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LI 首輪-I
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お互い仕事を終え、診療所も閉めた21時。
少々長めの入浴で疲れた身体を癒し、濡れた髪をタオルで拭いながら浴室を出る。
窮屈な思いをするのが嫌で、入浴後は裸足のまま過ごす事が多い。しかし、マクファーデンに見つかると「足が汚れるから靴を履きなさい」と怒られてしまう。それを分かっていながら、今日もぺたぺたと裸足で二階を歩いていた。
マクファーデンは、用事があるといって診療所を閉めるなり街へと消えていった。どうやら、1週間程前にオーダーメイドをしていた商品が完成したという知らせが入ったらしい。本当なら日中に取りに行きたかった様だが、診療所を空ける訳にはいかないと泣く泣く夜間に回したそうだ。
早朝の郵便で店からの手紙を受け取った時、彼はとても嬉しそうにしていた。私が仕事へ行くまでの間ずっとそわそわと落ち着かない様子で、まるで子供みたいだと笑っていたのだが、仕事から戻って来た19時半、彼の様子は朝から全くと言って良い程変わっていなかった。余程楽しみにしていた物なのだろう。何を注文したのかと尋ねてみても「届いてからのお楽しみです」としか言わず教えてはくれない。そこまで勿体振られると、私もなんだかそわそわとしてしまう。
ふふ、と1人笑みを零し、ベッドに倒れ込んだ。子供の様に足をぶらつかせながら、“あの日”の事を思い出す。
彼に嘘をついたのは、丁度1週間前の事だ。あの日の晩は彼も怒っていたのか、私と一言も口を利いてくれなかった。だが、翌日には普段通りの彼に戻っていた。
それから、あの嘘についての話は一切していない。私も触れない方が良い話題かと思い、蒸し返す様な事はしていなかった。
枕元に置いていた、くまのぬいぐるみを手に取る。それは、彼が前に患者――正しくはマクファーデン目当ての女なのだが――から押し付けられたと言って持って帰ってきた物だ。彼は平然とこのぬいぐるみを処分しようとしていたが、愛らしい見た目のぬいぐるみが処分されるのを見ていられず、私が我儘を言って引き取ったのだ。
本音を言えば、マクファーデンに想いを寄せる女が持ってきたぬいぐるみなど欲しくは無かった。しかし、ぬいぐるみに罪は無い。
マクファーデンは今でも、時々このぬいぐるみを気味が悪いと言って遠ざけようとするが、私は寧ろ愛着が湧いてしまい、今では大切なペットの様な存在になっていた。
「先生の事、傷付けちゃったかなぁ」
ぬいぐるみに話し掛ける様に、ぽつりと呟く。当然、返事は返ってこない。
誰も見ていない、というこの状況が私を動かしたのか、ぬいぐるみの手足を持ってバタつかせながら「そんな事無いよ」と声色を変えて呟いてみる。
こんな一人遊びが許されるのは子供だけだ。馬鹿らしくなって、枕元にぬいぐるみを投げた。
丁度、ぬいぐるみがベッドの上でバウンドした瞬間。何処からかガタリ、と大きな音が鳴り、投げたぬいぐるみが怒りだしたのかと慌てて枕元へ視線を遣った。だが、一階からガタガタと物音が聞こえてきた為、すぐさまマクファーデンが帰ってきたのだと悟る。
ギシギシと木を軋ませ、階段を上ってくる音が聞こえる。
よっ、と声を漏らしベッドから起き上がると、タイミングが良く二階の扉が開いた。
「ただいま帰りました」
「おかえり」
彼の腕に持たれているのは、広げた両掌程の大きさの紙袋。想像していた以上に小さい。一体何が入っているのだろうとその紙袋を見つめていると、彼が一言「気になりますか?」と問うてきた。
「まぁ、ちょっとはね」
人が買ったものをじろじろと見るのは失礼だ。
好奇心を抱きながらも曖昧に返答し、パッと紙袋から視線を逸らした。
「これは、貴女へのプレゼントなんですよ」
「プレゼント……?」
彼の言葉に、再び紙袋へ視線を向ける。
「まぁ、貴女が喜ぶとはあまり思えませんが……。僕なりの、愛の証ですよ」
――愛の証。
その言葉に、私が余計な嘘をついたが為に彼に無駄な買い物をさせてしまったのではないか、という不安を抱く。しかし、それと同じ位の期待もあった。
「少し、目を閉じていて貰えますか」
「目……?」
私の問いに、彼がこくりと頷く。
