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16.真偽と、信頼の証
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「それで、どういうことなのよ。」
こちらを突き刺すような言葉でレイネルは口出しする。
剣呑さを含ませた目つきは背筋を震え上がらせるのに十分だ。
「どうって…言われてもですね。」
コラルに嘘を見抜かれ、ちぐはぐしてしまう様子を見せるのは何を隠そう俺自身だ。
正直、記憶喪失って設定を作ったばっかりにあんなに睨みつけられるなんて、思ってもみなかった。
あの荷物車で、話の辻褄を無理矢理合わせようとして作った設定だっただけなのに、
えーっと、どうしよう。
うわ、レイネルさんめっちゃこっち睨んでる。
「何?あんた、どうして嘘なんてついてたのよ。」
どうしてって言われても。
おっちゃんと娘さんに変人だと思われないようにですけど。
「…………」
うん。ダメだな。ここに来てその弁明はちょっと納得してくれなさそう。
とりあえずなんか適当に言っときゃ納得するか?
「いやぁ、えっと…そう。記憶喪失って言えば、なにかと支援してもらえるかな、みたいな。」
「はあ?何言ってんの。」
うん、だよね。俺も自分で言っててよくわかんなかった。完全にヒモになりたい人のセリフだよな、これ。
「コラル先生?」
「うん、嘘にゃあ。」
「…あんた。」
幼女に嘘かどうかの確認をとり、嘘だと認定するや
腕組みのままレイネルはこちらを睨め付ける。
コラル先生?ニコニコしながらそれ言う?
心の中で笑顔の幼女に文句を垂れるが、それが無意味なことは周知の事実。
すると、そう思っているのも束の間、コツコツと足音を鳴らしながらレイネルは俺の近くまでやってきた。
そして、剣呑な目つきで勢いよく足で机を叩きつけると、
「いい加減にしなさいよ!こっちはわけわからんあんたを拾ってやったってのに、なんかトイレで変態じみたことをするわ、記憶喪失って嘘つくわ、今もなんか適当なこと喋るわ、…どうなってんのよ!あんたの頭は!」
「はぁい!すいません!」
怒りを含めた声音と同時に机に勢いよく足跡をつきつけるレイネル。
こちらを睨む視線はさらに鋭さを増していた。
いや、ヤクザじゃん。レイネルさん、もうヤクザじゃん。何その表情、あなた、絶対前世ヤクザじゃん。
反射的に裏声で謝りの言葉を告げてしまった。
男子が女子の前で裏声発するのってなんか恥ずかしいよね。
「ねえ、いい加減にしなさいよ。そろそろ痺れ切らしそうなんだけど。」
「分かりました!分かりました!嘘をついた俺が悪かったです。」
「あんた、それがどういうことかわかってんの?わざわざ拾ってやって、コラル先生という偉大なお方まで呼んだっていうのに」
「はい。俺が悪かったです。」
「にゃははー。レイネルゥ、照れるにゃ。」
数々の浴びせられる怒声にしゅんとしてしまう俺。
それとは違って赤面しながらにやけている猫耳幼女。身体をモジモジクネクネさせていた。
偉大なお方と言われたことがよほど嬉しかったようだ。
しっぽをふりふりしながら満更でもない様子。
可愛いな、おい。
「全く、コラル先生も言ってあげてください。この無能のせいで、あなたはわざわざ出向かれる羽目になったのですよ」
無職から無能にジョブチェンジしてる。あれ?これ劣化じゃね?
「いやぁ、今はあんまり忙しくないから別にいいんだなー。お兄さん、面白いし、あんまり文句はないなー。にゃははー。」
「もう。」
コラルの陽気げな言葉にレイネルは呆れたように嘆息。
俺はそんな二人の様子を見て顎に手を添えて「ほおほお」と黙考する。
なるほど、この二人の関係性が大体わかってきた。
レイネルは役職的には下だけどコラルのお姉さん的な立場だな。反対にコラルは役職的に上だけどレイネルの妹的な立場だな。いや、妹って言うより親戚の子供ってのが適切か?
