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第二章 待ち受けていた王国の城
38.虚無と
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壮麗な大鳥と別れ、アルトは疾風のごとく道ゆく道を駆け抜けていた。
陽光が冴え渡り、壮大な建築物が連なっている王都。アルトにとって馴染み深い場所でもあり、多くの見知った建物を通過していき心逸に王城へ向かう。
今はそんなように、急いで足を懸命に走らせているのだが、
「………おかしい。」
王都内を疾走しながら、アルトは眉根を顰めてそう呟いた。
それは地を駆けながら彼の目に映ったものに、何か異様な違和感を感じることがあったためであり、
「なんで……静かすぎる?」
街も栄え、人が賑わっていると言われているイルエス王国の王都。の、ばずなのに、何故か今周りには何の音も声もしない。
と、いうよりもはや街中で人の気配など全くしなかった。
街のど真ん中を走り続けるも、視界に人の姿が映り込むことはない。行けども行けども、静かで変化のない情景が続くのみだ。
「………っ?」
見知っていた街の景色とは違うという現状に不本意ながら違和感が膨れ上がる。
同時に胸の中で焦りと異質さが蔓延り始めた。
走って進んで、進んで、進むたびに奇妙な感じが胸中を覆っていく。
不可解な状況、異様な景色がアルトの瞳の中に映し出されていく。そしてその光景は依然として変わることはなかった。
「川は流れてる。店も開いてる。…なのに」
疾走し続けながらつぶさに首を振り縦横無尽に周りを見渡していくが、その街に人は一人もいない。
見るたびに胸の内で何か考えたくもないものが湧き上がる。目線を至る所に向けるにつれて背中に冷たい怖気が走った。
「なんで、人だけがいねえんだ?」
街の中には人だけがいない。それはアルトにとってとても奇妙で溢れんばかりの異様さを感じさせるものだ。
奇怪に思わせる事象の一つとして人がいたという形跡はあるのだ。水路には船が流れており、道には荷車が置かれている。
店頭の並びもきちんとされており、民家のドアが開いてるところも目視できた。道端には落ち葉や枯れ葉などをはいていたのだと思えるホウキが転げ落ちている。ある建物の玄関前にはバケツが放り投げられ水がこぼれ落ちていた。
そんな街の光景の中に、人間は一人も見当たらなかった。
「………いや」
不気味さに包まれながらもアルトは不可解な状況に唾を吐きながら、まだ奇妙な点に焦点を置く。
それは、
「……人、だけじゃねえ」
静かな王都、というのはそれだけで変わり果てていることを意味する。
つまり、盛大な音を発する者たち、動物たちはどこに行ったのかということだ。
そこに見当たらないのは人間だけではないのだ。王都内を駆け巡り、至る所に視線を向けるも目に映されるものは民家や荷車や店の商品のみ。
それはつまるところ、そこには生命を持つものが一つたりとも見当たらないのが見てとれるわけであり。
「…なんで?」
荷車を運ぶ馬はどこにいる?朝の小鳥のさえずりはどこに消えた?街の路地裏に潜んでいる猫たちは?いつも声高に鳴いていた犬の姿はどこにある?
「どうして……こんな…?」
馴染み深い故郷、いつも賑わっていた王都、人々の笑顔で埋め尽くされていた街並み。
それが今は一つたりとも消え去っているという現実。なんの音もない、何もいない、気持ち悪い静かな王都が目の前に広がっていた。
「くそっ!」
嘆き、喚き散らしたいのも山々だった。懐かしむ余裕すら無い、懐かしきものなど全て消え去っている。頭の中で思い描いていたものとは変わり果てた情景、知っていた王都の面影もない故郷のありさま。
「…………何があったんだよ!」
顔を顰め、唾を飛ばし、苦々しくアルトは声を荒げ喚いた。
人間が消えている、ということは何かしらあったたということだ。何か、異常事態が発生しているのは火を見るよりも明らかなのだ。
しかし、何が起こったのかというのは、今見た限りじゃ露もはっきりしなかった。
死骸もない、血塗れた場所も特にない。ただアルトの知っていた王都の人々が消えているだけ。
口を交わした街の民衆も、世話になった街の武具屋の店主も、料理の上手い飲食屋の娘もいない。いるはずだったその場には人の姿は一切ない。
あまりにも異様で、あまりにも異質。不気味すぎて怖気がする。
一体人々はどこへ行ったのか。なぜ街の中に人の気配が一切しないのか。
