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第二章 待ち受けていた王国の城
32.大満足
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「ほら、とりあえずそこに座りな。女の子は寝かした方が良さそうだね」
「がぁぁぁ……」
店のおばちゃんに言われたまんまにアルトは椅子につきそのまま流れるように顔をテーブルに突っ伏す。
ぶっちゃけ空腹すぎて顔を上げていることさえきつい。
「どんだけ弱ってんだい。おーい!あんたぁ!降りこれるかい!」
弱々しいアルトの力の無い様子。それに見かねたおばちゃんが呆れたようにため息を吐き、それからでかい声を二階へ発した。
すると、ドタドタと上階から音がし、人影が階段を降りてくる。
机に顔を置いたまんまチラリと目線だけをそこに向けると、降りてきたのは店のおばちゃんと同じくらいの歳かと思われるおじさんで、
「何だよ?テーア、今日はもう店は閉じる時間だろう?」
「その閉じる時間に客さ。あんた、その男の子についてやんな。アタシゃこの女の子を見るからね」
「んん?」
店のおばちゃんに呼ばれ降りてきた人物は不可解そうにテーブルにいるアルトを見やる。
途端に、おったまげた表情を浮かべ、
「どうしたの?兄ちゃん、死にかけてんじゃないか。何があったんだい?」
「腹が空いてんのさ。まずは水飲ませたげな 」
「ん?あぁ、腹?…はあぁ、それでこんなにやつれて」
机に顔を沈め微動だにしないアルトの様子におじさんは目を丸くしながら驚嘆した。
それからすぐさまコップを手に取り水を含ませては、反応さえ示さないアルトヘ差し出す。
「ほら、兄ちゃん、起きれるか?ゆっくり水飲め」
「うぐっ…」
肩をさすられながらアルトは差し出された水に口をつけた。瞬間、冷たい液体が口全体に染み渡る。ゴクリと飲み込み体に浸透させ、ぷはっと一息。
やっとこさ求めていたものを体に含めることができて少しだけ生気を取り戻せた。
たかが水、されど水だ。しかし、この日ほど水が美味しいと思ったことはない。本当に水がうまい。
「うめ、え」
「ただの水に何感動してるの、ハハ。まあ美味しいなら何よりだよ」
感動さえ覚えているアルトの様子におじさんは呆れて微笑する。
すると、リーネルを寝かしたおばちゃんがこちらに張りのある声をかけて、
「水飲ませたら、クガの実食わしてやりな。今日は蒸したやつがあったろう?」
「あぁ、そうさな。どこあったっけ?裏の調理台かい?」
「そうだねそこに置いてあるよ。ついでにレット。水も頼むよ。この女の子にも飲ませてやらな」
「分かったよ。テーア。兄ちゃん、ゆっくり水飲んどけよ」
すると、おばちゃんの言うことに応じたおじさんはアルトを気遣ってから駆け足でせっせと店のカウンターの裏方へ。
アルトはチビチビと与えられた水分を摂取しながら、ぼーっとまともに思考が回らずただ前を見やる。
「ほら」
と、唐突にコトンと前に皿が置かれ、赤い皮に包まれた、中身がふわふわとした実の食材が視界に入った。見た目だけなら芋類のように思える皿いっぱいにあるそれ。
目の前にあるホカホカと湯気をたてるその食材を見た途端、自然とよだれが出てきてしまい、
「ほら、これゆっくり食べな。腹に消化の良い食べ物だ。クガの実を蒸したやつだが、あんたにはこれが良い」
「…………」
そうおじさんから出された食べ物の説明を受け、アルトは目の前のものを凝視。
美味そう。非常に美味しそうだ。鼻に劈く香ばしい匂いが過剰に食欲をそそらせる。
「食って、…いいか?」
「何言ってんの。あんたに食べさせるために出したんだ。遠慮なく食べなよ」
「恩に…きる」
おじさんから食事の許諾を得た瞬間、アルトは目の前にある食材に齧り付く。
「……!」
食べたい、という欲望に身を任せそれをめいっぱい口にした。途端にとろけるような食感と舌全体に広がる甘い味が染み渡る。ホカホカとした温かい熱が廃れていた体を奮い立たせる。何というか、生き返った感覚。
「美味しいでしょ?疲れた体にはよく効くんだよね、クガの実は」
「うま…うますぎ」