ふむふむ、仲睦まじいことで。
すると、自分なりに当たり障りのないことを思っている中、幼女がこちらをチラリと向いてきた。
なんだ?と俺は首を傾げるが、
「でも、お兄さん、なんか隠してるんだなー。なんとなく直感でわかるんだにぁー」
「え?」
コラルがこちらを見据え、笑いながらいきなり言われた言葉。
その発言に俺は思わずポカンと呆けたツラをしてしまう。
ええ?何?急に、唐突に、どうしたの?
「か、隠し事?な~んのことかなぁ。」
「お兄さん、隠しても無駄にゃ。嘘だってよくわかるにゃ。」
言葉を濁らせるように、俺はにやけながら発言する。しかし、獣人族のスペックにより、一発で動揺がバレてしまった。
マジかよ、交渉事とか最強じゃんこの幼女。
じゃなくて、てか直感で隠し事とかわかっちゃうものなの?
常識外れすぎやない?コラルさん。
「あんた、この期に及んでまだ。」
すると、横から低い声音で言葉が放たれる。
レイネルの睨めつけは未だ健在であり、さらに鋭さを増していっているようであった。
ドンと机を蹴るや、腕を組み、こちらを見下している様子を見せる。(ヤクザじゃん)
つっても隠し事?隠し事って言ってもなー。
俺はコラルからの指摘されたことについて少しばかり考える。そして、自分の中で折り合いをつけ、
「まあ、あの事か。」
「にゃあ?」
俺は一言呟いて頭の中を整理し、ある程度考えを巡らせた。
そもそも記憶喪失という設定を使った理由ってのもあるにはあるのだ。
でもそれは、結局は異世界転生したかどうかのいざこざの成り行きで使ったものなんだよな。
おっちゃんに転生のことについて話した時、「なんの話だ?お前馬鹿か?」みたいな感じでわかってくれなかったからな。結局、この世界には異世界転生という概念はないとあの時は結論づけたんだよな。
けれど………
「………」
俺はチラリと目前の猫耳幼女を見る。
うん、このコラルとやらはおそらく顔が広く、世間にも知られている人物だろう。歳の離れたレイネルが先生と呼ぶあたり割と慕われもする幼女なのではないだろうか。
それならば、案外この幼女。異世界転生についても知っている可能性はあるのではないのか?
荷物車のおっちゃんは言うならば村人Aだからな。そんな世界の事情なんて知らないとしてもなんら不思議はない。
けれども、このデカイ建物の中にいる、衛兵さんがいっぱいいるこの中で、この猫耳は割と位の高い位置にいると俺は見た。つまり、この幼女は世界に精通している可能性は高いとな。少なくとも村人Aよりは確実だろう。
うん、聞いてみる価値はある。
俺は軽く心を決め、コラルとレイネルに向き直り、
「そうだな、分かった。確かに隠し事というか、話すべきじゃないかなって思ってたことはあった。けれど、まあ、この際だしな。隠さず話すよ。」
「聞くのだー、にゃっはー。」
「最初からそうすればいいのよ。」
猫耳幼女の笑顔と衛兵女性の刺々しい声音で、俺の言葉に二人は応じる。
一人の反応には物申したいところはあったが、それは置いといて、
俺は淡々と語り始める。
「実は、俺はこの世界に来た人間だ。ここに来る前は別の世界に暮らしてて、その世界で死んだと思ったら、この世界にいたんだ。異世界転生ってやつだな。」
「にぁ?」
「?」
「だから、俺は記憶喪失ではないのは確かだ。だけど、この世界については知らないことの方が断然多い。」
俺は、正直に話した。嘘偽りなく自分の身に怒った事象を包み隠さずに、だ。
レイネルとコラルはそんないきなりの俺の発言にキョトンとした顔をしているが。
まあ、俺は嘘は言ってないからな。
これで、どう反応してくる?
