DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

文字の大きさ
138 / 222

XLI 読めない心-III

しおりを挟む
 それから、待つ事30分。
 再びカラリとドアベルの音が響き、ぱっと顔を上げた。想像していたよりも随分と早く終わった様だが、それよりも今気にすべき事は診察結果だ。

「――エルちゃん、先生なんだって?」

 彼女に駆け寄り、俯いたその顔を覗き込む。
 すると彼女が、何処か切なげで、憂いを帯びた表情を見せた。伝わってくる感情も晴れやかなものでは無く、不安や心配、焦燥感の様な物で溢れている。
 何か良くない、病でも見つかったのだろうか。自然と鼓動が早鐘を打つが、彼女が何処か諦めた様に、将又自身に言い聞かせる様に「……うん」と小さく頷いた。

「――妊娠、しているって」

 告げられたのは、全く想像をしていなかった言葉。病や感染症等では無く、彼女のお腹には新たな命が宿っている。
 彼女が倒れたのも、体調不良を訴えていたのも、全ては妊娠の初期症状だったのだ。何故もっと早くその可能性を考えなかったのかと思いながらも、安堵に思わず頬が緩んだ。

「お、おめでとう……!」

 この様な時は、祝福の言葉で良かっただろうか。なんて当たり前の事を疑問に思ってしまう程、彼女の心中は複雑だ。
 だがこれはとても喜ばしい事だ。きっと今の私の言葉に間違いは無いだろう。
 早く職場へ戻り、セドリックにこの事実を伝えに行きたい。少しでも早く、彼の不安を安堵に、喜びに変えてあげたい。しかしこの様な事は、第三者の口から伝えるよりも本人の口から伝える方が良いだろうか。
 しかし、変わらない彼女の中の鬱々とした感情に、その思考が断ち切られた。

「――エルちゃん、嬉しくないの?」

 思わずそう問うと、彼女がどちらとも取れない反応を示した。

「嬉しくない訳じゃないわ。大丈夫よ。でも、セドリックがどう思うのか……少し心配で……」

「セディなら大丈夫だよ! あいつ、凄いエルちゃんの事大事にしてて……、子供出来た事だって、絶対喜んでくれる筈!」

「――そうだと、良いのだけど」

 彼女の心は、まだ晴れない。
 セドリックがエルを溺愛している事は、誰が見ても分かる事だ。それは、彼女本人も分かっている筈だろう。何をそんなに、憂う事があるのだろうか。
 しかしセドリックの口から祝福の言葉を貰えば、彼女の心もきっと晴れる筈だ。それにきっと、妊娠していた事実を知ったばかりな為彼女自身も受け止めきれていないのだろう。
 直ぐに、2人の笑顔が見れるようになる。そう信じ、彼女と2人で自宅の方向へと足を向けた。

「――ねぇ、マーシャ」

 自身の一歩後ろを歩いていたエルが、声に少々の不安を滲ませ私を呼び止めた。
 足を止め振り返り、彼女に視線を向ける。

「妊娠した事、セドリックには黙っていて欲しいの」

「――……」

 彼女の顔に浮かぶ、何処か寂し気な微笑。
 その顔を見た瞬間、彼女はセドリックに妊娠している事実を伝えるつもりが無いのだと悟った。
 ――何故? セドリックは喜ぶに決まってる。不安に思う事は何一つない。
 そう告げたかったが、彼女の顔を見ていると何も言う事が出来なかった。

「――大事な事だし、自分の口で……伝えたいから……」

 取って付けた様な言葉だ。しかし彼女の願いを、部外者である私が否定する事は許されない。
 彼女が何に不安を抱いているのか、何故そんなにも憂いているのかは分からないまま。今はたった一言「分かった」と返答する事しか出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...