手の止まらないアルトの食事におじさんは満足したように微笑を浮かべた。
一方、アルトは次々にクガの実と言われたそれを食べ尽くしていく。
パクリと口にした瞬間、口内に溶け出すその美味な食べ物は頬が崩れ落ちそうなほどだ。
空腹は最上の調味料とはよく言えたもので、この食べ物は一生食べれる気がした。
「いい食いっぷりだねえ?そんなに腹減ってたの?」
「あぁ、死にかけてた」
「大袈裟………。…じゃあ、なさそうだね」
アルトの発言を聞き、まさかとおじさんは微笑するが、けれども彼の食べる様を見てなんとなく把握して嘆息する。
「レット、こっちにもクガの実持ってきてちょうだい。この子にも食べさせないとだね」
「あぁ、わかってるよ」
すると、リーネルに水を飲ませていたおばちゃんがこちらに声をかけてきた。
アルトはそちらにチラリと目を向けると、横に寝かせらていたリーネルがげっそりとしているのが見てとれて、
「じゃあ、ちょっとお兄ちゃん、少しだけ実をもらうよ。まあ、心配しなくてもまだあるから大丈夫だよ」
「いい、ありがとう。あいつにも食わせてやってくれ」
アルトの言うことにおじさんはにこりと頷き、それから2、3個実を皿に分けて持っていった。
それをリーネルを介抱しているおばちゃんが受け取り、そのままリーネルの半身を支えて、
「ほら、水飲んだら、これ食べな。全く可愛い子がなんて萎んだ顔してんだい」
「……ぅぅ」
おばちゃんの言う通り、今のリーネルはもの凄く力が無い。横たわりながら半身だけを起こしている彼女は顔色が悪く、目がしょぼんでいる。
「温かいからゆっくり口にしな、ゆっくりとだ」
「ぅみゅ………」
掠れた声を発しながらリーネルは差し出されたそれを咀嚼する。小さな口を開き、パクリと一口。モニュモニュと噛みながらリーネルはクガの実をゴクリと呑み込んで、
「どうだい?平気かい?」
「……う」
「………う?」
「…うぅぅまあぁいぃぃ。」
と、天にも昇るような、幸せそうな笑みを浮かべてリーネルはそう小さく呟いたのであった。
・
・
・
・
・
ーーーーーーーーーーーーーーー
「美味しい、美味じいよぉ。おばちゃん、ご飯おかわり!」
「はいはい。焦らんでもたっぷりあるから。全くとんだ変わり様じゃないか」
止まる事を知らないリーネルの食べっぷりにエプロンをかけたおばちゃんは嘆息しながらせっせと料理を作っていた。
「あ、俺もくれ。正直まだ全然足りない」
「あんたたち、食べるのはいいけどちょっと図々しくはないかい?」
「仕方ねえだろ、腹減ってんだ。美味いもん出されて食わねえわけにはいかないだろ」
「うん!おばちゃんの作るご飯ちょー美味しい!ずっと食べれる!」
「全く、なんて客だい。そう言われちゃ、料理する手が止まらないじゃないか」
宿屋に来た二人の若者の客におばちゃんは言葉だけ文句を垂れるが、しかし随分と張り切っているようであり満更でもない様子。
カウンター裏の調理台でおばちゃんは腕を振るっていた。
「まあ、テーアの作る料理は絶品だからねぇ。君たちが夢中になれるのも無理ないよ」
と、そう言ってハハと柔らかく微笑を浮かべるのは横に座っているおじさん。
彼はレットという名前らしく今料理を作っているおばちゃんの夫だ。おばちゃんの名前はテーア。
話を聞くに二人は夫婦であり、共にこの宿泊屋を経営している者らしい。
「いやあ、しかし驚いたね。こんな時間に空腹に苦しんでる若者が来るとは。今日は店じまいだと思ったんだけど」
「それに関しては、悪いと思ってる…熱っ!あっつ、美味い!何これ美味すぎ」
「アルト!アルト!このお肉もめっちゃ美味いよ!なんかすごい柔らかくて味最高!」
「何⁈寄越せっ!」
「ああっ!?私のお肉!」
頬をとろけさせながら美味たる味に浸るリーネルを見て、アルトは横の皿から肉を強奪。
「美味すぎ!なんだこれ⁈」
「ああ、えっと、うちの妻の料理に満足してくれて何よりだよ。ものすごい勢いだね」
「んあ?あ、悪いおっちゃん。手え止まんなくて…ハフハフハフ」
「いいよ、いいよ。急がなくて。ゆっくり食べな」
「あんたたちは神だ」
「それは、うん。大袈裟だね」