「コラル、先生。」
すると、レイネルは近くにいるコラルに呟く。
コラルはそれを聞き、少しだけ唖然とした表情を浮かべるも、
「うん、レイネル、このお兄さんは嘘は言ってはいないにゃ。」
「な⁈、それは…本当ですか?」
「本当にゃ。」
俺の発言が嘘かどうかの確認。
しかし、俺は嘘を言ってはいないことが分かり、二人は驚きの表情を浮かべた。
まあ、仕方ないだろう。こんな奇天烈な話、そうそう聞くことあるまい。
「そう、なんですか。だったら」
「うん、わちも今考えてることは一緒だなー」
レイネルのポツリとした呟き。それに対しコラルはコクリと頷きで応じた。
そして、コラルはこちらに目線をやり、
「お兄さん」
「ん?なんだ?」
情感を漂わせた声音でコラルはこちらに告げる。
一目でわかる。真剣な眼差しだ。
普通でない話を聞いた後のこの表情。
おそらく、この身一つのみしかない俺に対し、優遇な処置をしてくれるのだ、ろ…
「病院に行くことをお勧めするにゃ。」
「なんでだよ!」
コラルからの思いもしなかった発言。
いきなり言われたそれに反射的に反発してしまう。
けれども、そんな俺の反応を見るコラルは肩を竦めると、
「いやいや、だって急に何言ってるにゃ?別の世界で死んだ?いせかいてんせい?なんのことだかさっぱりにゃ」
「まさか、ここまで救えない人間がいるだなんて。」
二人の反応にそれぞれ違いはある。
けれども、多分思うところは一緒だろうとなんとなく分かる言葉だった。
「おおい!こっちは真面目に話したってのにその言い草何なんだよ!」
「それが怖いところだにゃ。とりあえず、お兄さんの言うことに嘘はなかった。つまり今の話が全部本当のことだとお兄さんは思っているってことにゃ。怖いにゃ。なんでそんな突飛すぎることを平気で言えるんだにゃ。」
「コラル先生。彼は、もう戻れないところまで行ってしまっています。」
「おい!その諦めたような目つきをやめろ!憐んだ目つきをやめろ!」
「どうしますか?コラル先生。」
「ふむ、病院に連れて行くしかないにゃ。」
「なるほど、しかし、コラル先生は治癒術師じゃ?」
「あ、そうか、わちは治癒魔法使える魔法使いだったにゃ。……え、わちが見るのか?ちょっと…専門外かも、にゃ」
「なるほど、あの男の頭のいかれ具合は治癒魔法で治せるものではないと。」
「うう、ごめんなさいにゃ。」
「ねえ?落ち込んでるけど、今この場で一番落ち込むべき人物誰?俺だよね?ねえ、なにこれ?なにこの空気?」
意を決してカミングアウトをしたというのに、結果は憐みの目線のみ。
散々な結末に物議を醸し出したくなるレベルだ。
ねえ?なんで俺の言うこと素直に聞き入れてくれないの?
ていうか、
「ねえ?ちょっと、本当に異世界転生って聞いたことないの?ここは剣と魔法のファンタジー世界だろ?転生者とか転生魔法とかそんな感じのないの?」
「知らないにゃ。なんだ?転生って。」
「いや、だから死んだ人が生まれ変わる的なあれだよ。まあ、俺の場合は死んでこの世界に召還されたみたいな感じだけど。とりあえず、それが異世界転生ってやつ。」
俺なりに転生について分かるようにあたふた説明する。
しかし、コラルは言われた言葉の中のある単語にピクリと反応を示し、
「召還?わちは召還魔法なら知ってるにゃあ。召還獣と契約して、その場に呼び出す魔法なんだにゃあ。」
「ああ、ええと、まあそんな感じで。ある意味俺もこの世界に召還されたと考えれば、同じことだ。」
「……?お兄さんは召還獣なのかにゃ?誰かと契約でもしたのかにゃ?」
「…いや、獣じゃないし…人間だし。契約とかした覚えも、ない。」
「うーん。…それだと召還とは違うような。そもそも人間を召還とか聞いたことないにゃ。」
「コラル先生…もうよくないですか?もう、そいつに何言わせても得るものはない気がしますが。」
もうよくないですか、が、もうどうでもよくないですかという意味に聞こえたのは俺だけだろうか。
