。道!わからないのに!」

「それは、…あれだよ。俺はあいつらに大見得切って行ってくるって言っちまったからな。俺が前にいなきゃ筋が通らないってもんだろう?」

ラザクの言い分にカウラの怒声はますますヒートアップ。カウラは「何ですか!それ」と強く言葉を吐き出し、

「そんな筋は通らなくて結構です!ていうかなんのプライドですか?捨てなさい!」

「ダメだね。男はプライドを持ってなんぼだから。」

「いりません!そんなの!無駄なだけです!」

「いや、俺には必要だね。戦前の心構えってやつだ。」

「それで目的地に着けなかったら本末転倒でしょうがぁぁ!!」

森にカウラの声が轟く。
威圧感丸出しで、カウラの激しい怒の声音は森全体に届いたのではないかというくらい響いた。
目つきが凶暴になり、口からフウフウと息を吐くカウラ。

そんな相棒の姿を前にし、流石のラザクもたじろいだ。

「落ち着けよ。頭に血上ったら、えあー、そのー、あれだよ、命を落とすぞ」

両手で遮りながら、鎮撫するラザク。

そんなラザクの言葉を聞き入れ、カウラは「あ?」と睨み付けると。

「誰のせいだと思ってるんですか?反省してるんですか?これからは私が先を行きますからね。」

重たく冷たい声音で言葉をラザクに向かって吐き捨てるとさっそうと前へ進むカウラ。

ラザクはその場では何も言い返すことはできない。というより言い返したら今度は殺される感覚を言葉から感じ取ったので無言でトボトボとカウラについて行った。

ーーーーーーーー

鬱蒼と、草木によって阻まれているような道を難なく突き進んで行くカウラ。
ラザクも後ろから遅れることなくついて行く。

「全く、先ほどまでのことがなければもっと早く着けれたはずなのに」

「悪かったって。反省してるよ」

ボソッと不満をこぼすカウラに対しラザクはなるべくなだめるように返答する。

二人は木々を飛び伝いながら先の遅れを取り戻すように移動していた。

ラザクもさっきのはさすがに失態だったと反省する。「でもよぉ」「俺だってよぉ」などとぶつぶつと不平を呟いていた。

前を走りながら、その様子を悟るカウラは、

「その反省の見返りは戦場で見せつけてもらいます。」

木々に飛び移りながらカウラは一瞬ラザクの方を向いた。

「……」

ラザクはかけられた言葉に対し思わず笑みを浮かべる。
ラザクにとってその言葉は闘争心を促すのにじゅうぶんであり、

「いいね、上等だ。」

と、カウラの背中に向かって、湧き上がる闘争心と同様に獣のようなオーラを剥き出しにする。

「………フッ」

思わずカウラもほくそ笑んだ。後ろに感じる高まった野生のような闘争心を背中に受け、武者震いをしてしまう。

実際、この男の実力は本物だ。幾度となく相対した難敵を倒してきた実績がある。コンビを組まされたときは何度、この男が怪物と言われるほどの敵を倒す瞬間を見てきたことか。

それに、だ。この男とのタッグは周りを気にせず自分の力を否応なく発揮できる。自分の全力を引き出してもなんら問題はない男なのだ。
武者震いが起きることも仕方がない。

二人は今、笑みを浮かべた。
今から向かう先は数々の人間を葬った怪物がいるところである。
そんな物騒過ぎると言えるほどの場所に向かうのだが、二人はお互いに白い歯を見せている。
おそらく、倒すのにも一筋縄ではいかない、難しく、厄介な相手であろう。
だが、ラザクとカウラにとってそのような相手はむしろ歓迎してしまう。二人は根っから戦闘の魅力に取り憑かれた人柄なのだ。

「つきました。あれがそうでしょう。」

カウラは高めの木に降り立ち、遠目に斜め下を見下ろす。そこには木々の根の波がうねりあっており、そこに落ちたものを捻り潰すような巨大な根が張り巡らされていた。

「ほぉー。こいつが天樹か。」

ラザクも追いつき、眺める。
そして、根の海の中心にそびえ立つ大木を見定めた。

巨大すぎる。
中心に立つ大木は全てが巨大だった。幹の太さも、枝の長さも、葉の大きさも。まるでこの森の主は自分だとかと言うように。

「準備はいいですか。ラザク。」

「十分すぎるほどだ。ぶっ倒してやらぁ。」

巨大な大木に対して、小さな二人。だがラザクとカウラは屈するなどという感情を忘れたかのように闘争心をむき出しにする。

そしてここに、人間二人と大木の、決死の戦闘が開幕した。





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