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III 赫怒-II
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階段を上った先、2部屋あるうちの1つが私の部屋だ。隣の部屋も人に貸している様だが、私と生活スタイルが大きく異なる為その人物とは此処へ来てから数える程度しか顔を合わせた事は無かった。
ポケットからキーリングを取り出し、その中から最も短い真鍮の鍵を部屋の鍵穴に差し込む。
「あれ……?」
鍵は音無く回り、解錠された手応えも無い。鍵を閉め忘れてしまったのだろうか。鍵を抜き取り、ドアノブに手を掛けた。
幾ら借家とはいえ、この先は私のプライベートスペースである。その為鍵の閉め忘れには充分気を付けていたが、思い返してみれば今朝は少々寝坊をしてしまい急いでいた。決して疚しいものがある訳では無いが、シーラなら無断で部屋に入りかねない。次から気を付けなければと、そう思いながら扉を開いた。
「――!」
瞳に飛び込んできた、最も恐れていた光景。
血液が沸騰しそうな程の怒りに、力任せに扉を閉め階段を駆け下りた。
「シーラさん!」
1階の奥の部屋。そこはシーラの活動スペースだ。
ノックも無しに扉を開き、叫ぶ様に彼女の名を呼ぶ。
此処から先は、自身が勝手に立ち入って良い場所では無い。マナーにも欠ける行為だ。
しかし、今この怒りを抱えた状態ではとても品のある行動など出来そうに無かった。
「あら、なぁに。ノックも無しに入ってくるなんて非常識じゃないかしら」
「非常識なのはどっち!? 私の部屋、勝手に入ったでしょ!」
開いた自室の扉の先、瞳に飛び込んできたのは水浸しになった本の山だった。眠れない夜に読もうと思い、職場の書斎から選りすぐって持ってきた物だ。大切にしていた本の一部である。
それを、読み終わった順にテーブルの上に積み上げていた。――積み上げていた私が、間違っていたのだろうか。
意図して掛けられたものだと分かり切った水は、テーブルから零れ床のカーペットにまで伝い落ちていた。嫌がらせをするにしても、程度という物があるだろう。
「本! 水浸しだったんだけど!」
「あらぁ、ごめんなさいね。貴女の部屋、殺風景で品が無いでしょう? だから花の1つでも飾って差し上げようかと思ったのだけれど、うっかり花瓶を倒してしまって……」
シーラの顔に、にたりと不気味な笑みが浮かぶ。
「花瓶倒したって水量じゃないし! 明らかにわざとでしょ! そんなに私が憎い!?」
「わざとじゃないわよ、酷い事を言うのね」
「それに普通、水零したんだったらある程度片付けると思うんだけど……! テーブルの上も、カーペットも水浸し! そのままじゃん! あれをわざとじゃないって言うには流石に無理があるんじゃない?」
パチパチと、何かが弾ける様な音が耳奥で響く。この音は、街を歩いている時にも時々耳にした事がある。相手を嘲り笑い、そして相手の不幸を心から喜ぶ音だ。
此方の出方を伺っているのか、シーラは何も言わない。しかし、その顔には隠しきれない薄気味悪い笑みが滲んでいた。
――怒りに任せ、シーラに手を上げるのは簡単だ。しかし、そんな事をすれば私を此処から追い出す理由を彼女に与えてしまう事になる。
此処を追い出されれば、私は行く当てを失う。
暫くは職場で寝泊まりをすれば良い話だが、それも長くは続かないだろう。セドリックに気付かれれば、追い出される事間違いない。
「――二度と、私の部屋には入らないで」
掌に爪が食い込む程強く拳を握り締め、踵を返しシーラの部屋を後にした。
ポケットからキーリングを取り出し、その中から最も短い真鍮の鍵を部屋の鍵穴に差し込む。
「あれ……?」
鍵は音無く回り、解錠された手応えも無い。鍵を閉め忘れてしまったのだろうか。鍵を抜き取り、ドアノブに手を掛けた。
幾ら借家とはいえ、この先は私のプライベートスペースである。その為鍵の閉め忘れには充分気を付けていたが、思い返してみれば今朝は少々寝坊をしてしまい急いでいた。決して疚しいものがある訳では無いが、シーラなら無断で部屋に入りかねない。次から気を付けなければと、そう思いながら扉を開いた。
「――!」
瞳に飛び込んできた、最も恐れていた光景。
血液が沸騰しそうな程の怒りに、力任せに扉を閉め階段を駆け下りた。
「シーラさん!」
1階の奥の部屋。そこはシーラの活動スペースだ。
ノックも無しに扉を開き、叫ぶ様に彼女の名を呼ぶ。
此処から先は、自身が勝手に立ち入って良い場所では無い。マナーにも欠ける行為だ。
しかし、今この怒りを抱えた状態ではとても品のある行動など出来そうに無かった。
「あら、なぁに。ノックも無しに入ってくるなんて非常識じゃないかしら」
「非常識なのはどっち!? 私の部屋、勝手に入ったでしょ!」
開いた自室の扉の先、瞳に飛び込んできたのは水浸しになった本の山だった。眠れない夜に読もうと思い、職場の書斎から選りすぐって持ってきた物だ。大切にしていた本の一部である。
それを、読み終わった順にテーブルの上に積み上げていた。――積み上げていた私が、間違っていたのだろうか。
意図して掛けられたものだと分かり切った水は、テーブルから零れ床のカーペットにまで伝い落ちていた。嫌がらせをするにしても、程度という物があるだろう。
「本! 水浸しだったんだけど!」
「あらぁ、ごめんなさいね。貴女の部屋、殺風景で品が無いでしょう? だから花の1つでも飾って差し上げようかと思ったのだけれど、うっかり花瓶を倒してしまって……」
シーラの顔に、にたりと不気味な笑みが浮かぶ。
「花瓶倒したって水量じゃないし! 明らかにわざとでしょ! そんなに私が憎い!?」
「わざとじゃないわよ、酷い事を言うのね」
「それに普通、水零したんだったらある程度片付けると思うんだけど……! テーブルの上も、カーペットも水浸し! そのままじゃん! あれをわざとじゃないって言うには流石に無理があるんじゃない?」
パチパチと、何かが弾ける様な音が耳奥で響く。この音は、街を歩いている時にも時々耳にした事がある。相手を嘲り笑い、そして相手の不幸を心から喜ぶ音だ。
此方の出方を伺っているのか、シーラは何も言わない。しかし、その顔には隠しきれない薄気味悪い笑みが滲んでいた。
――怒りに任せ、シーラに手を上げるのは簡単だ。しかし、そんな事をすれば私を此処から追い出す理由を彼女に与えてしまう事になる。
此処を追い出されれば、私は行く当てを失う。
暫くは職場で寝泊まりをすれば良い話だが、それも長くは続かないだろう。セドリックに気付かれれば、追い出される事間違いない。
「――二度と、私の部屋には入らないで」
掌に爪が食い込む程強く拳を握り締め、踵を返しシーラの部屋を後にした。
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