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XLII 悪魔は忘れた頃にやってくる-I
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エルの妊娠が発覚して、約一ヶ月が経過した。
この一ヶ月間一度もエルと会えていない為、診療所へ行った後エルが自身の口からセドリックに妊娠を伝えたかどうかは分からない。
しかし、セドリックからマイナスな感情が伝わってくる事は無く、私がついうっかり口を滑らせてしまってからというもの、彼は今迄以上にエルの事を考えている様だった。そしてこの一ヶ月、彼は事ある毎に「妊婦を家に1人にしておく訳にはいかない」などと理由を付けて自宅へ帰る事が多くなった。
今迄にも、空いた時間があれば自宅に戻っていた様だが、今では職場に居る時間の方が短く、時には仕事の面談すらも蹴ってしまう程であった。
仕事をサボりがちになり、マクファーデンの診療所に入り浸っていた私が言える事では無いのだが、ブローカーという職に就いている以上依頼者との面談位は真面目におこなって欲しいものだ。
何故装飾品担当の私が、人身売買担当の彼の依頼者と代わりに面談をする事になってしまったのか。面談と言っても、依頼内容を紙に書き起こし、それを後にセドリックに伝えるだけなのだが、それでも私の仕事が増えた事には変わりない。
大切な配偶者が身籠って、今は仕事どころでは無いのは分かるが、少しは私の身にもなって欲しいものである。そしてこれからも依頼者との面談を私に押し付けるのなら、少し位エルとの関係性を私に報告すべきではないだろうか。今の私には、エルの体調の良し悪しも分からなければ、夫婦仲も分からない。いっそ自宅へ突撃してやろうか、なんて思ってもみるが、日中この屋敷を無人にしておく訳にもいかない。
セドリックが身勝手なのは昔から変わらないが、仕事を疎かにして幸せな生活を送っているだなんて良いご身分だ。彼の、ここ数日の私への態度にやさぐれながらも、溜息を吐きホールのソファに身を投げた。
「……?」
その瞬間耳に届いた、小さな物音。本来であれば自身がソファに身を投げる音に掻き消されてしまうのだが、私は特別耳が良い為かその音を拾う事が出来た。
今のは、恐らくドアポストに封書が投函された音だ。しかし、現在は郵便の配達人が来る時間では無い。誰かが玄関まで訪れて、態々封書を入れていったのだろうか。
焦燥感にも似た妙な緊張感を覚え、慌ててソファから腰を上げ玄関に駆け寄った。
ドアポストを確認する前に玄関を解錠し、扉を大きく開く。しかし、扉の外には人は疎か、人が居た気配すらも感じられなかった。
言い知れぬ気味の悪さを感じ、勢いよく扉を閉め施錠する。そして息を吐き、ゆっくりとドアポストを開いた。
「あっ……!」
ドアポストの中に一通だけ入った、見覚えのある“黒の封筒”。その存在に、思わず声を漏らす。
確か、アルフレッド殺害計画を立てるきっかけとなった晩の事。紅茶屋を出た私は、不思議な女性とぶつかった。その時にも、私は“黒の封筒”を受け取った筈だ。
世の中に、黒の封筒を使う人は殆ど居ない。故に、ポストに投函されたこの封筒は、あの晩ぶつかった女性が入れたものと考えて良いだろう。
ポストの中からその封筒を取り出し、黒に良く映える血液の様に赤い封蝋をまじまじと見つめる。
封蝋に押されているのは、あの晩受け取った手紙と同じ“B”の印璽。
その封筒を見つめたままドアポストの蓋を閉め、ソファの方へと足を向ける。この手紙は、私宛で間違い無いのだろうか。もし万が一セドリック宛てだとしたら、開けてしまうのは躊躇われる。
しかし、“予言”が出来る人間が態々彼の不在時に手紙を投函するだろうか。
この手紙に書かれているのは、恐らく予言の類だ。あの晩もそうだった。
きっと、私の憶測が間違っていなければこの手紙は私宛だ。
深呼吸をし、そっと封蝋を剥がす。中に入っているのは、前回と同じ黒のメッセージカード。
今回は一体、何が書かれているのだろうか。セドリックやエルを巻き込む内容では無いと良いのだが。