レイネルの待ちくたびれたような発言。ため息混じりに告げられる声音はとても呆れたご様子だ。
「しかし、レイネル。このお兄さん。全然嘘を言わないのだにゃあ。本当のことしか言わないようなのだ。」
「だから、その無能の頭がお花畑なだけでしょう。」
「おいこら、勝手に決めつけるな。」
「うーん。お兄さんの言うことはよくわかんないし。結局は記憶喪失でもないし。これ、わちの出番ないんじゃないかにゃあ?」
額に眉を寄せながら、コラルは考え込む。
どうやら医師の判断としては治療の余地なしという決断らしい。なんか腑に落ちない気がするが。
「お兄さん、行くあてとかあるのかー?」
「え?」
不意に、猫耳幼女が俺に問いを投げかける。
俺はそれに首を傾げるが、とりあえず「いや、ない」とだけ言うと、
「にゃっははー、そうなのかー。んじゃ、とりあえずここにいればいいんじゃないかにゃ。レイネル、このお兄さんを連れてってあげるにゃ。」
コラルのいきなりの提案。
俺はそれを聞き、いくぶん驚いてしまう。
それもそのはず、この世界に来て右往左往するしかない状態の俺だ。けれども今のコラルの言葉は俺にとって助け舟とも言える発言だったからだ。
しかし、俺以上にもっと驚きの表情を浮かべている人物がいた。
横のレイネルはギョッとした面持ちをコラルに向けると、
「ちょっ…⁈本気ですか?コラル先生?この無能をここに居させるって…住居として住ませるってことですか?」
ねえ、レイネルさん?無能って言わないでくれる。なんかその呼び名が定着しちゃいそう。
「そうだにゃあ。お兄さんも別に記憶喪失じゃないみたいだし、行くあてもないみたいだからなー。」
「待ってください!コラル先生!この無能をここに居させるなんて。だいたいなんで私が連れて行かなきゃ?」
無能って言うなよ。
「いやでもにゃあ、ここの設備は人が住むには文句ないからいいと思うけどなー。」
「でも、あまり、適した判断とは…」
「正直言うと?」
「嫌です!」
直球かよ。いっそ清々しいな、おい。
「だいたい…!」
「…コラル」
「にゃあ?」
すると、レイネルがコラルの案に対して物申そうとした瞬間。
何者か、聞いたことのない声が聞こえた。いや、聞こえたと言うよりは直接脳に言葉が入り込んだと言う方が適切だろうか。
しかし、そんなことを考える暇もなくそれは唐突に起こったのだ。
一瞬の出来事。その刹那だった。
突然、コラルの部屋のガラスが飛び散り、破片がこぼれる音が響き渡る。
そして、窓から差し込む日の光とともにそれは俺の目の前に現れた。
純白の髪色を首元まで伸ばしたまだ小さな子供。
こちらを薄目で見上げる幼女が。
こちらを突き刺すような言葉でレイネルは口出しする。
剣呑さを含ませた目つきは背筋を震え上がらせるのに十分だ。
「どうって…言われてもですね。」
コラルに嘘を見抜かれ、ちぐはぐしてしまう様子を見せるのは何を隠そう俺自身だ。
正直、記憶喪失って設定を作ったばっかりにあんなに睨みつけられるなんて、思ってもみなかった。
あの荷物車で、話の辻褄を無理矢理合わせようとして作った設定だっただけなのに、
えーっと、どうしよう。
うわ、レイネルさんめっちゃこっち睨んでる。
「何?あんた、どうして嘘なんてついてたのよ。」
どうしてって言われても。
おっちゃんと娘さんに変人だと思われないようにですけど。
「…………」
うん。ダメだな。ここに来てその弁明はちょっと納得してくれなさそう。
とりあえずなんか適当に言っときゃ納得するか?
「いやぁ、えっと…そう。記憶喪失って言えば、なにかと支援してもらえるかな、みたいな。」
「はあ?何言ってんの。」
うん、だよね。俺も自分で言っててよくわかんなかった。完全にヒモになりたい人のセリフだよな、これ。
「コラル先生?」
「うん、嘘にゃあ。」
「…あんた。」
幼女に嘘かどうかの確認をとり、嘘だと認定するや
腕組みのままレイネルはこちらを睨め付ける。
コラル先生?ニコニコしながらそれ言う?