彼なりに何かを考えての言葉の様だ。少々戸惑いを感じながらも、言われるままに瞳を閉じた。
少々長めの入浴で疲れた身体を癒し、濡れた髪をタオルで拭いながら浴室を出る。
窮屈な思いをするのが嫌で、入浴後は裸足のまま過ごす事が多い。しかし、マクファーデンに見つかると「足が汚れるから靴を履きなさい」と怒られてしまう。それを分かっていながら、今日もぺたぺたと裸足で二階を歩いていた。
マクファーデンは、用事があるといって診療所を閉めるなり街へと消えていった。どうやら、1週間程前にオーダーメイドをしていた商品が完成したという知らせが入ったらしい。本当なら日中に取りに行きたかった様だが、診療所を空ける訳にはいかないと泣く泣く夜間に回したそうだ。
早朝の郵便で店からの手紙を受け取った時、彼はとても嬉しそうにしていた。私が仕事へ行くまでの間ずっとそわそわと落ち着かない様子で、まるで子供みたいだと笑っていたのだが、仕事から戻って来た19時半、彼の様子は朝から全くと言って良い程変わっていなかった。余程楽しみにしていた物なのだろう。何を注文したのかと尋ねてみても「届いてからのお楽しみです」としか言わず教えてはくれない。そこまで勿体振られると、私もなんだかそわそわとしてしまう。
ふふ、と1人笑みを零し、ベッドに倒れ込んだ。子供の様に足をぶらつかせながら、“あの日”の事を思い出す。
彼に嘘をついたのは、丁度1週間前の事だ。あの日の晩は彼も怒っていたのか、私と一言も口を利いてくれなかった。だが、翌日には普段通りの彼に戻っていた。
それから、あの嘘についての話は一切していない。私も触れない方が良い話題かと思い、蒸し返す様な事はしていなかった。
枕元に置いていた、くまのぬいぐるみを手に取る。それは、彼が前に患者――正しくはマクファーデン目当ての女なのだが――から押し付けられたと言って持って帰ってきた物だ。彼は平然とこのぬいぐるみを処分しようとしていたが、愛らしい見た目のぬいぐるみが処分されるのを見ていられず、私が我儘を言って引き取ったのだ。
本音を言えば、マクファーデンに想いを寄せる女が持ってきたぬいぐるみなど欲しくは無かった。しかし、ぬいぐるみに罪は無い。
マクファーデンは今でも、時々このぬいぐるみを気味が悪いと言って遠ざけようとするが、私は寧ろ愛着が湧いてしまい、今では大切なペットの様な存在になっていた。
「先生の事、傷付けちゃったかなぁ」
ぬいぐるみに話し掛ける様に、ぽつりと呟く。当然、返事は返ってこない。
誰も見ていない、というこの状況が私を動かしたのか、ぬいぐるみの手足を持ってバタつかせながら「そんな事無いよ」と声色を変えて呟いてみる。
こんな一人遊びが許されるのは子供だけだ。馬鹿らしくなって、枕元にぬいぐるみを投げた。
丁度、ぬいぐるみがベッドの上でバウンドした瞬間。何処からかガタリ、と大きな音が鳴り、投げたぬいぐるみが怒りだしたのかと慌てて枕元へ視線を遣った。だが、一階からガタガタと物音が聞こえてきた為、すぐさまマクファーデンが帰ってきたのだと悟る。
ギシギシと木を軋ませ、階段を上ってくる音が聞こえる。
よっ、と声を漏らしベッドから起き上がると、タイミングが良く二階の扉が開いた。
「ただいま帰りました」
「おかえり」
彼の腕に持たれているのは、広げた両掌程の大きさの紙袋。想像していた以上に小さい。一体何が入っているのだろうとその紙袋を見つめていると、彼が一言「気になりますか?」と問うてきた。
「まぁ、ちょっとはね」
人が買ったものをじろじろと見るのは失礼だ。
好奇心を抱きながらも曖昧に返答し、パッと紙袋から視線を逸らした。
「これは、貴女へのプレゼントなんですよ」
「プレゼント……?」
彼の言葉に、再び紙袋へ視線を向ける。
「まぁ、貴女が喜ぶとはあまり思えませんが……。僕なりの、愛の証ですよ」
――愛の証。
その言葉に、私が余計な嘘をついたが為に彼に無駄な買い物をさせてしまったのではないか、という不安を抱く。しかし、それと同じ位の期待もあった。
「少し、目を閉じていて貰えますか」
「目……?」
私の問いに、彼がこくりと頷く。
彼なりに何かを考えての言葉の様だ。少々戸惑いを感じながらも、言われるままに瞳を閉じた。
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