「………………」
それについて答えを知りたくもあったし、しかし、知りたくもないことだった。
もしも原因が悲惨な末路であったなら考えたくもないことだから。
王都の内部を刮目し、現状を理解しようとするほど虚無感と喪失感に苛まれる。
自身の内に埋められていた温かな記憶が、思い出が、今はどこかに消え去っている。何か一つでも、誰か一人でもここに住んでた者はいないのかと血眼にして至る所を凝望するが、瞳の中には一欠片もその居て欲しいものは映り込んではくれない。
「ぐっ……」
地を蹴りながら、アルトは乱雑に唾を吐き、ただそれでも前へ進んだ。
見る影もない故郷の姿に嘆じたい気分だった、現状に唾棄したくなるのも山々だった。喪失感が、虚無感が、寂寥感が心の中を覆ってきた。
ーだからといって今は止まるわけにはいかなかった
今は、胸の内に生まれ出てきた絶望という空白を憎悪に変え焦燥感を駆り立て邁進するしかない。
変わり果てた故郷の姿に嘆きたいとしても、今考えるべきことは違う。今考えることは別のことだ。
王都を、故郷を、こんな凄惨な状態にした者は、こんな見るに耐えない光景にしたものは誰なのか。
それを、それだけを考えてそいつに刃を突き刺す。
今、動いているのはそれが理由だ。そのほかのことは後で考える。
そいつが、その憎悪の対象がどこにいるかなど目星はついているのだから。
「王城に……急ぐぞ!リーネル!」
「うん」
歯を軋ませ、拳に力を込め、無心に脚を動かした。後ろにいる彼女に声をかけ、目指す場所へと鋭利な眼光を睨め付ける。
半生を過ごした場所だ、あの王城で全てをもらって、日夜、自分が研鑽し奮励してきた場所だ。
あの場所に刃を突き刺すべき対象がいる。
街中を疾走し続けて、だいぶ道を進んでいた。
一切止まることもなく地を蹴り続けたため足に疲弊と痛みが生じ始めるが、そんなのは止まる理由になどならない。
息が荒くなり、肺が空気を求める。走り続けていることで、総身が悲鳴を上げていた。頭がグワングワンと揺れていてもはや脳内がまともに回らない。
いや、むしろ回らないではなく回したくなんてないのだ。
考えたくもないのだ、今は思考を停止してただ一心に前を進むことしか考えたくなかった。
嫌だった、嫌だったから。この故郷で何が起こったなんてある程度想像するのは嫌なのだ。
この自分の生まれた場所は辛いこととは離れていて欲しかった、自分が育った場所は苦しさとは離れていて欲しかった。
自分の故郷が悲惨な運命を辿るのなんて考えたくもないことだ。
何が起こったなんて分からない。分からないからこそ、想像してしまう。最悪が起こったのではないかと、最低な事があったのではないのかと。
「……はあっ、はぁっ、……くそっ」
ただ走り続け、王城の場所まで向かった。呼吸が辛くなって苦しさが肢体を苛んでいく。
それでいい。それでいいから、苦しめて苦しませながらただ進め。思考を放棄させてただ進んで進んで進んで行け。
最悪なことを脳に考えさせるな。何があったかなんて考えさせるな。
終わってない。終わってなんかいない。
まだ、はっきりとしていない、明瞭としていない、明白となんて決してしてない。
分からないから怖い、怖いからこそ思考停止してしまえばいい。
自身の脳内を荒削りに無理矢理に書き換えながらアルトは王城へと走り続けた。辛苦さに苛まれ、身体は疲弊し、四肢が苦鳴を上げている。
そして、
「王城……に…つ、いた?」
目指していた場、目的の場所へと辿り着き、アルトは足を止めた。
自分が生まれ育った城であり、父が、母が、騎士団の皆がいる王城だ。
目前にある城の大門を見据え、やっとたどり着いたとアルトは懐かしみ安堵に浸る。
どれこれも見慣れた景色だ。城の前庭には整備された芝生。青々しく綺麗だ。
木々が赤く染められていた。
あの庭の横部に飾られ岩場は小さい頃に遊び場として使っていた。懐かしいそれは今もまだ健在だ。
歪にひしゃげている塀があった。
あの美しい池は母がよく紅茶を飲む際に眺めていた場所だ。
切断された人の手足が転げ落ちていた。
「………は、はは」
懐かしの場所に笑みが溢れた。どこもかしこも久しぶりの景色で、掠れた笑い声を発してしまう。
ふと、なんと無しに足を一歩踏み入れた。
何度も歩いたその前庭の地面。踏み込みは些細な力で懐かしい地面の感触を味わおうと思った。
ピチャリとした音が響いた。
違和感に首を傾げ、その踏み出した足の元に目を向ける。
「……………」
・
・
