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IX 追憶-再会- -III
しおりを挟む「彼女はマリア・ウィルソン。マーシャは知らないだろうけど、彼女は数年前まで舞台に立っていた大女優なんだよ。僕も1度だけ公演を観に行った事があってね、彼女を見た時は驚いた」
先生が彼女の紹介をしてくれるが、今の私にそんな物は必要ない。
彼女の事なら、私が一番“良く知っている”からだ。
「久しぶりね、マーシャ」
女性が儚げな笑みを浮かべて、呟く様に告げる。
あの日から変わっていない、毛先に向かって色の濃くなった赤毛。宝石を埋め込んだようなローズピンクの双眸。変わった事と言えば、顔に痣が無い事位だろうか。髪も、あの時から少し伸びた様だ。
「マリアちゃん……、えっと、ひ、久しぶり……」
その女性は他でも無く、私の知るマリア・アッカーソンだった。
しかし、先生の言葉が引っ掛かる。彼は彼女を、“マリア・ウィルソン”だと言った。そして、数年前まで舞台に立っていた女優だとも。
マリア・ウィルソンの事が書かれた新聞は、たった今読んだところだ。そして、マリア・アッカーソンの過去がマリア・ウィルソンなのでは無いか、という所までは考えた。あまりに突飛しすぎていて、そんな筈無いと端から否定してしまったけれど。
「マリアちゃんって……舞台女優だったの……? マリア・ウィルソンって、結構有名だったんだよね? 新聞で……見たけど……」
思考を巡らせた結果、出てきたのは何の捻りも無い問い。すぐさま、こんな問い方をすべきで無かったと反省したが、マリアは儚げに微笑んで頷いた。
「貴女、私の事なら何でも分かるみたいだったから。私が舞台女優なのも分かっていたのかと思ってた」
「……」
思い返してみれば、私のこの能力についてもマリアに充分な説明はしていない。お互い、話していない事ばかりだ。能力の説明も彼女の過去も私達の間には必要が無い話だと思っていたが、思い違いだったらしい。
しかし、今更能力の説明をする気にはとてもなれない。抑々何処から話せば良いものか、それを話した所で、マリアは信じるのか。そう考えあぐねていると、沈黙を裂く様に先生が口を開いた。
「君達、知り合いだったのかい?」
驚く訳でも無く、淡々と。先生は私とマリアの顔を交互に見て、私達に説明を求めた。
僅かに戸惑うマリアは、どう答えて良いか分からない様だ。そんな彼女を尻目に、自身が説明しようと口を開いた。
「前に――えっと、3年位前かな。マリアちゃんとは仲が良くて、良く街で話す関係だったんだよ。友達が出来たって話、先生覚えてない?」
「あぁ、そういえば言っていたね。あの時の子が、彼女かい?」
先生は確かに、当時の事を覚えていた様だ。マリアの手前上、“救う”云々の話は伏せておいてくれたらしい。
彼の問いにこくりと頷くと、先生が一言「なるほど」と呟いた。
「2人が知り合いなら、尚の事問題無いね。では、よろしく頼むよ、マリアさん」
「ええ、此方こそ」
握手を交わす2人を見ながら、私は呆然と立ち尽くす。
まさか、マリアとこんな所で再会するとは。まさか、マリアの過去があの舞台女優だったとは。
そして、彼女がこれからこの診療所で働く事になろうとは。
これから上手くやっていくことが出来るのだろうか。そんな一抹の不安が拭う事が出来ず、彼等に気付かれぬ様小さな溜息を漏らした。
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