DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

文字の大きさ
139 / 222

XLII 悪魔は忘れた頃にやってくる-I

しおりを挟む
 エルの妊娠が発覚して、約一ヶ月が経過した。
 この一ヶ月間一度もエルと会えていない為、診療所へ行った後エルが自身の口からセドリックに妊娠を伝えたかどうかは分からない。
 しかし、セドリックからマイナスな感情が伝わってくる事は無く、私がついうっかり口を滑らせてしまってからというもの、彼は今迄以上にエルの事を考えている様だった。そしてこの一ヶ月、彼は事ある毎に「妊婦を家に1人にしておく訳にはいかない」などと理由を付けて自宅へ帰る事が多くなった。
 今迄にも、空いた時間があれば自宅に戻っていた様だが、今では職場に居る時間の方が短く、時には仕事の面談すらも蹴ってしまう程であった。
 仕事をサボりがちになり、マクファーデンの診療所に入り浸っていた私が言える事では無いのだが、ブローカーという職に就いている以上依頼者との面談位は真面目におこなって欲しいものだ。
 何故装飾品担当の私が、人身売買担当の彼の依頼者と代わりに面談をする事になってしまったのか。面談と言っても、依頼内容を紙に書き起こし、それを後にセドリックに伝えるだけなのだが、それでも私の仕事が増えた事には変わりない。
 大切な配偶者パートナーが身籠って、今は仕事どころでは無いのは分かるが、少しは私の身にもなって欲しいものである。そしてこれからも依頼者との面談を私に押し付けるのなら、少し位エルとの関係性を私に報告すべきではないだろうか。今の私には、エルの体調の良し悪しも分からなければ、夫婦仲も分からない。いっそ自宅へ突撃してやろうか、なんて思ってもみるが、日中この屋敷を無人にしておく訳にもいかない。
 セドリックが身勝手なのは昔から変わらないが、仕事を疎かにして幸せな生活を送っているだなんて良いご身分だ。彼の、ここ数日の私への態度にやさぐれながらも、溜息を吐きホールのソファに身を投げた。

「……?」

 その瞬間耳に届いた、小さな物音。本来であれば自身がソファに身を投げる音に掻き消されてしまうのだが、私は特別耳が良い為かその音を拾う事が出来た。
 今のは、恐らくドアポストに封書が投函された音だ。しかし、現在は郵便の配達人が来る時間では無い。誰かが玄関まで訪れて、態々封書を入れていったのだろうか。
 焦燥感にも似た妙な緊張感を覚え、慌ててソファから腰を上げ玄関に駆け寄った。
 ドアポストを確認する前に玄関を解錠し、扉を大きく開く。しかし、扉の外には人は疎か、人が居た気配すらも感じられなかった。
 言い知れぬ気味の悪さを感じ、勢いよく扉を閉め施錠する。そして息を吐き、ゆっくりとドアポストを開いた。

「あっ……!」

 ドアポストの中に一通だけ入った、見覚えのある“黒の封筒”。その存在に、思わず声を漏らす。
 確か、アルフレッド殺害計画を立てるきっかけとなった晩の事。紅茶屋を出た私は、不思議な女性とぶつかった。その時にも、私は“黒の封筒”を受け取った筈だ。
 世の中に、黒の封筒を使う人は殆ど居ない。故に、ポストに投函されたこの封筒は、あの晩ぶつかった女性が入れたものと考えて良いだろう。
 ポストの中からその封筒を取り出し、黒に良く映える血液の様に赤い封蝋をまじまじと見つめる。
 封蝋に押されているのは、あの晩受け取った手紙と同じ“B”の印璽。
 その封筒を見つめたままドアポストの蓋を閉め、ソファの方へと足を向ける。この手紙は、私宛で間違い無いのだろうか。もし万が一セドリック宛てだとしたら、開けてしまうのは躊躇われる。
 しかし、“予言”が出来る人間が態々彼の不在時に手紙を投函するだろうか。
 この手紙に書かれているのは、恐らく予言の類だ。あの晩もそうだった。
 きっと、私の憶測が間違っていなければこの手紙は私宛だ。
 深呼吸をし、そっと封蝋を剥がす。中に入っているのは、前回と同じ黒のメッセージカード。
 今回は一体、何が書かれているのだろうか。セドリックやエルを巻き込む内容では無いと良いのだが。
 緊張感に押しつぶされそうになりながらも、メッセージカードを封筒から抜き取った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...