・
・
・
・
・
一人の兵士の死骸が捨てられたように転げ落ちていた。
陽光が冴え渡り、壮大な建築物が連なっている王都。アルトにとって馴染み深い場所でもあり、多くの見知った建物を通過していき心逸に王城へ向かう。
今はそんなように、急いで足を懸命に走らせているのだが、
「………おかしい。」
王都内を疾走しながら、アルトは眉根を顰めてそう呟いた。
それは地を駆けながら彼の目に映ったものに、何か異様な違和感を感じることがあったためであり、
「なんで……静かすぎる?」
街も栄え、人が賑わっていると言われているイルエス王国の王都。の、ばずなのに、何故か今周りには何の音も声もしない。
と、いうよりもはや街中で人の気配など全くしなかった。
街のど真ん中を走り続けるも、視界に人の姿が映り込むことはない。行けども行けども、静かで変化のない情景が続くのみだ。
「………っ?」
見知っていた街の景色とは違うという現状に不本意ながら違和感が膨れ上がる。
同時に胸の中で焦りと異質さが蔓延り始めた。
走って進んで、進んで、進むたびに奇妙な感じが胸中を覆っていく。
不可解な状況、異様な景色がアルトの瞳の中に映し出されていく。そしてその光景は依然として変わることはなかった。
「川は流れてる。店も開いてる。…なのに」
疾走し続けながらつぶさに首を振り縦横無尽に周りを見渡していくが、その街に人は一人もいない。
見るたびに胸の内で何か考えたくもないものが湧き上がる。目線を至る所に向けるにつれて背中に冷たい怖気が走った。
「なんで、人だけがいねえんだ?」
街の中には人だけがいない。それはアルトにとってとても奇妙で溢れんばかりの異様さを感じさせるものだ。
奇怪に思わせる事象の一つとして人がいたという形跡はあるのだ。水路には船が流れており、道には荷車が置かれている。
店頭の並びもきちんとされており、民家のドアが開いてるところも目視できた。道端には落ち葉や枯れ葉などをはいていたのだと思えるホウキが転げ落ちている。ある建物の玄関前にはバケツが放り投げられ水がこぼれ落ちていた。
そんな街の光景の中に、人間は一人も見当たらなかった。
「………いや」
不気味さに包まれながらもアルトは不可解な状況に唾を吐きながら、まだ奇妙な点に焦点を置く。
それは、
「……人、だけじゃねえ」
静かな王都、というのはそれだけで変わり果てていることを意味する。
つまり、盛大な音を発する者たち、動物たちはどこに行ったのかということだ。
そこに見当たらないのは人間だけではないのだ。王都内を駆け巡り、至る所に視線を向けるも目に映されるものは民家や荷車や店の商品のみ。
それはつまるところ、そこには生命を持つものが一つたりとも見当たらないのが見てとれるわけであり。
「…なんで?」
荷車を運ぶ馬はどこにいる?朝の小鳥のさえずりはどこに消えた?街の路地裏に潜んでいる猫たちは?いつも声高に鳴いていた犬の姿はどこにある?
「どうして……こんな…?」
馴染み深い故郷、いつも賑わっていた王都、人々の笑顔で埋め尽くされていた街並み。
それが今は一つたりとも消え去っているという現実。なんの音もない、何もいない、気持ち悪い静かな王都が目の前に広がっていた。
「くそっ!」
嘆き、喚き散らしたいのも山々だった。懐かしむ余裕すら無い、懐かしきものなど全て消え去っている。頭の中で思い描いていたものとは変わり果てた情景、知っていた王都の面影もない故郷のありさま。
「…………何があったんだよ!」
顔を顰め、唾を飛ばし、苦々しくアルトは声を荒げ喚いた。
人間が消えている、ということは何かしらあったたということだ。何か、異常事態が発生しているのは火を見るよりも明らかなのだ。
しかし、何が起こったのかというのは、今見た限りじゃ露もはっきりしなかった。
死骸もない、血塗れた場所も特にない。ただアルトの知っていた王都の人々が消えているだけ。
口を交わした街の民衆も、世話になった街の武具屋の店主も、料理の上手い飲食屋の娘もいない。いるはずだったその場には人の姿は一切ない。
あまりにも異様で、あまりにも異質。不気味すぎて怖気がする。
一体人々はどこへ行ったのか。なぜ街の中に人の気配が一切しないのか。
「………………」
それについて答えを知りたくもあったし、しかし、知りたくもないことだった。
もしも原因が悲惨な末路であったなら考えたくもないことだから。
王都の内部を刮目し、現状を理解しようとするほど虚無感と喪失感に苛まれる。