頬を膨らませながら真顔で告げたアルトの言葉に、横に座るおじさん、レットは朗らかな笑みを浮かべて異を唱える。
それから彼はある程度アルトの食が落ち着くのを見計らってから柔らかく口を開き、
「それにしても、こんな夜遅くにどうしたんだい?そんなにお腹空かせてさ」
「んあ?ああっと、……まあ、俺たちは一介の旅人ってやつだな。割とど田舎なとこから来てたんだが、この横にいるやつが全然料理出来ないせいでこのザマさ」
「ん?アルト何か言った?」
「何も言ってねえよ。不出来野郎」
「絶対何か言ったよね⁈」
ご飯を食べるのに夢中になり過ぎたリーネルはアルトの言を聞き逃したよう。
まあ、今そんなのはどうでもいいことであり、とても甘美な飯は食えた、十分に腹は満たされたからなんかもう満足。
一方、アルトの言葉を聞いたレットは少しだけ目を見開かせ、
「旅人かい?本当に?」
「ん?」
すると唐突に、レットが眉を顰めながらアルトへとそう聞き返した。
そんなおじさんの様子にアルトはコテリと首を傾げ、
「そうだけど?旅人がなんか?」
「いや、まあ、今日は珍しいから」
「?」
レットの言葉にアルトは不可解な表情を浮かべる。
その彼の様子を見かねたレットは追随する様に言葉を紡ぎ、
「いやね、今日のお店は君たちが初めてなのさ。つまり今、この街に来た旅人は君たちだけだってこと。おかげで今日は稼ぎ無しだったね」
「そうなのか?」
「うん、うちは宿泊屋だから泊まってくれる人がいないってのは商人として気落ちするけど。まあ、今日客が来ないのは仕方ないって言えば仕方ないんだ。だいたい理由は分かってる」
「理由?」
「そう」
レットの言にアルトはいまいち話の筋を捉えきれない様子を見せる。
一方、そう呟いたレットは少しだけ瞳を下に落として、
「ここからそう遠くない街、結構豊かなところで人も賑わっていた良い街があったんだけど」
「?」
「その街が全て全壊されたらしいんだ。人も建物も。それは酷い有様だったみたいでね。そんなことがあったせいで、今は旅をする人なんていないんだ。何がどこに潜んでいるのか分からないからね」
と、横に座っているおじさんは重々しく悲壮げにそう告げた。
「がぁぁぁ……」
店のおばちゃんに言われたまんまにアルトは椅子につきそのまま流れるように顔をテーブルに突っ伏す。
ぶっちゃけ空腹すぎて顔を上げていることさえきつい。
「どんだけ弱ってんだい。おーい!あんたぁ!降りこれるかい!」
弱々しいアルトの力の無い様子。それに見かねたおばちゃんが呆れたようにため息を吐き、それからでかい声を二階へ発した。
すると、ドタドタと上階から音がし、人影が階段を降りてくる。
机に顔を置いたまんまチラリと目線だけをそこに向けると、降りてきたのは店のおばちゃんと同じくらいの歳かと思われるおじさんで、
「何だよ?テーア、今日はもう店は閉じる時間だろう?」
「その閉じる時間に客さ。あんた、その男の子についてやんな。アタシゃこの女の子を見るからね」
「んん?」
店のおばちゃんに呼ばれ降りてきた人物は不可解そうにテーブルにいるアルトを見やる。
途端に、おったまげた表情を浮かべ、
「どうしたの?兄ちゃん、死にかけてんじゃないか。何があったんだい?」
「腹が空いてんのさ。まずは水飲ませたげな 」
「ん?あぁ、腹?…はあぁ、それでこんなにやつれて」
机に顔を沈め微動だにしないアルトの様子におじさんは目を丸くしながら驚嘆した。
それからすぐさまコップを手に取り水を含ませては、反応さえ示さないアルトヘ差し出す。
「ほら、兄ちゃん、起きれるか?ゆっくり水飲め」
「うぐっ…」
肩をさすられながらアルトは差し出された水に口をつけた。瞬間、冷たい液体が口全体に染み渡る。ゴクリと飲み込み体に浸透させ、ぷはっと一息。
やっとこさ求めていたものを体に含めることができて少しだけ生気を取り戻せた。
たかが水、されど水だ。しかし、この日ほど水が美味しいと思ったことはない。本当に水がうまい。
「うめ、え」
「ただの水に何感動してるの、ハハ。まあ美味しいなら何よりだよ」
感動さえ覚えているアルトの様子におじさんは呆れて微笑する。
