DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XLI 読めない心-I

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 事件が終結して一週間。
 街では婦女暴行事件の話題や噂は薄れ、徐々に平穏へと向かいつつあった。
 しかし今の私の心は全く平穏では無い。ただただ大切な友人――エルの身を案じながら、息を切らせ街路を駆けていた。
 
 事の発端は、約一時間前に遡る。
 今日は重要な仕事の面談が控えているというのに、一向にセドリックは職場に姿を現さず、心配になって自宅まで迎えに行こうかと悩んでいた時だった。
 職場へやってきたセドリックは何処か挙動不審で、彼からはとても仕事に手が付かないであろう程の動揺が伝わってきた。それだけであれば、夫婦喧嘩でもしたのかと思う程度だっただろう。
 そんな中、あろう事か彼は、私が自分用にと用意していた砂糖とミルクをたっぷり入れた紅茶をその場で飲み干してしまったのだ。
 彼は、仮に薬だったとしても、断固として甘い物は口にしない人間だ。なのに、明らかに私の物だと見て分かるものを飲み干す姿を見て、これは只事では無いと察した。流石の彼もその甘さには顔を歪めていたが、それよりも動揺の方が勝っていたのだろう。紅茶の感想は特に述べられる事は無く、ティーカップをガチャンとソーサーに叩き付けた。
 ホール内を意味無く歩き回り、かとおもったら突如足を止めてソファの背凭れに手を突いて項垂れるセドリック。そんな彼に一体何があったのかと尋ねると、重々しい声音で彼が「エルが倒れた」と言った。
 その言葉には、流石の私も動揺した。家を出る前には無事目を覚まし、会話が出来る位には落ち着いたと彼は言ったが、ただの風邪だと片付けるには明らかに、ここ数日で体調を崩した回数が多すぎる。
 それはセドリックも気にしていた事の様で、手短ではありながらも会話を交わした結果、私がエルを診療所へ連れて行くという話に至った。
 そういった経緯で、私は今こうして彼等の住家へと向かっている。

 漸く辿り着いた家の前。膝に手を突いて呼吸を整えながら、預かってきたキーリングをポケットから取り出す。
 鍵を鍵穴に差し込んだ瞬間、ふと扉に付けられたドアノッカーが目に付いた。事件を起こす前、セドリックにエルの様子を見てくる様に頼まれた時はノックをする事無く開けてしまったが、本来であれば幾ら幼馴染と言えど他人の家だ。開く前にノックをするのがマナーというものである。
 しかし、そんな事をしたらエルの身体に障るだろうか。体調を崩した時は特に、些細な音でも耳に付く。
 そんな事を暫し考えた末、控えめに形だけのノックをして手早く扉を解錠した。
 ゆっくりと扉を開き、中を覗き込む。

「エルちゃん大丈夫? セディから話は聞いてるよ」

 リビングの向こう側。玄関からも見えるベッドに視線を向けると、遠目で見ても分かる程に顔色を悪くさせたエルが横たわっていた。

「ええ、心配かけてしまってごめんなさい」

 弱々しく微笑んだ彼女が、ベッドから身体を起こす。そんな彼女に慌てて駆け寄り、その細い身体を支えた。

「顔、真っ青だよ。本当に大丈夫? 歩ける?」

 今の彼女を見る限り、決して“大丈夫”などでは無いだろう。もう少し別の言葉を掛ければ良かったと後悔するも、彼女がか細い声で「大丈夫」と漏らし、ベッドから腰を上げた。

「とりあえず、診療所行こうか。先生に診てもらおう?」

 私の問いにエルが小さく頷き、覚束ない足取りの彼女を支えながら家を出る。
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