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LXIII 変化したもの-III
しおりを挟む「――あの2人の事が、気になりますか?」
私の心を見透かした様に、彼が囁く。
「だって、2人が大変な時に……私だけ、こんな……」
「それは、貴女は関係ない事なのでは無いですか?」
「関係無くない! だって私は皆を守らなくちゃいけなかったのに、もう不幸な人は出さないって決めたのに……!」
彼の胸を両腕で突き、彼から2歩3歩と距離を取る。だが彼は、変わらず穏やかな瞳をしていた。
「――それは、誰の意志ですか?」
彼の問い掛けに、思考が止まる。
私は、皆を守らなくてはいけなかった。私がもっと早く危険を察知して屋敷に3人を連れて来ていれば、こうはならなかった。ルイとレイが連れ去られたのは私の責任でもある。私はもう、マリアの様な人間は出さないと誓ったのに。
そんな思いに、亀裂が入る。
――これは誰の意志? 誰の願い?
――守らなくてはいけなかった。それは何故?
答えられない。
私は人を守らなくてはならない。それは生まれ持った使命だからだ。私はそうしなくてはならない。そういう立ち位置の人間だから。
「貴女は人を守れる程、強くない。それでも、貴女なりに今まで頑張ってきたんじゃないんですか?」
「私……は……」
「僕は貴女を全てから解放したい。貴女に自由を与えるのが僕では、頼りないですか?」
「そんな事……ないよ……。でも、2人が……赦してくれるか……」
「赦すも何も、今回の事は貴女に責任は無いでしょう。2人は、貴女を恨んだりしていない。貴女はただ、自分の責任だったと、そう自身を恨んでいたいだけなんじゃないですか?」
核心を付く言葉に、いよいよ涙が溢れて止まらなくなる。
私は、彼等に責めて欲しかった。お前がもっと早く気付いていればこんな事にならなかったのに、と。自分の無力さを、責めて恨んで欲しかった。
なのに彼は――セドリックは、私に寄越した手紙の最後にこう綴った。
“I'm sorry to impose all responsibility.《全ての責任を背負わせて悪かった》”
彼は私を恨んでいない。そんな事、根底では分かっている。
それでも私自身が、私を恨んでいないと立っていられなかったのだ。私のミスだと思い込んでいないと、彼等以上に自身が崩れてしまうと思ったから。
――私のミスなのだから、私が悪いのだから、全ては私の責任なのだから。
――だから私がどうにかして彼等を救わないと。
そう思う事で、自身をどうにか奮い立たせていた。
でもそれは、私のエゴだったに違いない。マリアの事も、決して私が悪かった訳では無い。彼女を救う為に、私は全力を尽くした。良くやった方では無いか。
今ではあの方法こそがアンドール家を引き裂いた原因なのではないかとすら思えてくるが、あの時はノエルを売り渡すしかマリアを救う方法は無かった。
――私は、自由になっていいのだろうか。全てから解放され、幸せを得てもいいのだろうか。1人の人間として生きても良いのだろうか。
「……先生は、私をお嫁さんにしてくれるの?」
絞り出した答えは、情けない程に震えていた。
「勿論です」
彼が穏やかに告げる。
「やっと、貴女を自由にする事が出来た気がします」
指先で私の涙を拭った彼が、安堵した様に笑った。
彼と距離を詰め、彼の胸元に顔を押し付ける様にして抱き着く。私を優しく包み込む彼の温もりを感じながら、私はただただ泣いた。もう子供では無いのに、泣く事も許されない程の年齢になってしまったというのに、まるで子供の様に泣きじゃくった。
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