すると、リーネルを寝かしたおばちゃんがこちらに張りのある声をかけて、
「水飲ませたら、クガの実食わしてやりな。今日は蒸したやつがあったろう?」
「あぁ、そうさな。どこあったっけ?裏の調理台かい?」
「そうだねそこに置いてあるよ。ついでにレット。水も頼むよ。この女の子にも飲ませてやらな」
「分かったよ。テーア。兄ちゃん、ゆっくり水飲んどけよ」
すると、おばちゃんの言うことに応じたおじさんはアルトを気遣ってから駆け足でせっせと店のカウンターの裏方へ。
アルトはチビチビと与えられた水分を摂取しながら、ぼーっとまともに思考が回らずただ前を見やる。
「ほら」
と、唐突にコトンと前に皿が置かれ、赤い皮に包まれた、中身がふわふわとした実の食材が視界に入った。見た目だけなら芋類のように思える皿いっぱいにあるそれ。
目の前にあるホカホカと湯気をたてるその食材を見た途端、自然とよだれが出てきてしまい、
「ほら、これゆっくり食べな。腹に消化の良い食べ物だ。クガの実を蒸したやつだが、あんたにはこれが良い」
「…………」
そうおじさんから出された食べ物の説明を受け、アルトは目の前のものを凝視。
美味そう。非常に美味しそうだ。鼻に劈く香ばしい匂いが過剰に食欲をそそらせる。
「食って、…いいか?」
「何言ってんの。あんたに食べさせるために出したんだ。遠慮なく食べなよ」
「恩に…きる」
おじさんから食事の許諾を得た瞬間、アルトは目の前にある食材に齧り付く。
「……!」
食べたい、という欲望に身を任せそれをめいっぱい口にした。途端にとろけるような食感と舌全体に広がる甘い味が染み渡る。ホカホカとした温かい熱が廃れていた体を奮い立たせる。何というか、生き返った感覚。
「美味しいでしょ?疲れた体にはよく効くんだよね、クガの実は」
「うま…うますぎ」
手の止まらないアルトの食事におじさんは満足したように微笑を浮かべた。
一方、アルトは次々にクガの実と言われたそれを食べ尽くしていく。
パクリと口にした瞬間、口内に溶け出すその美味な食べ物は頬が崩れ落ちそうなほどだ。
空腹は最上の調味料とはよく言えたもので、この食べ物は一生食べれる気がした。
「いい食いっぷりだねえ?そんなに腹減ってたの?」
「あぁ、死にかけてた」
「大袈裟………。…じゃあ、なさそうだね」
アルトの発言を聞き、まさかとおじさんは微笑するが、けれども彼の食べる様を見てなんとなく把握して嘆息する。
「レット、こっちにもクガの実持ってきてちょうだい。この子にも食べさせないとだね」
「あぁ、わかってるよ」
すると、リーネルに水を飲ませていたおばちゃんがこちらに声をかけてきた。
アルトはそちらにチラリと目を向けると、横に寝かせらていたリーネルがげっそりとしているのが見てとれて、
「じゃあ、ちょっとお兄ちゃん、少しだけ実をもらうよ。まあ、心配しなくてもまだあるから大丈夫だよ」
「いい、ありがとう。あいつにも食わせてやってくれ」
アルトの言うことにおじさんはにこりと頷き、それから2、3個実を皿に分けて持っていった。
それをリーネルを介抱しているおばちゃんが受け取り、そのままリーネルの半身を支えて、
「ほら、水飲んだら、これ食べな。全く可愛い子がなんて萎んだ顔してんだい」
「……ぅぅ」
おばちゃんの言う通り、今のリーネルはもの凄く力が無い。横たわりながら半身だけを起こしている彼女は顔色が悪く、目がしょぼんでいる。
「温かいからゆっくり口にしな、ゆっくりとだ」
「ぅみゅ………」
掠れた声を発しながらリーネルは差し出されたそれを咀嚼する。小さな口を開き、パクリと一口。モニュモニュと噛みながらリーネルはクガの実をゴクリと呑み込んで、
「どうだい?平気かい?」
「……う」
「………う?」
「…うぅぅまあぁいぃぃ。」
と、天にも昇るような、幸せそうな笑みを浮かべてリーネルはそう小さく呟いたのであった。
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「美味しい、美味じいよぉ。おばちゃん、ご飯おかわり!」
「はいはい。焦らんでもたっぷりあるから。全くとんだ変わり様じゃないか」
