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第二章 待ち受けていた王国の城
36.翼が羽ばたく
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路地を駆け続け、道行く道の景色を次々に見過ごしていき、瞬く間に街の端っこへ辿り着く。
数多くの建物の向こう側、疾走し開けた先は見渡す限りの草原だった。
「くそっ、移動手段が乏しすぎる!」
見渡す限りの高原を目にしたアルトは投げ捨てるように言葉を吐いた。
今は王国の危機を救うため今からその戦地に向かうと言った最中である。それなのに人の足では話にならないわけであり、このままだと膨大な時間がかかってしまうということに文句を吐きたくなる現状だった。
ここからイルエス王国までどれほどの距離があるのかなんて、そんな疑問を持つことさえ甚だしい。
まだまだ先は長く、このまま脚を叱咤しながら大地を駆けたとしてもたかが知れている。
「アルトっ!あれ!」
と、現状に唾棄するのも束の間、唐突にリーネルが遠くを指差しながらそう告げた。
何だと思ってアルトは彼女の指の差し示す方を向くと、だだっ広い高原の中に獣のようなものが生息しているのが見てとれて、
「…あれは?鳥?」
「…うん、あの鳥に乗って空飛べば時間を割けれるんじゃないかな。」
移動手段の乏少さを打開するために彼女がそう提言するのは向こうに見える一頭の鳥だ。
なるほど、確かに空を飛んで移動すれば大幅に時間を短縮できるだろう。それもそのはず向こうに見える鳥は体長も著しく大きいため人間二人を乗せるのに申し分ない獣だ。
だが、
「いや、あれは……あの鳥は駄目だ。いや、むしろ間違っても近づくんじゃねえぞ」
「…え?何で?」
「知らねえか?あれはマグニテヴィスって鳥だ。気性が荒いことで有名な野生の鳥だから正直乗せて貰えるなんて思えない。仲間以外の生き物に対して敵愾心が異常に強い獣だぞ。近づくだけでも危ねえ」
朝日に照らされながら川の水を啜っているその巨大な野鳥を見ながら、アルトは苦々しくそう告げる。
まだ遠目で見える程度だが、リーネルが指差した野鳥は巨大な脚爪と鋭利なくちばしを持ち合わせているのが分かる獣だ。
茶と白の混じった凛々しい羽は、広げれば普通の民家の横幅くらいはあるかと思われる巨躯の持ち主。それに凶暴さも兼ね備えており、人間にも猛威をふるったという噂さえある危険視されている鳥なのだ。襲われてしまってはひとたまりもない。
「だから無理だ。リーネル。他の足を探さねえと……」
「ううん、大丈夫だから。私、あの子と話してくる!」
「は?おいっ⁈」
だがリーネルはアルトへとそう言葉をこぼすと一目散に川辺の野鳥の元へと走り去って行った。
そのままリーネルは野原を疾走し、あっという間に巨大な野鳥のたたずんでいる元へ辿り着く。
「ほーら、大丈夫だよ。よしよし」
「……………」
リーネルはある程度野鳥がいるところへ近づくと、ゆっくりと歩いて笑みを浮かべた。呼吸を荒げることもなく落ち着いた心持ちで彼女は巨大な獣へと少しずつ寄っていく。
対して、川辺にいた巨大な野鳥は唐突に現れた小さな人間に対して獣の黒眼を鋭くすぼめた。
そして低く軋むような不快な音を辺りに響かせる。それは獣特有の警戒意識の鳴き声だ。
「馬鹿!離れろ!襲われるぞ!」
「しっ!アルト黙って!平気だから…」
「何を?………ん?」
何とかリーネルの元へと追いつきアルトは声を荒げ、危険であると警告する。けれどもリーネルは静かにそれを忠言した。
一瞬彼にはその言葉の意味が分からなかったが、しかし目の前の現状に思わず声を失ってしまい、
「……威嚇?だけ?」
あまりにも敵対心が強く仲間以外の生物を躊躇なく襲うと言われているマグニテヴィス。その野鳥が今は軋む獣の鳴き声を響かせながらリーネルと目を合わせていた。そう、ただ目を合わせるだけでその鋭利な爪やくちばしをふるってはこなくて、
