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XIII 追憶-交渉- -II
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「次取引するなら、君を指名したいな。まさかブローカーにこんなに可愛いお嬢さんが居るとは思わなかったよ」
「彼女は担当が違いますので」
気さくな男の言葉に、セドリックが冷たく返す。
私はというと、目の前で行われている会話が何処か他人事の様に思え、何も反応する事無くぼんやりと眺めていた。
「ほう? では、君の担当は?」
そう問われた事で、漸く思考が動き出す。しかし、ぼんやりとしていた所為で、瞬時に返答する事が出来ない。あの、えっと、等と言い淀んで時間を稼ぎ、ややあって彼と握手を交わしたまま「女性の装飾品を」と答えた。
「なるほど。では今度、娘や妻にアクセサリーでも選んでもらおうかな」
「ご依頼頂ければ、いつでもお伺いします」
彼は私を気に入ったのか、僅かに力を籠め手を引いても、私の手を握ったまま離そうとしない。
その心を視るに、女癖が悪いとまではいかない様だが、女好きであることは間違いない様だった。私を特別気に入ったというよりも、私が女性であるが故に捕まった、という方が正しいのだろう。
「依頼だけじゃない、何か困り事があれば僕を頼るといいよ。力になろう」
そんな言葉と共に彼が再び名を名乗るが、彼に関心を持っていなかったからか又もやその名前を記憶する事が出来なかった。
助けを求める様にセドリックに視線を遣るが、彼は我関せずといった顔で壁に寄りかかり時計をぼんやり眺めている。此処は自分で対処するしかなさそうだ。
しかしセドリックの依頼者である為、邪険に扱う事は出来ない。迷った末に、
「実は仕事でトラブルがあって、今とても急いでいるんです。彼をお借りしても?」
と男の顔色を伺いながら告げた。
すると、彼が「それは大変だ」と言って私の手をぱっと離した。なんとか上手く切り抜けられた様だ。
「仕事の邪魔をしては悪いからね、僕はこれで失礼するよ。見送りは結構」
手に持っていたハットを被り、男が足早に玄関の方へ去っていく。
帰り際、彼が私にウインクを寄越したが、それには愛想笑いをして誤魔化した。
依頼者の男が居なくなって、静まり返った屋敷のホール。男が去った後の玄関扉を眺めながら、貴族にしては珍しいタイプの男だったとぼんやり思う。
「――トラブルははったりか? それとも事実か?」
不意に右横から声が聞こえ、はっと我に返った。それがセドリックの声だと気付くのに数秒掛かり、不自然に視線を彷徨わせてしまう。
なんとか平常心を装い、セドリックに視線を向けると、彼は先程と同じ位置で私を見つめていた。その目は冷ややかで、私の言葉がはったりだろうが事実だろうがどうだっていいといった様子だ。
「き、緊急で頼みがあるの」
緊張からか、妙に口内が乾く。ひとまず紅茶を淹れて口内を潤したいところだが、今はそんな事をしている場合では無い。とにかく早く、マリアの事を伝えなければ。
「珍しいな、お前が頼みだなんて」
彼の興味を引くのは難しい。緊急と言った今でも、彼は未だ無関心だ。
しかし、話は聞いてくれるらしい。ジャケットの内ポケットからシガレットケースを取り出した彼が、慣れた手つきで煙草を咥え火をつけた。視線を此方に向け、話を始める事を促す様に目を細める。
「あのね、依頼を受けて欲しい人がいるの」
なるべく簡潔に、それでも重要な事だと伝わる様に、言葉を紡いでいく。
「私が幼少期に出会った女性、マリア・ウィルソンって人。エリオット先生の元で看護婦として働いてた」
「あの医者は行方不明になったって、噂が流れてるが」
「……うん。先生が居なくなったのは本当。マリアちゃんは、エリオット先生の奥さんだったの。でも、先生が借金だけ残して居なくなっちゃって、今は借金取りに暴力を振るわれてる」
彼に悪い印象を与えない様に、元夫と人に預けた子供の話は伏せて置いた。マリアにも、もし仮に上手く交渉出来た時にはセドリックには昔の話はしない様にと告げてある。