自身の内に埋められていた温かな記憶が、思い出が、今はどこかに消え去っている。何か一つでも、誰か一人でもここに住んでた者はいないのかと血眼にして至る所を凝望するが、瞳の中には一欠片もその居て欲しいものは映り込んではくれない。
「ぐっ……」
地を蹴りながら、アルトは乱雑に唾を吐き、ただそれでも前へ進んだ。
見る影もない故郷の姿に嘆じたい気分だった、現状に唾棄したくなるのも山々だった。喪失感が、虚無感が、寂寥感が心の中を覆ってきた。
ーだからといって今は止まるわけにはいかなかった
今は、胸の内に生まれ出てきた絶望という空白を憎悪に変え焦燥感を駆り立て邁進するしかない。
変わり果てた故郷の姿に嘆きたいとしても、今考えるべきことは違う。今考えることは別のことだ。
王都を、故郷を、こんな凄惨な状態にした者は、こんな見るに耐えない光景にしたものは誰なのか。
それを、それだけを考えてそいつに刃を突き刺す。
今、動いているのはそれが理由だ。そのほかのことは後で考える。
そいつが、その憎悪の対象がどこにいるかなど目星はついているのだから。
「王城に……急ぐぞ!リーネル!」
「うん」
歯を軋ませ、拳に力を込め、無心に脚を動かした。後ろにいる彼女に声をかけ、目指す場所へと鋭利な眼光を睨め付ける。
半生を過ごした場所だ、あの王城で全てをもらって、日夜、自分が研鑽し奮励してきた場所だ。
あの場所に刃を突き刺すべき対象がいる。
街中を疾走し続けて、だいぶ道を進んでいた。
一切止まることもなく地を蹴り続けたため足に疲弊と痛みが生じ始めるが、そんなのは止まる理由になどならない。
息が荒くなり、肺が空気を求める。走り続けていることで、総身が悲鳴を上げていた。頭がグワングワンと揺れていてもはや脳内がまともに回らない。
いや、むしろ回らないではなく回したくなんてないのだ。
考えたくもないのだ、今は思考を停止してただ一心に前を進むことしか考えたくなかった。
嫌だった、嫌だったから。この故郷で何が起こったなんてある程度想像するのは嫌なのだ。
この自分の生まれた場所は辛いこととは離れていて欲しかった、自分が育った場所は苦しさとは離れていて欲しかった。
自分の故郷が悲惨な運命を辿るのなんて考えたくもないことだ。
何が起こったなんて分からない。分からないからこそ、想像してしまう。最悪が起こったのではないかと、最低な事があったのではないのかと。
「……はあっ、はぁっ、……くそっ」
ただ走り続け、王城の場所まで向かった。呼吸が辛くなって苦しさが肢体を苛んでいく。
それでいい。それでいいから、苦しめて苦しませながらただ進め。思考を放棄させてただ進んで進んで進んで行け。
最悪なことを脳に考えさせるな。何があったかなんて考えさせるな。
終わってない。終わってなんかいない。
まだ、はっきりとしていない、明瞭としていない、明白となんて決してしてない。
分からないから怖い、怖いからこそ思考停止してしまえばいい。
自身の脳内を荒削りに無理矢理に書き換えながらアルトは王城へと走り続けた。辛苦さに苛まれ、身体は疲弊し、四肢が苦鳴を上げている。
そして、
「王城……に…つ、いた?」
目指していた場、目的の場所へと辿り着き、アルトは足を止めた。
自分が生まれ育った城であり、父が、母が、騎士団の皆がいる王城だ。
目前にある城の大門を見据え、やっとたどり着いたとアルトは懐かしみ安堵に浸る。
どれこれも見慣れた景色だ。城の前庭には整備された芝生。青々しく綺麗だ。
木々が赤く染められていた。
あの庭の横部に飾られ岩場は小さい頃に遊び場として使っていた。懐かしいそれは今もまだ健在だ。
歪にひしゃげている塀があった。
あの美しい池は母がよく紅茶を飲む際に眺めていた場所だ。
切断された人の手足が転げ落ちていた。
「………は、はは」
懐かしの場所に笑みが溢れた。どこもかしこも久しぶりの景色で、掠れた笑い声を発してしまう。
ふと、なんと無しに足を一歩踏み入れた。
何度も歩いたその前庭の地面。踏み込みは些細な力で懐かしい地面の感触を味わおうと思った。
ピチャリとした音が響いた。
違和感に首を傾げ、その踏み出した足の元に目を向ける。
「……………」
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一人の兵士の死骸が捨てられたように転げ落ちていた。
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