「何で?襲って来ないんだ?」
「…うん。アルト、ちょっと待っててね」
隠しきれないアルトの動揺に対してリーネルは静かにそう告げる。それから彼女は目の前の野鳥に笑いかけながら両手を前に差し出して、
「止めっ……、食われるぞ?」
「大丈夫だよ。大丈夫。ほら、怖くない」
リーネルは朗らかな笑顔を浮かべたまま野鳥と目を合わし続ける。
野鳥はそんな彼女の手元に顔を近づけてはクンクンと、匂いを嗅いで、
「…クルルルゥゥ」
「よしよし、いい子。怖くないよ」
「え?は、…あ?」
野鳥が顔を近づけた瞬間、リーネルはその巨大な頭を撫でた。優しい手ほどきで羽毛を撫でつける彼女のその手際に野鳥はそれまでとうって変わった高らかで綺麗な鳴き声を響かせる。
「嘘だろ?…マグニテヴィスが懐いた?」
目前の光景、小さな女の子と巨大な野鳥が声を通わせる瞬間を見てアルトは動揺が隠せなかった。
思わず口をアングリと開け、呆然とした間抜けな表情を浮かべてしまう。
「うん。私ね、昔っから動物と仲良くしてたから。こういうのは得意なの」
「いや、得意ってレベルじゃねえぞ。お前、マグニテヴィスがどれだけ獰猛な獣か分かってんのか?」
「でも、この子はそこまで獰猛じゃないよ。ほら、こんなに立派で勇ましい鳥。あうっ⁈痛いっ!こらっ!」
「…まじかよ」
野鳥にくちばしで腹をつつかれリーネルが顔を顰めて叱咤する。それは襲う、襲われるの光景でなく、じゃれ合っているようにしか思えないものだ。
事実、心を許したような「クルルゥゥ」という野鳥の可愛らしい綺麗な鳴き声がそれを物語っている。
「マグニテヴィスとじゃれ合う人間を初めて見た…」
「ん?何?アルト?きゃっ⁈何この子⁈クチバシ硬いわっ!」
「マグニテヴィスを叩きやがった…」
行き過ぎた野鳥のじゃれつきにリーネルが怒ってクチバシを容赦なくぶっ叩いた。が、依然として野鳥は綺麗な鳴き声を響かせるのみだ。
獰猛な獣だと世間に知れ渡っている野鳥とリーネルが馴れ合っていた。
そんな世の中を震わせる光景を見ながらアルトは額を押さえため息を吐く。そして彼は未だ野鳥の頭を撫でつけている彼女に対して口を開き、
「はあ、……まあ、いいや。そんでそいつは俺たちを乗せてくれるのか?」
「ん?うん、大丈夫だと思う。平気だってこの子言ってるから」
「言ってるって…お前はそいつの言葉分かんのかよ」
「いや?んー…と、勘?」
「勘かよ……」
首を傾げたリーネルの言葉にアルトは肩をすくめて嘆息した。
しかし、見た限りではリーネルと野鳥マグニテヴィスが仲良くなったのは紛れもない事実みたいであり、
「まあ、害はねえみたいだから、乗らしてもらるってんなら嬉しい限りだが。………大丈夫だよな?」
「大丈夫、大丈夫。この子は根っこが優しいから。平気、平気」
「どこで知ったんだよ、そんなこと」
まだ出会って数分だ。そのためリーネルのその発言は根拠があまりにも無い。
のだが、なぜか彼女が言うと信憑性が高いように思える。ともあれ思いのよらぬ彼女の秘めたる才腕は獰猛な野獣さえも虜にしてしまった。
「よっ、と!ほら!乗せてくれた!アルトも乗って!」
「あ、おい…?」
と、いつの間にかリーネルがマグニテヴィスの背にぴょんと飛び乗った。
何の逡巡もない彼女のその様に野鳥が暴れるのではないのかとアルトは懸念するが、どうやら何の違和感もないようであり「クルルゥ」とその野鳥は綺麗な鳴き声を発するだけだった。
「マグニテヴィスの背に乗るなんてお前が初なんじゃねえのか?」
「え?そうなのかな?どうなんだろ…」
「少なくとも俺は知らねえ。」
「まあ、いいじゃん?早く。急ぐんでしょ?」
「あ、あぁ。そうだな」
彼女のその言葉を聞き、アルトも躊躇いを消して、巨大な野鳥の背に乗っている彼女の後ろに飛び乗る。