心の中で笑顔の幼女に文句を垂れるが、それが無意味なことは周知の事実。
すると、そう思っているのも束の間、コツコツと足音を鳴らしながらレイネルは俺の近くまでやってきた。
そして、剣呑な目つきで勢いよく足で机を叩きつけると、
「いい加減にしなさいよ!こっちはわけわからんあんたを拾ってやったってのに、なんかトイレで変態じみたことをするわ、記憶喪失って嘘つくわ、今もなんか適当なこと喋るわ、…どうなってんのよ!あんたの頭は!」
「はぁい!すいません!」
怒りを含めた声音と同時に机に勢いよく足跡をつきつけるレイネル。
こちらを睨む視線はさらに鋭さを増していた。
いや、ヤクザじゃん。レイネルさん、もうヤクザじゃん。何その表情、あなた、絶対前世ヤクザじゃん。
反射的に裏声で謝りの言葉を告げてしまった。
男子が女子の前で裏声発するのってなんか恥ずかしいよね。
「ねえ、いい加減にしなさいよ。そろそろ痺れ切らしそうなんだけど。」
「分かりました!分かりました!嘘をついた俺が悪かったです。」
「あんた、それがどういうことかわかってんの?わざわざ拾ってやって、コラル先生という偉大なお方まで呼んだっていうのに」
「はい。俺が悪かったです。」
「にゃははー。レイネルゥ、照れるにゃ。」
数々の浴びせられる怒声にしゅんとしてしまう俺。
それとは違って赤面しながらにやけている猫耳幼女。身体をモジモジクネクネさせていた。
偉大なお方と言われたことがよほど嬉しかったようだ。
しっぽをふりふりしながら満更でもない様子。
可愛いな、おい。
「全く、コラル先生も言ってあげてください。この無能のせいで、あなたはわざわざ出向かれる羽目になったのですよ」
無職から無能にジョブチェンジしてる。あれ?これ劣化じゃね?
「いやぁ、今はあんまり忙しくないから別にいいんだなー。お兄さん、面白いし、あんまり文句はないなー。にゃははー。」
「もう。」
コラルの陽気げな言葉にレイネルは呆れたように嘆息。
俺はそんな二人の様子を見て顎に手を添えて「ほおほお」と黙考する。
なるほど、この二人の関係性が大体わかってきた。
レイネルは役職的には下だけどコラルのお姉さん的な立場だな。反対にコラルは役職的に上だけどレイネルの妹的な立場だな。いや、妹って言うより親戚の子供ってのが適切か?
ふむふむ、仲睦まじいことで。
すると、自分なりに当たり障りのないことを思っている中、幼女がこちらをチラリと向いてきた。
なんだ?と俺は首を傾げるが、
「でも、お兄さん、なんか隠してるんだなー。なんとなく直感でわかるんだにぁー」
「え?」
コラルがこちらを見据え、笑いながらいきなり言われた言葉。
その発言に俺は思わずポカンと呆けたツラをしてしまう。
ええ?何?急に、唐突に、どうしたの?
「か、隠し事?な~んのことかなぁ。」
「お兄さん、隠しても無駄にゃ。嘘だってよくわかるにゃ。」
言葉を濁らせるように、俺はにやけながら発言する。しかし、獣人族のスペックにより、一発で動揺がバレてしまった。
マジかよ、交渉事とか最強じゃんこの幼女。
じゃなくて、てか直感で隠し事とかわかっちゃうものなの?
常識外れすぎやない?コラルさん。
「あんた、この期に及んでまだ。」
すると、横から低い声音で言葉が放たれる。
レイネルの睨めつけは未だ健在であり、さらに鋭さを増していっているようであった。
ドンと机を蹴るや、腕を組み、こちらを見下している様子を見せる。(ヤクザじゃん)
つっても隠し事?隠し事って言ってもなー。
俺はコラルからの指摘されたことについて少しばかり考える。そして、自分の中で折り合いをつけ、
「まあ、あの事か。」
「にゃあ?」
俺は一言呟いて頭の中を整理し、ある程度考えを巡らせた。
そもそも記憶喪失という設定を使った理由ってのもあるにはあるのだ。
でもそれは、結局は異世界転生したかどうかのいざこざの成り行きで使ったものなんだよな。
おっちゃんに転生のことについて話した時、「なんの話だ?お前馬鹿か?」みたいな感じでわかってくれなかったからな。結局、この世界には異世界転生という概念はないとあの時は結論づけたんだよな。
けれど………
「………」
俺はチラリと目前の猫耳幼女を見る。
うん、このコラルとやらはおそらく顔が広く、世間にも知られている人物だろう。歳の離れたレイネルが先生と呼ぶあたり割と慕われもする幼女なのではないだろうか。
それならば、案外この幼女。異世界転生についても知っている可能性はあるのではないのか?