彼を騙す様な事はしたくは無いが、全てはマリアの為だ。唇を噛み、言葉を区切って彼の顔を見つめた。
「彼女は担当が違いますので」
気さくな男の言葉に、セドリックが冷たく返す。
私はというと、目の前で行われている会話が何処か他人事の様に思え、何も反応する事無くぼんやりと眺めていた。
「ほう? では、君の担当は?」
そう問われた事で、漸く思考が動き出す。しかし、ぼんやりとしていた所為で、瞬時に返答する事が出来ない。あの、えっと、等と言い淀んで時間を稼ぎ、ややあって彼と握手を交わしたまま「女性の装飾品を」と答えた。
「なるほど。では今度、娘や妻にアクセサリーでも選んでもらおうかな」
「ご依頼頂ければ、いつでもお伺いします」
彼は私を気に入ったのか、僅かに力を籠め手を引いても、私の手を握ったまま離そうとしない。
その心を視るに、女癖が悪いとまではいかない様だが、女好きであることは間違いない様だった。私を特別気に入ったというよりも、私が女性であるが故に捕まった、という方が正しいのだろう。
「依頼だけじゃない、何か困り事があれば僕を頼るといいよ。力になろう」
そんな言葉と共に彼が再び名を名乗るが、彼に関心を持っていなかったからか又もやその名前を記憶する事が出来なかった。
助けを求める様にセドリックに視線を遣るが、彼は我関せずといった顔で壁に寄りかかり時計をぼんやり眺めている。此処は自分で対処するしかなさそうだ。
しかしセドリックの依頼者である為、邪険に扱う事は出来ない。迷った末に、
「実は仕事でトラブルがあって、今とても急いでいるんです。彼をお借りしても?」
と男の顔色を伺いながら告げた。
すると、彼が「それは大変だ」と言って私の手をぱっと離した。なんとか上手く切り抜けられた様だ。
「仕事の邪魔をしては悪いからね、僕はこれで失礼するよ。見送りは結構」
手に持っていたハットを被り、男が足早に玄関の方へ去っていく。
帰り際、彼が私にウインクを寄越したが、それには愛想笑いをして誤魔化した。
依頼者の男が居なくなって、静まり返った屋敷のホール。男が去った後の玄関扉を眺めながら、貴族にしては珍しいタイプの男だったとぼんやり思う。
「――トラブルははったりか? それとも事実か?」
不意に右横から声が聞こえ、はっと我に返った。それがセドリックの声だと気付くのに数秒掛かり、不自然に視線を彷徨わせてしまう。
なんとか平常心を装い、セドリックに視線を向けると、彼は先程と同じ位置で私を見つめていた。その目は冷ややかで、私の言葉がはったりだろうが事実だろうがどうだっていいといった様子だ。
「き、緊急で頼みがあるの」
緊張からか、妙に口内が乾く。ひとまず紅茶を淹れて口内を潤したいところだが、今はそんな事をしている場合では無い。とにかく早く、マリアの事を伝えなければ。
「珍しいな、お前が頼みだなんて」
彼の興味を引くのは難しい。緊急と言った今でも、彼は未だ無関心だ。
しかし、話は聞いてくれるらしい。ジャケットの内ポケットからシガレットケースを取り出した彼が、慣れた手つきで煙草を咥え火をつけた。視線を此方に向け、話を始める事を促す様に目を細める。
「あのね、依頼を受けて欲しい人がいるの」
なるべく簡潔に、それでも重要な事だと伝わる様に、言葉を紡いでいく。
「私が幼少期に出会った女性、マリア・ウィルソンって人。エリオット先生の元で看護婦として働いてた」
「あの医者は行方不明になったって、噂が流れてるが」
「……うん。先生が居なくなったのは本当。マリアちゃんは、エリオット先生の奥さんだったの。でも、先生が借金だけ残して居なくなっちゃって、今は借金取りに暴力を振るわれてる」
彼に悪い印象を与えない様に、元夫と人に預けた子供の話は伏せて置いた。マリアにも、もし仮に上手く交渉出来た時にはセドリックには昔の話はしない様にと告げてある。
彼を騙す様な事はしたくは無いが、全てはマリアの為だ。唇を噛み、言葉を区切って彼の顔を見つめた。
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