「うお…!」
初めて野鳥の背に乗りアルトはその雄大な姿とはうって変わって柔らかな羽毛に温かな感触を感じた。茶と白の美しい毛並みは生物としての荘厳さを彷彿とさせる。
「よし!じゃあ、ぶっ飛んで!テンテンちゃん!目指すはイルエス王国!」
「はっ…あ?何だよ?テンテンちゃんっ……っておわぁっ⁈」
「クルルルゥァァァ!」
リーネルのかけ声とともに野鳥が巨大な羽を広げ、高原を飛び上がる。その凄まじい勢いの推進に思わずアルトは驚愕の声を叫び上げた。
「風っ…やばっ!速ぇっ!」
「さすが、テンテンちゃん!君は立派な子だ!」
「だから何だよ!そのテンテンってのは………!ぐっ!」
「この子の名前!私が命名した!」
「もうちょいマシな名前あっただ……!うっわ!風がっ!」
「クルルルゥァ!」
空を疾風怒濤の勢いで飛び進む野鳥。そのスピードは凄絶な速さであり、背に乗っているアルトは襲いかかる空中の風に何とか振り落とされないようにと必死にしがみついていた。
マグニテヴィスはその盛大な翼を羽ばたかせ猛スピードで空を飛翔する。その速度は未だかつて感じたことのない凄まじい速さだ。
「…………ぐっ」
空をかっきる衝撃に耐えながらチラリと下に目を向けると見る見るうちに大地の景色が変わって行くのが分かった。
街が見えたと思ったら、次は森林が見えてくる。しかしそれも瞬く間に通り過ぎて行き、新たな湖が見えたと思ったら、次は山を飛び越えた。
「速え!速すぎるだろ!こいつこんな速い鳥だったのか⁈」
「ふふん!恐れ入ったかアルト!テンテンちゃんは自慢の子よ!」
「何でお前が得意げなんだよ!お前のことなんて一言も言ってねえ!」
「手懐けたところは流石に私のおかげだよ⁈」
「どうでもいい!つーか、まじでこいつはすげーや!こりゃ速攻で故郷につける!」
「満足なら結構!でもなんか不服ぅぅ!」
「クルルルゥゥゥ!」
マグニテヴィスの背でリーネルが盛大な声で嘆いて叫んだ。そんな声に合わせるように美しい翼を羽ばたかせる野鳥も綺麗な鳴き声を空一帯に響かせたのであった。
数多くの建物の向こう側、疾走し開けた先は見渡す限りの草原だった。
「くそっ、移動手段が乏しすぎる!」
見渡す限りの高原を目にしたアルトは投げ捨てるように言葉を吐いた。
今は王国の危機を救うため今からその戦地に向かうと言った最中である。それなのに人の足では話にならないわけであり、このままだと膨大な時間がかかってしまうということに文句を吐きたくなる現状だった。
ここからイルエス王国までどれほどの距離があるのかなんて、そんな疑問を持つことさえ甚だしい。
まだまだ先は長く、このまま脚を叱咤しながら大地を駆けたとしてもたかが知れている。
「アルトっ!あれ!」
と、現状に唾棄するのも束の間、唐突にリーネルが遠くを指差しながらそう告げた。
何だと思ってアルトは彼女の指の差し示す方を向くと、だだっ広い高原の中に獣のようなものが生息しているのが見てとれて、
「…あれは?鳥?」
「…うん、あの鳥に乗って空飛べば時間を割けれるんじゃないかな。」
移動手段の乏少さを打開するために彼女がそう提言するのは向こうに見える一頭の鳥だ。
なるほど、確かに空を飛んで移動すれば大幅に時間を短縮できるだろう。それもそのはず向こうに見える鳥は体長も著しく大きいため人間二人を乗せるのに申し分ない獣だ。
だが、
「いや、あれは……あの鳥は駄目だ。いや、むしろ間違っても近づくんじゃねえぞ」
「…え?何で?」
「知らねえか?あれはマグニテヴィスって鳥だ。気性が荒いことで有名な野生の鳥だから正直乗せて貰えるなんて思えない。仲間以外の生き物に対して敵愾心が異常に強い獣だぞ。近づくだけでも危ねえ」
朝日に照らされながら川の水を啜っているその巨大な野鳥を見ながら、アルトは苦々しくそう告げる。