荷物車のおっちゃんは言うならば村人Aだからな。そんな世界の事情なんて知らないとしてもなんら不思議はない。
けれども、このデカイ建物の中にいる、衛兵さんがいっぱいいるこの中で、この猫耳は割と位の高い位置にいると俺は見た。つまり、この幼女は世界に精通している可能性は高いとな。少なくとも村人Aよりは確実だろう。
うん、聞いてみる価値はある。
俺は軽く心を決め、コラルとレイネルに向き直り、
「そうだな、分かった。確かに隠し事というか、話すべきじゃないかなって思ってたことはあった。けれど、まあ、この際だしな。隠さず話すよ。」
「聞くのだー、にゃっはー。」
「最初からそうすればいいのよ。」
猫耳幼女の笑顔と衛兵女性の刺々しい声音で、俺の言葉に二人は応じる。
一人の反応には物申したいところはあったが、それは置いといて、
俺は淡々と語り始める。
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「にぁ?」
「?」
「だから、俺は記憶喪失ではないのは確かだ。だけど、この世界については知らないことの方が断然多い。」
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レイネルとコラルはそんないきなりの俺の発言にキョトンとした顔をしているが。
まあ、俺は嘘は言ってないからな。
これで、どう反応してくる?
「コラル、先生。」
すると、レイネルは近くにいるコラルに呟く。
コラルはそれを聞き、少しだけ唖然とした表情を浮かべるも、
「うん、レイネル、このお兄さんは嘘は言ってはいないにゃ。」
「な⁈、それは…本当ですか?」
「本当にゃ。」
俺の発言が嘘かどうかの確認。
しかし、俺は嘘を言ってはいないことが分かり、二人は驚きの表情を浮かべた。
まあ、仕方ないだろう。こんな奇天烈な話、そうそう聞くことあるまい。
「そう、なんですか。だったら」
「うん、わちも今考えてることは一緒だなー」
レイネルのポツリとした呟き。それに対しコラルはコクリと頷きで応じた。
そして、コラルはこちらに目線をやり、
「お兄さん」
「ん?なんだ?」
情感を漂わせた声音でコラルはこちらに告げる。
一目でわかる。真剣な眼差しだ。
普通でない話を聞いた後のこの表情。
おそらく、この身一つのみしかない俺に対し、優遇な処置をしてくれるのだ、ろ…
「病院に行くことをお勧めするにゃ。」
「なんでだよ!」
コラルからの思いもしなかった発言。
いきなり言われたそれに反射的に反発してしまう。
けれども、そんな俺の反応を見るコラルは肩を竦めると、
「いやいや、だって急に何言ってるにゃ?別の世界で死んだ?いせかいてんせい?なんのことだかさっぱりにゃ」
「まさか、ここまで救えない人間がいるだなんて。」
二人の反応にそれぞれ違いはある。
けれども、多分思うところは一緒だろうとなんとなく分かる言葉だった。
「おおい!こっちは真面目に話したってのにその言い草何なんだよ!」
「それが怖いところだにゃ。とりあえず、お兄さんの言うことに嘘はなかった。つまり今の話が全部本当のことだとお兄さんは思っているってことにゃ。怖いにゃ。なんでそんな突飛すぎることを平気で言えるんだにゃ。」
「コラル先生。彼は、もう戻れないところまで行ってしまっています。」
「おい!その諦めたような目つきをやめろ!憐んだ目つきをやめろ!」
「どうしますか?コラル先生。」
「ふむ、病院に連れて行くしかないにゃ。」
「なるほど、しかし、コラル先生は治癒術師じゃ?」
「あ、そうか、わちは治癒魔法使える魔法使いだったにゃ。……え、わちが見るのか?ちょっと…専門外かも、にゃ」
「なるほど、あの男の頭のいかれ具合は治癒魔法で治せるものではないと。」
「うう、ごめんなさいにゃ。」
「ねえ?落ち込んでるけど、今この場で一番落ち込むべき人物誰?俺だよね?ねえ、なにこれ?なにこの空気?」
意を決してカミングアウトをしたというのに、結果は憐みの目線のみ。
散々な結末に物議を醸し出したくなるレベルだ。
ねえ?なんで俺の言うこと素直に聞き入れてくれないの?
