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LVI 小さな命-II
しおりを挟む「ルイちゃんにはボイルドオレンジケーキ、レイちゃんにはコーヒー&ウオールナッツケーキね。フェアリーケーキは私とエルちゃんの分」
「うん、ありがとう」
ルイはセドリックに似て表情が豊かじゃない。故に、お菓子を受け取っても彼女は無表情のままだ。しかし、笑ってしまいそうな位その心は喜びに満ちていた。
彼女にしっぽが生えていたとしたら、きっと今頃パタパタと嬉しそうに振っていた事だろう。
「あら、私の分まで買って来てくれたのね。ありがとう」
家事を終えたらしきエルが、濡れた手を柔らかい布で拭きながらキッチンから出て来た。ルイの背後から手元を覗き込み、紙袋の中のケーキを見て顔を綻ばせる。
「でも、いつも申し訳ないわ。何かお礼が出来れば良いのだけど」
「良いんだよ、そんなの。私が好きでしてる事だし、それにルイちゃんとレイちゃんの元気な顔が見れるだけで充分」
紙袋の中のケーキに釘付けだったルイの頭をぽんと撫でると、彼女が顔を上げ不思議そうに首を傾げた。
私が此処に定期的に遊びに来ているのは、彼女達に危険が迫っていないかを確認する為でもあった。もう9年も経過しているのだ。今になって何かが起こるとは思えないが、それでも私は、過去の様な過ちを起こしたくない。後悔だって、したくない。
セドリックも、私が何かを危惧している事に気付いているのかいないのか、私がこうして仕事をサボり定期的に家に来ている事を咎めたりはしなかった。
しかしこの前、嘆く様に「家に帰っても3人はお前の話しかしない」と言っていた為、父親なりに、夫なりに、少しばかり嫉妬をしている様ではあった。
「紅茶、淹れるね」
「あ、大丈夫よマーシャ、私が淹れるわ」
「いいのいいの。エルちゃんは2人と一緒に居てあげて」
エルの背を軽く押して、3人から離れキッチンへと向かう。すると、それに気付いたレイがぱたぱたと足音を響かせ此方に近付いて来た。
「ねぇ、マーシャ」
彼女が私の腰辺りに抱き着き、何かを訴える様に私を見上げ声を潜める。
レイのその行動に、直ぐに彼女が何を言いたいかが分かった。恐らく、紅茶を濃いめに淹れて欲しい、といういつもの要望だろう。
少し前に、それをレイが言った時母親であるエルに「我儘を言っちゃだめよ」と叱られていた。それからという物、レイはこうしてこっそりと私に伝えに来るようになった。
「――紅茶は濃いめに、でしょ?」
レイと同じ様に声を潜めてそう告げると、彼女の頬が少しばかり赤くなり嬉しそうに小さく頷いた。
◇ ◇ ◇
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