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第14話 Crack
しおりを挟む実家に帰ってから数日、私は部屋に引きこもるのみの生活を送っていた。
家族は心配して事情を聞いてきたけれど、私は何も話さなかった。
2,3日した頃には、そっとしておこうという結論に至ったのか、結婚する前と同じような態度で接してくれたので、幾分楽に感じた。
部屋に引きこもる間、毎日アレク様が訪問してきた。部屋の前で戸を叩き、声をかけてくる。私はいつも「帰って下さい」の一言しか返さなかった。
彼は、無理に居座らずに諦めてすぐに帰ってくれる。だけれど、毎日律儀にやってきては土産のものを置いて帰るのだ。
それが私にとっては尚更癪に触ることだった。ものを置いていけば私がいつか喜んで顔を出すとでも思っているのか。
家族は土産ものに対して嬉々としていたけれど。
一方で、実家に戻って少しすると冷静になって物事を考えられるようにはなっていた。
ネイト侯爵が不自然に私に近づいてきたことが、アレク様を貶めるためだということは理解が出来ることだった。
ネイト侯爵は口が上手い。言葉巧みに私の喜びそうなことを言っていたのだろう。私だってそこまで馬鹿ではない。
アレク様の失態を一々聞き出そうとしていたし、私に利用価値があるかどうかをずっと値踏みしていた。
最後の方には、私がアレク様にとって大した存在ではないのだと悟っていたようにも思える。
それをわかった今でも、アレク様と顔を合わせる気にはなれなかった。
愛人の存在もかけられてきた言葉も、全てが頭の中を支配していて、容易に以前のような態度をとれる気がしない。
そんなことを考えていると、コンコンと戸が叩かれた。
「ティミリア。」
アレク様の声が扉の外から聞こえてくる。今日も懲りずにやってきたようだ。
「どうか姿を見せてはくれないか君と話がしたい。」
「私は、話すことなどありません。」
きっとすぐに諦めて帰るだろう、いつものように。
扉から視線を外すと、予想外にも彼の声が再び聞こえた。
「せめて、誤解だけでも解かせてはくれないだろうか。」
誤解? 私が一体何を誤解していると? この期に及んで言い訳をするつもりか。
「帰って下さい!」
かなり強めの声音で言い返すと、しん……と扉の外が静まりかえった。
「……すまない。」
小さく弱々しいアレク様の一言が耳に届く。そして、コツコツと足音が遠ざっていくのがわかった。
私が、結婚前にこの部屋で寛いでいたときには期待や希望で胸を膨らませていたというのに。
「なんで、こうなっちゃったんだろう。」
以前とは対照的な絶望感に、私は顔を覆うことしか出来なかった。
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