ていうか、
「ねえ?ちょっと、本当に異世界転生って聞いたことないの?ここは剣と魔法のファンタジー世界だろ?転生者とか転生魔法とかそんな感じのないの?」
「知らないにゃ。なんだ?転生って。」
「いや、だから死んだ人が生まれ変わる的なあれだよ。まあ、俺の場合は死んでこの世界に召還されたみたいな感じだけど。とりあえず、それが異世界転生ってやつ。」
俺なりに転生について分かるようにあたふた説明する。
しかし、コラルは言われた言葉の中のある単語にピクリと反応を示し、
「召還?わちは召還魔法なら知ってるにゃあ。召還獣と契約して、その場に呼び出す魔法なんだにゃあ。」
「ああ、ええと、まあそんな感じで。ある意味俺もこの世界に召還されたと考えれば、同じことだ。」
「……?お兄さんは召還獣なのかにゃ?誰かと契約でもしたのかにゃ?」
「…いや、獣じゃないし…人間だし。契約とかした覚えも、ない。」
「うーん。…それだと召還とは違うような。そもそも人間を召還とか聞いたことないにゃ。」
「コラル先生…もうよくないですか?もう、そいつに何言わせても得るものはない気がしますが。」
もうよくないですか、が、もうどうでもよくないですかという意味に聞こえたのは俺だけだろうか。
レイネルの待ちくたびれたような発言。ため息混じりに告げられる声音はとても呆れたご様子だ。
「しかし、レイネル。このお兄さん。全然嘘を言わないのだにゃあ。本当のことしか言わないようなのだ。」
「だから、その無能の頭がお花畑なだけでしょう。」
「おいこら、勝手に決めつけるな。」
「うーん。お兄さんの言うことはよくわかんないし。結局は記憶喪失でもないし。これ、わちの出番ないんじゃないかにゃあ?」
額に眉を寄せながら、コラルは考え込む。
どうやら医師の判断としては治療の余地なしという決断らしい。なんか腑に落ちない気がするが。
「お兄さん、行くあてとかあるのかー?」
「え?」
不意に、猫耳幼女が俺に問いを投げかける。
俺はそれに首を傾げるが、とりあえず「いや、ない」とだけ言うと、
「にゃっははー、そうなのかー。んじゃ、とりあえずここにいればいいんじゃないかにゃ。レイネル、このお兄さんを連れてってあげるにゃ。」
コラルのいきなりの提案。
俺はそれを聞き、いくぶん驚いてしまう。
それもそのはず、この世界に来て右往左往するしかない状態の俺だ。けれども今のコラルの言葉は俺にとって助け舟とも言える発言だったからだ。
しかし、俺以上にもっと驚きの表情を浮かべている人物がいた。
横のレイネルはギョッとした面持ちをコラルに向けると、
「ちょっ…⁈本気ですか?コラル先生?この無能をここに居させるって…住居として住ませるってことですか?」
ねえ、レイネルさん?無能って言わないでくれる。なんかその呼び名が定着しちゃいそう。
「そうだにゃあ。お兄さんも別に記憶喪失じゃないみたいだし、行くあてもないみたいだからなー。」
「待ってください!コラル先生!この無能をここに居させるなんて。だいたいなんで私が連れて行かなきゃ?」
無能って言うなよ。
「いやでもにゃあ、ここの設備は人が住むには文句ないからいいと思うけどなー。」
「でも、あまり、適した判断とは…」
「正直言うと?」
「嫌です!」
直球かよ。いっそ清々しいな、おい。
「だいたい…!」
「…コラル」
「にゃあ?」
すると、レイネルがコラルの案に対して物申そうとした瞬間。
何者か、聞いたことのない声が聞こえた。いや、聞こえたと言うよりは直接脳に言葉が入り込んだと言う方が適切だろうか。
しかし、そんなことを考える暇もなくそれは唐突に起こったのだ。
一瞬の出来事。その刹那だった。
突然、コラルの部屋のガラスが飛び散り、破片がこぼれる音が響き渡る。
そして、窓から差し込む日の光とともにそれは俺の目の前に現れた。
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こちらを薄目で見上げる幼女が。
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リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
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俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる
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ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。
レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。
これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
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三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
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週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
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公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
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これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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