DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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LXIII 変化したもの-II

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「マーシャ、シャツのボタンを2つ程、外して貰えますか」

「シャツ?」

 手鏡をテーブルに置いて、彼に言われた通り胸元のボタンを2つ外した。それに依って、古びた首輪が彼の眼下に晒される。

「髪も切った事ですし、これも切ってしまいましょうか」

 意味深な言葉と共に、彼が小さな銀の鍵を取り出した。そして私の首輪に付けられた小さな南京錠に、鍵を差し込む。

「切る……って?」

 カチ、と音を立てて、鍵が外れた。それと同時にするりと首輪が首から外れ、床に落ちる。
 切る、という事は。首輪を、外したという事は。
 私達の“関係を切る”という事だろうか。
 何故、そんな事を。そう問いたくても、恐怖で舌が縺れ上手く言葉を発する事が出来ない。
 身体が、僅かに震える。首に空気を感じるのは何年ぶりだろうか。しかし、今はひんやりとした空気を感じる首元が嫌に寂しく感じた。

「貴女をこんな物で縛っておく事が、抑々の間違いだった」

 彼が伏し目がちに、ふと笑った。

「若い頃の僕は不安で仕方なかったんですよ。貴女が自身の元から消えてしまうのが。だからこんな物で押さえつけて、無理矢理“僕の物にした”と錯覚していた」

「……待って、待ってどういう事?」

 続きの言葉が、早く聞きたい。だが、それと同時に聞きたくないと耳を塞いでしまいたくなる。
 彼が何を考えているのか、彼がこれからどうするつもりなのか。私も、セドリックとエルと同じ様に大切なものを失うのか。

「お互いいい歳ですし、そろそろこんな事終わりにしましょう」

 今迄で一番優しく笑う彼が、私の頭をぽんと撫でた。今の私は、どんな顔をしているだろう。

「……い、嫌だ。別れたくない」

 口から出たのは、縋る様な言葉。咄嗟に彼のシャツの襟元を掴み、距離を縮める。
 今の私は、もしかすると恐喝でもしている様に見えるかもしれない。傍から見れば、そうとしか見えないだろう。縋るにしても、もう少し可愛げのある方法があっただろうに。そう、何処か冷静な自分が思う。しかし、今の私はただ彼を思い留まらせようと必死だった。
 そんな私を見た彼が、徐に私の左手を取る。
 私から視線を外した彼が、微笑みを湛えたまま私の手を優しく撫でた。そして、薬指をなぞる様に“何か”を嵌める。
 それはひんやりとしていて、僅かに重みがあった。彼から視線を外し、自身の左手に視線を落とす。

「恋人では無く、家族になりましょう」

 私の左手に嵌められたのは、小さなダイヤモンドが埋め込まれた意匠の少ない指輪。しかし、決して安価な物ではない事が一目で分かる。

「首輪で拘束する関係じゃない、家族に、夫婦に、なりましょう。僕と」

「……家族に……? 夫婦に……?」

 彼の言葉を鸚鵡返しに問うと、彼が私をそっと抱き寄せた。

「僕じゃ駄目ですか? それとも、今まで通り服従関係で居たいですか?」

「そう……じゃ、なくて」

 言葉が喉で詰まり、上手く出て来ない。
 セドリックもエルも、大切な物を失ったばかりだというのに。私が今此処で彼と家族になって、大切なものを得ても良いのだろうか。
 瞳に涙が滲む程、彼の申し出は嬉しい。しかし、そんな中で判断を鈍らせるのはやはり2人の存在だった。
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