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XXXV 傷痕-II
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彼女の後に続いて、古びた木の階段をあがる。
アリアが入っていったのは、2階に上がった先の左側、一番奥の部屋だ。アリアの部屋を含めて、部屋は全部で6つ。他の部屋には、昨晩店にいた女給が眠っているのだろう。
「皆まだ寝てるから、静かにね」
口の前で指を立てた彼女の言葉に頷き、促されるまま部屋に入る。
部屋の広さは、私が持つ書斎の半分程だろうか。小さなベッドにテーブルが1つといった殺風景な内装だ。昔、セドリックと共に借りた古いアパートを思い出す。
「話って、何かな」
少々乱れたベッドに腰掛けたアリアが、不安気な顔をして此方を見上げた。
一体、何から話せば良いのか。話す事は上手く整理出来ていないが、あまりにも長引かせてしまうと彼女に余計な不信感を与えてしまう。
なるべく気軽に、彼女が話しやすいように、穏やかな口調で話を切り出した。
「――聞きたいのは、“あの事件”の事」
私の一言で、部屋に流れていた空気が変わる。
「襲われた時の事を思い出すのは辛いと思う。それを聞くのも、酷な事だって分かってる。でも、私の大切な人が次の標的になってるの。だから、事件を止めたい。終わらせたいの」
「――そう……」
アリアがふと切なげな表情を浮べ、瞳を閉じた。彼女から伝わってくるのは、恐怖でも憎悪でも無い、哀愁。昨晩店で、“貧民街”の言葉を出した時と同じ感情だ。
「その大切な人って、どんな人?」
「……どんな……かぁ。お淑やかで清楚で、心優しくて私とは正反対。ちょっとお人好しで危なっかしい所があるけど、凄くいい子なの」
「そうなんだ。狙われるって事は、凄く綺麗な子なんだろうね」
「うん。糸みたいに細い綺麗なアッシュゴールドの髪を持ってて、肌は真っ白で、口元のホクロが印象的な……お姫様みたいな子」
私の言葉に、アリアが閉じていた瞳を開いた。そして、美しいヘーゼルの瞳を此方に向ける。
「……その子、名前は?」
「名前?」
彼女からは、もう哀愁は伝わってこない。伝わってくるのは、何処か緊迫した様な感情だ。
「……エル、って名前の、まだ若い女の子だけど」
「――!」
名前を聞くなり、アリアの瞳が驚いた様に見開かれた。
そしてガタリと大きな音を立て、ベッドから立ち上がり私の両肩を強く掴む。
「とめて!」
部屋に響き渡った、怒声にも似た彼女の叫び声。爪が肩に食い込み、ズキりと痛む。
「あの男をとめて! 絶対に、エルさんを被害に遭わせないで!」
「ちょ、ちょっと待って、どうしたの?」
彼女の心中は複雑に絡んでいて、伝わってくる感情が上手く読み解けない。混乱にも似た心情だ。
「あの人は……! エルさんは私の恩人なの……!」
「恩人……?」
「エルさんが居たから私は此処に来れたの……! あの人が居たから、私は今生きていられているの……! だから絶対にとめて! アルフレッドを、あいつを殺してでも絶対に事件をとめて!」
両肩を掴む彼女の手が強く、バランスを崩し背後の壁に背を叩き付けられる。しかしそれでも、彼女の勢いは止まらない。
殺気立っていて、周りが見えていない様だ。どんな経緯でエルとアリアが関りを持ったかは分からないが、アリアにとってエルは大切な存在であり、私と同様彼女を守りたいと思っている様だった。
だがどうにかして、彼女を落ち着かせなければ。これでは、まともに話も出来ない。
そんな時、扉をノックする音が部屋に響いた。
アリアが入っていったのは、2階に上がった先の左側、一番奥の部屋だ。アリアの部屋を含めて、部屋は全部で6つ。他の部屋には、昨晩店にいた女給が眠っているのだろう。
「皆まだ寝てるから、静かにね」
口の前で指を立てた彼女の言葉に頷き、促されるまま部屋に入る。
部屋の広さは、私が持つ書斎の半分程だろうか。小さなベッドにテーブルが1つといった殺風景な内装だ。昔、セドリックと共に借りた古いアパートを思い出す。
「話って、何かな」
少々乱れたベッドに腰掛けたアリアが、不安気な顔をして此方を見上げた。
一体、何から話せば良いのか。話す事は上手く整理出来ていないが、あまりにも長引かせてしまうと彼女に余計な不信感を与えてしまう。
なるべく気軽に、彼女が話しやすいように、穏やかな口調で話を切り出した。
「――聞きたいのは、“あの事件”の事」
私の一言で、部屋に流れていた空気が変わる。
「襲われた時の事を思い出すのは辛いと思う。それを聞くのも、酷な事だって分かってる。でも、私の大切な人が次の標的になってるの。だから、事件を止めたい。終わらせたいの」
「――そう……」
アリアがふと切なげな表情を浮べ、瞳を閉じた。彼女から伝わってくるのは、恐怖でも憎悪でも無い、哀愁。昨晩店で、“貧民街”の言葉を出した時と同じ感情だ。
「その大切な人って、どんな人?」
「……どんな……かぁ。お淑やかで清楚で、心優しくて私とは正反対。ちょっとお人好しで危なっかしい所があるけど、凄くいい子なの」
「そうなんだ。狙われるって事は、凄く綺麗な子なんだろうね」
「うん。糸みたいに細い綺麗なアッシュゴールドの髪を持ってて、肌は真っ白で、口元のホクロが印象的な……お姫様みたいな子」
私の言葉に、アリアが閉じていた瞳を開いた。そして、美しいヘーゼルの瞳を此方に向ける。
「……その子、名前は?」
「名前?」
彼女からは、もう哀愁は伝わってこない。伝わってくるのは、何処か緊迫した様な感情だ。
「……エル、って名前の、まだ若い女の子だけど」
「――!」
名前を聞くなり、アリアの瞳が驚いた様に見開かれた。
そしてガタリと大きな音を立て、ベッドから立ち上がり私の両肩を強く掴む。
「とめて!」
部屋に響き渡った、怒声にも似た彼女の叫び声。爪が肩に食い込み、ズキりと痛む。
「あの男をとめて! 絶対に、エルさんを被害に遭わせないで!」
「ちょ、ちょっと待って、どうしたの?」
彼女の心中は複雑に絡んでいて、伝わってくる感情が上手く読み解けない。混乱にも似た心情だ。
「あの人は……! エルさんは私の恩人なの……!」
「恩人……?」
「エルさんが居たから私は此処に来れたの……! あの人が居たから、私は今生きていられているの……! だから絶対にとめて! アルフレッドを、あいつを殺してでも絶対に事件をとめて!」
両肩を掴む彼女の手が強く、バランスを崩し背後の壁に背を叩き付けられる。しかしそれでも、彼女の勢いは止まらない。
殺気立っていて、周りが見えていない様だ。どんな経緯でエルとアリアが関りを持ったかは分からないが、アリアにとってエルは大切な存在であり、私と同様彼女を守りたいと思っている様だった。
だがどうにかして、彼女を落ち着かせなければ。これでは、まともに話も出来ない。
そんな時、扉をノックする音が部屋に響いた。
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