DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XLVII 唯一無二-II

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 静まり返った二階の浴室。
 仕事の時間だ、と言って逃げる様に一階の診療所へ駆け降りて行ったマクファーデンに呆れつつ、現在湯を張ったバスタブに1人身を浸していた。
 あれ程慌てふためくマクファーデンの姿は、初めて見たかもしれない。それ程までに私の怒りが収まらなかったという事なのだが、冷静になった今思い出すと少々笑みが零れてしまう。
 長めに息を吐き、バスタブの淵にうなじを置いて天井を見上げた。赤い煉瓦で組まれた浴槽は、昼間だというのに薄暗く、不気味な雰囲気を纏っている。台に置いている蝋燭の火が無ければ、恐怖を感じてしまいそうな内装だ。
 頭を前に戻し、自身の身体に視線を落とす。あの女に殴られた名残である痣は、まだくっきりと身体に刻まれていた。時間が経てば消えるとマクファーデンは言っていたが、本当に消えるのだろうかと不安に思ってしまう程の色をしている。

「汚いなぁ……」

 ぽつりと呟いた言葉が、小さく壁に反響した。

 特別な意味は無く、なんと無しに湯の中で自身の太腿を撫でる。そしてそのまま内腿へ滑らせ、秘部に指を沈めた。
 昨晩、確かにこの場所に彼の指があった。自身で触っていても快楽を感じる事は無いのに、昨晩の事を思い出すだけで急に秘部が熱く疼き出す。
 今迄何も物を受け入れた事の無い蜜壺に、彼の指が入り中でうごめく感覚は今でもよく思い出す事が出来る。その感覚が少々恋しくなり、バスタブの中で僅かに足を開き湯の熱さを感じながらも自身の指を蜜壺に押し込んだ。

「……んん」

 指に纏わり付く粘膜と肉の感触に若干の恐怖を抱きつつも、ゆっくりと指を奥へ進める。
 蜜壺の中へ触れる事は、臓器に触れるのと同義だ、という話を昔聞いた事があった。それが事実なのかは分からないが、指先だけの感覚で言えばそれも事実の様に感じてくる。

「あっ……」

 蜜壺の中で、他とは違う敏感な場所。
 マクファーデンが執拗に刺激してくる場所であり、その都度そこに何があるのだろうかと疑問に思っていたが、自身で触れてみて漸く理由が分かった。

「っん、ぁ」

 その場所を指先で擦る様に刺激する度、性的快楽が沸き上がり声が跳ねる。
 自慰をするなど、虚しいだけだ。それも、こんな浴室で。
 そんな事、頭では分かっている。しかし、それでも身体が快楽を求めて指が止まらない。

「っ……ぁ、せんせ……」

 無意識的に彼を呼べば、昨晩の事が鮮明に思い出され感度が上がる。そんな事をしているうちに快楽は限界を迎え、声にならない声を上げ絶頂を迎えた。
 ぱたり、と湯が静かに波打つ。
 先程迄の性的欲求は驚く程あっさりと失われ、代わりに虚しさだけがそこに残った。

「……馬鹿みたい」

 長時間湯に浸かっていたからか、逆上せてしまった様だ。くらくらと眩暈を感じながらもバスタブの淵に手を突き、ゆっくりと腰を上げた。 
 滑らない様に注意しながら浴室を出て、事前に用意しておいた大きなオフホワイトのタオルで乱暴に濡れた身体を拭う。そして髪を結い上げていたリボンを解き、同じく事前に用意しておいた衣類に手を伸ばした。
 素早く衣服を身に纏い、洗面台に備え付けられた鏡を覗き込む。そして自身の唇をなぞる様に赤い紅を引き、お気に入りの香水を自身に吹きかけた。
 これで、いつも通りの私の完成だ。鏡を見つめ溜息を吐き、足早に脱衣所を後にする。
 横髪と前髪がやや湿っているが、1時間もすれば乾くだろう。
 浴室であんな事をしてしまった後にマクファーデンと顔を合わせるのは少々気が引けるが、私も仕事に行かなければならない。階段の上で深く息を吐き、意を決し一階へと向かった。

 階段を降りた先の一階。見渡す限り、マクファーデンの姿はない。
 カーテンの外から話し声が僅かに聞こえてる為、今は患者の診察中なのだろう。忍び足でカーテンに近付き、そっと隙間から外を覗く。

「――先生、あの……」

 カーテンを開いた先の一番手前の部屋が、診察室だ。そこから、やけに聞き覚えのある声が聞こえて来た。

「――その頬、どうしたんですか……?」

 媚態の無い、静かな声音。それは耳に心地良く届き、例えるならば繊細なハープの様だ。
 この声は間違いなく、エルの声である。
 そういえば、今日はエルの検診の日だとマクファーデンが言っていた気がする。エルが診察に来ているということは、当然待合室にはセドリックが居るのだろう。愛妻家の彼の事だ。妻の検診に付き添わない訳が無い。
 ただの見知らぬ患者であれば、従事者のふりをして診療所を出て行こうと思っていたが、彼等が居るなら話は別である。
 こんな日中に職場を無人にしておく事は避けたかったが、私が此処に入り浸っている事を彼等に知られる事も同様避けたい。――というよりも、私がマクファーデンと関りがあるという事を知られたくないのだ。
 今日は、確か仕事の予定は入っていない。突発の依頼者が来ない限りは問題無いだろう。溜息を吐き、カーテンの横の壁に凭れ掛かった。
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