まだ遠目で見える程度だが、リーネルが指差した野鳥は巨大な脚爪と鋭利なくちばしを持ち合わせているのが分かる獣だ。
茶と白の混じった凛々しい羽は、広げれば普通の民家の横幅くらいはあるかと思われる巨躯の持ち主。それに凶暴さも兼ね備えており、人間にも猛威をふるったという噂さえある危険視されている鳥なのだ。襲われてしまってはひとたまりもない。
「だから無理だ。リーネル。他の足を探さねえと……」
「ううん、大丈夫だから。私、あの子と話してくる!」
「は?おいっ⁈」
だがリーネルはアルトへとそう言葉をこぼすと一目散に川辺の野鳥の元へと走り去って行った。
そのままリーネルは野原を疾走し、あっという間に巨大な野鳥のたたずんでいる元へ辿り着く。
「ほーら、大丈夫だよ。よしよし」
「……………」
リーネルはある程度野鳥がいるところへ近づくと、ゆっくりと歩いて笑みを浮かべた。呼吸を荒げることもなく落ち着いた心持ちで彼女は巨大な獣へと少しずつ寄っていく。
対して、川辺にいた巨大な野鳥は唐突に現れた小さな人間に対して獣の黒眼を鋭くすぼめた。
そして低く軋むような不快な音を辺りに響かせる。それは獣特有の警戒意識の鳴き声だ。
「馬鹿!離れろ!襲われるぞ!」
「しっ!アルト黙って!平気だから…」
「何を?………ん?」
何とかリーネルの元へと追いつきアルトは声を荒げ、危険であると警告する。けれどもリーネルは静かにそれを忠言した。
一瞬彼にはその言葉の意味が分からなかったが、しかし目の前の現状に思わず声を失ってしまい、
「……威嚇?だけ?」
あまりにも敵対心が強く仲間以外の生物を躊躇なく襲うと言われているマグニテヴィス。その野鳥が今は軋む獣の鳴き声を響かせながらリーネルと目を合わせていた。そう、ただ目を合わせるだけでその鋭利な爪やくちばしをふるってはこなくて、
「何で?襲って来ないんだ?」
「…うん。アルト、ちょっと待っててね」
隠しきれないアルトの動揺に対してリーネルは静かにそう告げる。それから彼女は目の前の野鳥に笑いかけながら両手を前に差し出して、
「止めっ……、食われるぞ?」
「大丈夫だよ。大丈夫。ほら、怖くない」
リーネルは朗らかな笑顔を浮かべたまま野鳥と目を合わし続ける。
野鳥はそんな彼女の手元に顔を近づけてはクンクンと、匂いを嗅いで、
「…クルルルゥゥ」
「よしよし、いい子。怖くないよ」
「え?は、…あ?」
野鳥が顔を近づけた瞬間、リーネルはその巨大な頭を撫でた。優しい手ほどきで羽毛を撫でつける彼女のその手際に野鳥はそれまでとうって変わった高らかで綺麗な鳴き声を響かせる。
「嘘だろ?…マグニテヴィスが懐いた?」
目前の光景、小さな女の子と巨大な野鳥が声を通わせる瞬間を見てアルトは動揺が隠せなかった。
思わず口をアングリと開け、呆然とした間抜けな表情を浮かべてしまう。
「うん。私ね、昔っから動物と仲良くしてたから。こういうのは得意なの」
「いや、得意ってレベルじゃねえぞ。お前、マグニテヴィスがどれだけ獰猛な獣か分かってんのか?」
「でも、この子はそこまで獰猛じゃないよ。ほら、こんなに立派で勇ましい鳥。あうっ⁈痛いっ!こらっ!」
「…まじかよ」
野鳥にくちばしで腹をつつかれリーネルが顔を顰めて叱咤する。それは襲う、襲われるの光景でなく、じゃれ合っているようにしか思えないものだ。
事実、心を許したような「クルルゥゥ」という野鳥の可愛らしい綺麗な鳴き声がそれを物語っている。
「マグニテヴィスとじゃれ合う人間を初めて見た…」
「ん?何?アルト?きゃっ⁈何この子⁈クチバシ硬いわっ!」
「マグニテヴィスを叩きやがった…」
行き過ぎた野鳥のじゃれつきにリーネルが怒ってクチバシを容赦なくぶっ叩いた。が、依然として野鳥は綺麗な鳴き声を響かせるのみだ。
獰猛な獣だと世間に知れ渡っている野鳥とリーネルが馴れ合っていた。
そんな世の中を震わせる光景を見ながらアルトは額を押さえため息を吐く。そして彼は未だ野鳥の頭を撫でつけている彼女に対して口を開き、