緊張感に押しつぶされそうになりながらも、メッセージカードを封筒から抜き取った。
この一ヶ月間一度もエルと会えていない為、診療所へ行った後エルが自身の口からセドリックに妊娠を伝えたかどうかは分からない。
しかし、セドリックからマイナスな感情が伝わってくる事は無く、私がついうっかり口を滑らせてしまってからというもの、彼は今迄以上にエルの事を考えている様だった。そしてこの一ヶ月、彼は事ある毎に「妊婦を家に1人にしておく訳にはいかない」などと理由を付けて自宅へ帰る事が多くなった。
今迄にも、空いた時間があれば自宅に戻っていた様だが、今では職場に居る時間の方が短く、時には仕事の面談すらも蹴ってしまう程であった。
仕事をサボりがちになり、マクファーデンの診療所に入り浸っていた私が言える事では無いのだが、ブローカーという職に就いている以上依頼者との面談位は真面目におこなって欲しいものだ。
何故装飾品担当の私が、人身売買担当の彼の依頼者と代わりに面談をする事になってしまったのか。面談と言っても、依頼内容を紙に書き起こし、それを後にセドリックに伝えるだけなのだが、それでも私の仕事が増えた事には変わりない。
大切な配偶者が身籠って、今は仕事どころでは無いのは分かるが、少しは私の身にもなって欲しいものである。そしてこれからも依頼者との面談を私に押し付けるのなら、少し位エルとの関係性を私に報告すべきではないだろうか。今の私には、エルの体調の良し悪しも分からなければ、夫婦仲も分からない。いっそ自宅へ突撃してやろうか、なんて思ってもみるが、日中この屋敷を無人にしておく訳にもいかない。
セドリックが身勝手なのは昔から変わらないが、仕事を疎かにして幸せな生活を送っているだなんて良いご身分だ。彼の、ここ数日の私への態度にやさぐれながらも、溜息を吐きホールのソファに身を投げた。
「……?」
その瞬間耳に届いた、小さな物音。本来であれば自身がソファに身を投げる音に掻き消されてしまうのだが、私は特別耳が良い為かその音を拾う事が出来た。
今のは、恐らくドアポストに封書が投函された音だ。しかし、現在は郵便の配達人が来る時間では無い。誰かが玄関まで訪れて、態々封書を入れていったのだろうか。
焦燥感にも似た妙な緊張感を覚え、慌ててソファから腰を上げ玄関に駆け寄った。
ドアポストを確認する前に玄関を解錠し、扉を大きく開く。しかし、扉の外には人は疎か、人が居た気配すらも感じられなかった。
言い知れぬ気味の悪さを感じ、勢いよく扉を閉め施錠する。そして息を吐き、ゆっくりとドアポストを開いた。
「あっ……!」
ドアポストの中に一通だけ入った、見覚えのある“黒の封筒”。その存在に、思わず声を漏らす。
確か、アルフレッド殺害計画を立てるきっかけとなった晩の事。紅茶屋を出た私は、不思議な女性とぶつかった。その時にも、私は“黒の封筒”を受け取った筈だ。
世の中に、黒の封筒を使う人は殆ど居ない。故に、ポストに投函されたこの封筒は、あの晩ぶつかった女性が入れたものと考えて良いだろう。
ポストの中からその封筒を取り出し、黒に良く映える血液の様に赤い封蝋をまじまじと見つめる。
封蝋に押されているのは、あの晩受け取った手紙と同じ“B”の印璽。
その封筒を見つめたままドアポストの蓋を閉め、ソファの方へと足を向ける。この手紙は、私宛で間違い無いのだろうか。もし万が一セドリック宛てだとしたら、開けてしまうのは躊躇われる。
しかし、“予言”が出来る人間が態々彼の不在時に手紙を投函するだろうか。
この手紙に書かれているのは、恐らく予言の類だ。あの晩もそうだった。
きっと、私の憶測が間違っていなければこの手紙は私宛だ。
深呼吸をし、そっと封蝋を剥がす。中に入っているのは、前回と同じ黒のメッセージカード。
今回は一体、何が書かれているのだろうか。セドリックやエルを巻き込む内容では無いと良いのだが。
緊張感に押しつぶされそうになりながらも、メッセージカードを封筒から抜き取った。
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