止まる事を知らないリーネルの食べっぷりにエプロンをかけたおばちゃんは嘆息しながらせっせと料理を作っていた。
「あ、俺もくれ。正直まだ全然足りない」
「あんたたち、食べるのはいいけどちょっと図々しくはないかい?」
「仕方ねえだろ、腹減ってんだ。美味いもん出されて食わねえわけにはいかないだろ」
「うん!おばちゃんの作るご飯ちょー美味しい!ずっと食べれる!」
「全く、なんて客だい。そう言われちゃ、料理する手が止まらないじゃないか」
宿屋に来た二人の若者の客におばちゃんは言葉だけ文句を垂れるが、しかし随分と張り切っているようであり満更でもない様子。
カウンター裏の調理台でおばちゃんは腕を振るっていた。
「まあ、テーアの作る料理は絶品だからねぇ。君たちが夢中になれるのも無理ないよ」
と、そう言ってハハと柔らかく微笑を浮かべるのは横に座っているおじさん。
彼はレットという名前らしく今料理を作っているおばちゃんの夫だ。おばちゃんの名前はテーア。
話を聞くに二人は夫婦であり、共にこの宿泊屋を経営している者らしい。
「いやあ、しかし驚いたね。こんな時間に空腹に苦しんでる若者が来るとは。今日は店じまいだと思ったんだけど」
「それに関しては、悪いと思ってる…熱っ!あっつ、美味い!何これ美味すぎ」
「アルト!アルト!このお肉もめっちゃ美味いよ!なんかすごい柔らかくて味最高!」
「何⁈寄越せっ!」
「ああっ!?私のお肉!」
頬をとろけさせながら美味たる味に浸るリーネルを見て、アルトは横の皿から肉を強奪。
「美味すぎ!なんだこれ⁈」
「ああ、えっと、うちの妻の料理に満足してくれて何よりだよ。ものすごい勢いだね」
「んあ?あ、悪いおっちゃん。手え止まんなくて…ハフハフハフ」
「いいよ、いいよ。急がなくて。ゆっくり食べな」
「あんたたちは神だ」
「それは、うん。大袈裟だね」
頬を膨らませながら真顔で告げたアルトの言葉に、横に座るおじさん、レットは朗らかな笑みを浮かべて異を唱える。
それから彼はある程度アルトの食が落ち着くのを見計らってから柔らかく口を開き、
「それにしても、こんな夜遅くにどうしたんだい?そんなにお腹空かせてさ」
「んあ?ああっと、……まあ、俺たちは一介の旅人ってやつだな。割とど田舎なとこから来てたんだが、この横にいるやつが全然料理出来ないせいでこのザマさ」
「ん?アルト何か言った?」
「何も言ってねえよ。不出来野郎」
「絶対何か言ったよね⁈」
ご飯を食べるのに夢中になり過ぎたリーネルはアルトの言を聞き逃したよう。
まあ、今そんなのはどうでもいいことであり、とても甘美な飯は食えた、十分に腹は満たされたからなんかもう満足。
一方、アルトの言葉を聞いたレットは少しだけ目を見開かせ、
「旅人かい?本当に?」
「ん?」
すると唐突に、レットが眉を顰めながらアルトへとそう聞き返した。
そんなおじさんの様子にアルトはコテリと首を傾げ、
「そうだけど?旅人がなんか?」
「いや、まあ、今日は珍しいから」
「?」
レットの言葉にアルトは不可解な表情を浮かべる。
その彼の様子を見かねたレットは追随する様に言葉を紡ぎ、
「いやね、今日のお店は君たちが初めてなのさ。つまり今、この街に来た旅人は君たちだけだってこと。おかげで今日は稼ぎ無しだったね」
「そうなのか?」
「うん、うちは宿泊屋だから泊まってくれる人がいないってのは商人として気落ちするけど。まあ、今日客が来ないのは仕方ないって言えば仕方ないんだ。だいたい理由は分かってる」
「理由?」
「そう」
レットの言にアルトはいまいち話の筋を捉えきれない様子を見せる。
一方、そう呟いたレットは少しだけ瞳を下に落として、
「ここからそう遠くない街、結構豊かなところで人も賑わっていた良い街があったんだけど」
「?」
「その街が全て全壊されたらしいんだ。人も建物も。それは酷い有様だったみたいでね。そんなことがあったせいで、今は旅をする人なんていないんだ。何がどこに潜んでいるのか分からないからね」
と、横に座っているおじさんは重々しく悲壮げにそう告げた。
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