「はあ、……まあ、いいや。そんでそいつは俺たちを乗せてくれるのか?」
「ん?うん、大丈夫だと思う。平気だってこの子言ってるから」
「言ってるって…お前はそいつの言葉分かんのかよ」
「いや?んー…と、勘?」
「勘かよ……」
首を傾げたリーネルの言葉にアルトは肩をすくめて嘆息した。
しかし、見た限りではリーネルと野鳥マグニテヴィスが仲良くなったのは紛れもない事実みたいであり、
「まあ、害はねえみたいだから、乗らしてもらるってんなら嬉しい限りだが。………大丈夫だよな?」
「大丈夫、大丈夫。この子は根っこが優しいから。平気、平気」
「どこで知ったんだよ、そんなこと」
まだ出会って数分だ。そのためリーネルのその発言は根拠があまりにも無い。
のだが、なぜか彼女が言うと信憑性が高いように思える。ともあれ思いのよらぬ彼女の秘めたる才腕は獰猛な野獣さえも虜にしてしまった。
「よっ、と!ほら!乗せてくれた!アルトも乗って!」
「あ、おい…?」
と、いつの間にかリーネルがマグニテヴィスの背にぴょんと飛び乗った。
何の逡巡もない彼女のその様に野鳥が暴れるのではないのかとアルトは懸念するが、どうやら何の違和感もないようであり「クルルゥ」とその野鳥は綺麗な鳴き声を発するだけだった。
「マグニテヴィスの背に乗るなんてお前が初なんじゃねえのか?」
「え?そうなのかな?どうなんだろ…」
「少なくとも俺は知らねえ。」
「まあ、いいじゃん?早く。急ぐんでしょ?」
「あ、あぁ。そうだな」
彼女のその言葉を聞き、アルトも躊躇いを消して、巨大な野鳥の背に乗っている彼女の後ろに飛び乗る。
「うお…!」
初めて野鳥の背に乗りアルトはその雄大な姿とはうって変わって柔らかな羽毛に温かな感触を感じた。茶と白の美しい毛並みは生物としての荘厳さを彷彿とさせる。
「よし!じゃあ、ぶっ飛んで!テンテンちゃん!目指すはイルエス王国!」
「はっ…あ?何だよ?テンテンちゃんっ……っておわぁっ⁈」
「クルルルゥァァァ!」
リーネルのかけ声とともに野鳥が巨大な羽を広げ、高原を飛び上がる。その凄まじい勢いの推進に思わずアルトは驚愕の声を叫び上げた。
「風っ…やばっ!速ぇっ!」
「さすが、テンテンちゃん!君は立派な子だ!」
「だから何だよ!そのテンテンってのは………!ぐっ!」
「この子の名前!私が命名した!」
「もうちょいマシな名前あっただ……!うっわ!風がっ!」
「クルルルゥァ!」
空を疾風怒濤の勢いで飛び進む野鳥。そのスピードは凄絶な速さであり、背に乗っているアルトは襲いかかる空中の風に何とか振り落とされないようにと必死にしがみついていた。
マグニテヴィスはその盛大な翼を羽ばたかせ猛スピードで空を飛翔する。その速度は未だかつて感じたことのない凄まじい速さだ。
「…………ぐっ」
空をかっきる衝撃に耐えながらチラリと下に目を向けると見る見るうちに大地の景色が変わって行くのが分かった。
街が見えたと思ったら、次は森林が見えてくる。しかしそれも瞬く間に通り過ぎて行き、新たな湖が見えたと思ったら、次は山を飛び越えた。
「速え!速すぎるだろ!こいつこんな速い鳥だったのか⁈」
「ふふん!恐れ入ったかアルト!テンテンちゃんは自慢の子よ!」
「何でお前が得意げなんだよ!お前のことなんて一言も言ってねえ!」
「手懐けたところは流石に私のおかげだよ⁈」
「どうでもいい!つーか、まじでこいつはすげーや!こりゃ速攻で故郷につける!」
「満足なら結構!でもなんか不服ぅぅ!」
「クルルルゥゥゥ!」
マグニテヴィスの背でリーネルが盛大な声で嘆いて叫んだ。そんな声に合わせるように美しい翼を羽ばたかせる野鳥も綺麗な鳴き声を空一帯に響かせたのであった。
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