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XLVII 唯一無二-III
しおりを挟む「――猫を抱いたら引っ掛かれてしまって」
聞こえて来た、マクファーデンの声。ドキリと鼓動が跳ねるのを感じながらも、2人の会話に耳を傾ける。
「――……猫?」
そういえば、今朝彼の頬に酷い引っ掻き傷をつけてしまったのだった。あれ程見事な傷が出来ていれば、誰だって疑問に思う筈だ。
決して抱かれた故に引っ掻いた訳では無いのだが、自身を“猫”と表現された事に擽ったい様な腹立たしい様な複雑な感情が沸き上がる。
「――ええ、とても気が強くて乱暴で、警戒心の強い子ですが、馬鹿みたいに律義で、人の心に繊細で、天使の様に可愛い猫です」
「……!」
彼の優しい声音に、一気に顔に熱が上る。
馬鹿みたいに律義、は余計だ。なんて内心毒づきながらも、火照った顔を冷やす様にぱたぱたと手で扇いだ。
「――先生が、そんな顔をするだなんて珍しい」
エルが、呟く様に彼の言葉に返答する。顔を見なければその人物の感情を読む事は出来ないが、何故だかエルのその声からは哀愁が伝わってくる様な気がした。
「――先生にとって、余程可愛い“猫”なのでしょう」
穏やかであり、優しい声。なのに、何処か切なげに聞こえてしまうのは何故だろうか。
思い返して見れば、エルとは妊娠が発覚したあの日以降顔を合わせていない。2人きりで会話も出来ておらず、セドリックとの仲やお腹の子の事をどう思っているかも聞けていないままだった。
少しだけでも、エルの顔が見られたりしないか。そう思い、そっとカーテンの隙間から診察室の方を覗いた。
その瞬間、まるでタイミングを合わせたかの様に診察室の扉が開く。出てきたのは、胸に医学書らしき分厚い本を抱えたエルだった。きっと、マクファーデンがまた余計な医学書でも勧めたのだろう。彼女を気の毒に思いながらも、その顔をまじまじと見つめる。
「あっ……!」
ふいに、エルの顔が此方に向いた。彼女と目が合った様に感じ、カーテンから飛び退く。思わず漏れてしまった声に慌てて口を塞ぎ、何処か隠れられる場所が無いかと周囲を見渡した。
不自然に揺れたカーテンを、きっとエルは不思議に思う筈だ。彼女の性格上、あまり詮索をするとは思えないが、もし本当に目が合ってしまっていたのならカーテンを捲り此方側を覗いてしまう可能性も考えられる。
二階へ上がってしまえば、恐らく此方側を覗かれても気付かれないだろう。なるべく足音を立てぬ様に階段の方へ駆け、数段一気に駆け上がった。そして階段の中間辺りに、身を丸める様にして座り込む。
「――先生、お客様でも来ているんですか?」
カーテンの向こう側から聞こえる、エルの声。それに対してマクファーデンが何か返答をした様に聞こえたが、この位置からでは何を言っているのか迄は聞き取れなかった。
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