DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXX 本-II

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「あ、あぁ、あの紅、実は……失くしちゃって。結構ショックだったんだよね、気に入ってたから」

「そうだったんですか。それは残念です。貴女に良く似合っていたのに」

 彼の言葉に、胸がズキリと痛む。

「だから……かな、顔色悪く見えるの」

 嘘を吐いているからか、それとも紅を金に変えてしまったからか、胸の痛みは増してゆき、彼の顔が真っ直ぐ見る事が出来ない。

「……そうでしたか」

 そんな私の感情とは裏腹に、彼の顔には安堵が浮かぶ。
 それは彼の心からの表情で、私の心を抉るのには充分すぎるものだった。

「てっきり何か、悪い事でもあったのかと。でも、物を失くした位で良かったです。……あ、あぁ、良かったという言葉に悪気はないんですが」

「分かってるよ」

「とにかく、安心しました。貴女には笑顔が似合いますから。1人で抱え込まず、何かあったら“周り”を頼ってください」

「………はぁい」

 “周り”という言葉に、妙な感情が沸き上がる。
 「僕を頼ってください」と言って欲しいだなんて、おこがましいのは分かっている。だが、心の何処かで私は彼の特別なのではないかと思っていた。
 しかし、やはり彼にとって私は、数ある患者の1人に過ぎないのだ。それがはっきりと分かった気がして、絶望感が胸を満たした。

「……周りを頼れ、と言った傍からこんな事を言うのは気が引けますが」

「うん?」

「貴女、最近此処に来る頻度が増え、居る時間も長くなってきています」

「……」

「僕から1つ、課題を与えましょう」

 彼がデスクのブックスタンドから1冊の本を取り出し、私に差し出した。
 表紙に“Empathy《共感》”と書かれたこの本は、エンパスやハイリー・センシティブ・パーソン、共感覚などを題材にした医学書の様だ。

「これを全て読み切ったら、また此処に来てください」

「は……? なにそれ、どういう意味」

「そのままの意味です」

 差し出された本から逃れる様に、1歩後退る。しかし、それを追う様に彼が1歩私と距離を詰めた。

「マーシャ、貴女は読書が好きでしたね。前に、寝る間を惜しんでまで読書に時間を費やしていると言っていた事を覚えています。そんな貴女なら、簡単でしょう」

「……興味の無い本は読まない」

「興味が無くとも、今の貴女に関わりのある本です」

「……医学書なんて、読んだ事無いし」

「童話も医学書も、同じ本である事には変わりませんよ。この本も、1つの物語だと思って読めば良い」

「そんな無茶な」

 その本を受け取れずに居ると、彼が溜息を吐き私の手を掴んだ。そしてやや強引に、私の手に本を持たせる。

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