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XVII ピアス-I
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「おや、貴女でしたか。最近来ないから、心配していたんですよ」
「……」
診療所の扉を開けるなり、目に入ったのは此処の医者――エドワード・マクファーデンだ。
今迄どんな人物であろうと心の中が覗けたというのに、何度顔を合わせてもこの男からは何も読むことが出来ない。喜怒哀楽の1つすら、見えないのだ。
本当に、気味の悪い男である。出来れば、顔を合わせたくない。
しかし、私にとってこの診療所は、エリオット先生との思い出が詰まった大切な場所だ。この男が居るから、なんて理由で簡単に捨てられる場所では無かった。
無言で彼の隣を擦り抜け、カーテンの向こう側へと足を踏み入れる。
「――マリアちゃんは?」
気配の無くなった二階。ノエルが散らかしていた玩具も絵本も、全て無くなっている。
彼女達はもう、此処には居ない。聞くだけ無駄だと、そう確信する。しかし、それでも何を思ったか彼にそう尋ねてしまった。
「彼女は……えぇと、いつ頃だったでしょうか。明確な日付は覚えていないのですが、少し前に此処を出て行きましたよ。代わりに僕が二階を使わせて頂く事になったので大きな家具などはそのままですが、所有物は全て処分したそうです」
「全て……処分……。そう」
身辺整理のつもりだったのだろうか。彼女は本当に死ぬつもりだったのだと悟り、涙が出そうな程に胸が締め付けられる。
「あぁ、そういえば」
私の背後に立っていたマクファーデンが私の肩をぽんと叩き、「彼女から預かっている物があるんです」と言った。
その手を振り払おうかとも思ったが、彼の言う“預かっている物”が気になり、マクファーデンに無言で視線を向ける。
「マリアさんから、貴女に。中身は当然見ていないので何か分かりませんが、贈り物の様でした」
デスクへ足を向けた彼が、引き出しから掌サイズの小包を取り出す。そしてその小包を、私の方へと差し出した。
「――……」
差し出された小包を見つめ、思わず息を呑む。
綺麗な包装紙に包まれ、リボンを掛けられたそれは、確かに彼の言う通り私への贈り物の様だ。
「どうしましたか?」
中々受け取らない私を見て、マクファーデンが首を傾げる。
「いや……その……」
この小包を受け取ってしまえば、本当に最後になってしまう気がした。もう二度と会えない事は分かっているのに、彼女はもうこの世に居ない事は分かっているのに、その“最後”を迎えるのが怖くて中々手を出す事が出来ない。
「――直接渡さないのかと、彼女に尋ねましたが……彼女は微笑むだけで何も答えてはくれませんでした。僕は……マーシャ、貴女の様に人の心が読めない。だから彼女が最後何を思ってこれを僕に預けたのかは分かりません」
「……」
「すみません、役立たずで」
小包から視線を上げ、彼を一瞥する。彼の表情は悲愴感に満ちていて、心を読まずとも少なからずマリアに情があったのだという事が分かった。
「……」
診療所の扉を開けるなり、目に入ったのは此処の医者――エドワード・マクファーデンだ。
今迄どんな人物であろうと心の中が覗けたというのに、何度顔を合わせてもこの男からは何も読むことが出来ない。喜怒哀楽の1つすら、見えないのだ。
本当に、気味の悪い男である。出来れば、顔を合わせたくない。
しかし、私にとってこの診療所は、エリオット先生との思い出が詰まった大切な場所だ。この男が居るから、なんて理由で簡単に捨てられる場所では無かった。
無言で彼の隣を擦り抜け、カーテンの向こう側へと足を踏み入れる。
「――マリアちゃんは?」
気配の無くなった二階。ノエルが散らかしていた玩具も絵本も、全て無くなっている。
彼女達はもう、此処には居ない。聞くだけ無駄だと、そう確信する。しかし、それでも何を思ったか彼にそう尋ねてしまった。
「彼女は……えぇと、いつ頃だったでしょうか。明確な日付は覚えていないのですが、少し前に此処を出て行きましたよ。代わりに僕が二階を使わせて頂く事になったので大きな家具などはそのままですが、所有物は全て処分したそうです」
「全て……処分……。そう」
身辺整理のつもりだったのだろうか。彼女は本当に死ぬつもりだったのだと悟り、涙が出そうな程に胸が締め付けられる。
「あぁ、そういえば」
私の背後に立っていたマクファーデンが私の肩をぽんと叩き、「彼女から預かっている物があるんです」と言った。
その手を振り払おうかとも思ったが、彼の言う“預かっている物”が気になり、マクファーデンに無言で視線を向ける。
「マリアさんから、貴女に。中身は当然見ていないので何か分かりませんが、贈り物の様でした」
デスクへ足を向けた彼が、引き出しから掌サイズの小包を取り出す。そしてその小包を、私の方へと差し出した。
「――……」
差し出された小包を見つめ、思わず息を呑む。
綺麗な包装紙に包まれ、リボンを掛けられたそれは、確かに彼の言う通り私への贈り物の様だ。
「どうしましたか?」
中々受け取らない私を見て、マクファーデンが首を傾げる。
「いや……その……」
この小包を受け取ってしまえば、本当に最後になってしまう気がした。もう二度と会えない事は分かっているのに、彼女はもうこの世に居ない事は分かっているのに、その“最後”を迎えるのが怖くて中々手を出す事が出来ない。
「――直接渡さないのかと、彼女に尋ねましたが……彼女は微笑むだけで何も答えてはくれませんでした。僕は……マーシャ、貴女の様に人の心が読めない。だから彼女が最後何を思ってこれを僕に預けたのかは分かりません」
「……」
「すみません、役立たずで」
小包から視線を上げ、彼を一瞥する。彼の表情は悲愴感に満ちていて、心を読まずとも少なからずマリアに情があったのだという事が分かった。
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